元医者のアラサー女が銀魂世界にトリップして、元の世界に帰るまでの話   作:匿名希望くん

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二十二話 山崎退の監察日記1

12月29日 監察1日目

今日から、ある人物の監察日記をつけることになった。

監察対象は山田サク太郎という男。

今日から配属になった新人隊士だ。

なんでも真選組はじまって以来の非戦闘員で、医者らしい。

さらに例のヴァンパイア事件の重要参考人で、犯人の標的になる可能性が高いとのこと。

今回の入隊は、ゴリラの尻拭いと彼の身柄保護が目的だ。

俺は、ボディーガード係兼、監視係兼、教育係兼、医療助手係——。

一体いくつの係を兼任すればいいんだろう。

この間、隊士たちが鬼ごっこをしていたので監察していると、「はいタッチー! お前山崎係な!」「ふざけんなよ!」という声が聴こえた。

ちょっと泣いた。

 

12月30日 監察2日目

山田サク太郎は、妙な格好をしている。

シャツとパンツスタイルは真選組指定のものだが、ジャケットは着用しておらず、代わりに白衣を羽織っている。

副長から目立つことはさせるなと言われているため、注意する。

と、山田サク太郎は「土方さんとペアルックは生理的に受け付けないです」と言った。

なかなか目の付け所が良い。

 

12月31日 監察3日目

山田サク太郎は暇らしい。

仕事はないかと聞いてくるが、副長から「何もさせるな」と言われているので、部屋でじっとしているように言った。

今日は大晦日だ。

何度目かわからない大忘年会でバカどもが騒いでいる。

俺も日頃の鬱憤から飲み過ぎた。

途中から記憶が飛んで、気が付いたらゴリラの股間に顔を埋めていた。

最悪だ。

 

1月1日 監察4日目

今日も山田サク太郎は暇らしい。

どうしてもと言うので、新年会の準備を手伝ってもらう。

なかなか手際がよく、頭の回るやつだ。

俺の指示がなくても、こちらの意図を理解して動いている。

今日は元旦だ。

祝い酒だと樽酒を開けるが、なぜか俺の酒にだけマヨネーズをぶち込まれる。

曰く、日頃の労いと新年の喝をくれたらしい。

アンパンマンはいつ助けに来てくれるんだろう。

 

1月2日 監察5日目

今日も山田サク太郎は暇だ。

俺はあんぱんを食べる。

 

1月3日 監察6日目

今日も山田サク太郎は暇だ。

俺はあんぱんを食べる。

 

1月4日 監察7日目

今日も山田サク太郎は暇だ。

俺はあんぱんを食べる。

なぜだろう。

最近あんぱんの量が増えている。

食べても食べても満たされない。

 

1月5日 監察8日目

今日も山田サク太郎は暇だ。

「どうせ暇だから」といって、手料理を作ると俺のところに持ってきた。

曰く、あんぱんばかりでは身体を壊すと。

男の料理にしては、やたらと美味かった。

 

1月6日 監察9日目

今日も山田サク太郎は暇だ。

あまりに暇だと言うので、一緒にミントンをして身体を動かした。

久しぶりに汗をかいた。

 

1月7日 監察10日目

今日も山田サク太郎は暇だ。

あまりに暇だと言うので、一緒に街をぶらつく。

俺のお気に入りの店に連れていくと喜んでくれた。

 

1月8日 監察11日目

今日も山田サク太郎は暇だ。

副長の悪口ではちゃめちゃに盛り上がる。

こんなに楽しいのはいつぶりだろう。

 

1月9日 監察12日目

今日も山田サク太郎は暇だ。

良いあんぱんが入ったので、サク太郎の所に持っていく。

彼は喜んで、「ちょうど良い緑茶があるんですよ!」とニコニコしながらお茶を入れてくれた。

あんぱんは一つしか食べてないのに、なぜか腹は満たされている。

 

1月10日 監察13日目

今日も山田サク太郎は暇だ。

俺が仕事のことで落ち込んでると、サク太郎が声をかけてきた。

「あんぱんは手作りも美味しいですよ」と、一つのあんぱんを持ってきてくれた。

なのに……俺は言ってしまった。

「あんぱんが何の役に立つっつーんだよ! お前のせいで余計な仕事が増えたんだ! 責任とれよ!」

思ってもない言葉だった。

完全な八つ当たりだった。

サク太郎は……、俺に何も言い返さなかった。

いつもはよく回る口も、その時だけは何も語らなかった。

彼は黙って手作りのあんぱんを半分に割ると、片方を俺の口に入れた。

今まで食べたあんぱんの中で、一番美味かった。

その時、俺はやっと気付いた。

俺のアンパンマンは、すぐ近くにいたんだって。

 

1月11日 監察14日目

今日もサックーは暇だ。

そういえばサックーは、真選組隊士と折り合いが悪い。

ちょっとした喧嘩になって、十番隊隊長「原田右之助」と決闘することになったみたいだ。

でも、大丈夫。

サックーは、簡単に負けたりしない。

だってサックーは……俺の心を救ってくれたヒーローなんだから——

 

 

 

 

「なんでだぁぁぁあああああ!」

土方さんは怒声とともに、監察日記を真っ二つに引き裂く。

 

「サックーってなんだ! なんで監察対象と仲良くなってんだ! つーか、コイツが問題起こさねーように見張っとけって言ったよね? 決闘って何⁉︎ 一番監察してほしいところぜんぜん監察してないんですけど。お前とサックーとあんぱんの思い出話死ぬほどどうでもいいんですけど」

「副長。俺ね、気付いたんですよ。この世で一番大切なことは友情だってね」

「山崎……テメーわかってんのか? くだらねぇ感情に絆されやがって士道不覚悟で切腹だぞコラ」

土方さんは青筋を浮かべ、ザッキーの胸ぐらを掴む。

ザッキーは勇敢にも土方さんを睨みつけて、

「いくらでも罵ってください! 俺はもうアンタなんて怖くない! なぜなら俺にはサックーという親友がいるから!」

「お前バカだろ。ウルトラバカなんだろ」

 

夕食後、呼び出された和室にはいつものメンバーが出揃っていた。

何が始まるかと思いきや——

まぁ、土方さんの荒れっぷりは予想通りだ。

本当に面倒なことになったと思いつつ、仕方ないので仲裁に入る。

 

「まあまあ。土方さんもザッキーも落ち着いてくださいよ」

「ザ、ザッキー……?」

土方さんは口元をヒクつかせた。

 

彼の反応にかまわず、私は続ける。

「土方さんも辛い立場なんです。真選組副長の肩書きを背負っている以上、僕のことを認めるわけにはいかないんですよ。……ご迷惑をおかけして申し訳ないです」

「そんな……サックーが謝ることねーよ! こんなパワハラ上司に頭下げるなんてサックーらしくねーだろ!」

「けど、僕が謝らないとザッキーが——ッ!」

「バカヤロー! 俺がパワハラに負けるような男に見えんのか⁉︎ 黙って俺に任せとけ!」

「ザッキー……まったく君ってやつは——」

私はやれやれと首を振って、大きな丸メガネを押し上げる。

 

ザッキーは不適に唇を歪ませると、土方さんを睨みつけた。

「聞いたか土方ァァァ! やるなら俺を殴れ! サックーには手を出すな!」

「うんわかった。そうさせてもらうわ」

「え、ちょっと待って——ギャァァァァアアアアアアアアア!」

綺麗にマウントを取られ、ザッキーがタコ殴りにされる。

土方さんも相当キレているらしい。

リズムのある良い拳だ。

 

 

「なんでィ。ザキとよろしくやってるんじゃねーか、サックー」

「……沖田さん。その呼び方やめてくれません? 背筋が寒いんですけど」

「沖田隊長だろ? テメーこそ間違えるんじゃねーよ、山田ァ」

「……失礼しました。沖田隊長」

ストンと一瞬で差し向けられた刀が、顔の真横を通り、ピタリと止まる。

この危険人物に刃物を与えたのは誰だ。

鎖でグルグル巻きに封印してほしい。永遠に。

私は微笑んで、刃を手の腹でそっと押し返す。

正座する私を見下ろして、ドSの王子様は鼻を鳴らし、ゆっくりと刀を戻した。

本日も絶好調のようで何よりだ。

 

「原田と決闘するらしいじゃねーか。やるからにはもちろん真剣勝負だろ?」

沖田さんは楽しげに言う。

その真剣は「本気で」という意味か、それとも「本物の刀剣」という意味か。

十中八九、後者だろう。

 

「何言ってるんだ総悟! 山田先生はお医者様だ。戦闘はからっきしだって知ってるだろ? だいたい彼女は女の——あ……いやいや。彼は、えーっと……そう! 彼は女の子みたいに細いんだから、真剣で決闘なんてしたら怪我じゃすまないだろう」

近藤さんは冷や汗を流して、薄目でザッキーの様子を盗み見る。

土方さんにボコられて、彼が気絶していることを確認するとホッと息を吐いた。

 

 

決闘は明日の12時。

わずかだが、まだ時間は残されている。

最初から諦めるのは性に合わないし、こう見えて私は負けず嫌いだ。

というか、命がかかっている。

 

帯刀した日本刀に手をかけて、私は立ち上がる。

 

「どこに行く。話はまだ終わってねーぞ!」

土方さんの声に、私はふすまに手をかけたまま振り向く。

 

「ご心配なく。もちろん真剣勝負です。売られた喧嘩は買いますよ。僕だって男ですから——真選組(ここ)ではね」

 

部屋を出て、後ろ手にふすまを閉める。

外は暗く、月の光もおぼろ雲に隠れて届かない。

鳥とも虫ともわからぬ声が微かに聞こえる。

 

——自然と溜息がこぼれた。

幸せが逃げると言うけれど、すでに私の中の運は尽きていると思うので問題ないだろう。

なぜこんな事態になったのか、自分でも疑問だ。

さすがに大人しくしていようと、勤務初日に決意したはずだったのに。

 

しかし、落ち込んでいたって仕方ない。

私は二週間の真選組生活を振り返る。

じっくり振り返って、反省と対策を練ろうではないか。

 




決闘相手の原田右之助さんは、よくパトカーの助手席に乗ってる人です。スキンヘッドで強面のキン肉マンです。
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