元医者のアラサー女が銀魂世界にトリップして、元の世界に帰るまでの話   作:匿名希望くん

26 / 41
二十五話 地味に鬼神が宿ってる!

 

……いや〜大人しくしようって思ったんだけどなァおっかしいなァ!

 

 

お昼時が過ぎ去り、職場にも一息の暇ができるころ——鯉に餌をやろうと歩いていたところを五人の隊士に囲まれた。

あっという間に人目につかない屯所の一角に連れ込まれ、突き飛ばされる。

無様に尻餅をついた私を囲んで、彼らはせせら笑った。

 

「さっきの続きをしようじゃねーか」

「なんだっけ? 僕ちんが本気になれば俺らなんて瞬殺——とかなんとか言ってたなァ」

 

見た顔だと思えば、今朝絡んできた若い隊士たちだ。

俗に言う『テメーちょっと面貸せよ』から始まる、校舎裏でボコボコにされるパターンである。

集団リンチとは情けない。

私はか弱い善良市民だぞ。

彼らに殺す気がなくとも、下手をすれば私の血の海が出来上がる。

 

——敵前逃亡待ったなしだ。

私はゆっくり立ち上がり、ズレた眼鏡を定位置に押し上げた。

 

「記憶力が悪いですね。僕はこう言ったんです。——いつでも腹を切らせるぐらい簡単だ……ってね」

「上等だァ! やれるもんならやってみろや!」

「誰も僕が切るとは言ってませんよ。腹を切らせる——つまり使役の助動詞です。脳筋には難しい日本語ですかね」

 

そう煽ると、ちらりと視線を彼らの背後に走らせる。

五人はサッと青ざめ、一斉に後ろを振り向いた。

 

——その隙に私は一目散に逃げ出す。

幻覚で鬼でも見てくれると助かるんだけど、現実は無情だ。

すぐに「卑怯者!」と罵る声が追ってくる。

どっちが卑怯者だ! 五人がかりの方がよほど悪いだろ!

 

速度を落とさないように背後を振り返ると、つり目のリーダーを筆頭に抜刀した男たちが迫ってくる。

 

えええええええ嘘でしょ⁉︎

最近の若者キレやすすぎない⁉︎

理性弱すぎない⁉︎

 

抜刀に驚愕して固まる身体——足がもつれ、「あれ」と思った時には転んでいた。

すかさず距離を詰めた男が刀を振りかざす。

私は動けない。

地面に突っ伏して体勢は崩れている。

避けようとしても間に合わない!

 

というか斬りかかるとかイジメのレベル超えてるでしょ⁉︎

こんなことなら大人しく殴られとけばよかったァァァアアア!

 

選択ミスを後悔しながら、せめて急所を外そうと腕でガードする。

男は容赦なく刀を振り下ろし、それが私の腕に埋まる直前に、鞘に阻まれると怒声のような金属音を立てて止まった。

 

「ここは屯所内だよ。何をやっているのかな」

 

彼は鞘で受け止めた刀を押し返す。

弾かれた刀の反動で、つり目の男は数歩よろけた。

 

「君たちの顔は覚えた。大人しく刀を納めた方がいい。悪いけど、屯所内で抜刀した隊士は見逃せないよ。この件は上に報告させてもらう。——俺は監察だからね」

 

そう言って、山崎退は和やかに微笑んだ。

 

ザッキィィィィィィィイイイイイイイ!

ザキザキザキサギザッキー!

アンタって子は! まったくアンタって子は!

あたしゃー信じていたよ!

 

「怪我はない? 決定的瞬間を抑えようとしたら出遅れちゃってさ」

敵を見据えたままのザッキーに、私はようやく言葉を返す。

「……見てたならもうちょっと早く助けてくれてもよかったのに」

「監察ですから。タイミングは重要でしょ? 職業柄ってことで許してよ」

 

男たちは少し怯んだものの、相手がザッキーとわかると余裕の笑みを浮かべた。

 

「誰かと思えば、存在感ゼロのジミー先輩じゃないですか」

「監察なんて大層な役職名ですね。臆病者のネズミのくせに」

「ジミー先輩はいてもいなくても変わらないんで、普段は誰も話題にあげないんですけどね。最近は評判悪いですよ。軟弱な医者モドキに媚び売ってるって——誰の味方をするのが得か、よく考えた方がいい」

 

よほど腕に自信があるのだろう。

いずれも引き締まって逞しい男たちと比べると、ザッキーはお世辞にも強そうには見えない。

しかも実質5対1だ。

 

ザッキーは鞘に収めたままの刀を構える。

「君たちにどう思われようと、俺は自分の仕事をするだけだ。もう一度言うよ。刀を引くんだ」

「——地味のくせに! なめやがって!」

 

つり目の男がザッキーに斬りかかる。

ザッキーは力強く振り下ろされた刃を鞘で受け流し、軽くいなすと男の鳩尾に刀の(つか)を叩き込んだ。

たまらず、男は咳き込んで膝をつく。

ザッキーは男を見下ろして言う。

 

「俺は弱いから監察をやってるんじゃない。地味だから監察なんだ。相手の力量も測れないガキが、地味なめてんじゃねーよ」

 

ジ、ジミ様ぁぁぁぁぁぁあああああ!

なんかすごい地味かっこいいいいいいいい!

そこまで地味るには眠れない夜もあったろう!

地味に鬼神が宿ってる!

なにこれどんな現象⁉︎

 

「——ク、クソがァァアアア!」

逆上した男が再びザッキーに斬りかかる。

攻撃が効いているのか、先ほどの勢いもない大振りな刃筋。

ザッキーは毅然として迎え撃とうと——

 

その時、二人の間に大きな影が飛び込んだ。

そいつは右手で男の手首を握り、左手でザッキーの鞘を掴んで止める。

ボディビルダーの大会なら間違いなく「大胸筋が歩いてる!」とかけ声が上がるであろう肉体。

いかついスキンヘッドが特徴的な——

 

「十番隊隊長、原田右之助……」

めずらしい男の登場に、私は思わず呟く。

 

原田さんはすぅーっと息を吸い込むと、顔を真っ赤にして怒鳴った。

「テメー等は何をやってんだァァァァアアアア!」

鼓膜を破るほどの怒声に、私は慌てて耳を塞ぐ。

 

5人の男たちは顔面蒼白になって狼狽えた。

「は、原田隊長。これは誤解なんです。ただ俺たちは——」

「言い訳するんじゃねェ! さっさと刀を納めろ馬鹿者共が!」

 

「ハヒィ!」と情けない声をあげて、男たちはすぐさま納刀した。

 

銀魂ではあまり出番のない原田さんだが、やはり隊長だけあって迫力が違う。

性格は熱血で情熱的——バリバリの肉体派だ。

暇さえあれば隊士たちに稽古をつけており、原田さんに捕まればぶっ倒れるまでしごかれると恐れられている。

厄介なことに、彼は貧弱野郎を見つけると鍛えずにはいられない性癖で——当然のように私は目をつけられた。

しかし、原田さんは勘違いをしている。

私は貧弱レベルではなく、脆弱レベルかつ割れ物危険レベルだ。

原田さんに稽古をつけられたら、冗談ではなく普通に死ぬと思う。

なので、彼の姿を見るたびに逃げ出していたら、原田隊長を軽んじる無礼者と悪評が流れてしまった。

私の割れ物っぷりを証明できないのが歯痒い。

 

 

「うちの隊の(もん)がすまねーな。こいつらは俺がよく躾直すからよ。まあ、今回は見逃してくれや」

原田さんは凶悪な顔を歪ませて笑うと、ザッキーの肩に手をかけた。

ザッキーはその手を払いのけて言う。

「それは出来ません。原田隊長も知ってますよね。局中法度第9条、私闘厳禁。第20条、許可なく屯所内で抜刀厳禁。これを犯した者——切腹」

「そこをなんとか黙ってろとお願いしてんだろーが。同期のよしみだろ、山崎。頼むぜ」

「黙らないよ。どんな形だろうと、山田サク太郎は真撰組の隊士だ。俺たちの仲間だ。その仲間が不当な扱いを受けているのに見過ごせるか!」

 

ザッキーは毅然として原田さんに言い返した。

 

ジミィィィィィィィイイイイイイイ!

君ってヤツァ!

あんぱんがどうとか親友がどうとか言ってたときは、正直やばい人だと思ってたけど今日の地味さ仕上がってるよ!

 

その返答に、原田さんは眉をピクリと動かす。

冷蔵庫のようなデカい身体をズッシリと揺すってザッキーに向き直ると、彼の胸ぐらを掴み上げた。

ザッキーの足が宙を浮き「ぐ……ッ」と苦痛の声を漏らすが、原田さんはさらに強く力を込める。

 

「あ? 仲間だと? ふざけたこと抜かすんじゃねェ! 仲間っつーのはな、肩並べて死地に乗り込み自分(テメー)の背中預けられる奴のことだ! 俺から言わせりゃ、真選組(ここ)じゃ弱ェやつが悪だ」

ゴミでも捨てるように、原田さんはザッキーを投げ捨てる。

「ザッキー⁉︎」私は驚いて叫び、彼に駆け寄った。

 

原田さんは私を睨みつけて、

自分(テメー)が弱けりゃ勝手に死ね。けどな、その時は背中預けた仲間も死ぬことになる。俺らはそういう覚悟でやってんだ。一太刀も浴びたことのねぇ医者風情が仲間だと? 笑わせんな」

紛うことなき殺気が私の肌に突き刺さる。

その圧に耐えきれず、どっと冷や汗が噴き出た。

 

彼は私の怯えを鼻で笑い、咳き込むザッキーに言い捨てる。

「仲良しごっこじゃねーんだぞ、山崎。わかってんだろ。背中預ける仲間はきっちり選べや。弱い奴といれば、お前も死ぬことになるぜ」

 

私だって真選組(あんたら)の仲間になるつもりはない!

反駁した憤怒の感情がたぎる。

私は喉まで出かけた言葉を飲み込んで、落ち着こうと大きく息を吐いた。

……原田さんは間違ってない。

真撰組には、真撰組の覚悟がある。

その覚悟に生半可な気持ちで踏み込んだのは私だ。

もちろん私だって好きで踏み込んだわけではない。仕方なく真選組(ここ)に身を寄せたに過ぎない。

けれど、踏みにじって荒らしたことは事実だ。

 

ここで事を荒立てれば、また真撰組に迷惑がかかる。

仕事もしないで守られて、これ以上足を引っ張るのはごめんだ。

 

「……僕が出過ぎた真似をしました。申し訳ございません。——山崎さん。行きましょう」

 

私はザッキーの腕に手をかける。

——と、その手を思いっきり振り払われた。

 

……ザッキー?

ザッキーは肩をわなわなと震わせて叫ぶ。

 

「仲良しごっこだと……? 誰が弱いって⁉︎ もういっぺん言ってみろや原田コラァ!」

「だーかーらー! テメー等の仲良しごっこには反吐が出るっつってんだよ! 山崎アンコラァ!」

「うるせェェェェエエエエ! テメーの部下の不祥事揉み消してぇだけだろ! ハゲ野郎アンコラァ!」

「いまハゲ関係ねーだろアンゴラァ!」

「その頭光ってんだよ眩しいんだようぜぇんだよアンゴラァ!」

「アンコラアン?」

「アンゴラアンコラコラ?」

「アンコラアンアンコラアンゴラァ!」

「アンゴラアンゴラアンアンコラコラァ!」

 

二人は額をゴリゴリぶつけ合い、メンチを切る。

「アンコラ」と「アンゴラ」の応酬が続く。

……なにこれ。なんで会話成り立ってんの?

どういうメカニズム?

 

どうすべきか戸惑っていると、原田さんは一際気合いの入った「アーンゴラァ!」と捨て台詞を吐き、部下を引き連れて去っていった。

 

 

ザッキーは鼻息荒く原田さんを見送ると、呆気にとられる私を見据えて言った。

 

「ということで、あのハゲ野郎とサックーで決闘することになったから」

「……なんでだァァァアアアア! アンコラの応酬の間に何があったんだよ!」

「決闘は明日の12時。絶対に勝って、俺らの友情が本物だって見せつけようぜ!」

「なんでそんな詳細な取り決めまでしてんの⁉︎ アンコラしか言ってないよね? つーか勝てるわけないだろ!」

「あんなこと言われて悔しくないのかよサックー!」

「悔しいよムカついたよ! 尿取り検査のときは原田さんの分だけ食堂でぶちまけてやろうと決心したくらいにはムカついたよ! でも、それとこれとは別じゃん? 怒りと悔しさで強くなるのはジャンプの中じゃん? あんなプロポーションおばけと決闘なんて——」

 

ザッキーは真剣な顔で、私の両肩を掴む。

 

「大丈夫。サックーなら……やればできる!」

「できねーよ」

 

私の即答も、ザッキーの心には届かないらしい。

作戦会議だ! と意気込む彼の背を、私は呆然と眺めるしかなかった。

 




ボディビルダーの掛け声ネタを入れてみました。
一番好きな掛け声は「肩にちっちゃいジープ乗せてんのかいっ!」です。

原田さんと山崎さんは同期らしいです。
イメージ的に原田さんは脳筋お兄さんキャラにしてしまいました。体育会系なので目上の人には腰が低いです。解釈違いあれば申し訳ないですが、うちの原田さんはこんな感じでお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。