元医者のアラサー女が銀魂世界にトリップして、元の世界に帰るまでの話   作:匿名希望くん

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二十八話 絵面が気になったらアラサーの仲間入り

戸の向こうから隊士の声が漏れ聞こえる。

 

「あれ、今電気ついてなかったか?」

「まさか。見間違いだろ」

「でも何か物音が聞こえたような——」

 

やばいやばいやばい!

私の心臓がドクドク音を立てる。

バレそうなことに対してか、土方さんに軽くバックハグ決められていることに対してか、そんなことより下着姿に着物を羽織っているだけというザ露出狂ファッションに対しての焦りなのか判断がつかない。

 

フォローの鬼才、土方さんが「俺に任せろ」と再び囁いた。

さすが真選組副長。

数多の修羅場をくぐった男だ。

決断力が違う。

土方さんがごくりと喉を鳴らす気配があると、「ニャオーーーン」と鳴いた。

 

私は反射的にエルボーを彼の腹にスティックする。

 

「——ッいってーな! 何すんだテメーは!」

「こっちのセリフですよ! 猫で誤魔化すとか(いにしえ)のボケすべってんですよ! つーか異常に鳴きマネ下手ですねよくやろうと思ったな逆に!」

 

隊士たちも戸惑っているようで「猫……? 明らかに人の声だったような」「そんな古典的な……」とか言ってる。

うんだよねそうだよねそうなるよね!

私は焦りに焦って、

 

「ちょっとどうすんですかコレ! 逆にどうする気なんですかコレ!」

「もうこれは逆にお前が猫になるしかないな」

「逆に⁉︎ この流れでよく言えたな逆に!」

「大丈夫だ。なんかお前鳴き真似うまそうな顔してるから逆に」

「いや意味わかんねーよ!」

 

そうこう揉めているうちに、がらりと戸の開く音がする。

衝立(ついたて)越しに二人の隊士が入ってくる気配があった。

 

——どこかに隠れないと!

 

そう思うと、突然土方さんに肩を掴まれた。

ロッカーはちょうど二人が隠れられそうな大きさで、そこに押し込まれそうになったところで、私は咄嗟にロッカーの縁を掴んで抵抗する。

 

「山田テメー何やってんだ! 早く入らねーと見つかるだろーが!」

「無理無理無理無理! だってこれアレじゃないですか! ロッカーという密室で『ドキドキ♡密着♡壁ドン』的なイベント発生じゃないですか!」

「少年ジャンプでありがちな展開だって言ってたろ! それぐらい我慢しやがれ!」

「いやそれは少年だからいいんです! 少年と少女の青春だから楽しいんです! いいですよ別に! 私がぷりぷりのJKだったら余裕でやってますよ喜ばしい展開ですよどんとこいですよ! でも私アラサーですから! 絵面(えづら)的に大丈夫なの⁉︎ アラサーにそんな人権ある⁉︎」

「どんだけ卑屈なんだよ!」

「女は20代後半に入ると絵面を気にするもんなんです! 今まで何も考えてなかったのに、ある日ふと『あれ……私この服着て絵面的に大丈夫?』とか悩む日が来るんです!」

「なんの話⁉︎」

 

青筋を浮かべてブチギレている土方さんは、もはや私の背中を足蹴にして押し込もうとしてくる。

私は必死でその攻撃に耐える。

 

冷静になって考えろ。

どう考えても土方さんが正しい。

この場を乗り切るにはロッカーに隠れる選択肢しかないのは自明の理!

すでに答えは出ているじゃないか!

それでも条件反射的に身体が拒否ってしまう……!

クソ! こんなところでもアラサーの足枷は重い。

私は歯噛みする。

 

ならば逆に考えるんだ。

ポジティブに考えたらいけるかもしれない。

 

まず問題は私の格好だ。

下着姿に着流しを羽織るという、公園で局部を見せつける露出狂となんら変わらないスタイルだ。

やばい。やばすぎる。これが許されるのはラッキースケベを喜ばれる一定レベルを超えた女——つまり美少女だけだ。

しかし、この問題は解決している!

なぜなら電気は付いておらず暗闇だ。誰にも見えちゃいないし、万一にも見えないようにしっかり着物の前を合わせて隠していればいい。

 

次の問題は、ロッカー内で土方さんと密着する件について。

憎らしいことにロッカーの大きさはちょうど二人で入ってシンデレラフィットサイズだ。

私の身長は165cm。土方さんの身長は目測で177cm。

その差は12cm——その時、私の脳裏にいつしか読んだ恋愛コラムの文字が浮かぶ。

「キスしやすい身長差は12cm♡」

……いや無理ィィィィィィィイイイイイイイ!

 

こんな拷問レベルの嬉し恥ずかしシチュエーションを受け入れるぐらいなら全部バレて仲良く切腹の方がいいさ!

もうそれが大正解だよどうにでもなるよきっと!

 

そうこうしているうちに、二人組の隊士はずんずんこちらに近付いてくると——未だ混乱中の私の頭に、まさに天命のごときナイスアイディアが舞い降りた。

私は声を上擦らせ、

 

「わかりました! じゃあ、こうしましょう!」

私の提案に、土方さんはまさしく鬼の形相を呈した。

 

 

 

 

 

 

隊士Aが衝立の奥を覗きこむ。

蝋燭で奥の方までよくよく照らすが、人影は見えない。

彼は首をかしげ、

「……誰もいねーな。声が聞こえたと思ったんだが」

「気のせいだろ。ほら、早く行こうぜ。『風呂場に入る者、切腹』だからな。副長に見つかったら面倒だ」

「……あぁ、そうだな」

彼らは踵を返して、脱衣所を出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

隊士たちの気配が完全に消えると、ギーッと音を立ててロッカーの扉が開く。

その中には、奇妙な体勢で詰め込まれた二人の男女。

なぜか男は四つん這いになり、その背の上で女は姿勢よく正座をしていた。

 

土方さんは怒りのあまりブルブル震え、地を這うような声を絞り上げる。

 

「山田ァ……テメー覚えとけよ」

「土方さん。信じて頂けないかもしれませんが、私は本当に申し訳ないと思ってるんです。今回だけは、さすがに失礼すぎると猛省してるんですよ」

「そう思ってんなら()()()()どきやがれ!」

 

彼の抗議に促されて、座布団のような扱いをしている背から、私はそっと降りた。

 

まあ私が悪い。

私が悪いことはわかっているが、だって仕方ないじゃないか!

さっきのは私のキャパを容易に超える行為だった。

土方さんは屈辱だったろうけど、同じロッカーに隠れるという最終的な目的を達成するためには仕方のない体勢であって——

 

「……というか、同じロッカーに隠れる必要はなかったのでは?」

 

ここは脱衣所。

ロッカーならたくさんある。

土方さんは数秒沈黙してから、

 

「……さて、そろそろ帰るか」

「おい土方コノヤロー」

 

私はこうして無事に決戦前夜の禊を終えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ轍を踏むまいと、私たちは無言で廊下を歩む。

無事に土方さんの居室の前まで辿り着き、私はようやくホッと息をついた。

私の自室は、もう一部屋隔てたさらに奥にある。

ここまで来ればゴールは目前だ。

 

それは土方さんも同じ気持ちのようで、彼の肩の力が緩むのを月明かりでぼんやりと見えた。

私は久しぶりに穏やかな心で頭を下げる。

 

「今夜はお世話になりました。ありがとうございました」

「まったくだ。テメーのせいでどっと疲れたぜ」

 

セリフの割には穏やかな声色で土方さんは言った。

私のせいで疲れているというのは嫌味ではなく、単に事実だろう。

より一層暗さを増した彼の目のクマを見て、土方さんに言おうとしていたことを思い出した。

 

「そうだ。言い忘れてましたけど、明日の決闘は本当に心配いらないですからね」

「はなからテメーの心配なんざしてねーよ。俺が気にしてんのはいつだって真選組のことだ」

「もちろんです。近藤さんや土方さん——真選組に迷惑がかからないように解決してみせます」

土方さんは難しい顔で私に鋭い瞳を向ける。

私はその瞳を正面から受け止めた。

 

「原田さんとの決闘は避けられません。既に決闘のことは隊士全員が知っています。みんな注目してますよ。……生意気な私が、原田隊長にボコボコにされることを期待してるんです」

 

土方さんが何か言おうとするのを、私は遮る。

 

「局長や副長が決闘を止めれば、反発はさらに大きくなりますよ。私を贔屓してるってただでさえ隊士たちの鬱憤は溜まってるんですから。土方さんもわかってるでしょ? もう止めようがありません」

 

この決闘のベストな落としどころは、勝敗に関わらず私の強さをアピールすることだろう。

女社会と違って、男社会——特に真選組(ここ)でのヒエラルキーは単純だ。

強ければ上で、弱ければ下——強者こそが正義。

力さえあれば認められる。

私が強ければ、バカにされて絡まれることもなくなるだろう。

まあ、まずは死なないことが大前提だが。

 

「私も簡単に()られるつもりはありません。副長のフォローは必要ないですよ」

 

これ以上負担をかけたくない。

これ以上誰の世話にもなりたくない。

 

異世界から来た私は異端分子。

誰かの足を引っ張るくらいなら、私なんていない方がマシだ。

 

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