元医者のアラサー女が銀魂世界にトリップして、元の世界に帰るまでの話   作:匿名希望くん

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二話 人生の振り返りは走馬灯に任せろ

さ〜て、前回の桜さんはァ?

どうも。

職無し・文無し・男無しの3拍子が揃う崖っぷちアラサー、桜です。

契約終了を脅し文句に、超絶ブラック企業でシコシコ働かされる悲しき派遣社員の私。

そんな普通のOLがご褒美ランチ♡と会社を飛び出したら異世界に迷い込んじゃってもう大変(*><*)

これは異世界なの? それとも夢? 働きすぎて社畜鬱の幻覚⁉︎

私ってば、一体これからどぉなっちゃうの〜⁉︎

次回、桜死す。

ゲームスタンバイ!(ここまで一息)

 

動揺のあまりどこかのアニメからツギハギしたような次回予告が頭に流れる。

というか、異世界?

いやいやいやいやどこのレーベルのアニメですか勘弁してくださいよ。京アニなら許します。

どれだけ否定しようとお月様は美しく私を照らしている。

異世界なのか、夢なのか、はたまた幻覚なのかは知らないが、とりあえずここは私の知るオフィス街じゃないことは確かだ。

 

「どうしよう……」

 

呟いた声がやけに大きく聞こえて、余計に不安を掻き立てる。

 

あまりの異常事態に呆然としていると、俄かに人の声がした。

弾かれたように振り向いて、ゴミ置場の奥の曲がり角を見つめる。

曲がり角の向こうで、数人の男達が大声を上げている。

酔っ払いだろうか。

もはや人間なら誰でもいい!

 

理解不能な出来事の連続に、ポッキリ折れそうになった心が蘇る。

自分以外の人間がいることが、こんなに心強いとは。

おっさんずラブ!っと満面の笑みで駆け寄ろうとした瞬間——

 

「ぎゃああああああアアアアアァァァァ!」

 

男の絶叫が響き渡る。

走り出そうとした足は、驚いて動きを止めた。

バトンタッチとばかりに心臓が全力疾走を始める。

「ダルマさんが転んだ」の遊びのように指先1つ動かすことができない。

 

男の絶叫がファンファーレのように。

次々と男達が叫ぶ。

絶叫が怒声を呼び、呼応するように奇声が上がる。

絶叫。

怒声。

奇声。

阿鼻叫喚の大合唱。

 

全身に鳥肌が立ち上り、凍りついた血液が無理矢理心臓へねじ込まれていく。

痛いぐらいに暴れまわる血潮が、とうに思考を放棄した私の脳みそに単語を叩きつけた。

 

断末魔。

やばい。

逃げろ。

死ぬぞ。

 

しかし、脈打つ体は縫い付けられたように動かない。

バケモノの気配を感じながら、その正体を見極めようと曲がり角から目が離せないのだ。

 

おいおいおいおい。

まじなのか私。

生粋のホラー好きと自負しているが、このパターンは大体ヤバいやつだろ!

絶対ぐがァって何か出てきて、追いかけられるパターンのやつだろ!

分かってんだろお前!

バカなの? ねぇバカなの?

いくら自分を罵倒してみても一向に身体は動かない。

理屈ではない。

本能が、自分を脅かす正体を見極めようとしている。

 

一際強い風が辺りを吹き荒れ、空き缶が派手な音を立てて、私が見つめる曲がり角へ転がっていく。

強風に煽られた雲が月光を遮る。

仄暗くなった舞台から、次第に声が1つ、また1つと消えていき、いつの間にか再び静寂が訪れていた。

緊迫した静けさに耐えられず、自分の心臓の音に耳を傾け、おまじないのように「落ち着け」を口ずさむ。

 

そして、雲間から月光のスポットライトが辺りを照らす。

地面に大きく写り込んだ人影。

その人物よりも一足お先に曲がり角から姿を見せた刃は、月の光を浴び、血に濡れたそれを妖しく光らせていた。

 

パーン!

頭の中で、運動会よろしくスタートの合図が聞こえる。

先程まで得体の知れない恐怖に身を縮めていた身体は、危険をその目で確認した途端、驚くほど速やかに逃げの態勢を整え、最高の滑り出しでスタートを切った。

危険人物とは反対方向に全力で駆けていく。

 

後ろは振り向かない。

いや、振り向けない。

速く。

もっと速く走らなければ追いつかれる。

 

男達の怒号と何かを蹴飛ばしたような凄まじい音が、私の背を追う。

ついさっきまでクーラーの効いたオフィスで果てのない事務作業に追われていたのに、なんで私は殺人犯に追われているんだ⁉︎

少しでも時間を稼ぐため、目についた物を手当たり次第道にブチまけていく。

日頃の自分の働きぶりを労い、ちょっとリッチなランチでもと会社を出たのが間違いだった。

いつものように安いだけが取り柄の社員食堂で値段に見合ったそれなりのランチを大人しく食べていればよかったんだ!

直線勝負では男の足に敵うはずがないと、目に入る曲がり角に片っ端に飛び込む。

男達の声は、いつの間にか怒号の中に、また断末魔が入り混じっている。

その凄惨な叫び声が耳に入る度、血に濡れた刃が脳裏を掠める。

私の何が悪かったって、会社に来たのが何よりまずかった。

そもそも今日は体調が悪かったんだ。

何度も休もうと思い、ケータイに伸ばした手を押し留めたのは、つい先日眠いという理由で会社をサボったバツの悪さがあった。

今回は本当に体調が悪かったのだが、さすがにそう何度も休むわけにもいかない。

私がもう少しだけ真面目だったら、今日は大手を振って休めたはずなんだ!

つまり、こんな訳のわからない事態に巻き込まれることもなかった!

汗が噴き出し、足は思うように前に進まない。

会社勤めで弛んだ身体は限界を告げていた。

乱れきった荒い息は、私の息遣いなのか、私を追う男の息遣いなのか最早わからない。

ガクガクと震える足に鞭を打ち、目に入った曲がり角に飛び込もうした瞬間、くんっと引っ張られる感覚があると、足から力が抜け崩れ落ちた。

何事かと見上げると、息を切らした男が私の髪を力任せに引っ張り、怒りの形相を向けている。

身体中の酸素が抜け、アドレナリン大放出中の私にとって痛覚は頼りにならない。

そのため気付かなかったが、どうやら私はこの男に髪の毛を掴まれ地面に引き倒されたらしい。

美容院に行く手間を惜しまず、ショートカットとは言わないまでも、ミディアムヘアぐらい、いやたとえ今と同じ長さの髪でもポニーテールにさえしていなければ、よしんば数瞬ぐらいは命を繋げたかもしれない。

今日の私は不運過ぎる。

後悔の小々波に溺れそうだ。

 

男はすぐに息を整え、勝ち誇った笑みを浮かべる。

 

「ちょこまか逃げ回りやがって……。女ァ、覚悟は出来てるんだろうなァ」

 

男に比べて、全く収まりそうもない荒い息を無理矢理整える。

声が震えないように細心の注意を払いつつ、私は不敵に笑う。

 

「出来てないって言ったら、見逃してくれるんでしょうか?」

「——ッ! この(アマ)…!」

 

私の精一杯の強がりに、男は激昂した。

掴んだ髪をそのまま力任せに引っ張り上げて無理矢理私を立たせると、私の頭を今度は壁に強かに叩きつけた。

 

「ぐッ——」

その衝撃に一瞬頭が真っ白になるが、頬に訪れた新たな痛みに意識を引き戻される。

壁に叩きつけるだけでは飽き足らず、張り手もお見舞いされたらしい。

 

「おいおい、こんなことで気絶するんじゃねぇぞ?」

 

男の下卑た笑みが視界に広がる。

控え目に言って、最悪な眺めだ。

吹き出した血が額をつたい、目に入ると私の視界を赤く染めた。

マジでめちゃくちゃ痛い。

立ち止まったことで酸素を得た体が正常に機能し始めたのか、痛覚が戻りつつあることに気付く。

あちこちがジクジクと痛い、というより熱い。

頭から流れる血は、ドクドクという効果音がぴったりだ。

この男は女をいたぶる事が趣味なんだろうか。

どうせ殺すなら一思いにやってほしい。

そして殺される前に片目ぐらい潰してやりたい。

怒りと苦痛に歪んだ顔に気を良くしたのか、男は饒舌に語り始める。

 

「クククッ……。大人しくしておけば、手荒なこたァしねーよ。テメェは大事な人質なんだ。真選組も民間人が人質とくれば、さすがに手出しできまい。一緒に来てもらうぞ」

 

既に手荒なことしまくっている気がするんだがというツッコミは置いておこう。

まだ私にも一応生存ルートが残されているらしい。

たとえ一縷の望みでもそれに賭けるしかない。

普段聞き慣れないワードが耳に入り、思わず男に問いかける。

 

「……真選組とはなんですか?」

 

男は訝しげに眉根を寄せる。

 

「お前、江戸の者じゃねーな? 真選組を知らないとは、よほどの田舎者と見える。まあ、江戸の奴らが夜更けにあんな路地裏入り込むわきゃねーか。突然切りかかられたって文句も言えねぇ場所だ。幼児でも入っちゃいけねぇことぐらい分かるぜ。まあ、お前みたいなバカが居てくれて俺ァ大助かりだけどな」

 

男がゲバゲバと笑い、下品な声にますます気分が悪くなる。

どうやら男は私の質問に答える気はないらしい。

そもそも「江戸」に「真選組」ってなんだ。

時代劇マニアですか? 中二病ですか?

よくよく見れば男は着物に日本刀という、今時珍しいかなり日本的な格好をしており、それこそ時代劇の悪役そのものだ。

ということは、時代劇の序盤で殺されるような町娘ポジションなのか私は……。

こんなふざけたシュチュエーションで殺される趣味はない。

どうせなら吸血鬼に襲われる美女的な設定とか、もっとドラマチックでオシャレな殺され方をしたいというキラキラ乙女心ぐらい持ち合わせている。

言うまでもなく『ただしイケメンに限る』だ。

つまりテメーみたいなオッさんじゃ萌えねーんだよォォォオオオ!

胸に溜まるドス黒い感情を押し込め、なんとか会話を繋ぎ止めようとする。

 

「貴方の目的はなんですか? 場合によっては、私も協力を……」

 

言い終わる前に、強引に髪を引っ張られる。

突然の痛みに飲まれ、最後まで言葉を発することは叶わない。

 

「ぐッ……!」

「おっと……。お喋りはもうしめぇだ。見え透いた時間稼ぎはするもんじゃねぇぜ」

 

くそ、バレてやがる。

苦痛に顔を歪め、胸中で悪態をつく。

 

「お前があちこち逃げ回ってくれたおかげで真選組の奴らも巻けたらしいな。感謝してやらァ」

 

なるほど、助けに来る奴らもいないと。

状況はいよいよ絶望的だ。

警察に準ずる機関だろうか。

どんな集団か知らないが真選組ちょー頑張れ。

このままでは善良な納税者が死んでしまうぞ。

バカ高い税金納めてんだから、今こそ税金分の働きをしてくれ!

 

今でこそ生かされてはいるが、安全を確保した後に私がどのような運命を辿るかは月光に煌めく血を帯びた日本刀が雄弁に語っている。

俺の刀の錆にしてやるってヤツですか。冗談じゃねぇぞ。

 

何かないか、何かないかと焦る私の目に意外な希望が飛び込んだ。

 

男の背後の曲がり角、死角になる位置に1人の青年が屈みこんでいた。

着用している黒服が、影に紛れてうまく潜伏している。

クリクリとした目元が印象的な青年は私と目が合うとニィ〜と笑い、人差し指を口元に持って行き静かにしろと合図を送る。

何ちょっと楽しそうに笑ってるんだ。

こちとら文字通り命かかってるんだぞ。

この殺伐とした状況に不釣り合いな飄々とした態度がカンに触るが、救世主登場と言っても過言ではない。

 

チラリと目線だけで男を確認すれば、これからの逃走経路を考えるに忙しいらしく、私の様子に気付いていない。

これはひょっとするとチャンスではないか、と期待を込めて青年に視線を戻すと、あろうことか彼は銃器を担ぎこちらに標準を合わせていた。

 

え、待ってそれバズーカだよね⁉︎

男どころか私も死ぬよね⁉︎

 

私の必死な視線に気付いたのか、青年はスコープから目を離し、こちらにジェスチャーを始める。

私を指差し、次に男を指差し、パンチのポーズ、そして爽やかな笑顔でガッツポーズを取り、私へエールを送った。

つまり私が男に攻撃しろと……?

たしかに男は未だ私の髪を鷲掴みにしているため、青年が助けに入ってもすぐに人質として囚われるのが関の山だろう。

まずは男を私から引き剥がす必要がある。

しかし、一瞬引き剥がしたところで、抵抗を示した私は次の瞬間バッサリと切り捨てられる可能性が高い。

人質は生きてさえいればいいのだ。

半殺しまで痛めつけられることは想像に難くない。

というか、既に痛めつけられてんだけど。

心身共にボロボロなんだけど。

 

男を引き剥がした一瞬に、救出なんて出来るのだろうか。

そもそもバズーカ掲げてる時点で助ける気あるのだろうか。

懐疑に満ちた目を向けるが、青年は意に介さず、カウントダウンを始める。

心の準備も出来てないうちから、突然の無茶振りに戸惑うも、他に頼れるものもない私にとって青年の提案を受け入れる他なかった。

 

青年の合図『3・2・1・キュー!』に合わせて、渾身の蹴りを男の股間に叩きつける。

 

「ッグギィ!」

男はヒュッと息をのみ、苦痛の声を漏らした。

お前そこは反則だろ…という苦悶に満ちた表情を見せるが、時代劇男の生殖器がどうなろうが私の知ったことではない。

 

怯んだ男に追撃を加える。

髪を鷲掴む手に噛みつき、男の手を振りほどくと全力で突き飛ばした。

とは言っても、満身創痍の全力なんてたかが知れていて、男との間に半歩ほどの距離が空いたに過ぎない。

力尽きた私は、立っていることが出来ずその場に崩れ落ちる。

これが今の精一杯だ。

さあ、私の仕事は終わった! 助けろ! と青年を仰ぎ見る。

しかし、バズーカを掲げる青年は身動ぎ一つせず、その標準を静かに男に合わせているだけだった。

いやいやいやいや約束が違うんじゃないの⁉︎

スコープ越しに私の表情が見えたのか、青年の口元が歪むように笑う。

 

「この糞女ァ……!」

 

案の定、男は激昂して刀を振りかざした。

なおも青年は微笑んだまま動かない。

このまま大人しく斬られるぐらいなら、いっそバズーカでもなんでもいいから吹き飛ばしてほしい。

だって、このまま殺されるにしては些か不公平すぎる。

どうせ死ぬなら、この男も道連れに……などと物騒なことを考えはすれど、恐怖と痛みで身体が動かない。

 

振り下ろされる刀がスローモーションで私の頭に降ってくる。

 

あ、これダメだ。死んだな。

死を間近に感じた途端、脳内で動画が流れる。

幼稚園の先生の顔から、よく遊んだ公園と友達。小学校の教室。

人生のダイジェストが次々と通り過ぎ、動画の中の私はドンドン成長していく。

「これが走馬灯か」と物珍しく眺めるが、思い出たちの大半が消し去りたい黒歴史で、アラサーまで生きてこんなもんかと、まるで他人事のように思える。

やがてプツンと私の出番が終わると、彼女がひょっこりと顔を出した。

夢だ。

最近幾度となく見る同じ夢。

真っ白な空間に浮かぶ真っ黒な双眼。

頬の輪郭を縁取るように漆黒の髪がサラリと揺れる。

ふとしたら境目を見逃してしまうほど白い肌が、痛々しく、儚く、か弱く震える。

彼女は色のない唇を開いて私に助けを求める。

そして、約束をするのだ。

必ず助けると。

 

たったこれだけの夢が、何度も何度も何度も頭の中をループする。

走馬灯とは、人生の振り返りのはずだろう。

私の人生よりも夢のが印象的ってことですかね。

そう考える間にも刀はじわじわと、だが着実に距離を縮めて、私の前髪に着地する。

いよいよかと静かに覚悟を決めた。

その刀の切っ先が、しかし私に届くことはなかった。

 

刀が私に突き刺さる直前、ブォンと空気を切り裂く音が聞こえたと思ったら、男が後方に吹っ飛ばされた。

人間が吹っ飛ぶ所なんてなかなか見れるものではない。

助かった事実よりも、その劇的な展開に開いた口が塞がらない。

 

「真選組だァ。御用改めである。攘夷浪士過激派一派だな。大人しくお縄につけ」

 

男を吹き飛ばした命の恩人は、最早その耳に届いていないだろう文句を常套句のように投げかけた。

闇に溶けるような黒服にサラサラV字前髪の黒髪。

開ききった瞳孔と抜身の刃が爛々と光る。

時代劇男よりも数段ヤバそうな面構えだ。

 

これが真選組……。

御用改めであるって今時そんなこと言う人いるんだ……。

こちらもなかなかどうして時代劇臭がする。

 

「おい、あんた大丈夫か? 」

 

見ればわかるだろう。

大丈夫なわけがない。

警察に準ずる機関が今まで何をやっていた、と嫌味の一つも返したいところだが、満身創痍の体からは呻き声しか出ない。

 

「意識はあるみたいだな。いま病院に連れて行ってやる。少し待ってろ」

 

わりと重傷な市民を前に随分とおざなりな態度だ。

やたらと瞳孔開き気味の男は、私の非難の目を介さず、倒れたままピクリともしない男に歩み寄っていき、その手に手錠をかけた。

 

「それにしてもあの場面で反撃するたァ、あんたもなかなか度胸あるじゃねぇか。おかげで手間が省けたぜ」

 

それは貴方のお仲間であるバズーカ青年の指示に従っただけですよと、心の中で返答する。

この男は仲間の存在に気付いていなかったのか?

そういえば無事に犯人が捕まったにも関わらず、なぜ青年は姿を現さないんだろう。

同じ制服着てるし、彼も真選組で間違いないと思うんだけどな。

ふと疑問に思い、青年に視線を向けると、相変わらずバズーカを構えたまま、しかしその標準は犯人と真選組の男に向けられていた。

そして、しなやかな指が引き金にかかる。

 

「御用改めである!攘夷浪士諸共死ね土方ァァァァ!」

 

え、今打つの?

私の意識とツッコミは、爆風によって掻き消された。

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