元医者のアラサー女が銀魂世界にトリップして、元の世界に帰るまでの話 作:匿名希望くん
苦手な方はスルー推奨でお願いします。
立派な一軒の日本家屋。
『からくり堂』と書かれた看板がデカデカと掲げられている。
言わずもがな、あの天才からくり技師、平賀源外の工房だ。
開店時間の11時きっかりに到着すると、すでに戸は開かれているようだった。
「ごめんください」と声をかけると、奥の方から小さなお爺ちゃんが出てくる。
煤けたツナギにゴーグルという現役バリバリな
ユニークなハゲっぷりに白髭をもふもふ生やしている。
……どう見てもおもしろお爺ちゃんだ。
しかし、この人が私の命運を握っている。
約1時間後に私は生き残れるか、否か。
それも全ては彼の返答次第だ。
挨拶もそこそこに、私は緊張の面持ちで商品の有無を尋ねた。
「——それでですね、源外さん。GANTZスーツってありますか?」
「あるわけねーだろォォォォオオオオオ!」
朝っぱらから勢いのあるツッコミは若さの為せる技だろうか。
丸メガネをぶっ飛ばす勢いで、新八くんが叫ぶ。
「桜さん……まさか秘策ってGANTZスーツのこと言ってたんですか? そんなもんあるわけないでしょ! 世界観崩壊しますよ!」
「いや、だいたい一緒でしょ? 大丈夫だよ。ほら、宇宙人いるし」
「凶悪さのレベルが違いますからね」
新八くんは呆れ顔でツッコミをいれる。
昨日の約束通り、私は朝一で万事屋を訪ねると、決闘対策ということで源外さんのところに連れてきてもらった。
一朝一夕で戦闘能力はどうにもならないので、道具に頼ろうという卑怯極まりない作戦である。
銀魂世界の人間と私の決定的違いは肉体の強度にある。
私の生存ルートには肉体——身体能力の底上げが必須だろう。
むしろ体感からすると、GANTZスーツを着てようやく同じ土俵に立てるぐらいの差があると思う。
もちろんGANTZスーツそのものがあるとは私も期待していない。
しかし平賀源外ならそれに準ずる何かが出てくるはずだ。
だって銀魂って基本なんでもありの世界じゃん!
源外さんっていわばドラえもんと同じじゃん!
ここで当てが外れると私の人生が詰んでしまう。
「新八くん……私にはどうしてもGANTZスーツが必要なの! なんとかして
「無理やり世界観合わせにくるのやめてくれます?」
「ケチ臭いこと言うなヨ、新八ィ。世界観ぐらい合わせてやる優しさもないアルか。これだから童貞星人は困るネ」
「誰が童貞星人だ!」
愛らしい釘宮ボイスで毒を吐く神楽ちゃんはトレードマークの日傘をくるりと回す。
その隣で、銀さんは鼻糞をほじりながら神楽ちゃんに言う。
「そうだぞ〜神楽。見た目だけで決めつけるんじゃねェ。星人は地球人に化けて生活してんだからなァ。そこらへん歩いてるヤツだって星人の可能性は五分五分だからね」
「マジでか。めちゃくちゃ怖いアル。それなら童貞星人はどうやって見分けたらいいネ」
「童貞星人のプロフィールは、『特徴:よわい。イカ臭い 好きなもの:アイドルの
「童貞星人ピンポイントで僕じゃねーか。狙い撃ちじゃねーか」
新八くんはため息をついて、
「あのね、いくら源外さんでもGANTZスーツなんて——」
「あるぞ」
「あるんですか⁉︎」
まさかの二つ返事をしてくれた源外さんに、私は食い気味に身を乗り出す。
さっすがなんでもありの平賀源外! 天才!
これなら原田さんにも対抗できるし、何より死なない!
私が心の中で狂喜乱舞していると、
「いっちょ試しに着てみるか!」どっこらしょと源外さんがいそいそ準備をはじめる。
あからさまに不審がる万事屋メンバーとは対照的に、私は心躍らせてGANTZスーツとのご対面を待った。
「あの……これって……」
「GANTZスーツだ」
「いやでも……ちょっとこれ私が思ってたよりも江頭っぽいというか……」
「GANTZスーツだ」
「いやもうどう見てもただの全身黒タイツじゃないですか! よく言えんな!澄んだ瞳でよく言えんな!」
頑なにGANTZスーツと言い切る源外さんに、私は疑惑の商品を指差してブチギレる。
私の代わりに全身黒タイツ姿になった新八くんが、心なしかモジモジしてこちらを見ている。
モジモジくんじゃねーか。
ツッコミ役を放棄してボケに徹する新八くんを見て、銀さんは感心したように呟く。
「おー。こいつァすげーな。やれば出来るじゃねーかジジイ」
「どこが⁉︎ どこに褒める要素ある⁉︎ ただの黒タイツじゃん! ドンキに売ってるヤツじゃん!」
「何言ってんだよ、桜。よく見ろよ、あの股間のあたり——黒い玉が付いてるじゃねーか」
「いやそれただモッコリしてるだけだろーが!」
「GANTZスーツだけじゃなく、黒い玉まで再現するなんてなかなかできねーぞ完成度たけーなオイ」
「そこに注目するとはさすが銀の字。わかってるじゃねーか。おまけも付けといたから二つあるんだぜ」
「そりゃありますよ。金の玉だからね。生まれた時から彼に備わった二つの玉だからね」
意気消沈する私の肩に、銀さんはポンと手を置くと、
「いーや、こいつのすげーのは玉だけじゃねェ。二つの玉の間にとんでもねーのが隠されてんだよ——Xガンだ」
「とんでもねーのはアンタの方だよ! Xガンじゃねーよ! それただの
「ヤツのXガンから白い光線が飛び出て敵を殲滅すんだよ。ジジイ! なんつー恐ろしいもん作ってんだ……!」
「アンタの方が恐ろしいわ。社会的地位がない人間のセクハラ発言いとわない感じ本当に怖いんですけど」
失うものがない大人はたちが悪すぎる。
見るに見兼ねたのか、万事屋のヒロインこと神楽ちゃんが進み出る。
「ごちゃごちゃうるさいネ。本物か見分けがつかないなら試してみるヨロシ」
そう言うと、彼女はおもむろに新八くんに近寄って、彼の腹に膝蹴りを叩き込む。
オボロロロロロと効果音を吐き出す新八くん。
神楽ちゃんはそれを指差して、無邪気に振り向く。
「桜ァ〜。やっぱり偽物だったヨ。銀ちゃん嘘つきアル。口から茶色い光線が出たネ。ぼったくられないように気をつけるアル」
「うん。ありがとう神楽ちゃん。けど今の絶対に私にはやらないでね。酢昆布に誓ってやらないでね」
ぐったりした新八くんを神楽ちゃんが引きずっていく。
このやりとりは割といつものことなので放っといて大丈夫だろう。
慣れてしまった自分が怖い。
原作では比較的弱キャラ扱いの新八くんでも、神楽ちゃんの攻撃を受けて3分たてばピンピンしてるんだからバケモノだ。
そんなことより今は自分の心配である。
……本当にどうしよう。
完璧に当てが外れてしまった。
GANTZスーツなくして死亡フラグを回避するのは難しい。
「いい商品なら高値で購入するので……」と、なんとかお願いすると、源外さんはしぶしぶ別の商品を漁り始めた。
他の商品で役に立つものがあるといいんだけど——もはや大喜利状態になりそうで憂鬱だ。
死亡フラグをビンビン感じて遠い目になってしまう。
銀さんはようやく依頼人を気遣う気になったのか、暗い顔の私に言う。
「オイ。お前さ、そんなんで大丈夫なのかよ」
「これが大丈夫に見えますか? 決闘の時はすぐに救急車呼べるようにスタンバっといて下さいね。間違っても原始的に叫んで救急車呼ぶとかボケかまさないで下さいね。銀さんが思ってるより私はとてつもなくか弱いんです。——わかりやすく例えるなら、豆腐をスムージー化したものをシャボン玉で包んでる程度の強度だと考えてください」
「どんだけ繊細なんだよ。つーか、そっちじゃねーよ」
そっちじゃないならどっちだと言うんだ。
今の私にこれ以上の話題など存在しないだろう。
怪訝な顔を向けると、銀さんは腕組みをして難しい顔で首を振る。
「さっき高値で買うとか言ってたけどよ、いくら切羽詰ってるからってもうちょい考えた方がいいんじゃねーのってことよ。たしかに俺も昨日言ったよ? アラサーなんだからボディー守ってる場合じゃねェって。けどよ、ほらお前ってそういうタイプじゃねーと思うし? なんつーか自分をもっと大切にすべきだと、銀さんは思うよ?」
「……はい? なんの話ですか」
まったく意味がわからない。
要領を得ないアドバイスに、私は冷ややかな声で言う。
銀さんはめずらしく少し気まずそうにして、
「だーかーら、お前働いてんだろ? 吉原で」
「……はァ⁉︎」
「いやー、さすがに俺もおかしいとは思ってたんだよ。お前やたらと金払い良いし。ダブルワークっつーの? まー、別に職業は人の自由だしな。桜みたいな地味顔っ子は正直訳あり感あって一定層から需要あると思うし」
うんうんと銀さんは頷いて、
「でももう少し胸はないと単価厳しいんじゃねーの?」
護身用で持ち歩いていた催涙スプレーを、私は無言でバカの目に噴射する。
ァァァァアアアアアアアアア! と、叫び声をあげて転がり回るバカ。
効果は抜群だ。
案外ツッコミ用でも使い道があるなァと、催涙スプレーの汎用性に感心する。
「テメェェェエエエ! 何しやがんだ! 失明したらどうしてくれんだよヤブ医者!」
「銀さんが変なこと言うからでしょう。次ふざけたこと言えば、酒に薬混ぜて昏倒させたところで視神経切断しますよ。そして私はヤブ医者ではなくマッドドクターです」
「より悪いわ!」
銀さんは真っ赤に充血した目を擦りながら怒鳴る。
「銀さんがたちの悪い冗談言うからじゃないですか。自業自得です」
「冗談じゃねーよ! 昨日、お妙がめずらしく電話よこしてよ。お前が吉原に入っていくのを見たっつーから——てっきり俺はだなァ」
「私がそんなことするはずないでしょ! 人違いです! だいたい真選組に入ってからずっと男装してるんですから——」
あれ、なんかデジャヴだ。
私は話の途中ではたと気付く。
そういえば、昨日も土方さんが妙なことを言っていた。
『保護されてるって自覚があんなら、むやみに外出——しかも女の姿で出歩くんじゃねーよ。男の格好させてる意味がなくなるだろーが』
なんだろう。
歌舞伎町に私のそっくりさんでもいるのか。
まあ、世の中よく似た人は3人いると言うし、私のような地味顔は見間違いやすいのだろうけど。
「じゃあ、なんでそんな金払い良いの。ゴリラがスポンサーになってお小遣いくれるとか?」
儲け話には敏感な万事屋のオーナーは、やたらと食い下がり聞き出そうとする。
大方、儲け話なら一枚噛みたいとか、あわよくば報酬を弾んでほしいとか、そうゆうことだろう。
「普通に真選組から頂いたお給料だけですよ。食費以外は使い道もないので、全額使い切ろうとしてるだけです」
「へー、そりゃ意外だな。せこせこ貯金とかしてそーなのに。アラサーのくせにそんな金遣い荒くていいのかよ」
「万年借金地獄の人に言われたくありません。……だって、私にとってここは異世界ですし。どうせ元の世界に帰るんですから貯金する必要もないじゃないですか。だったら良好な人間関係の構築に使った方がよほど建設的です」
「そういうもんかねェ」
相変わらずの異世界設定に萎えたのか、銀さんの反応は薄い。
他人の妄想話を聞かされてるんだ。
まあ、仕事とはいえこんな反応にもなるだろう。
それでも私にとっては公然と『異世界』とか『帰りたい』とか言えてしまう数少ない機会で、勝手に救われた気分になったりする。
相変わらずどこを見てるのかわからない濁った瞳で、銀さんがぼやく。
「なーんか桜が来てからおかしいんだよなァ」
「何がです?」
「何がっつーか……俺が?」
「そんなのいつものことじゃないですか」
銀さんは眉間にシワを寄せて、
「そんなんじゃねーよ。なんかうまく言えねーけど、リズムが狂うっつーか……最近変な依頼も増えたしなァ」
「私のせいですか」
「ま、疫病神ってヤツだな」
意地悪そうに銀さんはニヤリと笑う。
私はツンとそっぽを向いて、
「心配しなくても、近いうちに元の世界に帰りますよ。もし帰れたらもれなく私の全財産は銀さんに贈呈します」
「マジかよ!!!!!」
今日一のテンションで喜ぶ彼に、今後の活躍を期待しよう。
主人公の働きによって開ける道もあるはずだ。