元医者のアラサー女が銀魂世界にトリップして、元の世界に帰るまでの話   作:匿名希望くん

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三十話 ご利用は計画的に

 

そうこうしている内に、源外さんが戻ってきた。

彼はチョイチョイと私を手招きする。

 

「やっと見つけたぜ。これならオメェも文句ねーだろ」

 

そう言うと、源外さんは私の刀の(つか)に装置を付ける。

それは細い腕輪のような機械で、(つば)の下——(ふち)の部分にガッチリ固定された。

じっくり見ないとわからないぐらいで、まずバレる心配はなさそうだ。

 

「そこに赤いボタンがあるだろう。押してみろ」

 

たしかに小さな赤いボタンがあったので、言われるままに押してみると、ボタンの隣に付いていた小さな液晶画面が点灯する。

 

「その明かりが付いているうちは電源ONになってるっつーこった」

「なるほど。……それで、これをどうしろと?」

「それで終わりだ。あとは普通に戦ってりゃー勝てる」

「あの……普通に戦うことがない人生だったんですけど……。もう少し具体的に教えていただけると嬉しいのですが」

「あー? そりゃ構わねーがなァ。オメェさんの決闘って12時からじゃなかったか?」

 

源外さんが親指で背後の時計を指すと、時刻はすでに45分を回っていた。

 

——って、あと15分しかないの⁉︎

 

焦る私の頭に、銀さんが乱暴にヘルメットを被せる。

 

「飛ばせば3分で着くだろ。任せろ」

「とてつもなく不安なんですけど! 刀に変な機械付けただけで勝てるとか言われても——ッ」

「そこはジジイに頼みにきた時点で腹ァくくっとけよ。任せろ、運に」

「運かよ!」

 

しかし、なんだかんだ言って源外さんのカラクリには一度命を救われている。

これだけ自信満々に言うんだから……なんとかなると信じるしかない。

銀さんに引きずられるようにして私はスクーターに乗り込む。

 

「神楽ァ! ちょっとコイツ送ってくっからメガネ連れ帰っとけよ」

「おおー、任せろヨ。桜ァ! ハゲ頭なんかぶっ飛ばすアル!」

 

神楽ちゃんは気絶したままの新八くんを傘の先で持ち上げてエールをくれる。

これが最後の別れにならないことを祈るばかりだ。

銀さんがアクセルを踏むと、ブロロロロロと燃費の悪い音を立てながらスクーターが走り出す。

その時、「オーイ!」と源外さんの大声が聞こえて、私は反射的に振り向いた。

 

「こいつァーおまけだ!」

 

そう叫んで、彼が投げたモノがナイスコントロールで飛んでくる。

慌てて手を伸ばして受け取ると、それはスタンガンだった。

私が初めて源外さんに依頼したカラクリだ。

例のバケモノに破壊され、修理に出していたが——新品同様に直されている。

 

「ありがとうございます! 代金は振り込みしときますねーっ!」

 

源外さんに叫び返して、私は決戦の場に赴くのだった。

 

 

 

 

 

 

江戸大通りをスクーターが飛ばす。

銀さんの言う通り、このペースなら決闘には十分間に合うだろう。

 

けれど、また別の問題が私を困らせていた。

スクーターの二人乗り——というか、二人乗り自体が初めてで……手はどこに置くのが正解なんだろう。

婚活時代にあらゆる少女漫画を読み漁り、こういった場面の淑女たる振る舞いは勉強したはずだ。

たしか自転車で二人乗りのシーンもあったが、「道路交通法57条2項に違反している。社会の闇も知らない学生風情が呑気なことを——ッ!」という感想しか抱けず、どういう体位をしていたかサッパリ思い出せない。

クソ! もっと純粋な気持ちで勉強していればこんなことには……!

 

自然と眉間に力が入り、眼前の問題——銀さんの背中を睨みつける。

そもそも彼の体つきはおかしい。

普段から酒と甘味を過剰摂取して、特に運動してるってわけでもなく毎日ゴロゴロしてるだけなのに、このやたらと広く逞しい背中はなんだ。

なぜ筋肉質なんだ。

まさか、これが主人公補正というやつか!

どんなに荒れた生活をしても崩れないスタイル……なんて羨ましいんだ。

私は悔しさのあまり唇を噛み締める。

 

「何。そんなに睨まれたってなァー、これ以上早くはならねーぞ。銀さんは安全運転がモットーだからね。次違反食らったら免停なんだよ」

「へ⁉︎ 別に⁉︎ 別に睨んでませんよ!」

 

サイドミラー越しに、銀さんと目が合う。

考えてるところに突然声をかけられ、私は焦って銀さんの脇腹をガッチリ掴んだ。

 

(イテ)ェーよ! 突然何⁉︎ なんで脇腹つねんの⁉︎ 何が気に入らねーんだよ口で言えよ!」

「ああ、すみません。いえあの……どこに掴まればいいのか迷ってしまって……」

「ああー? 普通に肩とかでいいだろォーが。そっとだぞ⁉︎ ソーっと両手を添えるだけだからな!」

 

肩だと——ッ!

なるほど。いい距離感だ。

私は安堵して彼の両肩に手を置いた。

 

「よしよしよし。やれば出来るじゃねェか。運転中なんだから頼むぜ。銀さんマジで免停リーチだからね」

「……銀さん。あれ、なんでしょうか」

「オイ! バカかテメーは立ち上がんじゃねェ! あぶねーだろォが!」

 

彼の肩越し——前方に違和感を覚え、銀さんの肩に手を置いたまま私は立ち上がる。

……前方の車の流れがおかしい。

私は目を凝らして、身を乗り出す。

渋滞だろうか……いや、この時間帯に渋滞はないだろう。

事故か?

それにしては静かすぎるような気も——

 

「桜ちゃぁぁぁん! 聞いてる⁉︎ 次免停だっつってんだろ! いいから座れよヤブ医者!」

「銀さん……前! 前見てください前ェェェエエ!」

「あ? ……何アレ」

 

彼のヤブ医者発言を訂正する余裕もなく、私は絶叫する。

 

目の前には信じられない光景が広がっていた。

私たちの行先で、車が次々と宙を舞う。

ベルトコンベアーのような一本道は、容赦なく私たちをその現場に連れて行く。

すぐ前方を走っていた車が、凄まじい音を立てると一瞬で宙に舞い上がった。

開けた視界が犯人を捉える——道路に佇む女性。

身に纏う漆黒のワンピース。

その黒さが、病的なまでに白い肌を際立てる。

彼女の顔は、角の生えた悪魔を模した仮面で隠されていた。

銀さんの息をのむ気配が、手のひらを通して伝わる。

 

「桜ァ! 掴まれェェェ!」

 

銀さんの怒声に返事をする暇もなく、私は彼の腰にしがみつく。

直後、スクーターはボディーを道路に擦り付けて見事なドリフトを決めながら、横の小道に走り込む。

 

「ななななんですかアレ!」

「俺が知るかよ!」

 

後ろを振り返って驚愕する。

悪魔の仮面を被った女性が、走り迫ってくる。

その足は残像で見えないほど早いのに、上半身は静止画のように微動だにしない。

 

「あああああああの! なんかついて来ちゃってるんですけど! めちゃくちゃロックオンされてるんですけどォォォォオオオ!」

「クソ! なんだっつーんだよ!」

 

スピードからは想像できぬほど和やかな動作で、彼女が私たちを指差す。

すると、どこから湧いて出たのか抜刀した浪人が一人、二人——九、十——二十、三十……いや多すぎでしょォォォォオ!

 

「ぎぎぎぎ銀さぁぁぁん! なんかすんごい敵が増えてます! リボ払いの利息並みに増えていきます!」

「何その例え怖すぎんだよ! 恐怖の伝え方天才的じゃねェーか!」

 

銀さんはアクセルを一層踏み込んで加速する。

スクーターはガタガタ音を立て、今にもバラバラに壊れそうだ。

背後に敵が迫り、私は刀身に絡めとられそうな身体を必死によじる。

デコボコの小道が続いていたのが、ようやく前方に道が(ひら)け——開……開けすぎでは?

銀さんがヤケクソに叫ぶ。

 

「リボ払いはァァアアア! 一括返済がおすすめですぅぅぅううう!」

 

小道を走り抜けると、目の前は大きな川だった。

スクーターが勢いよくガードレールに突っ込む。

唐突に感じる浮遊感。

身体が宙を舞って、視界もぐるぐる回る。

空の青さと川の青さが高速で入れ替わり——わぁ〜すんごい! 人ってこんなに飛べるの? とか思っていると——気付けば目の前は銀髪一色になっていた。

一拍遅れて、銀さんに抱えられていることに気付く。

数メートルある川幅を物ともせず、彼は私を抱えて対岸に着地したらしい。

 

「よォーし。だいぶ減ったな」

 

勢い余って川に飛び込んだ浪人たちを見て、銀さんは頷く。

 

「私は寿命が減りました」

 

放心して呟いた言葉は、彼に届いているだろうか。

それにしてもこの場合のお姫様抱っこはアラサー的に大丈夫なんだろうか、とか考えたっていいじゃないか現実逃避も時には大事だ。

 

浪人の生き残りがこちら目掛けて跳躍するのを見つめながら、口元をへらりと緩ませる。

なんつーか笑うしかない。

 

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