元医者のアラサー女が銀魂世界にトリップして、元の世界に帰るまでの話 作:匿名希望くん
その時、私は目を疑った。
バヂヂヂヂヂヂと迸る電流。
スタンガンの先端で、電気の塊が球体に浮かぶ。
そしてまさしく閃光のごとく、それは発射された。
仮面の女は恐るべき反射神経で飛び上がって回避する。
が、弾けた電撃が悪魔の仮面に直撃した。
彼女は顔を抑え、空中でくるりと回って屋根の上に着地する。
スタンガンから発射された球電は地面を抉り焼き、まっすぐに進むと、行手の小屋を吹き飛ばして空に消えた。
……千鳥はこんな技じゃねェェェェエエエ!!!
つーかスタンガンですらねェェェェエエエ!!!
驚愕のあまり心中穏やかでない私に、お色気お姉さんはクスクス笑う。
「今のすっごく危険ね。私、久しぶりにドキドキしちゃったわ」
彼女のスカートは電撃で焼き切れ、大胆な素足を晒している。
「あなたの生足もなかなか刺激的ですよ」と軽く言おうとして、私は言葉を失った。
電撃によって割れた彼女の仮面が、落ちる。
そこから現れた素顔は——私の顔だった。
土方さんと銀さんの言葉が脳裏をよぎる。
『保護されてる自覚があんなら——女の姿で出歩くんじゃねーよ』
『お妙が——お前が吉原に入っていくのを見たっつーから』
そうか。
私のそっくりさんの正体は——。
「……オイオイ。桜ちゃーん。あれどう見てもお前なんだけど。ドッペルゲンガーってやつ? ちょっと俺そういうオカルト話は専門外なんだけど」
さすがの銀さんも戸惑った声色で、冗談まじりに言う。
私は呆然として「パラレルワールド」と呟く。
「はぁ? パラレルワールド? なんだよまたお前の妄想話?」
「ある世界から分岐し、存在する並行世界のことです。ちょっとした選択の違いで分岐される——並行世界には、もう一人の自分が存在すると言われています」
「いやまあ、なんとなくは知ってるけどよ。……つーことは、何。あのお色気お姉さんは——この世界のお前ってこと?」
わからない。
ここは銀魂の世界だ。
もう一人の私が存在するなんて——そんなバカなこと。
だが、そもそも銀魂の世界に来たこと自体が常識から外れている。
もう何が起こっても不思議じゃない。
彼女——もう一人の私は艶やかに微笑んだ。
「あら、もうバレちゃったの。もう少し秘密にしておきたかったのに……残念ね」
「……私をこの世界に呼んだのはあなたなの?」
「んん〜せっかちね。もう一人の自分のはずなのに、私たちって気が合わないみたい。そう思わない?」
「ふざけないで! いいから質問に——」
私は興奮して語気を荒げる。
が、彼女の姿を見て唖然とした。
彼女の背が波打つと、そこからコウモリのような黒い羽が生えたのだ。
その大きな翼を動かし、ふわりと宙に浮かぶ。
彼女は形の良い唇を吊り上げて言う。
「まずは自己紹介が必要よね? 私の名前はサクラ。苗字はないわ。この地球では『ヴァンパイア星人』って呼ばれてるみたい。あんまり可愛くない名前だと思わない?」
サクラはお色気たっぷりに吐息を漏らす。
あまりの衝撃に私はふらつき後ろに倒れそうになったところを、銀さんに支えられた。
一体どういうことなの。
こっちの世界の私——まさか人間ですらないとか!
そんでヴァンパイア星人って!
薄々気付いていたけど完璧に黒じゃないですか。
巷のヴァンパイア事件の犯人絶対こいつじゃないですか。
私と同じ顔の天人が犯人……。
これが真選組にバレたら——私は即刻、打首獄門だ。
放心する私の体を銀さんが揺り動かす。
「しっかりしろォ! 大丈夫だ!」
「銀さん……」
「たしかにあっちのサクラさんの方がセクシーだ。そんでなぜか胸もデカい。けどな、お前にもいいところあるから! 銀さんはわかってるから!」
「アンタは本当こんな時にどこ見てんだトドメ刺しますよ」
「大丈夫だ。あのヴァンパイア星人は俺のXガンで退治しておくから」
「ちょっと黙っててくれますかマジで。今めちゃくちゃシリアスなんで」
私たちの掛け合いを見て、サクラは妖麗に笑う。
「私も驚いたのよ。まさか異世界の私が脆弱な地球人なんて……。挨拶がわりに遊んでいたつもりだったのに、うっかり殺してしまいそうになったわ。でも、楽しみはまだ取っておかないとね」
「待って!」
飛び去ろうとする彼女を私は急いで呼び止める。
銀魂の世界にもう一人の私がいる。
信じ難いことだ。
が、それが本当ならば——確かめずにはいられない。
「あなたが私なら——姉がいるはずよ! 姉さんは……春香はどこにいるの⁉︎」
私がその名を口にすると、サクラはゆっくりと振り返った。
その瞳に冷酷な色をたたえて、
「姉……ええ、確かにいたわ。三年前に死んだけれど」
脳を揺さぶられたように、目の前が歪む。
「死んだ……?」と私はかすれた声で繰り返した。
「んん〜、私が殺したと言った方が正しいかしら?」
「殺——ッ⁉︎ なんで……なんでそんなこと!」
「だって、うざいんだもの」
「……え?」
サクラは真っ赤なルージュをひいた唇を醜く歪めて笑う。
「ハルカ姉さんってうざかったでしょ。あなたの世界では違った?」
その問いに、私は答えられなかった。
****
かつて私は天才だった。
幼い頃から好奇心旺盛な性格で、勉強好きだったことも良い方に転んだのだろう。
物心ついたころから神童と呼ばれ、飛び級は当たり前。
学生の頃から様々な研究論文を発表しては、いくつも賞を貰った。
自室では飾り切れないトロフィーや賞状は、いつのまにかリビングや家中を占拠していた。
それに比べて、姉は凡人だった。
普通の子供たちと同じようによく笑って、よく遊んで——宿題が間に合わないと私に泣きついていた。
成績は中の上。
とても医者になれるような頭脳ではなかった。
しかし、その代わりに姉には別の才能があった。
人タラシの才能だ。
彼女の周りには不思議と人が集まった。
そんな姉から見れば、勉強ばかりで友達もいない私はさぞ孤独に見えたのだろう。
何かにつけて、姉は私を遊びに連れ出したり、パーティーに参加させたりした。
その場所は姉を慕う人たちばかりで、「妹だ」と紹介される度に透明人間にでもなりたい気分だった。
なぜなら会う人みんなに言われたからだ。
「姉妹なのに似てないんだね」
その言葉は私にとって魔法の呪文みたいだった。
その呪文を言われる度に、私はますます学問の世界に没頭していった。
最初は親に敷かれたレールを走ることに疑問を持っていたが、学問の面白さに触れ、人々を直接助けることができる——まるでヒーローのような『医者』という職業が私の夢になっていた。
高校の頃、両親は私の才能に惚れ込み、すっかり病院を継がせる気でいた。
歴史ある大病院のため、古くからの慣習で家督は長女に——と言われていたが、そんなものは建前だった。
すでに姉が医者になる必要はなくなっていた。
けれど、姉は「桜が心配だから」と言って医者の道を選んだ。
「姉さんの成績で医大は難しい」と私が何度諭しても、譲らなかった。
それから私は研究の傍ら、毎晩姉の勉強を見た。
その甲斐あって、姉は無事に医大に進学。
姉妹揃って、実家の病院に勤めることになる。
そうしてやっと医者になってからも、私と姉は鏡のように対極的な存在だった。
私はとにかく合理的に、効率的に——一人でも多くの患者を救うために躍起になっていた。
人の命は儚く、時間は限られている。
患者の診察や手術、学会の研究発表、新薬や新治療法の開発——。
使える人材はフル稼働させ、削れるものは極限まで削った。
そうして私が削ったものを拾い上げるのが、姉の仕事だった。
軽度の患者の診察、看護スタッフの愚痴、私腹を肥やす古狸の嫌味——一般雑務に至るまで。
私から見れば無駄に思えることにも姉は幅広く気を配り、姉の周りにはいつも人が溢れ、私の周りには書類の山が溢れた。
月日は流れ——どちらを院長に推すか、次第に病院内では派閥ができていた。
実力主義の私か、人望の厚い姉か。
そして院長に選ばれたのは、姉の春香の方だった。
それから間もなく、姉は幼馴染みで同僚の
半年後に病に倒れ、数ヶ月後あっさりとこの世を去った。
姉は最後まで「桜のことが心配だから」と口癖のように言っていた。
姉が死んだ日。
その日、私は自分自身に深く失望した。
伏線というか、一応前振りはしましたがパラレル展開ですみません……笑。
やはり異世界といえばパラレルかと思いまして。
超展開ですがついてきて頂けると嬉しいです……!