元医者のアラサー女が銀魂世界にトリップして、元の世界に帰るまでの話   作:匿名希望くん

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三十二話 矛盾ばかりが人生だ

その時、私は目を疑った。

 

バヂヂヂヂヂヂと迸る電流。

スタンガンの先端で、電気の塊が球体に浮かぶ。

そしてまさしく閃光のごとく、それは発射された。

仮面の女は恐るべき反射神経で飛び上がって回避する。

が、弾けた電撃が悪魔の仮面に直撃した。

彼女は顔を抑え、空中でくるりと回って屋根の上に着地する。

 

スタンガンから発射された球電は地面を抉り焼き、まっすぐに進むと、行手の小屋を吹き飛ばして空に消えた。

 

……千鳥はこんな技じゃねェェェェエエエ!!!

つーかスタンガンですらねェェェェエエエ!!!

 

驚愕のあまり心中穏やかでない私に、お色気お姉さんはクスクス笑う。

 

「今のすっごく危険ね。私、久しぶりにドキドキしちゃったわ」

 

彼女のスカートは電撃で焼き切れ、大胆な素足を晒している。

「あなたの生足もなかなか刺激的ですよ」と軽く言おうとして、私は言葉を失った。

 

電撃によって割れた彼女の仮面が、落ちる。

そこから現れた素顔は——私の顔だった。

 

土方さんと銀さんの言葉が脳裏をよぎる。

『保護されてる自覚があんなら——女の姿で出歩くんじゃねーよ』

『お妙が——お前が吉原に入っていくのを見たっつーから』

 

そうか。

私のそっくりさんの正体は——。

 

「……オイオイ。桜ちゃーん。あれどう見てもお前なんだけど。ドッペルゲンガーってやつ? ちょっと俺そういうオカルト話は専門外なんだけど」

 

さすがの銀さんも戸惑った声色で、冗談まじりに言う。

私は呆然として「パラレルワールド」と呟く。

 

「はぁ? パラレルワールド? なんだよまたお前の妄想話?」

「ある世界から分岐し、存在する並行世界のことです。ちょっとした選択の違いで分岐される——並行世界には、もう一人の自分が存在すると言われています」

「いやまあ、なんとなくは知ってるけどよ。……つーことは、何。あのお色気お姉さんは——この世界のお前ってこと?」

 

わからない。

ここは銀魂の世界だ。

もう一人の私が存在するなんて——そんなバカなこと。

だが、そもそも銀魂の世界に来たこと自体が常識から外れている。

もう何が起こっても不思議じゃない。

 

彼女——もう一人の私は艶やかに微笑んだ。

 

「あら、もうバレちゃったの。もう少し秘密にしておきたかったのに……残念ね」

「……私をこの世界に呼んだのはあなたなの?」

「んん〜せっかちね。もう一人の自分のはずなのに、私たちって気が合わないみたい。そう思わない?」

「ふざけないで! いいから質問に——」

 

私は興奮して語気を荒げる。

が、彼女の姿を見て唖然とした。

 

彼女の背が波打つと、そこからコウモリのような黒い羽が生えたのだ。

その大きな翼を動かし、ふわりと宙に浮かぶ。

彼女は形の良い唇を吊り上げて言う。

 

「まずは自己紹介が必要よね? 私の名前はサクラ。苗字はないわ。この地球では『ヴァンパイア星人』って呼ばれてるみたい。あんまり可愛くない名前だと思わない?」

サクラはお色気たっぷりに吐息を漏らす。

 

あまりの衝撃に私はふらつき後ろに倒れそうになったところを、銀さんに支えられた。

 

一体どういうことなの。

こっちの世界の私——まさか人間ですらないとか!

そんでヴァンパイア星人って!

薄々気付いていたけど完璧に黒じゃないですか。

巷のヴァンパイア事件の犯人絶対こいつじゃないですか。

私と同じ顔の天人が犯人……。

これが真選組にバレたら——私は即刻、打首獄門だ。

 

放心する私の体を銀さんが揺り動かす。

 

「しっかりしろォ! 大丈夫だ!」

「銀さん……」

「たしかにあっちのサクラさんの方がセクシーだ。そんでなぜか胸もデカい。けどな、お前にもいいところあるから! 銀さんはわかってるから!」

「アンタは本当こんな時にどこ見てんだトドメ刺しますよ」

「大丈夫だ。あのヴァンパイア星人は俺のXガンで退治しておくから」

「ちょっと黙っててくれますかマジで。今めちゃくちゃシリアスなんで」

 

私たちの掛け合いを見て、サクラは妖麗に笑う。

 

「私も驚いたのよ。まさか異世界の私が脆弱な地球人なんて……。挨拶がわりに遊んでいたつもりだったのに、うっかり殺してしまいそうになったわ。でも、楽しみはまだ取っておかないとね」

「待って!」

飛び去ろうとする彼女を私は急いで呼び止める。

 

銀魂の世界にもう一人の私がいる。

信じ難いことだ。

が、それが本当ならば——確かめずにはいられない。

 

「あなたが私なら——姉がいるはずよ! 姉さんは……春香はどこにいるの⁉︎」

 

私がその名を口にすると、サクラはゆっくりと振り返った。

その瞳に冷酷な色をたたえて、

 

「姉……ええ、確かにいたわ。三年前に死んだけれど」

 

脳を揺さぶられたように、目の前が歪む。

「死んだ……?」と私はかすれた声で繰り返した。

 

「んん〜、私が殺したと言った方が正しいかしら?」

「殺——ッ⁉︎ なんで……なんでそんなこと!」

「だって、うざいんだもの」

「……え?」

 

サクラは真っ赤なルージュをひいた唇を醜く歪めて笑う。

「ハルカ姉さんってうざかったでしょ。あなたの世界では違った?」

 

その問いに、私は答えられなかった。

 

 

 

 

 

****

 

 

 

 

 

かつて私は天才だった。

幼い頃から好奇心旺盛な性格で、勉強好きだったことも良い方に転んだのだろう。

物心ついたころから神童と呼ばれ、飛び級は当たり前。

学生の頃から様々な研究論文を発表しては、いくつも賞を貰った。

自室では飾り切れないトロフィーや賞状は、いつのまにかリビングや家中を占拠していた。

 

それに比べて、姉は凡人だった。

普通の子供たちと同じようによく笑って、よく遊んで——宿題が間に合わないと私に泣きついていた。

成績は中の上。

とても医者になれるような頭脳ではなかった。

しかし、その代わりに姉には別の才能があった。

人タラシの才能だ。

彼女の周りには不思議と人が集まった。

 

そんな姉から見れば、勉強ばかりで友達もいない私はさぞ孤独に見えたのだろう。

何かにつけて、姉は私を遊びに連れ出したり、パーティーに参加させたりした。

その場所は姉を慕う人たちばかりで、「妹だ」と紹介される度に透明人間にでもなりたい気分だった。

なぜなら会う人みんなに言われたからだ。

「姉妹なのに似てないんだね」

その言葉は私にとって魔法の呪文みたいだった。

その呪文を言われる度に、私はますます学問の世界に没頭していった。

最初は親に敷かれたレールを走ることに疑問を持っていたが、学問の面白さに触れ、人々を直接助けることができる——まるでヒーローのような『医者』という職業が私の夢になっていた。

 

高校の頃、両親は私の才能に惚れ込み、すっかり病院を継がせる気でいた。

歴史ある大病院のため、古くからの慣習で家督は長女に——と言われていたが、そんなものは建前だった。

すでに姉が医者になる必要はなくなっていた。

けれど、姉は「桜が心配だから」と言って医者の道を選んだ。

「姉さんの成績で医大は難しい」と私が何度諭しても、譲らなかった。

それから私は研究の傍ら、毎晩姉の勉強を見た。

その甲斐あって、姉は無事に医大に進学。

姉妹揃って、実家の病院に勤めることになる。

 

そうしてやっと医者になってからも、私と姉は鏡のように対極的な存在だった。

 

私はとにかく合理的に、効率的に——一人でも多くの患者を救うために躍起になっていた。

人の命は儚く、時間は限られている。

患者の診察や手術、学会の研究発表、新薬や新治療法の開発——。

使える人材はフル稼働させ、削れるものは極限まで削った。

 

そうして私が削ったものを拾い上げるのが、姉の仕事だった。

軽度の患者の診察、看護スタッフの愚痴、私腹を肥やす古狸の嫌味——一般雑務に至るまで。

私から見れば無駄に思えることにも姉は幅広く気を配り、姉の周りにはいつも人が溢れ、私の周りには書類の山が溢れた。

 

月日は流れ——どちらを院長に推すか、次第に病院内では派閥ができていた。

実力主義の私か、人望の厚い姉か。

 

そして院長に選ばれたのは、姉の春香の方だった。

それから間もなく、姉は幼馴染みで同僚の菊池宏人(きくちひろと)と婚約。

半年後に病に倒れ、数ヶ月後あっさりとこの世を去った。

姉は最後まで「桜のことが心配だから」と口癖のように言っていた。

 

姉が死んだ日。

その日、私は自分自身に深く失望した。

 




伏線というか、一応前振りはしましたがパラレル展開ですみません……笑。
やはり異世界といえばパラレルかと思いまして。
超展開ですがついてきて頂けると嬉しいです……!
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