元医者のアラサー女が銀魂世界にトリップして、元の世界に帰るまでの話   作:匿名希望くん

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六話 戸籍がなければ作ればいいじゃない

 

「んじゃ、つまりこういうことか」

『イアアアアアアアエエエエエエエエエイイイ!』

「アンタは」

『イアアアアアアアエエエエエエエエエイイイ!』

「あの日」

『イアアアアアアアエエエエエエエエエイイイ!』

「た」

『イアアアアアアアエエエエエエエエエイイイ!』

「うるせぇぇぇええええ! なんで2人ともリンク遣い⁉︎ 叫び声がいちいちうるせえんだよ!」

 

仲良くスマブラで遊んでいるお子様2名の背中に、土方さんが怒声を浴びせる。

 

土方さんに身元の提示を迫られ、戸籍など存在しないと困り果てた末に選択した苦肉の策。

その名も『ドキドキ☆銀さんの妹になっちゃえ♡』大作戦だ。

要は、万事屋の依頼として身元を証明してもらおうってだけだが。

私の知る坂田銀時ならば、金さえ払えばポンと引き受けてくれるだろうと踏んでいた。

恥も外聞もかなぐり捨て、良い歳こいて妹キャラを演じようなんて黒歴史すぎるが、背に腹はかえられない。

不審者認定、牢屋暮らしルートよりはきっとマシだ。

年齢を鑑みれば姉設定でもいいのだが、私は結構な童顔だ。

まず間違いなく年相応には見られないだろう。

いつもなら嬉しい利点でも、いまは足枷である。

妹萌えの全ヲタクの皆様を思うと、申し訳なさすぎて罪悪感で胃がよじれそうだ。

 

衝撃カミングアウトのどさくさに紛れて抱きついた折に「報酬は弾むから話を合わせろ」と素早く耳打ちすると、銀さんは「あー! お前アレだな⁉︎ こないだ生き別れた妹的なアレだな⁉︎」と下手くそな芝居で合わせてくれた。

予想を上回る大根っぷりだったが、獄中で散々イメトレしたお陰で私の泣きの演技はバッチリだ。あまりに温度差のある即席の兄妹愛を見せつけられて、しばし呆然としていたメガネとマヨラーだったが、「玄関先ではなんだから」とまたもやお気遣いメガネの一言で遂に万事屋の居間に足を踏み入れたのだった。

 

先程まで仲良く遊んでいた2人は、ゲームでは決着がつかなかったようで、いつのまにか取っ組み合いの大乱闘を始めている。

相変わらず自由すぎる部下を横目に、眉間に深いシワを寄せて、土方さんがため息をつく。

予想の斜め上を行く展開に苛立ちを隠せないのだろう。

タバコから立ち昇る煙の量が尋常でない。

 

「つまりアンタは普通の女ならビビって入り込まねーような路地裏をたまたま彷徨き、その日がたまたま俺たちの大捕物の日で命を助けられ、たまたま俺たちと面識のある万事屋が兄だったと。ずいぶん偶然が続くじゃねーか。よほど運命って奴に好かれてるらしい」

整った薄い唇から、ふーっと紫煙をくゆらす。

 

「何が目的だ。場合によっちゃー、女でも容赦しねぇぞ」

 

目だけで人を射殺せそうな双眼が、私の瞳に照準を合わせる。

平和な現代日本でぬくぬくと育ってきた身の上では、命が脅かされる危険はそうそうない。

殺意を向けられるのは、人生で三度目だ。

その三度ともがこの世界に来てからだというのだから、先が思いやられる。

あれ、銀魂ってもっとギャグ中心の平和な世界じゃなかったっけ。

なんでこんなに心臓に悪い場面が続くのだろうか。

キモヲタ属性に片足突っ込んでるマヨネーズ中毒者に脅されてビビってると思われても癪なので、頑張って睨み返してみる。

それを敵対と見なしたのか、開ききった男の瞳孔が一層鋭くなった。

 

「……上等だ」

 

土方さんがニヤリと好戦的な笑みを浮かべ、私に一歩近付こうとした瞬間、視界の端に毛玉……いや、銀髪が飛び込んだ。

 

「たまたまたまたまウルせーんだよ!!!」

 

叫び声と共に、銀さんの繰り出したドロップキックが土方さんに見事に決まる。

人が吹っ飛ぶ瞬間を初めて見てしまった。

いや、二度目だったか。

思い返すと、うっすらバズーカで飛んで行く土方さんを見た気がしなくもない。

どちらにしてもトラウマものである。

 

「タマタマだか、タマキンだか知らねーが。俺の妹に堂々とセクハラしてんじゃねぇよ。テメーのとこのゴリラといい、税金使ってセクハラ三昧って良い仕事してるじゃねーの」

 

そんな美味しい仕事転がってねぇかなぁと愚痴りながら、銀さんが視線を投げてくる。

分かりやすいアイコンタクトに内心苦笑しつつ頷いてみせると、銀さんは満足そうにニヤついた。

 

「テメェ……。今日こそ公務執行妨害でしょっぴいてやる」

 

怒気をはらんだ声に振り返ると、土方さんが早々に復活していた。

かなり激しく壁に激突したのに、全く堪えてなさそうだ。

マジで空気にプロテイン入ってるとしか思えない。

 

「しょっぴかれんのはテメーの方だろォが、変態税金泥棒。なに、俺の妹にどうして欲しかったの? マヨネーズでヌルヌルプレイでもしたかったの? それともテカテカプレイがお好みですかー?」

「マヨネーズは神聖なソウルフードなんだよ。いやらしい目で見るんじゃねぇ」

 

ツッコミどころはそこでいいんだろうか。

そもそもマヨネーズが神聖ってどういう精神なんだろうか。

 

「だいたいテメェの妹って言ったって、全然似てねーだろ。見えすいた嘘ついてんじゃねぇ」

 

いい加減にしろとばかりに土方さんが眼光鋭く睨みつけても、銀さんは意に介さず飄々と答える。

 

「はぁー? どこをどう見てもクリソツだろーが。頭のてっぺんから足の先まで完全に一致だろーが」

「どこがクリソツだァ! 共通点一つも見当たらないんですけど! 白髪に天パの時点で頭のてっぺんから不一致なんですけどォ!」

 

こればかりは土方さんに軍配が上がるだろう。

私は純日本人らしく黒髪セミロングストレート。

男はだいたいこんなのに弱いらしいと、婚活友達に聞いて2年前からずっとコレである。

ちょっとぐらい美容院に行かなくてもバレないし、ヘアカラー代は浮くしで割と気に入っている。

効果の程は私の左手薬指を見てくれ。

言わせんな。

 

「土方くんよぉ。兄貴っつーのは、妹の分まで厄介事背負いこむ運命なのよ。母ちゃんの腹ん中で、天パっつー災厄を引き受けてやったの。つまり、この天パにも妹を過酷な運命から守ったっつー意味があるんだよな? 今までの天パの苦しみは、全部コイツのためにあったんだよな?」

「今更天パの存在意義悩んでんじゃねーよ。お前の天パは何も守れてねーよ」

「いやいやいや、天パの呪いはすげぇから。天パなめんなよ。俺の力を持ってしても、妹の上の毛しかサラサラストレートにできなかったんだよ? この子の下の毛は、天パの呪いを脈々と受け継いでるからね。そこは銀さんの上の毛とクリソツだからね」

「そっちのモジャモジャは人類が生まれ持ったモジャモジャだろーが! 人類みな兄弟になっちまうだろーが!」

「いやいやいや! モジャモジャ具合が全然ちげーんだって! 見れば一発で『うわぁ、クリソツだー!』って思うからね。つーわけで、ちょっとコイツにクリソツなところ見せてやってくんない?」

 

ちょっとイチゴ牛乳買ってきてみたいなノリで私に話を振ると、

「どんなわけだー!」

新八くんが叫び声と共に、銀さんの脳天に踵落としを食らわせた。

 

「なんて角度からセクハラしてんですかアンタ!」

「いってーなぁ、パッツァン。俺はただクリソツなところを見せて、いっちょ妹だという事実確認をしようとだなぁ」

「何のための事実確認なんですかそれ。セクハラで捕まるための事実確認ですよねそれ」

 

この人が失礼な事ばかり言って……と、平謝りする新八くんの姿は、相当似合っているというか板についていて切ない。

当の本人は、彼の背後で鼻くそほじってるぞ。

こんな健気な少年に迷惑ばかりかけるなんて、マジでダメな大人、略してマダオだ。

 

「まあまあ、土方さん。落ち着いてくだせェ。いいじゃねーですか。真偽はともあれ、身元保証人になってくれるってんだ。この話に乗らなけりゃ、今日中に報告書あげるなんざ無理な話ですぜ」

 

先程まで神楽ちゃんと取っ組み合いのケンカをしていた沖田さんが、何事もなかったように飄々と会話に加わる。

 

「誰のせいでこんなことになったと思ってんだよ。元はと言えばお前が取調べサボってんのが原因だろーが」

「責任転嫁とは頂けねーや。アンタの部下監督不足でしょう。責任とって腹切れよ土方」

「お前が意図的に監督されねーんだろォが! なんで俺が腹切らねーとイケネーんだ!」

「なんで俺がアンタに監督されなきゃイケネーんですか」

「部下だからだよ!!!」

 

シレッと暴言を吐く沖田さんとは対照的に、青筋を立てて怒鳴る土方さん。

一般的な上司と部下の関係とは思えないが、これが今時の職場関係という奴なのだろうか。

なにしろ、モンスター新人という言葉が浸透しているぐらいだ。

こんな部下がいるなら上司の方が参ってしまうのも頷ける。

 

「あー? なに、身元保証人ってどういうことだよ」

 

気だるそうな声を上げて、銀さんが疑問符を浮かべた。

すると、沖田さんは黒革のカバンを引き寄せ、中から書類を抜き出すと銀さんに手渡す。

沖田さんの言うことも最もだと考えたのか、土方さんは事の成り行きを静観している。

何にせよ私の思惑に乗ることが気に入らないのだろう。

何人か殺ッてきたような犯罪者面で睨みつけてくるが、正直全く怖くない。

相当恨みを買っているらしいが、私は一般市民だ。

手出しはできまい。

この件が片付けば真選組とはオサラバ。

ハッハッハ! 政府の犬め! せいぜい今のうちに噛み付いているがいい!

 

「いやー、よく考えたら俺に妹なんていなかったわ」

「なんで⁉︎」

 

沖田さんから事情を聴き、ザッと書類に目を通した銀さんは開口一番に私を切り捨てた。

 

「なんでもクソもねーよ。不審者の上に身元不明って怪しすぎんだろ。アンタ本当に金あんの? そうは見えねーけど」

「ありますよ! モチロンありますよ! いま助けてくれれば報酬は弾みますって」

「んじゃ、前払いな」

「いや、それはちょっと……」

「あっそ。じゃあ、この話はなかったってことで」

「そんな! 困ります! 必ず働いて返しますから! 私、なんでもしますから!」

「ほう、なんでもねぇ……。口約束だけじゃなァ。誠意を見せて頂かないと」

「いや、どこの闇金ですか。てゆーかめちゃくちゃ聞こえてるんですけど。もうちょっと隠す努力して下さいよ」

 

難航する交渉に、呆れた新八くんが合いの手を入れる。

しかし、これはマズイ。

ここで万事屋の援助がなければ打つ手なしだ。

どうにか銀さんを説得しなければと焦る私に助け舟を出したのは、意外にもドSの国の王子様だった。

 

「まあ、待ってくださいよ旦那。女なんて脱げばそこそこ稼げまさァ。そこいらでチョチョイと働かせた後にじっくり絞り取ればいい話です。金は必ず後からついてくる。アンタに損はネェはずだ」

「ほほう確かにな。……しかし、沖田くんが他人の肩を持つとは珍しいねぇ」

「さすが旦那。話が早いお人だ」

 

沖田さんはニヤリと笑うと、銀さんにソッと耳打ちをする。

すると途端に銀さんの表情は華やぎ、鼻歌交じりに身元保証人の書類にサインをした。

一体どんな奥の手を使ったのだろう。

ロクなものじゃない事は確かだと、沖田さんの横顔を見て思う。

 

「ほら、よかったなトン子。これでアンタも晴れて自由の身でさァ。情けをかけてくれた旦那に感謝しなせェ」

「なに、トン子って名前なの? 随分豚寄りの名前だな」

「違います!!!」

 

いま否定しておかないとこの先ずっとトン子と呼ばれてしまいそうだ。

相変わらず忌々しげにこちらを眺めている土方さんが目に入り、反射的に身を縮めるが最早怯える必要もないと気付く。

只今をもって私は釈放されたのだ。

善良な市民に怒鳴り散らす犯罪者面の無能警官ともやっと縁が切れるというもの。

じわじわと嬉しさが全身を占めていく。

ああ、自由って素晴らしいなァ!

 

しかし、思えば土方さんにもそれなりに世話になった。

腹立たしい事の方が多すぎてすっかり忘れていたが、そういえば浪人から助けてもらったではないか。

今後はお世話にならないように十分気をつけるとしても、大人の礼儀として名前ぐらい名乗っておこう。

『終わり良ければすべて良し』『立つ鳥跡を濁さず』だ。

この世界に来て初めて心からの晴れ晴れしい笑顔を引き出す。

真選組の両名を真っ直ぐに見据えた。

言葉に収まらない気持ちを持って、私は深くお辞儀をする。

 

「沖田さん、土方さん。今更ですが、山田桜と申します。今まで大変お世話になりました。もうお会いする機会もなかなか無いとは思いますが、お元気で。オフホワイトの善良市民にした数々の恫喝・脅迫・暴力行為を忘れません」

「白じゃねーのかよ! オフホワイトなら文句言えねーだろ!」

 

『疑わしきは罰せず』という言葉を知らないのか、このマヨネーズ男は。

切れ者に見えても、所詮は田舎侍。

力に訴えれば全て治ると思っているのが気に入らない。

まあ、いいだろう。

危機的段階は脱したものの、まだまだ問題は山積みだ。

私は半歩下がり、くるりと身体の向きを変える。

真選組の代わりに広がる、新たな山に向き直った。




なぜかこの話だけ数倍閲覧数が多くて怯えています。
下ネタ過ぎて引かれているんでしょうか。
アカバンにならないかなど、色々と怒られないか不安ですが、ご不快になられた方がいれば申し訳ございません……。
ここまで読んでくれた方&これからも読んでくれる方、本当にありがとうございます。励みになります。
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