おじさんと初雪   作:アサルトゲーマー

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おじさんと初雪

 私は目を覚ました。

 次に目覚めることなど無いと思っていたのでこれには驚愕した。

 私は清潔なベッドとシーツの上で寝転がっている。そう、これはまるで病室だ。というよりは、病室そのものだ。

 

 やった!私は帰ってこれた!

 

 年甲斐もなく大声で叫んでしまった。間を置かずに看護師と医師がやってきて、私の家族に連絡を取ってくれた。家族といっても娘しかいないのだが。

 

 

 娘は1分もしない内に病室までやってきた。そしてそのまま泣き付かれてしまった。

 娘の話を聞くに私の乗っていた船の乗員は生存者ゼロで、私も当然死亡扱いされていたようだ。船を襲ったのは深海棲艦と名のついた謎のオカルトめいた存在だったという。

 娘は私の命を奪った(と思われた)深海棲艦憎さに、新設された『深海棲艦対策本部』に整備士として志願したそうなのだ。動機はともかく、手に職を付けてくれて私は嬉しく思う。

 そこの上司も話が分かる人で、特別に休暇をくれたそうだ。

 そういえばハツユキという少女を知らないかと聞いてみたら、知らないと言われた。

 代わりに怪我が良くなったら呉市のとある場所に行ってほしいと言われた。言われて初めて気が付いたが、ここは広島だったようだ。自分の墓参りはまた今度になるな。

 

 ちなみに私の怪我は脳震盪と切り傷だけだった。

 昔から体の頑丈さだけには自信はあった。

 

 

 

 

□□□

 

 

 

 

 私は退院して直ぐに散髪に行った。というよりは娘に無理やり連れて行かれた。

 二年間も放置していたので髪はボサボサ髭もボーボー。そんなの見てられないと言われてバッサリやられた。娘の髪も随分長いので一緒に切らないかと提案したところ却下された。

 私の二年間溜めた髭は30分もしない内に綺麗になくなってしまった。顎がスースーして落ち着かない。

 

 

 せっかく街に出たのだから甘いものを食べに行った。

 どの店にするか悩んでいたところ、娘にこの店がいいと勧められた。店の名は『間宮』。ハツユキの言っていた『マミヤ』と読みが同じだった。

 メニューを見てみると納得した。羊羹やらラムネやらと渋いチョイスの物が並んでいる。私はハツユキが大好きだと言っていたアイスクリンとずっと飲みたかったラムネを頼むことにした。

 久しぶりに食べたアイスは涙を流す程美味しかった。

 ラムネは炭酸がきつくてむせてしまったが、まあこれもご愛嬌というものだ。だから娘よ、過剰に反応しないでくれ。私はピンピンしているから。

 

 

 帰り際、露店があったので娘と一緒に寄ってみた。その中で赤いリボンを物欲しそうにしていたので買ってやることにした。割と高かったが、娘が喜んでくれたので良しとしよう。

 

 次の日、娘は長い髪を赤いリボンで結んでいた。

 

 

 

 

□□□

 

 

 

 

 今日は娘に連れられてとある場所に赴いた。何でも『呉鎮守府』というらしい。なんとも歴史を感じる名前だ。

 物々しい警備を抜けて中に入ると少女たちが私をチラチラ見てきた。少女たちの格好はハツユキにとても似ている。

 まさかと思い娘に問いかけてみるも、お答えできませんの一点張り。

 ため息を吐いて再び前を見ると、噂のハツユキが居た。

 

 「おじさん…!」

 

 彼女は私を見つけるなり抱きついてきた。周りの少女達がはやし立てる。

 恥ずかしくなって視線を逸らした先に、パリッとした制服に身を包んだ老人が居た。彼は初めましてと言うなり、帽子を外して深々と頭を下げる。

 

「この度は初雪が大変お世話になりました。初雪が無事に帰ってこれたのは貴方のお蔭だと聞き及んであります。本当にありがとうございます」

 

 いきなり感謝された私はポカンとしながらも、彼がハツユキの保護者であるのだろうと想像がついた。それならこの対応も納得である。

 こんな偉そうな格好した人が客人を玄関近くまで迎えに行くこと自体稀な事だろう。そう考えていると老人は「難しい話もあるので続きは中で」と勧めてきた。私は二つ返事で頷き、その老人について行った。

 ちなみにハツユキはその間ずっと離れなかった。

 

 

 さて、難しい話は本当に難しかった。ハツユキは艦娘といい、人であって人でない存在だという。それだけでも頭がこんがらがるのに艦娘自体の存在は秘匿されているため、私の扱いは『機密を知った一般人』になるそうな。

 そこで私は二つの道を老人から持ちかけられた。

 一つは監視付きの一般人として暮らすこと。もう一つは『ギソウ』を碌な道具も無いような状況で直した手腕を生かして整備士としてここで働くこと。

 一般人として暮らすとなれば、当然ハツユキと顔を合わせることは無くなるだろう。それに娘とも疎遠になる。

 私の答えはもはや決まっているようなものだった。

 

 

 

 

□□□

 

 

 

 

 私は今、老人…いや、提督の提案を受けて呉鎮守府の工廠で働いている。娘は私の居なくなっていた時間を取り戻すように甲斐甲斐しく世話をしてくるし、艦娘たちとも仲良くなった。初雪があまり甘えてくれなくなったのが少し悲しいが。

 

「おじさーん!ライトもうちょっと下ー!」

 

 今は新しい艦娘がここにやってくるとのことで、ナカと一緒にサプライズの準備をしていた。彼女は変人ではあるが、悪い子ではない。むしろ良い子だ。

 彼女が言うようにスポットライトの光を下げると、満足そうな顔をした。

 

「オッケーだよー!ありがとー!」

 

 ナカが手をブンブン振る。私もつられて手を振りかえす。

 

「なに、してるの?」

 

 はたと、だれかに問いかけられた。振り返るとそこには初雪が居た。

 彼女に新しく入ってくる『マルユ』へのサプライズだよと答えたら、気のない返事を返してきた。興味は無かったようで、さっさとどこかに行ってしまう。

 

「あ…おじさん」

 

 思い出したように初雪の足が止まった。その双眸は私をじっと見つめている。

 何を言い出すのかと待っていると、初雪が私の前まで寄ってきて、頭を差し出した。

 

「…ん」

 

 なるほど、これは撫でろと言う事か。私は彼女の頭に手を載せて、優しく撫でてやる。

 今日は憎まれ口も出ない。

 しばらく撫でてやると満足したのか、初雪が珍しくお昼ご飯に誘ってきた。

 今日は珍しい事が続くものだ。

 ナカが妹を見守るような視線を初雪に向ける中、私達は工廠を後にした。

 

 

 

 ここは呉鎮守府。素直な子やそうでない子も沢山いるけれど、私を受け入れてくれる素晴らしい場所だ。

 私はおそらく死ぬまでここで働くのだろう。まあ、簡単にくたばる気は無いけれど。




読了ありがとうございます。


おじさん→初春の言う『腕のいい職人』

おじさんの娘→アイテム娘

無人島→緑マップ(弾薬)


もし読み返す場合はこれを頭に入れて読んでみてくださいね。

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