初回にしていきなりハクの料理回だけど、他の話は多分飲み屋に行ったり、ルルティエ辺りが料理してくれると思います。
ウズールッシャの遺跡から帰ってしばらくの頃のことだった。あの遺跡で見たことはすべて兄貴に洗いざらい話した後だというのに、今日もまた真夜中に起こされては呼び出された。話自体はさほど重要なものではなく、兄貴がまだ兄貴だとわからないうちに話したこととさほど変わりがない、ただ寂しかったんじゃないのか? なんて気もするような程度のものだ。
「しっかし、こんな時間に起こされては腹も減ったし、二度寝の前にちょっくら飯でも作るかねぇ」
旅館というのに頻繁に台所を借りるものだから、いくつか私物の包丁や食材を置かせてもらっている。ちょうど兄貴からお土産だとか言って塩漬け肉をもらったのだから、それを軽く調理して、食べてみるか。
「さて、こりゃどうやって調理したものか……」
瓶に詰められたフレーク状の肉はそのまま食べるには少し塩辛すぎる。酒と一緒ならさほど気にならないかもしれないが、ただ瓶からほじって食べるというのも芸がない。そこらに置いてある野菜と混ぜ合わせるか、軽く火を通して油と一緒に塩を流すか、そんなことを考えつついると目線の端にモロロが入ってきた。
「モロロか……悪くないな。あとは、っと」
アマムに包むような香味野菜をいくつかと、後はモロロをいくつか取ってくる。軽く水洗いして、モロロは皮を剥き、玉ねぎのような形をしたものは一口サイズにくし切りにしてみた。葉っぱものは適当なサイズに刻む。そういえばいつも食べているくせに、名前を聞いたことがなかったな……なんてことを考えつつ、慣れた手付きで食材を切っていった。
「あの……ハクさま? どうされたんですか」
「あぁ、ルルティエか。ちょっと小腹が減ってな」
最低限の発光石だけつけて作業をしていたつもりだったが、ちょうど通りかかったルルティエが台所に顔を出す。この時間帯になにかしている物好きなんて普通はいないだろうからか、顔を出した瞬間はわずかに怯えているような表情をしていた。俺の姿を認めたところですぐに安堵の表情になったが、少し驚かせてしまったか。
「その瓶……初めて見ました。どこで手に入れたんですか」
「これは……この前仕事で寄ったお店の試作品だって言ってたな。ペルコの肉を塩漬けにして、保存できないか試してみたとか」
帝直々に賜ったものだなんて言ったらどんな反応をされるか。というか、兄貴も土産とか言ってそんな珍しいものをポイポイ渡すなよ。説明を聞いたルルティエは瓶の中身に興味津々な様子で、わずかに耳がピクピクと動いている。
「よかったら味見してみるか? 今から軽く料理するつもりだったが、そのままでも結構行けるからな」
「それでは、一口だけ」
小皿に少し取り分け、ルルティエに差し出す。普通の塩漬け肉といえば塊のままだったり、あるいは香辛料を混ぜ込んでいたりするが、これは細かくして塩につけてあるというのが特殊なところだ。初めての味に、ルルティエの目がより一層輝き始めた。
「美味しいです! いつも使っている塩漬け肉よりも細かく刻んであるから柔らかくて、とっても食べやすいです」
「そうだろ、でもちょっと塩っ気が強いから、そのまま食べるだけじゃなくひと手間加える事にしてみた」
先に切っておいた食材と肉を平鍋に出し、軽く香辛料を振りかける。焦げない程度に強くした火でそれらを一気に炒めていくと、程なくして香ばしい香りと、濃い肉の香りが部屋に漂い始めた。油を表面にまとってつやつやしたモロロがいつにも増して美味そうだ。
「よし、このぐらいで良いな」
軽く箸でモロロを押し潰そうとすると、水気が飛びきっていないからかグチャリとつぶれた。これ以上炒めるとパサパサして美味しくない。丁度いいところで火を止め、皿に盛り付ける。別に俺しか食べないのだから、見た目を気にすることなくドサッと移し替えてみたが、細かくなった肉や野菜から湯気が立ち上るさまは見ているだけで涎が止まらなくなってきた。
「ルルティエも食べるか?」
「はい、是非」
「それなら、たまにはこっちを飲んでみるか」
なけなしの小遣いで買っておいた少し高めの酒を棚から出す。今度ウコンたちがやって来たときに開けようかと思っていたものだが、せっかくの機会だ。今飲まなくていつ飲むか。それにこの油っこく塩気の強い料理には、このぐらい爽やかな酒がよく合う。
料理を自室に持ち帰り、お互いの杯に酒を満たし、乾杯する。ルルティエと二人で飲むことなんて滅多に無いものだから少し緊張しないでもないが、二人揃って今は目の前のモノに意識が向けられている。
「んむっ……んんっ、熱っ!」
たまらず杯に残った酒を一気に煽る。熱々のモロロに絡みついた肉汁が舌に満ちていたところに、流し込まれた冷酒が染みる。徐々に火傷の痛みが引いてきて、そして口の中にペルコの旨味が満ちてきた。さらにはシャキシャキとした食感も合わせて、たしかにこれは酒に合う。肉はあの瓶の半分ほどしか使っていないのに、それでもこの満足感はたまらない。
「ふぅ……ふぅ……、あむっ、美味しい、です」
俺の失態を見たあとに手をつけたルルティエは箸先でしっかりと冷まし、そして口に運ぶ。普段は干し肉や、塊の塩漬け肉ばかりだから柔らかな肉というのが珍しいのか、口の中で何度も咀嚼してみては興味深げな様子を見せている。そんな様子ながらも、箸を動かす手は全く止まることなく、二人揃って黙々と目の前の料理を食べていった。
「そういえば、ルルティエはあまり酒を飲まないよな」
「はい、わたしは飲むより、料理を作るほうが好きですから。それにクオンさまみたいに強くもないですし……」
あれを引き合いに出したらほとんどのヒトが弱い事になるな……なんてことを思いつつも、目の前の炒めものを食べる手は止まらない。対するルルティエも、普段とは打って変わって競うように食べている。そんなに気に入ったならもう少し作っておけばと少し後悔したが、今はそれより、俺も食いっぱぐれないよう少し急ぎ気味に箸を動かした。
「美味しかったです、今日作っているところを見てましたから、今度は私が作りましょうか?」
「そうだな、ルルティエが作ったほうがもっと美味しくなりそうだ」
徳利の中の酒が空っぽになる頃には、皿の上からも肉の欠片ひとつのこさず料理が消えていた。いたく気に入った様子だし、あの瓶ごとルルティエにあげても良さそうだ。それにまた兄貴に呼び出されたら、追加でいくつか貰って帰ってもいい。
「今度はもうちょっと貰ってくるから、その時はルルティエも付き合ってくれるか?」
「はい、喜んで!」
いつもの男共で騒ぎ飲む酒や、アトゥイやノスリに絡まれ飲む酒も楽しいが、こんなおしとやかなお姫さんと杯を傾けてみるのも悪くない。これから静かに料理を楽しみつつ酒を味わいたいときはルルティエに声をかけてみようか。
うたわれるものの世界、同じような加工肉だとソーセージぐらいは作ってそうな気はしますね。羊のような生き物は出てたし。
この世界に製鉄技術はあっても、アルミの精錬とかはできなさそうだから缶が実用化される未来はどれぐらい先になるのだろうか