ミドリは困惑していた。
此処は本当に船の上なのか。騎馬戦が出来てしまいそうなほど意味不明に広い甲板で、自分の前には、護衛と思われる黒く丸い兜と同じく黒の布鎧を着、ゴテゴテした棒を持った奇妙な戦士3人に囲まれた、白服の者とパリッとした黒服の者がいる。
甲板には彼ら以外には誰も居ないが、代わりにイラストでみた所属不明機とかなり似ている龍・・・いや、鉄龍が数機待機しており、胴にはあのマークが存在している。しかし、これほどの巨大船であれば船員の数は膨大であり、仮に彼等を斬れば、自分達は生きては帰れまい。
ただ敵対の意思は無いようなので、勇気を振り絞って口を開いた。
「私はクワ・トイネ公国海軍第二艦隊所属、軍艦ピーマ船長ミドリです。此処は我がクワ・トイネ公国の近海であり、このまま進むと我が国の領海に入ります。貴艦の国籍と、航行目的教えていただきたい」
「言語は同じなのですね・・・失礼。私は日乃本帝國外務省の半田と申します。貴国はクワ・トイネ公国という国名なのですね、我が国、日乃本帝國政府は、貴国と交流を持ちたいと考えています。状況によっては国交締結まで視野に入れております。貴国の外交担当官に御取次頂けると幸いなのですが・・・」
「貴君は一国の使者、と言う訳ですね?」
「はい、そうです。後ろの皆様が緊張なされている様ですが、敵対の意思はありませんのでご安心ください」
ミドリの部下たちが多少安心したのか、肩が若干下がる。
「分かりました。その旨、本国に報告いたします。一つ質問なのですが、先日我が国のマイハーク上空に現れた騎は、貴国の騎士でしょうか?」
「騎・・・機ですね?我が国の【海蛇】の事でしたら、左様でございます。その件については、我が國から改めて公式に謝罪の意をお伝えしたく存じます。」
* * * * *
「司令!軍艦ピーマから一報入りました!」
「読め!」
「『大型船の臨検を行った所、同船に敵対意思無し。なお、同船の派遣元・日乃本帝國の外務担当者が乗り込んでおり、我が國と国交締結を視野に入れた会談を希望している。船の大きさは目測約400m、幅90m程であり、帆又はオールの様な物は確認できない。』」
司令以下の幹部たちが絶句する。大型船と聴いていたがまるでちょっとした宮殿では無いか。
「先日の未確認機の件については、日乃本帝國の哨戒機が哨戒飛行中、我が國の領空に侵入したとのこと。如何案件についてですが・・・国ごとこの世界に飛ばされたと担当者は申し立てている』・・・です」
「国ごと転移だと!?そんな荒唐無稽な事を上に報告しないといけないのかっ!?」
ノウカ司令が叫んだ。冗談ならまだしも、ソレを本気で上層部に報告しないといけない。言葉が通じるらしいのは幸いだったが、これなら言葉が通じない相手の方がまだましであった。
「400mの船が動いている、というのも中々に荒唐無稽な話ではありますが、これらは彼等の目で確かめられた事実ですので・・・報告しない訳にはいかないと愚考致します。また続きに『日乃本帝國政府より我が国に正式に謝罪したいとの申し入れあり。まずは公国の外務担当への御取次ぎを要請している』とのことです」
「とんでもない事になったな・・・はっ、そうだ!今、未確認機について政治部会が開催されているはずだ。早急に報告を入れよう」
通信員は臨検の状況をクワ・トイネ公国・公都に魔力通信で送信した。
* * * * *
日乃本帝國 帝都【日之出】 皇居【天皇陛下の執務室】
皇都【日之出】の名所と言えば、海抜高度1002mの高さを誇る日乃本帝國最大の建造物にして最長の電波塔【日之出スカイ・メァーディス】。日乃本帝國の国花に指定され、国旗にも描かれている、春には様々な種類の桜が咲き乱れる【桜河】。そして、日乃本帝國の皇族が住まう【皇居】が代表的だろう。
そんな三大名所の一つである【皇居】の天皇陛下専用の、煌びやかさよりも品位を優先した厳かな雰囲気漂う執務室にて、その場に似合わない14~5歳程度の少女が、一つ数千万もの値が付きそうな、精緻な意匠の凝らされたテーブルに頬杖を付いていた。
晴香天皇陛下である。
先程、例の大陸に派遣した使節団艦隊より一報が入り、文明を誇る国家との接触に成功したとの報告が入った。ゲームでは使節団など送る必要もなかったので、この様なイベントは何とも新鮮である。ゲームではなく現実であるが。
―――こんこんっ
「入って良いよ~」
全く威厳も感じさせない間延びした返答に、補佐官は慣れたもので、気にせず入室する。
「失礼いたします。先程、使節団艦隊より報告がありました。異界の国家との接触により、同国家は【クワ・トイネ公国】との国名であr―――」
「ちょっと待って!」
「はい?」
いや、ちょっと待って。ほんとに待って。私の聞き間違い?なんかすごく聞き覚えのある国名に聞こえたのだけど。もしかして、空耳かしらん?
「・・・もう一度、国名を聞かせて?」
「はっ、【クワ・トイネ公国】であります!」
聴き間違いでは無かった・・・
「・・・そう。続きを聞かせて・・・」
「はい。クワ・トイネ公国は中世時代レベルの技術力の国家で、軍事関係は特に脅威にはならないでしょう。しかし【ワイバーン】と呼ばれる接近航空支援機に相当する龍、魔道通信なる無線技術、魔法と呼ばれる未知の力を有しており―――」
報告に来た補佐官の話す内容は、【日本国召喚】のクワ・トイネ公国の内容と全く同じであり、近隣諸国には【クイラ王国】と【ロウリア王国】が存在。その三国の存在する大陸を【ロデニウス大陸】など、完璧に一致。
クワ・トイネ公国が存命していると言う事は、クワ・トイネ公国とクイラ王国は現在、ロウリア王国との緊張状態の真っただ中。もし召喚時期が史実日本と同じなら、ロウリア王国がクワ・トイネ公国のギムという街に攻め込むのが4月12なので、進行開始まで後76日。約二か月ちょっとしかない。
「なるほど、解ったわ。引き続き報告をお願いね。それと、国防長官と法務大臣を呼んで頂戴」
「わかりました。」
数十分後、この部屋に日乃本帝國の国防を担う組織のトップである三河国防長官がやって来た。天皇である私に対しても結構フランクで軽い感じの人間だが、とても有能であるため、一部の頭の固い議員が左遷したくても出来ないトップ3に入る人物として認定している、とても名誉ある?人物である。
無論、私は左遷したいなどと一ミリも思って居ない。使える人材を態々島流しなど、阿保のする事だ。
「失礼しますよ、陛下。本日はどの様な御用件で?」
「これから戦争になるかもしれないから、第3艦隊(空母打撃群+遠征打撃群で編成された艦隊。アメリカ軍の横須賀を母港にした第七艦隊の様なモノ)が何時でも出撃できるように準備を進めてちょうだい。」
「・・・これまた急ですね。何処とおっ始めるつもりで?」
「ロデニウス大陸の覇権主義国家【ロウリア王国】よ」
三河国防長官が退出すると、入れ替わる様にして美理法務大臣が入出する。苗字が女性っぽいが列記とした男性であり、この帝國政府で最年長を誇る大臣閣僚であり、そろそろ後継者が如何と騒がれ始めているが、本人は死ぬまで此処に居ると言っている。隠居しても良いと晴香は思って居るが、本人のたって意思の事なので、強くは言えない。
「失礼いたしまする。如何なさいました、陛下」
「急いで新しい法律を作るわ。草案を直ぐに作るから調整に入って。出来るだけ早くお願い」
「承知いたしました。」
数時間後に晴香は【新世界技術流失防止法】や【技術輸出及び移転制限法】その他数個の法律案を提出。美理法務大臣を筆頭に精緻され、議会に提出。日本の様に思わず眠ってしまう議員が出現するような、のろっのろでは無い帝政なので、数時間かからず公布され、2日後に施行される運びとなった。
* * * * *
クワ・トイネ公国 政治部会 会場【蓮の庭園】
国の代表が集まるこの会議で、首相のカナタは悩んでいた。昨日の事、クワトイネ公国の防衛や軍務を司る軍務郷から、古龍と思われる正体不明の物体がマイハークに空から進入し、市街地上空を旋回して去っていったとの報告が上がる。
空の王者であるワイバーンが全く追いつけないほどの高速、高空を侵攻してきたという。
驚異的な高速飛行、急上昇能力。迎撃に当たった飛竜隊は古代龍か神龍かもしれないと焦りながら報告してきたが、描かれたイラストを見るに、これは飛竜では無く飛行機械のようなモノだと判断できる。
そして、侵入してきた不明騎だが、国籍は全く不明。機体には赤丸に花が書いてあったとの事であったが、赤丸に花の国旗を持つ国など、この世界には存在しない。
カナタは発言する。
「皆のもの、この報告についてどう感じ、解釈する?」
情報分析部が手を挙げ、発言する。
「領空侵犯した物体が第2文明圏の大国【ムー】が開発している飛行機械に似ていると考えます・・・しかし、ムーにおいて開発されている飛行機械は、最新の物でも最高速力が時速350km程であり、今回の飛行物体は明らかに倍を超えています。ただ・・・。」
「ただ?」
「はい、ムーの遙か西、文明圏から外れた西の果てに第八帝国と名乗る新興国家が出現し、第2文明圏の大陸国家群連合に対して宣戦を布告した。と、昨日諜報部に情報が入っています。彼らの武器については、全く不明です。」
文明圏から外れた新興国家が、3大文明圏5列強国のうち2列強国が存在する第2文明圏のすべてを敵に回して宣戦布告したという事実。その新興国家とは、さぞお強い軍事力を保有しているのだろう・・・と、失笑が漏れる。
無謀にも程があるからだ。
「しかし、第八帝国はムーから遙か西にあるとの事。ムーまでの距離でさえ我が国から2万km以上離れています。今回の飛行機械がそれであることは考えにくいのです・・・」
会議は振り出しに戻る、結局解らないのだ。
ロウリア王国との緊張状態が続く準有事体制のこの状態であるのに、頭の痛いこの情報は首脳部を大いに悩ませた。味方なら接触してくれば良いだけの話なのだ。なのに、態々領空侵犯といった敵対行為を行ったという事は、その行動自体が敵である可能性が高い。もしくは、そうせざるを得なかった場合も考えられるが、可能性は低いだろう。
会議は踊ろうとしていた―――その時。
政治部会に外交部の若手幹部が、息を切らして入り込んでくる。通常は考えられない明らかに緊急時であった。
「何事かっ!?」
外務郷が声を張り上げる。
「報告しますッ!!」
若手幹部が報告を始める。内容は以下の通りである。
本日朝、クワ・トイネ公国の北側海上に長さ400mクラスの超巨大船が現れた。海軍により臨検を行ったところ【日乃本帝國】という国の特使がおり、敵対の意思は無い旨伝えてきた。捜査を行ったところ、下記の事項が判明した。なお、発言は本人の申し立てである。
・【日乃本帝國】という国は、突如としてこの世界に転移してきた。
・元の世界との連絡全てが途絶したため、哨戒機により付近の哨戒を行っていた。その際、陸地があることを発見した。哨戒活動の一環として、貴国に進入しており、その際領空を侵犯したことについては、深く謝罪する。
・クワトイネ公国と国交樹立も視野に入れた会談を行いたい。
この突拍子もない話に、政治部会の誰もが信じられない思いでいた。
だが、昨日都市上空にあっさり進入されたのは事実である。400mという考えられないほどの大きさの船も報告に上がってきている。国ごと転移などは、神話には登場することはあるが現実にはありえないと思っている・・・しかし、ワイバーンどころか列強の【ムー】を超える高高度及び超高速での飛行を可能とする飛行機械を保有し、400mを超える船など作る超技術力を有している。なら、その日乃本帝國という国の力は本物だろうと判断したカナタ首相は、まずは特使と会うこととした。