クワ・トイネ公国 公都クワ・トイネ 首相官邸
首相カナタは、これから顔合わせをする異国の者達が待つ応接室を前に緊張して居た。
普通ならば外務局の者達が先んじて交渉や会談の打ち合わせをし、外務卿が国交締結を取り仕切り、クワ・トイネ公国の政務元首たる首相が、相手国の元首と条約宣言を行うのがこの国の順序だ。
しかし、現在はロウリア王国との緊張状態が続いており、準有事体制の状況下において、力のある国家とは少しでも友好を保ちたいと言うのが本音である。また、日乃本帝國なる国家が覇権主義国だった場合は、理不尽な要求を回避しなければならない。ましてや不平等条約を押し切られてはたまったものではない。
首相が担当者如きに緊張するなど情けない話だが、ワイバーンを優に超える超高速の哨戒機、400mを超える超大型船はいずれも超技術を示している。日乃本帝國の力は本物。相手が担当者であってもカナタは緊張せずにはいられなかった。
(・・・では、入るか)
応接室には一足先に日乃本帝國の使者―――外務官を通している。
一度深呼吸したカナタドアを開けて中に入ると、彼等は一斉に立って一礼した。
「初めまして、日乃本帝國外務省の半田と申します。本日は急な訪問にも関わらず、国の代表が対応してくださると聞き及んでいます。栄光の至りです、どうかよろしくお願いいたします。」
日乃本帝國側は、今挨拶した半田を代表として、横に二名を随伴している。
「ええ、よろしくお願いします」
クワ・トイネ公国側は首相カナタを中心に、外務卿リンスイ、外務局員5名でこの会談に応じる。
「司会進行を務めます、クワ・トイネ公国外務卿のリンスイと申します・・・早速ですが日乃本帝國の皆様、今回は貴国の訪問目的をお伺いたい」
リンスイは挨拶もそこそこに、本題を切り出した。
「はい、まずは資料を配布いたします・・・のですが、クワ・トイネ公国と我が国の文字が違うことが判明していますので、口頭での説明いたします。私達は、日乃本帝國という国から参りました。この国から東方向約1000km付近に位置し、869万4000km²の国土と2憶1500万人の人口を有する海洋国家です。」
リンスイは半田が説明した国土面積並び人口に面食らう。一国としては十分―――否。持て余す程に広大だが、その海域には群島がある程度で、その様な島・・・大陸が発見されたとは聞いた事が無い。
まさか、本当に転移国家とでもいうつもりか?
「・・・お待ちを。あの位置には国など無かったはずです。確かに群島はありましたが・・・」
「大変申し訳ないのですが、我々はアース(便宜上の理由により地球ではなくアースと呼ぶ)と呼ばれる世界から、何らかの形でこの世界に転移してきたと考えています。原因は今だ判明しておりません。」
半田のの言葉に、リンスイはここぞとばかりに噛み付いた。
「確かに、政治部会でもそのような報告は受けました。が、国ごと転移など・・・あなた方は御伽噺を元にしたホラ話吹聴しているのですか?」
「国ごと転移などと言う超常現象を信じられないのは当然です。我々もアースに居た頃に『1000km先に転移してきました』などと言う者達が現れたら相手にもしなかったでしょう。まずはお互いの国をよく知る為に、貴国から我が国に使節団を派遣していただけないでしょうか?直接見て来た方からの報告の方が貴国も信じることができるでしょう。」
「しかし・・・」
「良いかと思います」
「なっ!?」
リンスイが回答に悩んでいた所、静観していたカナタが割って入って来た。
「方々の話しぶりは堅実で、節度を弁えておられる。なにより、強力な騎に船を有しながら脅すようなことをしない・・・」
一度区切る。
「日乃本帝國の方々よ、国交を開始するにあたり我が国に何を求める。よもや観光にきたわけではあるまい?」
カナタが鋭い眼光で半田を見つめる。
半田は怯まず、落ち着いた口調で返答する。
「我々はこの世界について全く知らない(晴香一人の記憶では曖昧なので)ので、第一にこの世界の情報。そして食料や資源です」
* * * * *
クワ・トイネ公国 外務局
各国外務官や自国の大使館との外務を執り行うこの場所は、現在日乃本帝國と国交を開く為の事前準備に追われていた。使節団に送る人員の確保や特命大使の権限の調整、etc・・・書類と魔信通話が飛び交っている。
「ヤゴウ!日乃本帝國とかいう新興国家に行くらしいじゃないか!羨ましいなぁ・・・」
ヤゴウと呼ばれた男に、同僚の一人が話しかける。今回の使節団が派遣される対象の国は、色々注目を浴びているのだ。
派遣される構成員に配布された事前資料にヤゴウが目を通すと、信じられない事が記載されてあった。ワイバーンが飛行不可能な高高度空域を高速で飛行する鉄龍や、全長400mほどの巨大船を製造、運用する超技術力。
【正体不明国と侮る事無く、くれぐれも失礼のないように】
と、念押しが入る程、本件は慎重を要しているらしい。
「信じられないな・・・」
ワイバーンは高価な兵器だ。竜騎士はエリート中のエリート。兵ならだれでも一度は憧れる空の覇者である。時速230kmで飛翔し、矢の届かない航空から放たれる、人間とは隔絶したワイバーン自身の魔力による導力火炎弾は人間の作り出した兵器を凌駕する威力を有している。
ワイバーンよりも強力な生物と言えば、三大文明圏で少数ながら生産に成功したワイバーンロードくらいしか思い浮かばず、人間に制御できない存在であれば、属性龍たちや古龍種、神龍といった、ワイバーンなど比べ物にもならない存在がいる。あれは制御しようと考えるモノではなく、天災だ。
そんな天災に匹敵する様な【物】を、しかも異常に大きくした図体で飛ばすなんて。第二文明圏のムーですら不可能だろう。
信じられない報告の数々に、ヤゴウは日乃本帝國に興味がわいてきた。
(今回の使節団派遣・・・私はクワ・トイネ公国の歴史に刻まれるかもしれないな・・・)
「これより会議を始める。集まれ」
ヤゴウの思考は、不意の号令により中断された。
* * * * *
小さな会議室で、使節団の団長が説明を始める。
今回派遣される使節団員はヤゴウを含めて5人。すべて外務局員の肩書を持つ物だが、軍務局の将軍ハンキだけは外務局への出向と言う形で使節団員に入っている。
「今回、我々の一番の目的は、日乃本帝國が我が国の脅威になるかを判断する事にある。知っての通り、我が國の防空網は日乃本帝國の鉄竜―――しかも、高々哨戒機によってあっさり突破された・・・しかし。今の所、我が國に鉄龍を防ぐ手立てはない。我が國と国交を結びたいという意思を示しているが、彼等が覇権主義国である事を隠していないか、もしくはロウリアの様に極端な亜人に対する差別意識を持っていないか、何のために我が国と国交を結ぼうとしているのか、その真意を調査する必要がある。」
皆が頷く。
「日乃本帝国がどの程度の発展具合なのか不明だが、高い技術力と相当な軍事力を保有している事は間違いない。理解していると思うが、毅然とした態度で接するだけでなく、相手を刺激しないように言動には配意すること。後一点。日乃本は何が強くて何が弱いのかを調べ、我々が彼等に対して優位に立てる部分を探してきてもらいたい。それでは、皆に配布した要網を見て欲しい。」
「『国ごと転移』?」
「彼等の言い分に寄れば、ある日突然この世界に国土ごと、この世界に転移してきたようだ。真意は定かでは無いが、先程も述べた様に、今回は相手を刺激しない為にも疑いの態度は慎むように。」
* * * * *
翌朝
雲は高く、綺麗な青空が何処までも続く涼し気な今日、使節団はマイハーク港に集まっていた。集合場所である外務局所有の事務所前で、パリっとした服を着た男性が話し始める。
「御集りの皆様、本日は日乃本へ使節団として来訪いただけるとのこと、喜びの極みです。私は皆さまの今回の視察を少しでも快適にお過ごしいただく為に派遣された、日乃本帝國外務省の半田です。不便な点があれば遠慮なくお申し付けください」
半田の清々しい笑顔に、使節団の面々は毒気を抜かれる。
「此度は皆さまの日乃本帝國入国にあたり、
「失礼。ヒコウキャクセンとは?」
てっきり船旅だと思って居た、使節団に混ぎれて向かう予定の将軍ハンキは、聴いた事も無い乗り物と思われるモノを、空飛ぶ客船では無いだろと思いながら半田に質問する。他の面々も訝し気に半田を見た。
「はい。飛行客船と言うのは・・・あぁ、彼方に御座います。あの船に御座います!」
「「「「「・・・・・・」」」」」
半田が指さしたのは空。使節団員は釣られて空を見上げると、其処には青と白のコントラストの人工物が、蒼穹の大空に紛れる様にして浮遊していた。凡そ空を飛ぶとは思えないほどの巨躯であり、ひな鳥の翼の様な小さい羽が数枚。一体どういう原理で浮いているのかさっぱり分からない。
まさか本当に空を飛ぶ客船であるとは思わなかったハンキらが、ぽかんっと口を開けて呆けてしまう。
「彼方が今回、使節団の皆様を本国へとご案内する為に用意された、政府所有の飛行客船【すかいらいん号】です」
【すかいらいん号】
全長200m
全幅60m
全高30m
最高高度4万フィート(約12000m)
最高速度180km
飛行客船と言うなの、最新技術の粋を集めた飛行船(と言う設定)