【すかいらいん号】は徐々に高度を落とすと、マイハーク港沖約300mの所に着水した。水陸どちらも離着陸できる機体であり、水上の場合殆ど浮いている様なモノなので、水深3m以上であればどこにでも離着水が可能。湾岸接続用に専用タラップも搭載してある為、乗員の登退場も楽である。
補助推進器の低周波音を響かせながら、すかいらいん号はマイハーク港に接岸。遠隔操作型なので、無人でタラップが展開され、埠頭に架け橋を繋いだ。
使節団員は、公国の保有する帆船が豆粒に見えてしまう程の巨体を誇る、この【すかいらいん号】に呆けるしかない。
「で、デカい・・・」
「それでは乗船していただきます。どうぞ、此方に」
半田に先導され、クワ・トイネ公国の民たちの騒がしい喧噪を耳にしながら使節団員は乗船をはたす。
タラップが収納されると、再び沖合に向かい、途中で垂直離水。徐々に高度を上げて行くと、日乃本帝國の本土が存在する方向に舵を切った。
* * * * *
飛行客船の船内へ足を踏み入れると、使節団員が驚きの余り絶句した。明るい。光の精霊でも飼っているのだろうか。
「こ、この飛行客船?は・・・鉄でできている!・・・一体どうやって空に浮いているんだ?しかも、中は明るいし清潔。まるで王宮の様では無いか・・・」
各々に割り当てられた部屋へと案内され、一同は寛ぎのひと時を過ごす。
* * * * *
その時のヤゴウの日記より
何と言う事だろうか。私は驚きを隠せない。
この様な大きな空飛ぶ船は見た事も聴いた事も、文献で読んだ事も無い。しかも中は快適で明るく、信じられない事に温度が一定に保たれている。200m程と巨大飛行物体にも拘わらず、空をワイバーン並みの速度で進んでいく。
1000kmをたった6時間程度で移動すると言うのは、本当のことなのだろう。
こんな物を作り出してしまう日乃本帝國とは、一体どのような国であろうか。
外務局員の中には「新興国家の蛮族に違いない」と言う者がいたが、今の所―――言いたくはないし、認めたくも無いが―――彼等から見た我々の方が、蛮族に映っているのではないだろうか。もしかしたら、日乃本帝國は文明圏の列強国に匹敵する力を持っているかもしれない。
・・・しかし、この飛行客船のロビーから見た外の景色は絶景であった。半田殿の説明によれば、今飛行している高度は約12000mで有り、ワイバーンの最大高度4000mを軽く超え、更に3倍にした高さを飛んでいる。
何と言う超技術・・・と驚きたかったが、上空12000m空の景色に見惚れてしまい、驚く事が出来なかった。
【あくりる】と呼ばれるガラスの様な物を挟んで、空から見下ろした我々の世界。それは、こんなにも青く美しい物なのだと、同僚の中には涙を流す者までいた。
それと、世界は丸い。地上から地平線を見れば平らに見えるが、この高さから見渡せば、世界は丸いのだと気付いた。これも半田殿に聞けば【水平線】と言うらしい。月は丸いが、この世界も同様に丸いそうだ。では反対側では人やモノが闇世界(半田殿は宇宙といった)に堕ちないのかと聞くと、この世界は星であり、その星が回転する事で星のエネルギー(重力というらしい)を発生させ、その影響下にある地上は、星に押さえつけられているのだとか。
その道の専門家では無いので、詳しく理解できないのが残念だ。
―――パタっ
記入した日記を閉じると、ヤゴウは窓から外を見る。相変わらずの蒼穹だ。
「ふふっ・・・わくわくが止まらない・・・まるで童心に帰ったみたいだ!」
* * * * *
「海では無く空を駆ける巨大船・・・」
大型の特殊硬質アクリル透明板が設置されたロビーでは、ハンキ将軍が信じられないほど柔らかく快適なソファーでくつろぎながら、カクテル片手に景色を眺めていた。青い空が途中で黒く染まり、その先は真っ暗で遠くが分からない闇世界との境界がくっきりと見渡せる。
我々は使節団として日乃本帝國に向かっているはずだが、これでは観光ではないか、と疑いたくなる。そんな心持で国交締結に向けた視察を行うのはイケないと理解している・・・が。
ずちー・・・カランっ
「良いものだな・・・」
カクテルの後味、甘い余韻を感じながら、そう呟かずにはいられなかった。
* * * * *
巡航速度180kmで日乃本帝國に向かった【すかいらいん号】は、約5時間半のフライトの果てに本土上空へと差し掛かった。
「皆様、福岡市が見えてまいりました。福岡市は九州地方、中国四国地方の中で最大の都市です。正面に見えているのが博多国際ターミナルで、博多国際ターミナルからはリムジンバス―――大型の自動車でホテル新日航まで移動していただき、日乃本帝國についての基礎知識を学んでいただきます。」
余談だが日乃本帝國は史実日本を舞台に制作された国である為、本土は47都道府県で構成され、海外領土も合わせると53都道府県になる。そして都道府県別面積であるが、本土の大きさが日本の約23倍なので、その分必然的に県面積は上昇している。
更には、国の成り立ちや歴史については捏造するしかない!と判断した晴香陛下がやっぱり史実引用で日乃本帝國の資料を作らせ、それを今回使節団が回る博物館等に与え、説明してもらう事となっている。日本の歴史的な建造物等は現実を元に再現して各地に設置してあるので、唯の飾りとしてしか機能して無かったオブジェクトがこの様な形で役に立つとはと安堵の溜息を吐いたとか。
後は、この国の成り立ち等の歴史を国民全てに叩き込む事だろう。これは晴香だけが使える一部制限されたゲームシステムにより可能であった。所謂【全国民洗脳】である。
閑話休題。
ヤゴウ達は興奮のあまりロビーを立ち、進路の先を眺めた。そこにやってきた半田が、これからの予定について改めて説明したのだった。
高度を徐々に下げた【すかいらいん号】により、目下の都市の輪郭がはっきりと見えて来る。正面には半田の説明で判明した博多港が、その横には白や灰、赤、ベージュといった建築物が立ち並ぶ姿が確認できた。その上を通過すると、なんと水上を渡す巨大な橋や、二層三層にも重なる回廊まで見えて来る。
その様子をアクリル板に張り付きなが眺めていたヤゴウは、博多港の次に見えて来た、広大な敷地面積を有する巨大施設に目をやった。
何本もの長大な滑走路と異様に大きな倉庫が立ち並び、数十mもの高さを誇る変な塔の下には、この【すかいらいん号】よりは小さいがそれでも圧倒的な大きさを誇る鉄龍が数十機も係留されているのが目に入る。
「あんな巨体が空を飛ぶのか・・・」
丁度滑走路から飛び立った大型の機体を横目に眺めた使節団員たちだった。
『これより政府専用ターミナルに着陸いたします』
船内放送に慣れた様子の使節団たちは、一旦席に着く。軽く揺れる程度の振動が発生すると、再度アナウンスがあり、日乃本帝國へ入国する使節団たちに御もてなしの言葉が掛かった。
その後、下船し、半田の説明通りリムジンバスにのり、ホテル新日航へ移動する。
自動車と呼ばれる【内燃機関】によって動く車の事を聞かされていたが、まさかこんなに行き交う量が多いとは思わなかった。しかも国民一世帯あたり一台ほど所有しており、20代そこそこの日払い労働者であっても、格式の差はあれど車を購入できるという。
「「「「「何と言う豊かさ・・・」」」」」
思わず呆れる使節団員たちであった。
* * * * *
ホテルに到着すると、日乃本帝國の基礎知識を学ぶ勉強会が開かれる。
信号システム、自動販売機、自動改札システム、鉄道システム、全国自動流通制御システム、自律治安維持AIロボット。
半田の説明によるとどれも不思議なものに見えるが、科学と言う分野から生まれた物だそうだ。仕組みが理解出来れば誰しもが作れると言っている。
道路交通法という法を合わせて説明されて、なるほど、信号と言う物がないと、あれだけの量の車たちが好き勝手に動き、交通網が麻痺してしまうだろうと使節団員たちは納得した。全国自動流通制御システムとは、無人の巨大な馬車が荷物を各地に運ぶもの、と理解する。
いや、そもそも無人でどうやって制御するのか不明だ・・・と言うのを理解した。
「【自律治安維持AIロボット】と言うのは、そうですね・・・クワ・トイネ公国でいう憲兵の様なもので、人間では無くAI・・・人工の精霊が仮初の肉体を保持して、治安を維持するゴーレムの様なものです」
と言う説明と共に、プロジェクターと呼ばれる映像投影機より映し出されたのは、黒い鎧を纏った人間の様な姿をしたゴーレム。全長は170cmの大きさで、普段から街中を巡回しており、事件や事故などが発生すると、近場のロボットが現場に急行するという。人間よりも能力を高く作られている為、人質救出などの生身の人が行う突入部隊などには、まず始めにこのロボットが突入するのが常習化しているのも特徴だ。
なによりも人命が第一である。それと、この人造精霊は先程の全国自動流通制御システムとやらにも導入されているようだ。
とはいえ、
まさか精霊を人の手で作り出すとは、彼の超大国ミリシアル帝国ですら成し遂げたことが無い、と言うか精霊を作りだそうなどと考えた事も無いだろうか。と、驚きを通り越して呆れて来る。
その他にも、拾ったものをそのまま自分の物にすると、遺失物等横領罪という罪に問われる、などと言った犯罪にあたる常識まで学ぶ。
* * * * *
【自律治安維持AIロボット】
全長170cm
主兵装
通常時
・特殊硬質ポリカーボネートシールド
・特殊警棒
・マガジンカートリッジ式テイザーガン
有事
・特殊硬質ポリカーボネートシールド
・特殊警棒
・9mm短機関銃
・7.62mm狙撃銃
・その他、各種装備
因みに軍用、医療用、介護用など様々なタイプが存在します(という設定)