その日のハンキの日記より
街にあふれる巨大な建築物、そして巨大な空中回廊(高速道路と言ったか)、筒如何と呼ばれる大規模流通システム。凄まじいまでの建造物群を作る日乃本帝國と言う国が、私は恐ろしい。
しかもここは、日乃本の首都では無く、一地方都市にすぎぬと言う。驚愕よりも上の言葉が欲しい位である。
【えふ3】と呼ばれた戦闘用の鉄龍は、音の速さの2.9倍で飛行し、上昇力も途轍もない。それだけの超高速の性能を持ちながら、戦闘行動半径も2000kmを超えるという化け物だ。彼等から見れば、ワイバーンなんて止まった的だろう。案内役の半田殿に聞いて見た所、あの鉄龍は海上や陸上の対地攻撃支援も可能だそうだ。
マイハークに侵入した鉄龍は脅威であったが、彼等の真の実力はあんなものではない。
戦闘用鉄龍であれば、マイハークに侵入した鉄龍は余裕で街を壊滅せしめる。つまり、彼等のマイハーク侵入は本当に哨戒活動に過ぎなかったと推測できる。
鉄龍だけではない。陸上戦力も驚異的であった。火砲と呼ばれる化学の力で発動する魔道砲を装備した、鉄の地龍が10km先の標的を動きながら攻撃して命中させるのだ。あれの射程は最大70kmであり、補助があればほぼ100%の命中率を誇る。現在は更なる超射程弾の開発をしている様であり、どれ程の射程距離かは詳細を教えてもらえなかったが100kmは超えるのではないだろうか。
回転翼機といったトンボの様な飛行機械が存在した。アレはワイバーンでは体力の損耗が激しすぎるホバリングが出来たり、連射できる魔道砲を撃ち出したり、その攻撃に耐えられる重装甲を誇る。更に誘導魔光弾を発射できる様だ。
そう。日乃本帝國は彼の魔帝の様に【誘導魔光弾】を実用化していた!
残念ながら艦砲の射撃は見られなかったが、陸上で激しく動きながらほぼ100%命中させる技術を艦砲に取り入れて居たら、小型の陸上機械であのような驚異的性能を誇るのならば、何倍も面積の大きい船には余裕で搭載できよう。もしかしたら、その大きさに比例して更なる超性能が詰め込まれている可能性がある。
この艦船にも誘導魔光弾が搭載されており、聴くところによれば【駆逐艦】と呼ばれる艦種を含めたそれ以上の大型艦は大体100発近くの誘導魔光弾を搭載しているらしい。
日乃本帝國とは、友好関係を絶対に築かなければならない。彼等を敵に回すなど、文明圏の列強国を敵に回すよりも恐ろしい。彼等とは、間違っても敵対してはならない
* * * * *
ホテル新日航 スイートルーム
「なぁヤゴウ殿。日乃本帝國をどう思う?」
「そうですね・・・一言で表すなら【豊か】ですね、呆れる程の・・・」
ホテルの中は、あの飛行客船の様に温度が一定に保たれており、これほどの規模の建築物全体を温めるのに、一体どれ程の燃料が必要なのか想像もつかない。それに我々が宿泊する部屋だけでなく廊下や玄関などもだ。捻るだけでお湯が出る機械がある。スイッチ一つで照明を操作できる。トイレも臭くない。
ヤゴウはこれまでに体感した居住設備だけで、驚くという感覚自体が麻痺を起こしそうになっていた。
しかし総火演で後頭部を殴られる様な衝撃を受けた後も、ホテルに戻って夜を迎えてから更に未知の世界を体感する事になった。
外に出れば無人販売機械が存在し、冷えた飲み物や、場所によっては酒も提供される。夜間開いている店舗では調理済みの料理や衣類が提供され、その品質も高い。大きな店の食品売り場では、常に新鮮な食材が並んでいる。夜間の大通りも非常に明るく、カンテラ無しでも問題が無い。
そして、治安が途轍もなく良い。話に聞いていた【自律治安維持AIロボット】も拝見した。とても機械の様な動きでは無く、人間の様に自然な歩行に驚き、更に人工精霊とまさかの会話が出来るという驚愕。しかも活舌が良く、本物の人間と話している様であった。このようなロボットが数百体もこの街に存在しているらしい。
不眠不休で動作し続ける治安維持ロボットが存在するならば、この様な治安の良さも納得だろう。
「・・・我が国と比べて、全ての生活水準の次元が違う。悔しいが、国力の違いを感じます。」
一旦区切り、かぶりを振るうヤゴウ。その目には畏怖が浮かんでいる。
「総火演には驚かされました。圧倒的な力の差を見せつけられた思いです。日乃本を敵に回してはいけない」
「やはり同じ思いか・・・あの戦闘型鉄龍の前には、ワイバーンの空中戦術は無意味じゃろう。明日は首都に出発じゃな。日乃本は心臓に悪いよ」
「私も恐ろしいですが、一方でわくわくしてますよ。この様な国が突然近くに現れ、しかも自分達以外を見下しきっている文明圏よりも高度な文明を持っている。その最初の接触国が我が国とは・・・彼等に覇を唱える性質が無ければ、これは幸運です」
ヤゴウとハンキは深夜まで語り続けた・・・
* * * * *
翌日
新しい朝。雲は高く、空気は澄んでおり、遠くまでよく見える。
パリッとした服―――スーツと言うらしい―――の男が一人、ホテルのロビーで待機する使節団の前に現れた。
「皆さん、おはようございます。昨日は良く眠れましたか?」
半田が集まった使節団に話しかける。
「本日は朝食の後、午前10時から帝都【日之出】での事項について説明があり、11時30分にホテルを出発。12時に博多発日之出行きのリニア新幹線に乗車してもらいます。18時07分には日之出に付きますので、その後は・・・」
説明が続く中、ヤゴウが日乃本帝國に来て毎日実感するのが、時を刻む概念がはっきりしている事だ。腕時計という精密な機械が使節団員全員に配られており、一秒単位で正確に測れるとあって正に驚愕。そもそも、時計とは持ち運びできるサイズでは無く、腕時計など、その様な概念すらなかった。
それに、この配られた腕時計は【でんぱそーらーうぉっち】と言うらしく、これは光がある限り動き続け、誤差は日乃本に居る限り10万年に1秒しかないという。なんと形容すればいいのか。仕組みすら理解出来ない、摩訶不思議な魔法道具である。
代わりにと言っては何だが、ヤゴウは時間について一つ質問する事にした。
「半田殿。博多と日之出は3000km以上離れていると聞いて居ましたが・・・今日乗るリニア新幹線と呼ばれる乗り物は、地上を高速で走る乗り物と聴いています。」
「その通りでございます。なにか、懸念される事でもございましたか?」
「18時07分というのは何ですか?分までそんなに正確に計算できるものなのですか?」
「はい。災害や事故が無ければ時間通りに到着します。」
(どうやら、本当に我々の常識で日乃本帝國を測ろうとしてはイケないらしい・・・)
「わかりました。ありがとうございます」
その後、特に何も無く確認が終わり、使節団を案内する半田を先頭に、博多駅まで向かう事となった。
史実であれば此処でタクシーに撥ねられた女性を、ヤゴウが魔法にて治療する事となったが、まだ魔法が使えない事を漏らすのは良くないと考えた晴香により、使節団が通るルートの通行止めが行われていた。
それが幸いし、事故も起こる事無く、無事に駅へと到着した。これより、使節団員たちは超高速のリニア新幹線を体験する事となる。
* * * * *
東海道 山陽新幹線 車内
「そ、それにしてもハンキ様、この【りにあ新幹線】とは、速い物ですね・・・」
「・・・そうじゃな。ワイバーンの数倍の速度を地上で走ると言う、何とも形容し難い現実よ・・・」
ハンキが視線を向けた先には、この車両の現在速度が表示された画面が存在す。そして、其処には赤い文字で【803km】と、表記されている。ワイバーンの最高速度の実に約3倍だ。
陸地をワイバーンより速く走ると聞いて、何を馬鹿なと思って居たハンキ将軍は、実際に体験してみると考えるのを止めた。
開いたのである。悟りを。
「しかし、これほどの速度で走っているのに中は殆ど揺れず、座り心地も良くて快適そのものじゃ。だが、これほどの速度、事故が怖いのぅ・・・」
「リニア新幹線は開業以来、事故が原因の死者はいないらしいです。日乃本帝國で最も安全な乗り物だとか」
「う~ん・・・信じられんのう。そう聞いてもやっぱり不安じゃ」
小型の窓から外を見れば、建造物が残像を描いて後方へと消えて行く。もし事故が発生したら。そう考えると不安でしか無かった。
不安を抱える5人を乗せ、新幹線は今日も安全に走行する。
日本のリニアは600km位で抑えるようですね