紅魔館、紅の館。その名の通り外観も内装も赤で埋め尽くされていた。赤い石の床に赤のマット、赤い壁に赤の天井。
さすがに吊るされたシャンデリアは赤じゃない。
そもそもあんな大きなシャンデリアを初めて見た。いくらお洒落とは言えあんなのが天井にぶら下がってるのはちょっと怖いな。
「それで、どうする?」
意気揚々と乗り込んだのは良いが、階段もあって2階に進むルートやその脇にある廊下を進むルートもある。
美鈴さんに場所教えてもらえば良かったかな。
「どうするって、勘を頼りに進むだけよ」
「そうだった」
コンパスも地図もスマホのマップ機能もなにも要らない。この不思議な巫女についていけば良いんだ。
博麗が指差したのは2階、階段を上るルートが正解らしい。しかし霧雨はどこか不服そうな顔をしていた。
「霧雨、どうした?」
「私の勘は1階に面白いものがあるんじゃないかって告げてるんだ」
またもや勘。博麗の勘は真っ直ぐ紅魔館まで来て実証されたが、霧雨の勘はどうなることやら...。
「じゃあ魔理沙は1階行けばいいじゃない。」
「そうか、二手に別れるか」
あっさり別行動となったがこの状況なら固まって動いた方が良いんじゃないか。と考えたが現状ついてきているだけの僕がとやかく言うのも気が引ける。
「それじゃあな、また後で」
「気を付けなさいよ」
霧雨は手を降ると箒に跨がり廊下の奥へ消えていった。
「さて、行きましょうか」
「あ、あぁ」
自然と博麗組に組分けされたが良かったのだろうか。
博麗は何も行ってこないし、とりあえず僕はこっちでいいらしい。
博麗が歩き出すと僕も後ろについていく。階段を上り、時折現れるメイド服を来た妖精を博麗が軽くいなして弾幕を撃ち込んでいく。無双状態だな、館内は美鈴さんのような強敵は現れないかもしれない。
...だったら、なんで僕ここにいるんだろう。
「なぁ、博麗」
「なに?」
「僕さ、本当に必要?」
「...えぇ」
博麗は深く頷く。僕との会話中でも一切顔の緊張は解けてない。これが博麗の巫女の本業の顔。それを向けられるとこれ以上深く踏み込むのを躊躇ってしまう。
でも、これだけは。
「どうして、必要なの?」
「それは」
言葉が続かなかった、何か言おうとして飲み込んだ。何か事情があるのを察した。僕をここに連れてきた意味がある。
聞きたい、僕がここにいる理由を。
「僕は弾幕ごっこも出来ない、空も飛べない。正直2人の足手まといだよ」
「...紫が、連れていけばわかるって」
「紫さんが?それで何がわかるの?」
「私もわからない。だから気になるの」
八雲紫、やはり彼女は食えない人だ。幻想郷から返さなかったのも彼女、そしてここに導いたのも彼女、僕は彼女にコントロールされていた。
...もしや幻想郷に引き留めた理由と僕がここに来た理由も繋がってるのか。なんだ、何を考えてるんだあの人。
「遊、貴方は何か大事なものを失ってない?」
「大事なもの...もし失ったら、気づくと思うけど」
「失っている事実すら、失ったのかもね」
「まるで記憶喪失じゃないか。でも僕はこれまで普通の人生を歩んできた。色んな思い出がある、記憶がある。」
そうだ、 地味でパッとしない僕だが真面目に生きてきた20年間がある。目立たない僕とは対照的な友達もいる、名前を間違えられたけど恩師と呼べる教師もいた。親もいる、飼っていたハムスターだって、思い出は全て大事なものだ。
この幻想郷での数日もきっと思い出になる。
忘れたりはしない、失くしたりはしない。
「紫がね、言ってたの。本当の貴方がこの異変で見えるって」
「なにそれ、本当の自分って」
「それを知ってるのは貴方自身。高橋遊しか知らない。」
何もわからない。博麗の言っている意味も、八雲さんの魂胆も何もさっぱりだ。
本当の自分って、そんな恥ずかしくなるフレーズを聞いたのはいつ以来か。そりゃ僕だって口に出すには恥ずかしいそれっぽいことをした記憶はあるが、それとは全く別の次元の話だ。本当の自分、僕の知らない僕がいるってことか?
なんというか、哲学みたいだ。頭痛がしてきた。
「遊が何も出来ないのはわかってる。だけどお願い、ついてきて」
参ったな、聞く前よりもっと話が見えなくなった。
八雲紫、本当の自分、失ったもの。常識に囚われた平凡な大学生にはちょっと整理がつかないし、考えたって答えはでない。
博麗は僕に背中を向けると前に歩き出した。
僕は黙ってついていく。前にしか道はない、進むしかない。
...どうせ僕はここから博麗神社へ帰れないし。
「まるで記憶喪失じゃないか。でも僕はこれまで普通の人生を歩んできた。色んな思い出がある、記憶がある。」
戸惑いを隠せない遊がひねり出した言葉に、私は嘘偽りはないと感じた。
彼を見ていればわかる。平凡でありふれたごく普通のこの男、きっと小さな紙に簡単にまとめられる人生を歩んできた。
「紫がね、言ってたの。本当の貴方がこの異変で見えるって」
「なにそれ、本当の自分って」
「それを知ってるのは貴方自身。高橋遊しか知らない。」
遊は言葉を聞いても飲み込めず、難しい顔をしながら唸っていた。しばらくするとどうやら頭の整理が追い付かず頭痛でも起きたかこめかみを押さえている。
やはりこれが彼という人間、なんの変哲もない男。
紫、本当に本当の彼を知ることができるの?
...確かめるしかない、紫との会話でそう決めたんだ。
「遊が何も出来ないのはわかってる。だけどお願い、ついてきて」
私は彼に背中を向け歩き始めた。すると数秒たって彼も歩き始めた。
「ようこそ、紅魔館へ」
突然廊下に声が響いた、しかし人の気配は。辺りを見渡していると突然、目の前に女が現れた。従者らしき服装をしたそいつは銀髪を編んだ髪を垂らして、深く一礼をした。