突如現れた銀髪の女性。アニメなんかで見たメイド系の服を着ているが、恐ろしいほどに落ち着いた従者。とても甘い言葉で歓迎してくれる様な人じゃない。
「紅魔館のメイド長の十六夜咲夜です。紅魔館にどのようなご用件で?」
「主とお話がしたいの。退いて頂戴」
「申し訳ありませんが、お嬢様はお客様とお会いできません。お引き取りを」
「帰れって言われて帰ると思う?」
「では少々手荒な方法ですが」
十六夜が腕を振ると銀色に光る物体が列をなして飛んできた。博麗はその場で半身にして避ける。
流れ弾が僕のすぐ横を掠めた、ナイフだ。鋭利に尖った銀色のナイフ。
「手品は、お好きですか?」
「嫌いじゃないけど、貴女のはつまらなさそうね」
「ふふ、一度ご覧になってください」
今度はかなりの量の弾幕が放たれる。だが博麗ならこの程度、まだ余裕で避けられる。必要最小限の動きで見事に避け続ける。余裕の表情を浮かべる博麗、さて反撃に出たいところ。
途端、視界に何かが入った。それは先程見たナイフ。
突然、ナイフ表れた。それも刃先をこちらに向け一直線に飛んでくる。一本だけじゃない、何十ものナイフが飛び交っている。
突然の出来事に博麗も一瞬驚いた様子を見せたが、直ぐに飛び上がり回避した。
「いつの間にスペルカードを」
「幻世『ザ・ワールド』...」
空中に上がった博麗にまたも弾幕を放つ。今度も余裕で避けられる密度。
先程のナイフの突然の出現に焦りを感じているのか、博麗は避けながら弾幕を放つ。
「な!?」
またも視界に突然現れるナイフの一団。刃を鈍く光らせながら今度は博麗の退路を立つようにバラバラに飛ばされる。
「夢符『封魔陣』!」
握りしめていたスペルカードを取り出すと札は博麗を囲うように展開され、向かってきたナイフにぶつかって相殺される。
「どうでしょうか?」
「タネを教えなさいよ」
「それは無理なお話です。手品師はタネがバレれば敗けですから」
「それじゃすぐに見抜いてあげるわよ」
いつもの強気な口調の博麗だが、息が切れ表情から余裕が消えていた。まだこれから反撃しなければならないのに、十六夜咲夜に完全に主導権を握られている。このままでは後手に回った博麗が追い詰められる。
十六夜咲夜、まずは彼女のナイフの謎を解き明かさないと、何か秘密を。彼女を観察するも不審な点はない。
弾幕を撃つ姿、ナイフを投げる動作、かわす動き、普通だ。
「まだまだナイフはありますので、ご安心を」
手に持ったナイフを見せつけながら飛び上がると博麗へナイフを投げつけた。後方へ下がって避けつつ反撃の弾幕を放つが簡単にいなされてしまう。
十六夜咲夜、十六夜咲夜、十六夜咲夜。
ナイフの謎を解かなければ...何かヒントはないのか。
じっと見つめる。食い入るように、見逃さないように。
レミリア
ふと、頭に何か浮かんだ。四文字、これはなんだ?
レミリア?なんだこれ?
時を止める程度の能力
まただ、何か頭に浮かんだ。時を止める、時間を停止させる、なんだ、これはいったいなんだ?
だが、もし本当にこの能力だとしたら、今はなんだっていい、声に出して反応を見るんだ。
「時を止める程度の能力だ。博麗、彼女は時間を止めているんだ。」
僕の声にいち早く反応したのは博麗ではなく十六夜咲夜だった。
「ど、どうして!」
「時を止める、それがタネね。手品師、貴女の負けよ」
「...私は紅魔館のメイドです。手品師ではありませんよ」
「言ってくれるじゃない!」
博麗に勢いが戻った。本当に時を止める能力だったんだ。それにしても僕の閃きはこんなに優秀だったか、まるで探偵だ。
ずきん、割れるような頭痛がした。思わず頭を抑えてうずくまる。なに、これ、痛い。味わったことのない痛みに悶え苦しむ。
視界の赤いカーペットが歪み、痛みで意識が薄れていき、手足の感覚もだんだんとなくなっていく。
まるで自分がどろどろに溶けているようで、気持ちの悪い感覚が全身を襲う。
たすけて、誰か。しかし声にはでなかった。
そこで意識が途絶えた。
「妹様」
弾幕が放たれ、ナイフが飛び交う廊下の壁にもたれた男はそうポツリと呟いた。
目の焦点はあっていない、操り人形のように力なく立ち上がると千鳥足でどこかへ歩き出した。
「待っていて、ください」
うわ言のようにまたも呟いた。意識のハッキリとしないままどこかへ引っ張られている。
ひっそりと、彼は姿を眩ました。
「能力が知られたとして、時を止めるのは阻止できないでしょう」
「そうね、無理ね」
「敗けを認めるならこのまま回れ右してお帰りください」
「いえ、私の勝ちで終わるの!」
取り出したのはスペルカード。博麗霊夢が本気で勝利を掴む時だけ使用する切り札。
「霊符『夢想封印』!」
博麗霊夢を中心にあらゆる方向へ虹色の弾幕が放たれた。その密度はすさまじく視界の殆どが虹色の光弾で多い尽くされる。
圧倒的なまでの弾幕の量、そしてその間を飛び回るお札。博麗霊夢の総力をぶつけるスペルカード。
十六夜咲夜は反射的に時を止めた。音もない彼女だけの世界へと変え、回避できる安全地帯を探す。
最悪一度距離をとればいい、きっとこのスペルカードは巫女の切り札、これさえ破れればあちらに勝機はない。
「さぁ、来なさい!」
距離をとってナイフを構えた十六夜咲夜は態勢を整え、時を動かした。
そこで見た光景に目を疑った。自分の想像を行く早さの弾幕とお札、そして距離をとっても変わらない弾幕の密度。
「く、申し訳ありません」
奥で勝利の報告を待つ当主の顔が浮かんだ。
絶対とも言えるあの方の命令を遂行できなかった、自分の不甲斐なさが腹立たしい。
せめて、一矢報いて見せたい。紅魔館メイド長として情けない姿を晒すわけにはいかない。
虹色の弾幕を避けながらナイフを投げるが、光弾の間をすり抜けて飛び回るお札が巫女のもとへ行くのを許さない。
「これが私の夢想封印」
弾幕の波に飲み込まれ、被弾音が廊下に響いた。
地にへたりこむメイド長を見下ろしながら息を整える。
流石に、中まで来ると一筋縄ではいかない。久しぶりに夢想封印を使わざるをえない状況になった。
まだ異変解決には至ってない、またこれにお世話になる可能性は高い。
「あれ...遊?」
勝負は終わったのに、気配がない。付き添いの男がいないのに今気づいた。
流れ弾を警戒して離れたのか、にしては見えないほど離れるなんて大袈裟だ。
「ねぇ、男がいたでしょ。知らない?」
「...知らないわ」
右も左もわからない敵地でウロウロする度胸が彼にあるとは思えない。ましてや弾幕も空も飛べない普通の人間なのに。
「遊!返事して!」
声は奥へと反響するが、帰ってこない。
「それにしてもあの男、どうして私の能力がわかったのかしら」
そうだ、時を止める能力だといち早く気づいたのは遊だった。
「彼に特性を見破る能力でもあるのかしら?」
「...ないわ、彼は何も出来ない普通の人間よ」
「貴方はそんな人を連れてきたの?」
「えぇ、でも今は..,」
彼が能力に気づいて叫んでくれたお陰で、追い詰められていた私は幾分か楽になった。魔理沙が横にいてもこんな展開にはならなかった。
彼は必要だった、この一言は重要だった。
あれだけ自分は役に立たないと嘆いて、今やっと喜ぶべきなのに、どうして当の本人がいないのか。
「魔理沙のところに行ったのかしら」
心配になってあっちを見に行った、これならまだ理由はつく。というかこれくらいしか理由という理由が思い付かない
「ねぇ、貴女のボスにあわせて頂戴」
「かしこまりました」
遊を探したいのは山々だが今はこの異変を止めるのが私の責務。この館には妖怪もいないし、死ぬことはない、はず。
きっと魔理沙と合流している。魔理沙の元にいる。少々心配なため、自分に言い聞かせる。
今は、異変解決に集中しないと。
心身共に落ち着かせて、メイドの後を追った。