東方凡庸録   作:バルバドス

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13話 血着

弾幕ごっこは殺しあいではない。

公平に安全に物事を決める手段である。

様々な生物が暮らす幻想郷において弾幕ごっこは、純然たる『平和』な『決闘』である。

一見矛盾したこの表現だが、弾幕ごっこを少しでも眺めてれば何となく理解するだろう。

彼女達は真剣に、空を舞って弾幕を放つ。決闘と呼ぶには小綺麗で、平和というには熾烈な争い。

程よい要素が、弾幕ごっこにはある。

 

「平和的に解決できるルール、これでどう」

 

私は従来の決闘方法にスペルカードルールを制定、紫と共に幻想郷に定着させて今の弾幕ごっことなった。

 

「いいじゃない、弾幕ごっこ。それでいきましょう」

 

ごっこから分かるようにこれは遊戯、童子の戯れだ。殺意を向けあうのではなく、童心に返り自分の光弾を見せ合う。

だから、本気で勝利を奪い取る必要はない。熱くなる必要はない。

と、思っていたのに。

意外と私は感情的になりやすいみたい。

お守りと化していたスペカを取り出した。

これで私は負けなくなった。

 

 

 

「霊夢!」

 

魔法使いは思わず叫んだ。紅い小さな弾幕に飲み込まれた親友からの返事はない。

 

「勝負アリね」

 

横の従者は当主の勝利にほくそ笑んだ。影の人間として仕事中はあまり素の感情を表に出さない主義だが、どうにも抑えることが出来なかった。

 

「残念ね。これが吸血鬼であるお嬢様の力よ」

 

「...いやまだだ」

 

「もしかして次に貴方が挑むのかしら?」

 

「何言ってるんだ、霊夢の勝負はまだついていない」

 

「見てなかったのかしら、巫女ならさっき」

 

「まだ被弾音がしてない。いけ、霊夢!」

 

魔法使いの声に応えるように紅い弾幕から何かが抜け出し、レミリアの前まで飛び出し対峙する。

 

「な、なんで!」

 

「先に謝っておくわ。今から私はあるスペルカードを使う。」

 

「なによ!急に改まって。上等よ、かかってきなさい!」

 

「...『夢想天生』」

 

スペルカードの宣言をすると博麗霊夢の身体がうっすらと半透明となり、数個の陰陽玉が博麗を取り囲むように回り始めた。

 

「なら迎え撃つ!『紅色の幻想郷』!」

 

レミリアのスペルカードは先程博麗を追い詰めた『吸血鬼幻想』と殆ど変わらない弾幕を展開したが、その量は比にならないものだった。

 

「今度こそ、沈めて...え」

 

あと一歩、決着手前まで追い詰めていたレミリアには精神的な余裕があった。自信に溢れた顔で宣言したスペルカード、これで全てが終わる。

勝利後に巫女にぶつける言葉も何となく固まっていたのに、目の前の光景でそれが吹き飛んだ。

弾幕が博麗霊夢の身体をすり抜けているのだ。

 

「これが夢想天生。私の究極のスペルカード」

 

「こ、こんなのどうやって攻略すれば」

 

「だからスペルカードの時間は有限なの。そうじゃないと...ズルだから」

 

陰陽玉から大量の札が放たれる。レミリアはその早さに付いていくので精一杯だった。

 

「これが博麗の巫女...」

 

「歓迎するわよレミリア、ようこそ幻想郷へ。霧を晴らしたら貴方達も宴会に来なさいよ」

 

「...負けたわ。博麗霊夢」

 

潔く敗けを認めたレミリアは動きを止め札をその身体で受け止めた。

甲高い被弾音が響いた後、静寂な部屋で吸血鬼は小さく笑うと椅子に腰かけた。

 

 

 

 

 

 

「久しぶりに楽しめたわ、霊夢」

 

「それはよかったわ」

 

「いずれリベンジ、させて貰うわね」

 

「リベンジの口実にまた紅い霧とかやめてよね」

 

咲夜の淹れた紅茶をのみながらレミリア博麗霧雨の3人は小さな椅子に座り談笑していた。数分前まで敵対していたとは思えない和やかな雰囲気である。

 

「へぇ、紅茶って結構美味しいのね」

 

「咲夜の紅茶よ、当然よ」

 

「恐れ入ります」

 

お茶ばかりだった博麗には紅茶は未知の味だったが、舌はすんなりと受け入れられた。

 

「なぁ霊夢、そういや遊は」

 

「...あ」

 

すっかり失念していたとはっとした顔で返事をした。紅茶に舌鼓をうっている場合ではなかった。

 

「ねぇ、男が1人一緒に来たんだけど、知らない?」

 

「残念だけど私は見てないわね」

 

しょうがない、探してくるか。椅子から立ち上がると部屋の扉の方へ歩きだした。

 

「私も行くぜ」

 

「咲夜、貴方も案内人として同行してあげて」

 

「承知しました」

 

魔法使い、そして従者も椅子から立ち上がって彼女を追った。博麗が扉に手を掛け外に出ようとしたとき、ふと手が止まった。

 

「霊夢?」

 

「2人とも、下がって!」

 

3人は一斉にドアから距離を取った。するとすぐに轟音が響き渡り、ドアが吹き飛んだ。地面に叩きつけられたドアは粉々になり、相当な威力を加えられたのを物語る。

 

「なんか、いっぱいいる」

 

ドアの向こうにいたのは、レミリアと似た少女だった。

紅い瞳に黄色い髪、半袖に紅いミニスカートと子供らしい服装だ。

 

「フラン、どうしてここに」

 

「あいてたの。だからたまには出てみようかなって」

 

「...戻りなさい」

 

「いや」

 

「フラン!」

 

「御姉様は黙ってて」

 

レミリアは椅子から立ち上がり怒鳴り付けるも、フランと呼ばれた少女も負けじと声を荒げた。

 

「なぁ、誰だあれ?」

 

「あれはお嬢様の妹のフランドールスカーレット様よ。」

 

「へぇー、妹いたんだ。仲悪そうだけど」

 

「...事情があるの」

 

咲夜は心配そうに2人を見つめる。従者としては間に割って入って行くなど出来ない。黙って、行く末を見守るしかない。

 

「貴方フランって言うの?私は博麗霊夢よ」

 

「ふーん、霊夢ね。ここに何しに来たの?」

 

「貴方の姉が紅い霧出してたから止めに来たの」

 

「紅い霧、なにそれ」

 

「知らないの?」

 

「うん」

 

レミリアの妹。彼女もまた吸血鬼だろう。

しかし、なんで...落ち着いた様子の彼女に身構えてしまうのは。

博麗の巫女の勘が言っている。この子は危険だと。

 

「わたし、知らないよ御姉様」

 

「...知らなくていいの。戻りなさい」

 

「おいおいレミリア、それはあんまりじゃないか?」

 

「魔理沙、口を挟まないでちょうだい」

 

「いや、だけどさ」

 

レミリアと霧雨が言い合う最中突然、強烈な破裂音がした。音の方を向くとレミリアの椅子が粉々に砕け散っていた。

 

「もういい。イライラするから全部壊すね」

 

「やめなさい!フラン!」

 

フランドールは握りこぶしを作ると博麗に向けた。

 

「きゅっとして」

 

「...なに?」

 

「逃げなさい、霊夢!」

 

「どかーん」

 

握りこぶしを解き掌を広げた。既にフランドールを警戒していた博麗はその前に回避行動を取っていた。

鈍い轟音と衝撃波が博麗の居た場所で起こった。微かに揺れる地面、何が起こったのか目の前ではっきりと見えた。

ひび割れた床、フランドールが手を握って開いただけで、こんなにも大きな亀裂が入った。これが、彼女の能力。

 

「避けないでよ」

 

「そんな笑顔で言わないでよ」

 

笑っている。無垢で純粋な笑顔だ。なのに、恐怖を感じる。

そうだ、無垢で純粋だから、ここまで屈託のない笑顔で言えるんだ。命を奪うことへの躊躇いを知らない、殺すことへの罪悪感もない。

だから笑顔に恐怖しか感じないのか。

 

「フラン、これ以上好き勝手にやるなら私が止める」

 

「邪魔ばっかり!私の気持ちなんて何一つわかってくれないんだから!」

 

「貴方のためなのよ!」

 

「はーい、やめやめ」

 

一触即発のムード漂う中ずけずけと割り込んで遮る声。

 

「誰、貴方」

 

「...高橋遊だ」

 

黒髪の甚平男が吸血鬼の姉に名乗りながら部屋に入ってきた。

 

「遊、どこに行ってたの!急にいなくなって」

 

「...」

 

「遊!聞いてるの?」

 

「聞いてねーよ」

 

怒りを含ませた声とメンチで質問を強引に止めた。

数時間前とはあまり違う様子に、博麗も言い返すことが出来ず、呆気に取られた。

 

「な、なぁ遊どうしたんだよ」

 

「あ?」

 

「おいおい、何イライラしてるんだ。お前らしくないぜ」

 

霧雨もその豹変ぶりにいつもの調子を崩される。

 

「お前、名前は?」

 

「フランドール。貴方は?」

 

「さっき名乗ったろ、高橋遊だ」

 

「それで何か用?私今イライラしてるんだけど」

 

「...俺と闘え」

 

その言葉に、博麗と霧雨は驚くしかなかった。

闘う?このなにもない普通の気弱な男が?

彼の口から出たとは思えない言葉であった。

 

「遊!貴方じゃそいつに殺されるわよ!」

 

「殺される?そりゃいい。それくらい本気じゃないと俺が闘いたい理由がわからないからな。」

 

「なに、遊...貴方、正気なの」

 

彼は口角を大きくつり上げて笑った。それは先ほど見たフランドールと同じ純粋無垢にして、背筋が凍る恐ろしい笑顔と同じであった。

 

「この昂揚感はなんだ、俺は何故闘いにここまで心惹かれるのか!」

 

「いいよ、バラバラにしてあげる」

 

「あぁ、来い!来やがれ!」

 

ここに、決して語られることのない紅霧異変の最終決戦の火蓋が落とされた。

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