東方凡庸録   作:バルバドス

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15話 愛対する気持ち

轟音が部屋に響く。

 

「うらあぁぁぁ!」

 

男は握った手を開くとまた、轟音がまた部屋に響いた。

 

「な、なんで私と同じ」

 

右へ左へ、吸血鬼は攻撃をひらりひらりとかわしている。それは少し前まで見ていた光景であるが、攻守は交代されている。

そしてもうひとつ明確な違いとして、両者の顔がある。

男が避けていた時には余裕そうな表情を浮かべていたが、吸血鬼の顔は追い詰められた険しい表情である。

 

「疲れただろフランドール、今楽にしてやるよ」

 

「はぁはぁ...こんなこと」

 

吸血鬼の体力は桁外れである。だが先程の男の挑発に乗り、壊してやろうと躍起になってしまい、必要以上に能力の力を入れすぎたのがここにきて重りとして彼女の身体に表れた。

いくら桁外れとて、有限なのだ。

 

「はぁ...はぁ...絶対に、壊してやる。」

 

「そんな息を切らして無理に決まってるだろ。」

 

「ムカツク、ほんとムカツク。絶対壊す」

 

「...あっそ、もういいや。こっちも本気で壊すか」

 

男は掌を向けながらそう言って笑った。狂った笑み、歪んだ笑顔、笑っているのに威圧感がある。

その笑顔を正面から見た吸血鬼は、小さな声で漏らした。

 

「いや!」

 

「何が?」

 

「こっちに来ないで!」

 

「行かねぇよ、この場で壊す」

 

「壊すのもいや!」

 

「お前だって壊す気でいたんだろ?今更戦々恐々したか?」

 

「壊されたくない!嫌なの!」

 

吸血鬼は後退りしながら叫んだ。そこには容姿相応の純粋な子供らしい涙声であった。

 

「私は、もうなにも壊したくない!貴方みたいになりたくない!」

 

「おいおい、仲間だと思ったのに...残念だ」

 

向けた掌を握った。

 

「いや!やめて!」

 

フランドールは悲鳴を上げた。最早闘いと呼べない、一方的な展開である。

しかし戦意をなくした者へ、男は容赦なく攻撃を加えようとする。

 

「妹様に手は出させません!」

 

そこへ従者の十六夜咲夜が二人の間に割って入った。

ナイフを手に、狂気へと真っ向から向かい合う。

 

「十六夜咲夜、お前はフランドールスカーレットをよく理解しているはずだ。なぜ庇う?」

 

「妹様には確かに狂気が宿っている。それでも、私は紅魔館のメイド長!スカーレット家に仕える従者!いかなることがあっても、この身を捧げるだけです。」

 

「咲夜...」

 

「私にお任せください、大丈夫です。」

 

フランドールへ優しく微笑みかけると、キッと男を睨み、戦闘態勢に入った。ナイフを持つ手にいつも以上に力が入り、表情はいつも以上に厳しい。

 

「で、俺とやるのか?」

 

「えぇ、来なさい」

 

「ま、待ちなさい」

 

そこへまた一人、打した左腕を抑えながら苦痛の表情を浮かべたレミリアスカーレットが、間に入ってきた。

 

「私も加勢する」

 

「お嬢様、無理しては」

 

「私の大事な妹に指一本触れてみなさい、本気で殺すわよ!」

 

手にしたスピアザグングニルを男へ向け、怒鳴った。

鋭い吸血鬼の眼差しは一層尖り、睨まれれば全身を貫かれる殺意に気圧されてしまうだろう。

吸血鬼としての優雅な振る舞いを捨て、今はただのフランの姉として妹を守りたい一心で怪我した身体をおして狂気へ立ち向かう。

 

「御姉様...」

 

「フラン、私と咲夜で貴方を守るから」

 

レミリアも優しくフランへ微笑みかけた。その顔は姉としての優しさ溢れる暖かなものであった。フランも深く頷いて笑顔で返した。

 

「大事な妹?」

 

「そうよ、大事な妹」

 

「大事な妹なら、地下に幽閉する必要はないよな」

 

「どうして妹様のことを!」

 

「知ってるぜ、レミリアスカーレットが手を焼いて困ったから閉じ込めたんだよな?」

 

男は立ち塞がる二人の背にいるフランドールへと呼び掛けた。

 

「大事な家族を閉じ込めるなんて酷い話だよな?」

 

「...違う」

 

「何が違うんだ?フランドール」

 

「咲夜から聞いた。御姉様は私のために、魔法や薬を探し回っていたこと」

 

「それが何かお前のためになったか?」

 

「なってないよ。でも、いつも私のことを気にかけてくれていた。今だって、さっきまで喧嘩してたのに助けてくれた。だから、私は御姉様のこと好き」

 

「...フラン」

 

「私、我儘だったよね。御姉様が私の狂気を鎮めようとしてくれていたのに」

 

「いいの、わかってくれたなら」

 

レミリアはフランの元へ寄ると、その手を優しく握った。姉の温もりを感じ、安心したのか涙が頬を伝い、足元に落ちる。

 

「ごめんね、御姉様」

 

「いいのフラン、泣かないで」

 

泣き崩れるフランを優しく抱き寄せ、背中を擦った。

彼女たちの間の壁が、砕かれ取り除かれたのだ。

ここにいる魔法使いや巫女が想像する以上に分厚く、高い壁だった。どこか行き違いすれ違い、そして衝突を繰り返し、今日やっと長い長い姉妹喧嘩に終止符が打たれた。

 

 

 

 

 

終わった、いや、まだ。

彼女がまだ言い残していることがある。

これは、僕として言うんだ。

 

「レミリアさん!貴方も言うことがあるはずだ!」

 

「言う...こと?」

 

「ごめんなさい、です!妹を思って幽閉したのはわかっています。しかし幽閉した事実は決して消えません!貴方の口から、謝罪を!」

 

「...そうね」

 

これで、終わりだ。

するとドッと疲労が押し寄せ、たっていられなくなった。膝をついてなんとか上体は支える。

 

「フラン、長い間閉じ込めてしまってごめんなさい。」

 

「わたしこそ、ごめんなさい」

 

そうだ、これが紅魔館で暮らす全員が望んだ結果だ。

十六夜咲夜、紅美鈴、パチュリー・ノーレッジ、そしてスカーレット姉妹。

...僕も、誰かの役に立てた。ここに来る理由があったんだ。

ふふ、と小さく笑った。こんな気取った描写、僕には似合わないかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

終わった。呆然と見守ることしかできなかった。

だけど、結末は誰からみてもハッピーエンドそのものだ。

遊が吹っ掛けたこの闘い、終わってみれば誰も傷つかずに終わった。あれだけ破壊と殺意のぶつけ合いをしていたのに、こんなにも平和に幕が閉じてしまうなんて。

 

「遊!おい、大丈夫か?」

 

へたりこむ遊の元へ魔理沙が一目散に駆け寄った。私も後に続いて彼の元へ寄る。

 

「遊?」

 

「...霧雨、博麗」

 

彼は顔を上げて私たちを交互にみた。その顔に狂気などはなく、いつもの私たちが見飽きた普通の覇気のないいつもの顔であった。

 

「...きっと、聞きたいことが山ほどあると思うけど、ごめん、今は」

 

話している途中で、糸が切れた人形のように前へと力なく倒れ込んだ。

 

「遊!おい遊!」

 

「安心して魔理沙、気を失っただけよ」

 

呼吸もある、鼓動も感じる。疲労か、身体に何らかの負荷がかかっていたのかわからないけど、相当無理をしていたみたい。

 

「...この男が、霊夢の付き添い人?」

 

涙跡がくっきりと残った顔でレミリアは遊を覗き込む。

 

「そうよ」

 

「何者なの?」

 

「私もわからない、ただ目が覚めれば教えてくれるはずよ」

 

「わかったわ、私も話が聞きたい。咲夜、門番に彼を空いている部屋に運ばせて」

 

「はい、ただ今美鈴を呼んできます」

 

やっと本当の彼に会える。異様な胸の高鳴りを抑えることが出来ない。恐怖と好奇心が混ざり合ってぐちゃぐちゃになって言葉に出来ない感情で胸がいっぱいになる。

何でもいいの、貴方を教えて。

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