東方凡庸録   作:バルバドス

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2話 こんにちは幻想郷

はひぃ~...はぁ、ふぅー。

 

ひぃひぃ、はぁはぁ。

 

分かりやすいを通り越し教科書のような息切れに棒となって小刻みに震える足は最早教材ビデオの生まれたての子鹿だ。

数分、いや数十分経ったか。やっとゴールが見えてきた。

 

我ながら一度も足を止めることなく上り続けたのは自画自賛したい。僕にもこんな根性があったんだな。

あと、5、4、3。

石段が終わりその先の景色が視界に入ってきた。

 

まずは中々立派な鳥居、その奥に本殿。他に目につくのはない。なんというか画に書いたような境内だな。

本殿は大社と呼ばれるサイズではないが、近所にひっそりとある名も知らぬ神社のサイズではない。

 

名前もしっかりついていて、拝めば何かしらご利益がありそうだ。

 

神社か、もしかすると神主か誰か関係者がいるかもしれない。この際誰でもいい、僕にここを教えてくれ。

 

疲労困憊の全身は重く石畳を歩く足取りは重かった。

本殿へと近付き、賽銭箱の前まで寄ってみたが人の気配はない。

 

 

「すいませーん」

 

 

取りあえず呼び掛けてみるが、返事なし。

嘘でしょ、ここまでもうどれだけ体力を消耗したか。それで情報なしは酷すぎる。

 

頭を抱えたくもなる。どっと押し寄せる疲労に耐え兼ね行儀の悪いことに賽銭箱前の数段の段差に腰かけた。

 

はぁ、あまりにも現実は残酷すぎる。俯き、深いため息が無意識に漏れる。

 

さて、これからどうしようか。

 

 

「ん?誰だお前」

 

 

前方、階段の方から声がした。顔を上げるとなんとまぁ派手な格好の女性が立っていた。

 

人目で魔法使いとわかるその格好。白のシャツの上に黒のベストのような物を着て、下はふんわりと膨らみのある黒のスカート。とんがり帽子と片手に箒。それに金髪。

 

中々に強烈な人物に声をかけられたな。

 

 

「見ない顔だな。ここに参拝なんて珍しい奴」

 

 

「あの、すみません。ここどこですか?」

 

 

ただ今の僕にとっては格好など心底どうでもいい。

 

人がいた、ならば聞くしかないのだ。立ち上がり少しだけ寄る。

 

 

「ん、ここか?博麗神社だけど」

 

 

「博麗神社...?」

 

 

「もしかして知らないのか?」

 

 

こくりと頷くと目を丸くしたまま見つめられる。

 

 

「参拝客が来なくてとうとう地名の場所すら覚えられなくなったか...嘆かわしいねぇ」

 

 

魔法使いさんは掌を上向けやれやれといったジェスチャー。金髪なので外国人らしいジェスチャーがよく似合っている。

 

さて、ここが博麗神社って場所は把握できたが、それだけじゃなにもわからない。ここはいっそありのまま話してみるしかないか。

 

 

「あの、僕気付いたらここにいて、本当に右も左もわからなくて」

 

 

「...あぁ、そっちか」

 

 

「そっち?」

 

 

「外から来た奴か。久しぶりに見たぜ」

 

 

「あの、何が何だか」

 

 

「説明は後ろの巫女にして貰った方がいいな」

 

 

魔法使いさんが目をやった方へ振り向くと、そこに人がいた。賽銭箱の後ろに立つこれまた一目でわかる巫女さん。黒髪でショート、まだ年端もいかぬ少女の顔立ち。

 

赤と白が使い分けられたおめでたい色使いの巫女服だが、よく見ると上腕部分の袖が少しばかりない。見たこともない独立する袖をした服だ。

 

 

「いきなり何よ」

 

 

「そう言うなよ霊夢。迷える子羊が助けてほしいってよ」

 

 

「うちはキリストじゃないわよ」

 

 

知り合い、だな。それで金髪の魔法使いの名前は魔理沙。多分下の名前、ファーストネームだ。

 

 

「それで、貴方ね。名前は?」

 

 

「あ、高橋遊です。」

 

 

「そう。私は博麗霊夢で、そこの魔法使いが霧雨魔理沙」

 

「えっと、博麗さん。僕は一体」

 

 

「簡潔に言うとここは貴方の住む世界とは違うの。」

 

 

住む世界が違う。それじゃあ異世界に迷いこんだというのか。最近流行りの異世界転生、転移系か?

 

 

「ここは幻想郷、忘れ去られた者の楽園。」

 

 

「げんそう、きょう」

 

 

「貴方の住む世界からそう遠くない場所にあるの。でもちょっと複雑な理由で結界を張って自由に行き来できないようにしてる。」

 

 

「それじゃあ、帰れないんですか?」

 

 

「ちょっと面倒だけど結界を緩めれば外に出してあげられる。」

 

 

話が僕の理解力を既に越えているが、帰れるのならそこは謎のままでいいか。とにもかくにも帰れる、それでいいじゃない。

 

 

「で、帰るの?」

 

 

「はい!お願いします。」

 

 

「じゃあ待ってて」

 

 

「ありがとうございます!」

 

 

博麗さんは本堂の中に入ろうとその場で反転した。

 

その時ふと、気配を感じた。第六感というのか、本能的に右へ体を開けた。

 

 

「ふふふ、どうも」

 

 

また見たことのない人が音もなく今度は僕の隣に立っていた。

 

また金髪だが、今度は紫を基調としたロングドレスにピンクの日傘。霧雨さんや博麗さんより1つお姉さんな落ち着いた雰囲気の女性。

 

 

「いきなりごめんなさいね」

 

 

「は、はぁ」

 

 

くすくすと口許を隠して笑う仕草も上品で、良い家の生まれなんだろうなと感じた。

 

 

「霊夢、まさか結界を緩める」

 

 

博麗さんは本堂の戸にかけた手を下ろして、突然現れた女性に向き合った。

 

 

「そこにいる外来人を帰すためよ。それだけ」

 

 

「...その必要はないわ」

 

 

「なんでよ」

 

 

「彼はここにいてもらう。」

 

 

...あれ?僕は帰れる流れじゃなかったの?

聞きたいのは山々だが、なんというか口を挟める雰囲気じゃない。当事者なのに、傍観者。

 

 

「どうして?帰りたがってるわよ」

 

 

「だって彼は偶然、偶々幻想郷に迷いこんだんじゃないのよ。」

 

 

「まさかアンタ」

 

 

「神隠しにあったの。」

 

 

神隠し、神隠しって突然消える現象のことだったような。

 

 

「何が目的なの?」

 

 

「彼はここに来るべき人間なの。それだけ」

 

 

「...ま、アンタに何言ってもはぐらかされるだけだし、もういいわ。」

 

 

博麗さんは今度こちらを向き。

 

 

「この妖怪の賢者様がダメだって。」

 

 

「え、っと、どうしてですか?」

 

 

「貴方のためなの。」

 

 

「僕のため?」

 

 

元にいた世界に帰すより、ここにいた方が僕のためになる?

読めない、この人はさっぱり、何を考えているんだ。

 

 

「そう、幻想郷はのんびり暮らせるわよ。貴方にはお似合いじゃない?」

 

 

「す、すろーらいふって奴ですか」

 

 

「そうそう。静かで、穏やかに暮らせるわよ。海はないけど自然に囲まれてご飯も美味しいし」

 

 

なんだかそう聞くととても魅力的に聞こえる。

 

ただいいのかな。もし万が一このままここに永住するってなると...。

 

 

「もしかして外のこと心配してる?なら問題ないわ。外の時間の流れはここよりゆっくりなの。だから当分いても支障はないはず」

 

 

うぉ、何て都合がいいんだ。原理とかわからないけど、当分いても問題ないなら、お言葉に甘えようかな。

 

と言うか自分じゃ帰れないし。

 

 

「じゃあ、暫くお世話になります」

 

 

「うふ、ようこそ、幻想郷へ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ霊夢」

 

 

「何?」

 

 

2人が会話する最中、霊夢の元へ寄った魔理沙が声をかけた。

 

 

「幻想郷の時間の流れと外の時間の流れって、同じじゃなかった?」

 

 

「そうよ。」

 

 

「え、じゃあ紫が嘘ついたってこと?」

 

 

「何を考えてるのかしらね」

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