東方凡庸録   作:バルバドス

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21話 団子屋の娘

人間の里の中心部から少し外れた住宅街の一角。賑わいを見せる商店街とは対照的に閑散としている。

 

「暇」

 

店内から見える相変わらず人通りの少ない表の道をぼーっと眺めながら女は呟いた。

 

「桜ちゃん、座ってていいよ」

 

店の奥からひょろりとした細身の男が顔を出して言った。

 

「わかった、店長」

 

手前の客席に腰を下ろし何することもなく店の外を眺める。時が流れるのを待つだけ、なんとも平和だ。お陰で欠伸が止まらない。

また1つ欠伸、誰にも咎められることなく大きな欠伸ができるのは幸せなことだ。私の人生でこれまでなにもしなかった時間はなかった、だから暇潰しなることを私は知らない。

なんだろう、雲の形でも当てるとかかな?

少し身を乗り出し、空を眺めてみる。こうしてみると幻想郷の空も外の空もなにも変わらない。流れていく雲、太陽、夜になれば星が光り、月が顔を出す。

月...ね。いつまでたっても忘れられない、いつの日か偶然会えるのかな。私はその日を待ち続ける。私の何よりも大事な人。

あぁ、会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい。

 

「あの」

 

突如声をかけられた。驚いて声の方を見ると、黒髪の何の面白味もない顔立ちの男がいた。その後ろには紅白の巫女。

 

「こんにちは、お店やってますか?」

 

「...えぇ、席は自由に」

 

席から立ち上がり一旦店の奥へ、中は小さな厨房で店長がせっせと器具の手入れをしていた。

 

「2人、来店」

 

「了解、それじゃあよろしく」

 

壁にかけられたお品書きを手に2人のもとに戻る。

 

「霧雨がおすすめしてくれた団子屋だし、美味しいよきっと」

 

「それにしてもレミリアも結構な額くれるじゃない。遊、機会があればまた行きなさいよ」

 

「あはは、呼ばれたらね」

 

向かい合って座り、楽しげに会話する2人の手元にお品書きをそっと置く。すると2人は変な声を上げて身を後ろに引いた。

 

「ビックリした。影薄いのね貴方」

 

「失礼だよ博麗...」

 

私はもう慣れた。何を言われようと私は私。ここではそうして生きていくって決めたから。

 

「お品書き」

 

「へぇ、どれどれ」

 

紅白の巫女が早速手に取り眺める。

この子が博麗霊夢、幻想郷の巫女。なんというか思っていたよりも普通ね。あらゆる物事に縛られない『空を飛ぶ程度の能力』、と聞いていたから破天荒な子かと思っていたが年頃の女の子って感じ。

 

「私スペシャル三色」

 

「は、博麗、それ一番高いやつ」

 

「いいじゃない、遊も頼めば」

 

「...そうだね、じゃあ僕も」

 

通常の三色団子二本セット3つ分の良いお値段する団子を注文。どうやら懐はホクホクのようだ。お品書きを回収して店の奥へと注文を伝える。店長は久しぶりのスペシャル三色に気合いが入ったようで張り切っている。

確かにいつ以来だ、こんな高い団子注文入ったのは。

店長が気合いをいれて団子を作っている最中、店の奥から2人の様子を観察する。いえ、私にとって気になるのはあいつだけ。

 

「それで体は大丈夫なの」

 

「もう大丈夫だよ。なんてことない」

 

「血を吸われたり頭が痛くなったり大変ね」

 

「そうだ、頭が痛くなったその事なんだけど、昨日レミリアさんの能力で少し過去のことがわかったんだ」

 

「で、どうだったの?」

 

「どうやら闘っている場面は1対数人で、男3人女2人がいたらしく、それで1人が化け物って誰かに言ったらしい」

 

「男3人のうちの1人が遊ってことなのね」

 

「そうらしい。それ以上はわからないって」

 

...真実、それがいつの日も正しいとは限らない。特にあいつは、あいつだけには知られてはいけない。着実に5年前のあの日々に近づいていくのを、私が指を咥えて見ているだけなんて思わないで欲しい。

やはりあの金髪は間違っている。あの日の選択は違ったのだ。こうなるなら、私がやっておくべきだった。

意思を引き継ぐのは私、私が全て終わらせる。

5年前の闘いにケリをつける。

 

「桜ちゃん、団子出来たよ」

 

「はい」

 

出来たての団子をお盆に乗せ、2人のもとに運ぶ。2人は私の運んできた団子を目を輝かせながら見ている。

 

「美味しそうじゃない!」

 

紅白の巫女は自分の前に置かれた団子に早速かじりついた。感嘆の声を漏らしながら美味しそうに頬張っている。対してあいつも美味しい美味しいと耄碌老人のうわ言のように繰り返しくそ聞きなれた間抜けな声で呟いている。

 

「あの、何か」

 

「いえ、何も」

 

あぁくそむかつく。全身の水分という水分が外に出てカラカラになって死ねば良いのに。

 

「あの、怖いです」

 

「いえ、何も」

 

なーにが怖いじゃお前の方がよっぽど怖いぞ化け物。

 

「ちょっと、何遊のことジロジロみてるのよ。食べづらいじゃないの」

 

「失礼しました。消えます」

 

怒られたので退散。団子を頬張る2人から離れ店の奥へと消える。

 

「桜ちゃん、睨んじゃダメだよ」

 

「睨んでないです、すみません」

 

一部始終を耳にしていた店長に注意されたが、適当に聞き流し厨房の端の椅子に座り時が流れるのを待つ。

今日の夜にでも、機会があればあいつを殺す。やはり、殺すしかない。全てを今夜終わらせる。

 

2人が店を去った後また暇な時間が始まった。

店長は材料の買い出しで店を離れたので、店を一時閉めて休憩を取ることとなった。ただ休憩って言っても、今の今まで忙しくなかったからなにも変わらないけど。

 

「暇」

 

「暇やな」

 

突然私の横から声がした。聞きなれた男の声。

 

「なによ」

 

「来たあかんのか?」

 

「今店閉めてる、帰れ」

 

「今日は団子食いにきたわけちゃう。夜俺に付き合って欲しい」

 

「夜は無理、用事」

 

「お前の用事ってなんやねん...まさかな」

 

「わかったら帰れ」

 

シッシッ、と手で追い払うも店から立ち去る気配はない。面倒な金髪野郎、そのメッキ金髪全部引っこ抜くぞ。

 

「お前、殺すつもりやないやろな」

 

「そうだと言ったら?」

 

「待てよ、まだ手を出すなって言ってるやろ」

 

「あいつは真実へと進み始めている。今ここで殺さないと...わかってるよね?」

 

「わかってるわ!でもな、5年の月日が経てば、変化もあるやろ!お前は今のあいつをちゃんと見たか?あの時の選択は間違ってなかったって俺は言える!」

 

「じゃあ万が一、あんたの信じる友情によって幻想郷が滅びたらどう責任取るのよ」

 

「...させへん。絶対にな」

 

何の根拠があってそんな大それたことが言えるの?

こいつは微温湯にちゃぷちゃぷ浸かって心まで温くなってしまったみたい。こうなったら私しか意思を継ぐ者はいない。

 

「なぁ、頼む。まだ止めてくれ。俺はまだ信じたいんよ...俺も覚悟決めてる、もし万が一があるならその時は、一緒に殺そうや」

 

「腕に関しては疑ってない、問題は心。あんた、辞めてから何年経つの?本当に殺せるの」

 

「任せてくれや、俺はいつでもあの頃に戻れる。この能力でな」

 

あぁ、そうだった。こいつの能力はそんなのだった。

私とこいつ、2人なら戦力としては問題はないだろう。完全に戻る前ならいける。ただ今のまま闘ってもこいつが戦力にならないようじゃどうしようもない。

私1人で強引に行っても、この金髪に邪魔されそうだ。

仕方ない、もう少し時間を与えるか。私だって本音を言えばこんなことしたくない。でもしなくちゃいけない、これは義務だ。残された私のやるべきこと。

 

「はぁ、はいはいわかりました。それで、夜の件は?」

 

「人間の里外れの森の妖怪どもの動きが最近妙に活発になっているんやて。積極的に人間に絡んでいるようで里の人間たちは困っているってな」

 

「まさか、それを私たちでやるっての?」

 

「そ、幻想郷のため、や」

 

「...幻想郷のため、ね。はいはい了解」

 

「夜、人里の離れにある小屋に集まるか。頼むで、宮本桜」

 

「なによフルネームなんて気持ち悪い」

 

「それとお前キャラぶれぶれやないか」

 

「うっさい、お前も一緒でしょ」

 

「ぬはは、それもそうやな。お互いキャラ変わったな」

 

こいつとの会話、高校の時と変わらない。私達はあの日から運命が大きく変わったと言うのに、会話の内容はいつも通り。

いえ、運命が変わっても私達はなにも変わっていなかった、のかもしれない。変わったと思い込んでいた、のかもね。

 

 

 

 

時計の針がくるくると周り時は草木も眠る丑三つ時。

人里から離れると灯りは殆どない自然な夜の世界、月と星のか弱い光だけが静かに幻想郷の闇を照らす。

 

「はぁ、なんで夜に連れてくるのよ。紫」

 

腰に付けたランプの灯りに照らされた八雲紫の背中にぼやき続けるのは紅白の巫女。今にも閉じそうな眼を擦りながら大きな欠伸を1つ。

 

「仕方ないじゃない、夜にしか出ないし。私だって眠いのよ」

 

八雲紫も巫女に負けじと大きな欠伸を1つ。深い黒に染まった木々に囲まれ、不気味な人ならざる鳴き声が木霊する山の中と言うのに、2人は普段通りの状態。

しかし油断している訳ではない。ランプの灯りの範囲外の気配は常に察知し、いつどこから飛びかかって来られてもよいように準備している。

 

「それで、暴れてる妖怪って何よ。そもそもここに妖怪なんていたの?」

 

「少数いたわ。だけど最近何故か数が増えて、それが原因で妖怪間の争いや小競り合いが起こったかもしれないわね」

 

「なんでわざわざこんな小さな森に越してくるの...」

 

「意外と住み心地がいいのかしらね」

 

ぐるるる...ぎじゅぅぅ...2人の会話の間にも聞こえてくる不気味な鳴き声。木の上に、茂みの中に潜んでこちらを伺っている。滲み出る強い妖気を感じながらもう少し奥へと進む。

山道を進むと少し開いた場所に出た。円状に広がった場所で崩れた小屋らしき建物が1つあるだけだった。

 

「こんな所に人が住んでたの?」

 

「妖怪の数が増えたのはここ最近突然だから、慌てて逃げ出した...ってとこかしら」

 

「にしては荒れすぎね。と言うよりも壊されたってのがピンと来るわ」

 

「逃げる前に襲われた可能性もあるわね」

 

小屋の状態は酷く屋根はなく、壁も壊され四角く囲う柵のような状態である。2人はそっと小屋の中を外から覗いた。

そして、言葉を失った。

錆びた鉄の匂いが狭い小屋から溢れ漏れだしていた。鼻に入った瞬間に顔が歪み、喉の奥から強い嫌悪感が咳として出る。そして、腹部を切り裂かれ腸がずるずると床に垂れ下がっている人ならざる妖怪の死体が横たわっていた。

1つではない。3つ、乱雑に置かれていた。

 

「霊夢、目を閉じなさい」

 

「見たくないわよ!こんなの」

 

霊夢は直ぐに凄惨な現場から目を背け少し距離を取った。八雲紫にとってこのような現場は初めてではないが、何度見ても慣れるものでもなかった。

 

「帰りなさい霊夢、これは私が引き受ける」

 

「...わかったわ」

 

異変とは違う。殺しあい、命の削り合い。これに今の博麗の巫女を巻き込みたくなかった。

なによりこれは妖怪間のいざこざ。妖怪の賢者である自分が解決しなければならないという使命感、義務感を感じたのだろう。

霊夢が来た道を引き返したのを確認すると死体を更に観察する。どれも腹部と首にも切り裂かれた跡がある。鋭利なものでばっさり。爪や角を持っている奴にやられたとざっくり見て取れた。

 

いえ、それにしては妙ね。紫は違和感を覚えた。

と言うのもこの場所で死んでいるのが不思議だった。

付近を見渡したが血はここだけに溜まっている、死んだのはここで間違いないが、妖怪同士のいざこざならこんな狭い場所でやるはずもない。

考えられるなら、弱らせてからここで殺した、となる。

 

コイツらが、ね。見たところ人とコミュニケーションの取れない獣に近い妖怪の類い、果たしてそんな計画的な殺害はできるのかしら。

 

「誰?」

 

ふと気配がした。それは妖気ではない別の力、何かおぞましいものを感じ取った。

しかし返事はない。僅かに吹く風が葉を揺らす微かな音しか聞こえない。

 

何かが、幻想郷で始まっている。私の幻想郷で、見えない何かが蠢いている、そんな気がする。

これがその始まりなら、私は止めなくてはならない。

 

「出てきなさい」

 

叫ぶも虚しく闇の中に消える。見えない奴は何処かに潜んでいる。気配は感じられないが、確かにいる。

 

「聞きなさい。もし幻想郷を混乱に陥れようと考えているのなら私、八雲紫が相手になるわ!」

 

敵、幻想郷に仇なす者。私の愛するこの地を汚す者は誰とて許さない。

見えない敵への宣戦布告。相変わらず反応はないがここにいれば届いたはず。

スキマを開き中へと入る。この幻想郷を端から端まで飛び回り敵を見つける、絶対に探し出してみせる。

並々ならぬ覚悟を持って現場から姿を消した。

 

 

 

 

 

「あれが八雲紫やで」

 

「流石、妖怪の賢者ってとこかしら」

 

木に持たれた黒ローブの2人組がひそひそと会話を続ける。

 

「幻想郷への愛は本物やな」

 

「そうね、そこは彼も認めていたじゃない」

 

「せやったな」

 

片方の黒ローブが自分の右腕を捲る。二の腕辺りに、赤い三日月に棒が刺さった模様が彫られていた。

その模様を愛おしそうに撫でながら

 

「会いたいよ...朧」

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