東方凡庸録   作:バルバドス

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6話 掃除をしましょう

幻想郷に来て三日目。二度目の朝を迎えた。

昨日と同じ様に博麗が準備してくれた朝食を腹におさめるとまず境内の掃除を終わらせることにした。

 

しゃっしゃっしゃ。奥から手前へ葉や折れた枝をかき集めると、膝小僧に届かんばかりの小山が出来た。

これをちり取りに入れて敷地外へばらまく。なんとも大味な清掃である。

 

「こんなものかな」

 

「手際良くなったじゃない」

 

この前より時間はかからなかった。このまま続ければもっと短縮できるかもしれない。

 

「おーっす、来たぜ」

 

「呼んでないわ」

 

「呼ばれなくても来るぜ」

 

朝っぱらから霧雨が来たが、することないのかな?

 

「おうおう朝からご苦労様だな」

 

「霧雨はすることないの?」

 

「ないな」

 

「魔理沙も掃除したら?」

 

「面倒」

 

することがない。2人は寺子屋に行かないのか。

博霊は巫女として責務があるが、霧雨は本当に何してるんだ?魔法使いって、暇なのか?

 

「あんたの家しばらく行ってないけど、今は寝れるの?」

 

「はは、本の上で寝れるぜ。」

 

「体痛くならないの?」

 

「本の上の寝方ってもんがあるんだよ」

 

あぁ、何から言えばいいのか。...とりあえず、霧雨ってだいぶ変わってるよな。

 

「遊が引いてるわよ」

 

「遊、外の世界の非常識は幻想郷の常識だ!」

 

「そ、そうなの!?」

 

「合ってるけど幻想郷は魔理沙みたいに掃除をしない非常識じゃないわ」

 

「へ、きついこと言うね霊夢」

 

一体霧雨の家はどうなってるんだ。まともな生活は出来ているのか?そんなに散らかして親とかに言われないのか?

 

「あれを1人で片付けるのは無理だな」

 

「じゃあ遊が助けてあげれば?」

 

「ぼ、僕?」

 

「私紫と話があるし、どうせ暇でしょ」

 

やるとすれば後は食器洗いだけ。今日の予定もあるはずもない。

 

「じゃあ霧雨、僕も手伝うし掃除しようか」

 

「お、手伝ってくれるか。助かるぜ」

 

魔法使いが何処に住んでるか興味がない訳じゃないし、どんな家なのか見てみたいのもある。

 

「それじゃ早速行こうか。」

 

霧雨は箒に跨がって飛ぶ体勢に入った。霧雨、君は昨日の僕のざまを一番近くで見ていたじゃないか。

 

「って、遊飛べないんだったな」

 

「申し訳ないが、徒歩で案内してほしい」

 

こう簡単に飛べる人間に囲まれるとやはり僕が異端な存在なんだと錯覚してしまう。

外の世界の非常識は幻想郷の常識か。僕はこれからどんな非常識を目にするのか。

 

「んー、結構距離あるし...そうだ」

 

霧雨はその場で反転し背中を向け、親指でくいっと後方の柄の部分を指した。

 

「...マジ?」

 

「行ける、私を信じろ」

 

あまり大きな声で言えないが僕だって自転車の2ケツをしたことがある。箒の2ケツ、も2人乗りに入るのか。

 

「私も行けると思うわ」

 

「それは何か根拠が」

 

「勘よ」

 

なんとなく、大丈夫。

いいか博麗、僕はこれからこの箒一本に命を預けるんだぞ。そんじゃそこらの絶叫系のアトラクションよりも危険なんだぞ。

 

「霊夢の勘はよく当たるし、大丈夫そうだな」

 

ははは、もういいや。それじゃあ博麗の勘を信じるか。

念願の空を飛べるのに、なんで高揚しないのか。心臓の鼓動は早くなってるのに。

箒を跨いで霧雨の背後につく。やはりアンバランス、これで空を飛ぶなんて魔法使いって変わっている。

 

「乗ったか?」

 

「な、何か掴まるものは」

 

「私の肩に掴まれ」

 

両手を霧雨の肩に置けば上体が伸びて結構安定した。

これならなんとかいけそうな気がしてきた。

 

「いくぜ、遊」

 

「ゆっくり、ゆっくりでお願い!」

 

足から地が消え、上から目に見えない重りが乗っかった。博麗神社の本殿が消え視界には大空が表れる。

浮いているんだ、一体どれ程の高さなんだ?

下を見ようとして、止めた。見てしまえば僕は言葉を失ってしまうだろう。

 

「どうだ、結構良いもんだろ」

 

首が動く範囲で辺りを見渡す。空、山、森、田園風景、人里を一望できる。都会の様にごちゃっとしていない、シンプルな田舎の風景。何もないのに、なぜこうも心打たれるのか。

 

「しっかり掴まってろ!」

 

「うおぉぉ!」

 

魔理沙が突然発進した。僕としてはもう少し眺めていたかったが、前に進み出すとそんな余裕はない。振り落とされないよう肩をがっちり掴む。

 

「遊、肩痛いって」

 

「そ、そんなこと言ったって」

 

「もうちょっとだから」

 

スピードを、スピードを落としてくれ。僕の声は風に掻き消された。

 

 

やっと地に足をつけれた。こんなに地面が恋しいと思ったのは初めてだ。

さて、着いた場所は深い森の中だが周囲の木が伐採されここだけ日当たりがいい。そして目に入る『霧雨魔法店』との看板を下げた一軒家。見た感じ洋風でお洒落な見た目をしている。

 

「霧雨魔法店?」

 

「あぁ、一応何でも屋してるんだ。全然収入ないけど」

 

そりゃ三日連続で博霊神社に来るんじゃ営業日もあったもんじゃないが...。

 

「兎に角入れよ」

 

「お邪魔しま」

 

霧雨の後を追って玄関に入ったが、あまりの散乱ぶりに最後のすが出てこなかった。

多分机とか椅子とか家具があったと思われる場所の上に物が乗せられ、リビングなのに廊下となっている。

 

「これ、今日で終わるの?」

 

「とりあえずここかな」

 

腹括るか。どうせ1人で帰れないんだし。

 

まずは手に取ったものをいるかいらないかに分けることから始めよう。

よくわからない布、よくわからない瓶、よくわからない物だらけだ。

 

「これは?」

 

「いる」

 

「これは?」

 

「絶対いる」

 

「これは?」

 

「無いと困る」

 

無いと困る物が埋まってたんだが、本当に困るのか?

とりあえず要らないものは一度家の外に運び出す。

折れた箸、ぺちゃんこの座布団、僕でも見てわかる不要品だ。ただ一目でなにかわからないものが多すぎてその度確認をとらないといけないのは効率が悪い。

 

「お、失くなったと思ってたけどあったんだな。」

 

多分失くなった物はこれからごまんと出てくるぞ。

魔理沙が手にしているマジックアイテムと呼ばれる品で、魔力を有した不思議な道具、らしい。

あの四角形の箱のようなものが一体どんな道具なのかはわからないが、僕の想像を越える効果があるとか、ないとか。霧雨の家にはこんな物がゴロゴロしている。

 

「だいぶ運んだな」

 

数時間程経過したか、廊下だったリビングはやっとリビングと呼べるようになった。椅子や机が顔をだし、霧雨の服のカラーに合わせた白黒のタンスなんかも出てきた。

 

「このタンスはなにか入ってるのか?」

 

「さぁ、開けてみるか」

 

下部にはまだ物が散らかっているため、上の方を開けた。

 

「お、懐かしいな」

 

声をあげ取り出したのは本だった。それも一冊じゃない、数冊似たような本だ。

 

「それ、何?」

 

「ひよっこ魔法使いの時期の私が残した研究成果」

 

一冊手にして捲りながら懐かしーと声を出して思い出に浸っている。これは、いけないやつだ。片付け中に本を手にするのは、本当に終わらなくなってしまう。

 

「霧雨、掃除終わってからゆっくり見てほしい」

 

「...そうだな。先に終わらせないと」

 

僕も久しぶりに出てきた漫画をついつい読んでしまい時間を取られたことがある。きっと大勢の人に経験があるはすだ。

こうしてなんとか家の中はちょっと散らかっているな程度に済ませることができた。不要品は外に起きっぱなしだが、何れどうにかして廃棄する、みたいだ。

で、これで終わりかと言うと...

 

「後は寝室、そんでキッチンだ!」

 

「は、ははは」

 

寝室はシーツの代わりに本を敷き詰めた例のベットと、物が溢れかえっている机、そして脱ぎ捨てられた下着...!?

 

「霧雨、僕は不要品運ぶから寝室は1人で分別してくれ。」

 

「なんでだよ、一緒にやってくれよ」

 

「なんでもいいから!」

 

寝室を飛び出し扉を閉めた。霧雨は扉越しに文句を言うが、それよりももう一度部屋を見渡してほしい。

 

「って、そう言えば脱ぎっぱなしにしてた。もしかして遊、これ見た?」

 

「...霧雨、掃除しよう」

 

「いや、するけど...質問には答えてくれないのか?」

 

察してほしい。言い訳がましく聞こえるが不可抗力だったんだ。寝室はプライベートな空間だ、そこに土足でずかずか入ったこっちも悪いが、見たくて見た訳じゃないんだ。

 

「なんだかわからないが、分別できたし外に出すぞ」

 

「あ、あぁ」

 

霧雨は変わらぬ様子で寝室の外に不要品を出した。

僕が過剰に反応しすぎただけ、かな。このまま何事もなかったようにスルーするのが大人のやり方だったか、本当チェリーボーイらしい反応だ。こっちが恥ずかしくなる。

 

 

 

 

 

「終わった!」

 

まだ完全とは言えないが、ごみ屋敷から少しがさつな独り暮らしの家にはなった。

 

「いやー、ベッドってこんなに柔らかいんだな」

 

そりゃ本の上に寝てたからな。霧雨はベッドに寝転がってゴロゴロしてるがベットから埃が舞っている。

 

「ありがとうな」

 

「それじゃあ帰るよ」

 

「なぁ遊、これは個人的な頼みなんだが」

 

「なに?まだあるの」

 

「ご飯、作ってくれ」

 

そう言えば、腹へったな。昼は過ぎてるし、早めの夕食になるな。それじゃ、作りますか。

 

家が洋風とは言え台所は博麗神社と変わらない。

で、材料は...キノコか。他は何があるんだ?

これは、キノコ、これは何だ、やっぱりキノコだ。

キノコしかないじゃん。

仕方ない、これであれこれ作るしかない。

 

霧雨は博麗を呼びに神社へ向かった。その間に僕が作って霧雨の家で夕食を囲もうという予定となった。

キノコ、キノコかぁ。思い付くもの作っていくか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2人が仲良く空を飛んでいった後、縁側に腰掛け彼女を待っていた。

突然現れ人を驚かすのが趣味の彼女に一杯食わされぬよう警戒の糸は緩めない。

 

「こんにちは霊夢」

 

「こんにちは」

 

いつの間にか私の横に腰かけていた彼女は手を振って挨拶をした。気づいてないと思っているのか、視線を向けずに言葉だけ返す。

 

「話って何」

 

「そうね、ここで話すのも何だし、中に入りましょう」

 

貴方の家じゃないのに。家主の許可も取らず我が物顔で中に入っていく姿を追って居間へと向かう。

 

「お茶、私のはないの?」

 

「生憎切れたの」

 

「あらあら、お客がいつ来ても良いようにしておかないと」

 

客なんて魔理沙か貴方か妖怪か、片手で数える位しか来ない。そして大体はお茶なんか出さずともいいような厄介な客ばかりだ。

 

「それで、早く始めてよ」

 

「はいはい、聞きたいのは高橋遊のことよ」

 

おおよそ予測はついていた。

さて、そろそろ問いたださなければならない。幻想郷に引き留めた真意を。

ただ相手は大妖怪八雲紫、都合が悪くなればはぐらかされる。

 

「霊夢、彼はどう?」

 

「どうって、ただの外来人よ」

 

「性格とか言動はどう?」

 

「普通よ。長所が普通で短所が普通ってレベル。あ、料理はそこそこできるのは長所じゃない?」

 

「普通、ね。そう、普通」

 

普通の擬人化。これといって記憶に残りそうにない地味な存在。この幻想郷では特に個性の強い生き物など数多いる。その中では寧ろ普通という個性が光っているのかもしれない。

 

「普通過ぎるわよね」

 

「どういう意味?」

 

「あまりに普通、在り来たり、ありふれた、何の変哲もない存在、それが高橋遊」

 

「...だから?」

 

「霊夢、これ見て」

 

ちゃぶ台の上に置かれた一枚の紙。そこには赤い三日月に一本の棒が縦に突き刺さった謎の模様、いや記号?

 

「私はこの模様が何か知らないの。だけど何故だか私にはこの模様の意味を知らなくてはならないという一種の軽い脅迫観念がずっと頭から離れないの。」

 

「...これ、私見た」

 

「どこで?」

 

「遊の携帯って道具にあった模様」

 

「だから、私は彼をここに引き留めたの。外の世界を探し回って、やっと見つけたの」

 

携帯を保護するためのケース、だったか。昨日の夜に遊から聞いた。昨日人里に行く道中携帯を観察していたとき、そのケースが外れてしまった。仕組みは簡単で私でもすぐにはめることが出来たが、その時にケースの裏側に、隠れていた。

八雲紫は携帯にあの模様があったのを知っていて、幻想郷に引き込み、そして引き留めた。

 

「だったら、素直に聞けばいいじゃない。そうすれば彼は返してあげられるでしょ」

 

「いえ、彼も模様の意味を知らないはずよ」

 

「どういう事、話が見えないんだけど」

 

「私と高橋遊は何か大事なものを失ってる。忘れてはいけない、何かを。この模様は失った私たちに残された数少ない希望なの」

 

大事なものを失う。決してそんな風に見えなかった。

私に見せていない彼の本性があるのか、秘密にしていることがあるのか。

 

「近いうちに、彼という人間がわかる。」

 

「何が、起こるの?」

 

「異変よ」

 

「彼が、引き起こすの?」

 

「いえ、彼は今度の異変に巻き込まれるの。そこできっと、高橋遊という人間を知ることができる。そんな気がするわ」

 

八雲紫の勘、ということね。そんなもの当たるかどうか信用していないが、私自身の勘も何か不穏な未来を感じとっていた。

 

「だから、そのときはよろしくね。霊夢」

 

「いいわ、私自身遊が気になってきたし」

 

「お願いね」

 

謎の模様、失ってしまった何か。彼は何を知っているのか。高橋遊、貴方は何者なの?

 

「おーい、霊夢...っと紫じゃん」

 

「あら魔理沙、どうしたの?」

 

私は魔理沙から事情を聞くと途端腹の虫が鳴った。

そう言えばお昼も食べてなかったし、早めの夕食にしても良いわね。

博麗神社を出ると魔理沙の家へと向かった。私と魔理沙と、紫。なぜかついてきた大妖怪も一緒に夕食を囲むこととなった。

着くとまず目につくは家の外に山積みになったガラクタの山。魔理沙の家がどうなっていたか容易に想像できる。中に入るとリビングにはキノコ料理がこれでもかと並んでいた。

私はキノコが嫌いじゃない。ただキノコしかない食卓を見て一瞬引いてしまった。

 

しかし遊もそれなりに頑張ったようで味や調理法方で飽きさせないよう工夫されていた。

中身のない会話をしながら皆箸を動かし、机の上の食材はどんどんと無くなっていく。

 

「ねぇ、遊」

 

「なんですか?」

 

紫が何気なく遊に声をかけたのを黙って見ていた。彼女が別の手に持っている紙に見覚えがあったからだ。

 

「これ、見覚えある?」

 

「...あぁ!携帯のケースに書いてあるマークですよ!」

 

「貴方が書いたの?」

 

「いや、気づいたらついてて。よくわからないんですよね」

 

「そう、なんでもないわ。」

 

紫は何事もなかったように箸を伸ばした。分かっていて質問したんだ、私に遊が本当に模様について知らないことを見せるために。

 

わかったわよ、起こるんでしょ異変が。そのとき、見せてもらおうじゃない。

高橋遊、貴方を

 

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