東方凡庸録   作:バルバドス

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紅霧異変『覚醒』
7話 紅い空


「ち...なんだこの空」

 

時は暁天。また新たな朝が始まろうとしていた。さぞ今日もよい天気、そう思っていた。博麗神社の縁側からその空を眺める一人の男。暗い周囲に溶け込んでいるようで姿形もはっきりしない不気味な存在。

横には布団の中でぐっすりと夢の中にいる男もいた。

 

「嫌な予感がするな。胸騒ぎとも言うべきか、武者震いというか。」

 

空は青ではなく、赤だった。流石の俺もこれが幻想郷の常識とは思えない。空は黒と青、時々灰色を繰り返すのが幻想郷でも常識のはずだ。

 

「へ、悪趣味なやつだ」

 

よりにもよってこんな深い紅とはね。曇りよりもどんよりとしてやがる。

異常な空、何かがこの幻想郷で起きる前触れだろう。

 

「...俺はそう簡単には消えないのかもな」

 

万が一力が必要になった時、高橋遊がこの力を正しく扱えるのか、無理そうだな。だったらその時は...。しかし、俺が幻想郷に関わるのは危険なんだ。俺は高橋遊だったものなんだ。

 

「俺は、何だ?」

 

だったものとはなんだ?なぜ俺が出ることが危険なんだ。

なぜ俺は2人必要になったのか。

なぜ俺が高橋遊だと危険であると根拠もなく言い切れるのか。

なぜ俺は幻想郷を知っていたのか。

わからないことだらけだ。

 

「朧」

 

脳裏から離れない言葉、いや単語なのか、何を意味するのか。今俺にあるのはこの言葉だけ。

忘れてはいけない、これを忘れてしまえば俺の存在価値はなくなる。この言葉があるから、俺はここにいる。

わからないことだらけだ、俺にはわからないことしかない。ただ一つわかるのは、大事な何かを失ったと、気づいていることだ。

 

「探して、教えてくれ俺の存在価値を。見つけて教えてくれ、存在する理由を。」

 

そのために、俺はお前に力を渡した。後はお前が気づくだけだ。

 

男はそう言い残し闇に消えた。

 

暁天の空は次第に明けていくも、空は紅く染まるだけ。

後にこの異変は『紅霧異変』と名付けられ、幻想郷の歴史の1ページに刻まれることとなる。

 

 

 

 

 

幻想郷四日目の朝、初めて晴れ以外の天気を見た。

さて、僕には幻想郷の常識がないため空が紅いこの天気はなんという気象なのだろうか、わからない。

 

「博麗、この天気は一体」

 

「私も知らないわよ。」

 

「え?じゃあなんで空が紅いの?」

 

「わからないわ」

 

なんだか寒気がしてきた。見るからに不吉な空、大災害の予兆たったりして。

 

「紫、いるんでしょ」

 

「うふふ、おはよう」

 

博麗が突然あらぬ方を向いて話しかけると何もない空間から紫さんが現れた。境界を操る程度の能力、なんて便利な能力なんだ。

 

「私の趣味に合わない空ね」

 

「だったら元に戻さないと。」

 

「これね、紫が言っていた近々起こる異変って」

 

「こんなに分かりやすいものだったのは驚きよ。」

 

「だったらまたあなたの勘に聞こうかしら。どこの誰が首謀者なの?」

 

「聞いた話なんだけど以前までなかった謎の館が幻想郷のどこかに突如表れたらしいの」

 

「謎の館ねぇ。いかにもって感じ」

 

話についていけないが、これが幻想郷にとって非常事態なのはなんとなく理解した。

 

「異変解決、頼むわよ博麗の巫女」

 

「改まって言わないで、気持ち悪い」

 

異変解決、どうやら博麗はこれから大仕事しに行くようだ。

 

「博麗だけで原因を突き止めて解決するのか?」

 

「そう、異変解決も私の生業の一つ。」

 

八雲さんの手を借りず一人なのか。大丈夫だろうか。

心配するが、僕にできることはない。黙って無事を祈るしか出来ない。

 

「おーい、霊夢」

 

「はぁ、来たわね」

 

そこに霧雨が到着。いつもの面子が揃ったが、今日はゆっくり駄弁る時間はない。

 

「人里じゃ体調不良の人間で溢れてた。これはとっとと解決しないと被害者が増えるぞ」

 

「わかってる、今から行くわ」

 

「おいおい、私も忘れるなよ」

 

「付いてくるなって言っても来るんでしょ。邪魔はしないでね」

 

「へへ、久しぶりに暴れられるな」

 

「魔理沙も一緒なのね。任せたわよ」

 

霧雨と博麗、年端もいかない女の子2人に任せるって不安で心配で落ち着かない。

だが八雲さんはそんな2人に全幅の信頼を寄せている。

彼女達は僕の想像以上の力があるんじゃないか。

 

「それと遊も、頼んだわよ」

 

「はい...はい?」

 

最初は博麗に留守番のことを言われたのかと思ったが、八雲さんが優しく微笑みながらこちらを向いていたのでとんでもない発言であると気付いた。

 

「ほら、一緒に行くの」

 

「え、だって僕ほら、飛べないし何も出来ないし」

 

「遊、貴方も来るの。」

 

博麗までそんな事言って。僕が何も出来ないのを隣で見ていたじゃないか!

 

「なんで、僕がいたって」

 

「必要だから」

 

僕が、必要?

 

「どこで、必要になるんだ?」

 

「付いて来ればわかる。だから来て」

 

いつになく引き締まった表情の博麗にどこか恐怖さえ感じた。博麗は妖怪退治も受け持つプロ、どんな事態でも慌てず直ぐ様原因を突き止め解決に導くだろう。僕と過ごしている時間の密度が違う。

そんな人物に僕は果たして本当に必要なのか。それを教えてくれるのは、異変の中しかない。

 

「わかった。僕もいく」

 

「霊夢、本当に遊は何も出来ないぞ」

 

「...それを確かめる。遊をのせてあげて」

 

「はぁ、よく分からないが仕方ないな。」

 

霧雨は昨日と同じように僕を後ろにのせ、一足先に空へ浮かんだ。2度目となると心に少しだけ余裕が生まれる。足が宙ぶらりんなのは絶対慣れないと思う。

 

「霊夢、どこ行くんだ」

 

「そうね、勘だけどあっちに進みましょう」

 

すぅーっと浮上してきた博麗は前方を指差した。

おお、本当に生身で飛んでいる。疑っていたわけではないが自分の目で見るとやはり信じがたい光景だ。

 

「はいよ。博麗の勘ね」

 

情報が館ってだけだし、仕方ないか。飛び回ってあちこち探しだすしかない。霧雨の肩を掴んで飛行に耐えられる体勢をつくる。

僕が必要、こんな僕を必要としてくれている。

一体、僕に何が出来るんだ。

 

紅い空、魔法使いと巫女、そして男が飛ぶ。

当てはない、謎の館という大雑把な目標に向かってひたすらに。

暫く森の上を飛んでいると、前方からふらふらと黒い球体がこちらに向かってきているのに気がついた。

博霊も霧雨も気付いたのか少しずつスピードを落として様子を見ている。

 

「...あれは、妖怪?」

 

球体は減速し、停止した。こちらも揃って停止すると球体が透明になり、人の姿が見えた。

金髪に紅いリボンを乗せた黒いワンピースの女の子、一見あどけなくて可愛らしいが、異形な者の雰囲気が漂っていた。

 

「誰?」

 

「霧雨魔理沙、普通の魔法使い」

 

「博麗霊夢、楽園の素敵な巫女」

 

ここで言うことじゃないが、幻想郷の名乗りは二つ名って感じでかっこいいな。厨二心を擽られるってのもあるし、僕はどう名乗ろうかな。

 

「私はルーミア。宵闇の妖怪」

 

「ルーミアね。急いでるから道を譲って」

 

「通りたきゃ横を通れば」

 

「...そうさせてもらうわ」

 

僕たちがルーミアの横へ回り込もうとしたとき。目の前を何かが横切った。

 

「何か用かしら?」

 

「空が紅いと、人間は弱るらしいね。」

 

「そうだけど、それがどうしたの」

 

「いつもは面倒なんだけど、弱ってるなら...楽して食べれるよね?」

 

「最初から弾幕がしたいって言いなさいよ」

 

博麗とルーミアは距離をとった。何か始まる、2人の様子を固唾を飲んで見守っていた。

 

「始まるぜ、弾幕ごっこが」

 

「弾幕ごっこ?」

 

「幻想郷の名物だ。私たちはこれで優劣をつけるんだ」

 

ルーミアが手にした細長い紙、それを空にかざして。

 

「月符『ムーンライトレイ』」

 

僕はこの時生まれて初めて弾幕ごっこを見た。

そして最初に、綺麗だ、と口からこぼれた。

 

ルーミアを中心に円状に放たれた光弾の間を博霊が縫うようにすり抜ける。しかしそこへ追撃の2本のレーザーが挟み込むように迫り来る。狭まるレーザーの間で光弾を避けつつ、博麗も負けじと打ち返す。

まるで魅せるスポーツ、こんなもの見たら観衆は興奮し、会場は一気に沸くに違いない。

弾幕ごっこ、それは綺麗で儚い、少女達の遊戯。

僕は完全に魅せられた。

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