弾幕ごっこ、それは幻想郷においての決闘方法。
妖怪と人間の間にある力の差を埋めるために考案されたもので、相手を殺すのではなく互いに編み出した弾幕をかわし合いスペルカードを駆使して優劣を決める、華やかな遊戯である。
「つーわけだ」
「なるほど」
弾幕ごっこ、これが幻想郷の決闘方法。
「夜符『ナイトバード』!」
ルーミアが2枚目のスペルカードを宣言。円弧状に弾幕を右へ左へとばらまいた。
博麗はその間を易々と抜けていく。まだまだ余裕がある。
「あんまり遊んでる時間もないから、終わらせるわね」
高らかな勝利宣言と共に掲げられたスペルカード。
「夢符『封魔陣』」
博麗を中心に大量のお札が四方八方へ飛び交う。
前から横から後ろから、死角から襲い来る札にルーミアも焦りの表情が見え始めた。
「やるじゃない、でも!」
突然お札の動きが変わった。ルーミアは疲労のためかその動きについていけず、先ほどまでかわしていた札に接触してしまう。被弾音らしき甲高い音が辺りに響き渡った。
「まだやる?」
「ううん、もういいや。なんだか疲れちゃった」
額の汗を拭ったルーミアは満足気に笑みを浮かべていた。
「今度こそ通るわよ」
「どうぞー」
ニコニコと笑みを浮かべるルーミアの横を今度こそ通りすぎた僕らは、また博麗の勘を頼りに進んでいく。
「どうだった遊、弾幕ごっこ」
「凄かった、っていう感想しか出ないよ。霧雨もやるの?」
「もちろん。それに私のは霊夢よりド派手だ。」
「魔理沙の弾幕は単調なのよね」
「わかってないな霊夢。弾幕はパワーだぜ」
各々のプレースタイルもある。素人の僕には霧雨の考え方も、先ほどの博麗のスタイルもどっちも合っていいと思う。見ている分には、どちらも綺麗だし。
「さて霊夢、この先って確か湖だったよな?」
「ええ、確か」
「あそこ、湖以外あったっけ?」
「なかった、はず」
霧雨の肩越しから森の中に鈍く輝く円形の湖が見えた。
そして、2人のよう畔に、怪しげな建物がうっすらと霧の中揺らいでいた。
「あれだな。さすが博麗の巫女の勘」
「誰に許可取って建てたのかしら」
洋館の外観をした洋風の大きな建物は、近づくにつれ不気味な正体を露にしていく。
外観の色が真っ赤で、そのインパクトは当分忘れられそうにない。こんな建物に住んでいる家主はきっと、変わり者なんだろう。
「とっとと乗り込みたいけど、また変なのが来たわね」
僕たちの進路を阻むように、水色の髪の女の子が立ちふさがった。軽い青のワンピースがよく似合う女の子で、どうにも自信たっぷりに腰にてを当てている。その後ろには黄色いリボンがよく似合う緑髪の女の子もいるがこちらは対照的におどおどしていた。
「妖精か?」
「よく分かったなとんがり帽子!私は氷の妖精チルノ、幻想郷最強のチルノ!」
さ、最強!...とてもそうには見えない。
博麗や霧雨より強いとは思えないが。
「おいおい、博麗の巫女の前で最強名乗るって」
「博麗の巫女...そうか、お前が博麗の巫女か!」
「私じゃなくてこっちの紅白」
なんだがこの子の事、分かってきた気がする。
まぁ、若気の至りってやつか。小さい頃って視野が狭いから勘違いしちゃったりすることあるよね。
「博麗の巫女、私と弾幕だ!」
「ち、チルノちゃん」
「ふふん、見てて大ちゃん。博麗の巫女を倒して幻想郷最強が誰か白黒つけてやるんだ」
博麗もこの反応にはやれやれといった感じ。怠そうに臨戦態勢に入ると、チルノも距離をとった。
「雹符『ヘイルスト
チルノは早速スペルカードを切ってきた。しかしそれは博麗もだった。
「夢符『封魔陣』!」
チルノの雹のような弾幕は博麗へ襲いかかっていったが、お札の動きは雹とは比べ物にならない早さだった。
甲高い被弾音、あっさりと決まった。
「卑怯者!こっちがスペルカードの途中だったのに」
「タイミングは同じよ。それにスペルカード発動最中にスペルカードを発動させるのは別に卑怯でもなんでもないわ」
「くぅ、こうなったらこれだ!」
チルノはもう一枚のスペルカードを取り出した。
「氷符『アイシクルフォール』」
チルノの左右から弾幕が挟み込むように博麗を襲う。
博麗はその場でかわしながら、なんとか反撃に出ようと弾幕を打つ。
「霊夢、前だ」
「前...なるほどね」
霧雨の言葉になにか気づいたようで頷くと、博麗はチルノの前まで突き進んだ。真ん前で来ると大胆にもふわふわと何もせず浮いている。
「な、なんで当たらない!?」
「はぁ、バカね。もういいでしょ」
無慈悲にも至近距離から弾幕を連打。またも鳴った甲高い被弾音とチルノの悔しがる声。
「ち、チルノちゃん!」
「くっそー覚えてろよー!」
聞き覚えのある捨て台詞を残して2人は湖の方へ戻っていった。あんな小さな子とも弾幕ごっこなら平等に遊べるのか。...僕は飛べないし、弾幕出せないけど。
「それじゃ気を取り直して...入りますか」
「そうね」
謎の紅い館へ徐々に降下していく。上から見ると庭もあって大きな門もあって、個人所有とは思えない、まるでホテルだ。
門の数十メートル前で降りた3人は地上から改めて館を見上げる。不気味だ。赤一色に塗りたくるのは趣味なのかセンスなのか。
歩いて門に近づくと、門の前で仁王立ちする人影が見えた。ゲームで見たことのあるチャイナドレスに身を包んだ赤紙の長身の女性。
「どなたですか」
「霧雨魔理沙、普通の魔法使い」
「博麗霊夢、博麗神社の巫女」
「高橋遊です」
「私は紅美鈴、この紅魔館の門番をしている者です」
深くお辞儀をした後、僕たち三人を睨み付ける。
道幅は広く、横を通り抜けようとすれば可能である。しかし彼女の気迫がそれを考えることすら許さない。
「これ紅魔館って言うんだな。それで私たち紅魔館の主にお話があって来たんだ。ちょっと通してくれ」
「今日は来客のお話を聞いておりません。お引き取りを」
「へへ、そうかい!」
霧雨は懐から取り出した六角形のマジックアイテムを紅美鈴へ向けると、ビームを数本発射した。
不意打ちで一瞬怯んだが、難なくかわされると戦闘態勢を直ぐ様作った。
武術の構えかな、チャイナドレスを着てるし由来は中国の武術か?思い付くのは太極拳とか、カンフーとか?
「悪いが通してもらうぜ」
「門番の仕事、果たします」
霧雨は箒に跨がると上昇し、頭上から大量の弾幕を放つ。博麗のような狙いすました物じゃなく、文字通り弾の幕であった。
量と早さで圧倒する、これが霧雨のスタイル。
「そんな適当な弾幕に当たると思ってるの?」
「だったらこれでどうだ!」
今度はビームを連発するが、バク転でかわされる。
あの紅美鈴って人、かなりの身体能力だ。それに早い、箒の霧雨のスピードについていっている。
とても同じ人間とは思えない。
「気付いたようね、遊」
「え、何が」
「あの紅美鈴っての、妖怪よ」
「...凄い身体能力してるけど、勝てるの?」
「弾幕ごっこが身体能力だけで勝てる程甘くない」
妖怪の紅美鈴が普通の魔法使いの霧雨に接近戦でなら体格の差で勝てるかもしれない。しかしこれは弾幕ごっこ。
「魔理沙は私と違って奇想天外な戦い方を得意とするの」
「トリッキー、ってやつか」
「そう。見ていたら納得するわ」
霧雨は以前空から弾幕を無造作にばらまく。奇想天外、そう聞くとこれも作戦に見えるな。
「さてそろそろ堕としましょうか」
紅美鈴が取り出したスペルカード。とうとう反撃に出た。空を飛ぶ霧雨は不適に笑う。
「華符『芳華絢爛』!」
霧雨の高さまで飛び上がった紅美鈴を中心に虹色の弾幕広がる。それは上から見ると一輪の花。咲き誇る弾幕の華。襲い来る花びらに、霧雨は一瞬で飲み込まれる。
「霧雨!」