黒猫さん隠し事とか出来そうにないし、クラス皆でどうにかせん? 作:本之蛆
コーヒーポットにお湯を入れてガスコンロにかける。コーヒー用のマグカップ......と、冷蔵庫から牛乳。棚からはドリップバッグ。
沸騰するまでツイッター眺めて......あ、黒音さんがなんかやってる。
昨日の配信は良かった............黒音さんが百合ってそれ最高かよ。
イキリクソザコ陰キャとしっかり者陽キャJKで百合とか最高じゃん。SS展開なら陽キャが距離感ミス→好かれてると思った陰キャがドーンしてバーン、かな?
親切にしただけで懐かれちゃって戸惑いながらもずりずりずぶずふ引き込まれていく......みたいなね。
......書くか? センシティブタグがある以上そういうことしてもいいんだよね?
............。
まあ、気が向いたらツイッターにでも投げよう。
黒音さん学校でも女子からアプローチされてたしな......それも二人。
小林はただの親切心ぽかったし、このまま順調に百合の花を咲かせてほしい。
リアルでもバーチャルでも同性からアプローチ来るんだもんな、魔性だよホント。
あ、お湯沸いた。
一度注ぐ。ツイッターに戻る。
えーっと、修行回?
丁度始まったとこみたいだし覗くか......ああ、夏波結のチャンネルでやってるのね。
二回目を注ぎながら再生ボタンをタップ。
『────はい! 今日はなんと昨日私に泣きついてきた燦のために修行回、しますよ!』
ほーん? コミュ障陰キャが一体どうやってヘルプを出したのか気になりますなぁ? てぇてぇか?
こりゃ公式百合路線あるんじゃないのーと書き込みながら三注ぎ。
『そんなわけで本日のゲスト1人目、黒猫燦ちゃんでーす』
『こ、こんばんにゃぁ……』
はいはい声小さ......くない?
『ちゃんと挨拶できてえらい!今回はあらかじめ通話しておいたんだよねー。どうかな、前より緊張してない?』
『う、うん』
有能。こういうフォローができるの強いよな。
絶対未成年じゃないだろ。
まあどっかのスポンジキャットではなく良識ある人間様ですから不用意な言葉は心の内に閉まっておくとして、どうやらもう一人のコラボ相手は我王神太刀らしい。早速紹介にツッコミを入れてる。
いやー黒猫さんが百合宣言したから男性ライバー出てきても安心して見てられるな。それっぽい雰囲気だけ作って結局男性の方に流れていったりしたら萎えるからな......最初から男女のてぇてぇならそれはそれで楽しめるんだけど。
ドリップバッグを外してゴミ箱に捨てる。
牛乳を入れ、左の手でスマホを持つ。
カップを右手に部屋へ移動。
うーん我王、お前もしかしてもしかすると弄られキャラだな? あー、陰キャが無理にでも会話するときって弄られキャラがいた方が話しやすいのはあるかもな......
こういう陰キャは何が地雷か分かんないから、マウントを取らせてあげた方が口が軽くなるのはあるかもしれない。
黒猫なら調子に乗りそうだけど。
『───まま......』
───っと、はい来ました黒猫燦の爆弾発言。えーっとどういう流れで......相手の印象ね、それがママだと。
あーもう収集つかなくなってるし我王があのキャラで空気化してる............おのれ、苦労して習得したスキルを他にも使えるものがいようとは。
いけーこのままくろゆい疑似親子ネタで押してけー。
コメント欄で援護射撃、支援砲撃をしつつゆいママによる収拾を待つ。この流れにどう収拾つけるか見物だぜ。ただ、ゆいママはもうゆいママに決定だろうけど。
あ、我王が喋った。
我王帰れコメに便乗して適当に書き込む。
後でチャンネル登録してこよ。
我王のお陰でどうにか軌道修正して次のマロへ。えーっと? あるてまに入って良かったことね。
『うーん、私はやっぱり友達がたくさんできたことかな。燦とか裏ではリースちゃんともお喋りするし、リスナーの皆も友達だと思ってるよ』
『我は自分の世界が広がったことだな。もちろん、今までの我も古今東西あらゆる場所へ行ってきたが、バーチャルというのは我も初めてで毎日が楽しいと思っている……ここには平和を脅かす敵はいないからな』
『私は……』
無難、厨二ときて、黒猫はなんと言うのか。友達ができた、かな? いやママって言ってるし友達はできてない認識なのか? ぼっちの友達観は難しいから予想つかないな......
『私は……毎日が楽しい、かな』
......おう、これまたずいぶんと重たいことを。
学校での黒音さんを頭に浮かべる。フォローはしていたつもりだった。しかし結局、黒音さんには友達と呼べる友達はいないのだ。
同士達と一緒にクラスメイトとして軽い友達ぐらいにはなれているつもりでいたのだが、どうやら駄目だったらしい。
話しかけるとビビる黒音さんを見すぎて感覚が狂ってた。
あれがデフォルトだと思ってたけど、ゆいママとの会話を見る限り気安い会話だってしていたのだ。
痛恨......痛恨の極み。
上手くやれている気になって、結果なにもできていなかった............
これは同士達と会議せねばなるまい。
でもとりあえず今は配信を見よう。
んーと? 自信のあること、ね、コミュ力と闇の力()と......黒猫の特技ってなんだろ、炎上芸?
まずはゆいママから。
やっぱりコミュ力だよね、知ってた。黒音さんとそんだけ距離を詰められるのは素直に凄い。壁壊すのって難易度だけじゃなくて勇気いるからな。そこで我々は遠巻きに見守ることにしたわけだが......いや、この話は後でしよう。
我王は即興詠唱、ですか。へぇーこれ本当に即興ならトークスキルかなり高いんじゃないの? 慣れはあるのかもしれないけど、咄嗟にここまで考えられるのは純粋に凄いな。
あ、黒音さんも患ってるのね。うっわコメ欄が地獄絵図......
闇の炎に抱かれて~とでも打っといて、黒猫の特技を聞かせてもらいましょうか。
『…………顔?』
『んぶふっ』
あっ。
............自信満々、天上天下唯我独尊な台詞にコメント欄が大騒ぎしてるけど、間違ってはないんだよな。
実際、非の打ち所のない美人だし、本人もネタのつもりで言ってる訳じゃないみたいだし.........
内面は意見が割れそうではあるものの、外見は満場一致で太鼓判を押せるだけのものを持ってる。おそらくヒンヌー教徒も膝を屈せざるを得ないだろう。
フリーズしていた我王がようやく回復。
よくわからん流れのまま次のマロへ。
黒猫とゆいママどっちがいいか、ね。
個人的には黒猫。というか、コラボ以外でゆいママの配信見ないし......
我王はゆいママと答え黒猫が暴走。
いや本当にそこで審査したんだったら我王は考え直した方がいいかもだけど、性格的に見ても実際に接する同僚としてもゆいママの方が......ん? これはリアルの話なのか? バーチャルのキャラとしての話なのか?
............。
黒猫がリアルではついてるついてる言うからあんまり気にしてなかったけど、普通Vtuberが中の人の話したりしないよな? ゆいママも釣られてリアルの顔の話しちゃってたけど。
どうなんだろう。“キャラクター”として楽しむべきなのか、中の人がいるものとして楽しむべきなのか。
キャラクターとしてそういう容姿の存在がいるものとして捉えるべきか、リアルでは別の姿の中の人が動かしているものとして捉えるべきか。
どうでもいい、されどとても重要なことを考えている気がする。
そうこうしている内に配信は終わった。
............リアルの黒音さんを知っている。
意識してはいなかったが、思い返してみると分かる。
黒猫燦を見ているときにも黒音さんの存在はチラついていたし、黒音さんを見ているときにも黒猫燦を通して見ていることがあった。
VtuberはVtuberだ。
バーチャルな存在であって、中の人を通して、中の人がいることを前提として見るものではない............と、思っていたつもりだった。
中の人を元にして作られているとはいえ、Vtuberはキャラクターを演じて、それをリスナーに見せている。
そのキャラクターとは違うものを見るというのは、正しいのか............
カップを手に取る。
口につけたコーヒーはぬるく、やけに苦かった。
お読み頂きありがとうございます。
ということで、『リアルを知っているがゆえの悩み』ですかね。モブ男君以上に全てを知っている我々とも違う視点で配信を見ていてどう思うのか、どういう見方をすればいいのか............みたいな。
そんなの結局は個人のスタンスでしょうし、Vtuberなんだからリアルがあるに決まってんだろとか、見た目が変わっても性格が好きなんだからいいやろとか色々あると思います。
モブ男君はこれから黒音さんにどう接するかを同志達と話し合う必要があるので、スタンスのことで悩んでばかりもいられないんですけどね。
リアルを知っているからこその視点というものを書きたかったので、その苦悩が上手く伝わっているといいのですが。
追記:コロナ禍が終息し始め、今までのツケが回ってきた......今後は相当不定期というか、状況次第になりそうです。ご了承下さい。
とあるVtuberを観てモブ男君を忖度系Vtuberにする案も考えたんですが、動機が......とまあ忘れた頃に続きが書かれる、かも?