「なぁ、私はあと、どれだけの時を待てばいいんだ?」
暗く、深く、『彼女』以外に何もない場所に私はいた。
ここでは何もすることがなく、それ故に私は何もしないでいた。だからこそ我が国が滅び五百年という時が経とうとも、私はまだ活動を続けられるのだ。
私は目の前にある『彼女』が入っているケースに触れると、ハァと小さなため息をつく。この五百年という時間で、何度したかわからないこの行動。だが私にはそれしかすることがないのだから、仕方がない。
「どうして目覚めてくれないんだ」
君が目覚めた後の準備はもうすでに終えているのに、あとは君が目覚めるだけなのに。
こいつを作り上げるのに私は百四十年という時間を費やした。元々私は人間であったが、もう体のほとんどが機械による補強を受けている。初めて私を見たものは私をロボットと思うほどに、体は機械に浸食されている。
だが確かに私は人間だ。それは私の中に残り続けている心がそう言っている。
「いや、例えこの心が機械による偽りのものだったとしても……、それでも私は君を待っている」
もう一度『彼女』に触れようとした瞬間に、王室の上層部から爆音が聞こえる。ここ最近何度も何度も聞くその音は、日を追うごとに大きくなっている。それは同時にこの最深部に何者かが向かっていることを表していた。
私はゆっくりとその場から立ち上がると、『彼女』が入っているガラスケースに触れる。そして目の前の扉を見ると、この二百年ほど力を込めることのなかった体を、無理やり起動させた。
「君と私の居場所を壊させはしない。君の目覚めには間に合うようにするから、少し待っていてくれ」
私は古びた王室の中にある、唯一点検を怠らなかった武装に手を伸ばす。人の生を導く研究の末に出来たどうしようもない殺戮兵器。だが、私はそれを使うことに躊躇はなかった。
「……それじゃあ、行ってくるよ」
人間である私の背中には、黒く大きな翼が付けられている。翼が軋む音に耳を傾けることなく、その翼を展開させると、『彼女』の眠る部屋から飛び出していく。
「物音は上からか。……また奴らが来たのか」
きっと奴らの狙いはこの場所にあるアレであろう。
だがそれを渡すわけにはいかない。あれは彼女のためにだけに存在しているのだから。
このまま防戦しているだけではダメだ。何か手を打たなければ。
私は右手を強く握り締める。機械の体はギシギシと軋むが、それは私が生きているという証でもある。
私が止まってしまう前に、早く。早く目覚めてくれ。