レイジングミラージュ 【終わりなき蜃気楼】   作:白翼

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 写真館のくつろぎスペース。そこで士はいつものようにソファーを独占し、リラックスしていた。その隣のテーブルにはティアナが座っており、そして――。

 

「うわぁ、このお菓子おいしいよティアー」

 

 スバルは栄次郎が作ったお菓子を次々と口に運んでいく。そんな相棒の姿を見てティアナはハアァと大きなため息をついた。

 

「全く子供じゃないんだから。……まあ、たまにはいいか」

 

 ティアナはコーヒーを口の中に運んでいく。それはあの日一口もつけることなかった、栄次郎が入れたコーヒーであった。

 

「確かにあんたの言うとおりおいしいコーヒーだわ」

 

 あの事件から三日。『始めからなんの怪我もなく、健康そのものだった』スバルは、今日も今日とて元気いっぱいであった。なのはは最悪の事態からは脱することができたが、長年昏睡状態だったため、今はリハビリに勤しんでいる。とは言っても、この三日間はもう目覚めることのないと思っていたなのはの復帰に、ほとんど宴会騒ぎではあったが。

 

「みんな普段から有給を貯める人だったからね。まさか機動六課が解体された後に、全員集合するとは思ってなかったわ」

 

「それもこれもティアと士さんのおかげだよ。よくあんな遺跡を見つけることができたよね」

 

 そう言ってスバルは再びお菓子を口に含む。そんなスバルを見て士とティアナは互いに苦笑いを浮かべるのだった。

 

 士の使ったタイムベントでナサレを過去に戻したことにより、少しばかり未来が変わってしまったのだ。

 

 一つ目は、スバルや管理局の人間が怪我を負ったという事実がないこと。

 

 二つ目は、士とティアナが突入した遺跡がまだ管理局に発見されていなかったということ。

 

 そして三つ目は、死んでいなければ全てを回復させるロストロギアの存在。それが明るみになっていないということだ。

 

 士はナサレを過去に帰し、使用可能なロストロギアがあの場所に置かれていることを計算していた。だが今ある事実はティアナにとってさらに理想的であった。

 

 歴史が少し変わった現代において、あのナサレ達の城は、『管理局の遺跡調査部隊の士が、友達であるティアナ執務官を連れて移動中に、たまたま見つけた遺跡』というだけの話になっている。

 

 無論改竄される前の現代では、そんな限定的な調査部隊は管理局には存在していなかった。だがこの現代には、士がこの世界に来て着ていたものと、同じ軍服を身に着けた小規模部隊が存在していたのだ。

 

 本当は罪に問われてもおかしくないティアナと士であったが、今では古代遺跡を発見した栄誉ある遺跡マニアとして管理局に名を轟かせている。士にとっては不名誉な呼び名であったが、そこはティアナが追々修正しておくということで決着がついた。

 

 あの遺跡にロストロギアがあったということを知っているのは、スバルやなのはを含めた身内のメンバーだけである。そしてその本当の真実を知っているのは結局、士とティアナ、そしてマッハキャリバーだけであった。

 

「そういえば士、あんたはユウスケさんや夏美さん達と買い物に行かなくてよかったの」

 

「いいんだよ。俺に荷物運びは似合わない。それに全員で行ってここを留守にするわけにはいかないだろう。それよりだ」

 

 士は首にかけているピンクのカメラを構えると、それをティアナとスバルに向ける。

 

「どの世界に行っても必ず一枚は写真を撮ってるんだ。この世界に入ってからまだ一枚も撮ってないからな、ここで撮らせてもらうぞ」

 

「えっ、ちょっと、いきなり」

 

「いいじゃんティア、ほらほら」

 

 そう言いながらも、スバル自身は映る気がないようで、ティアナの背中をグイグイと押す。そんな相棒の姿を見ていると、仕方ないかとティアナは笑顔を浮かべるのだった。

 

 特に合図もなくカチリとシャッターが切られると、それで撮影は終了する。これでやり残したことはないと、士は再びソファーに体を預ける。すると今度はティアナが士に声をかけるのだった。

 

「ねぇ、士。あなたはまたどこか違う世界に行ってしまうの」

 

「ああ、そのつもりだ。ここは俺の世界じゃない。俺は通りすがりの仮面ライダーだからな。またここも通り過ぎていくだけだ」

 

「そんなの寂しいですよ士さん。私もティアも大歓迎ですからここに残りましょうよ。そしたら私もおいしいお菓子が毎日食べられますし」

 

「スバル……まったく」

 

 そういう意味じゃないと相方をポコッと叩くと、ティアナは席を立つ。そして士を真っ直ぐに見詰めた。

 

「今回はたまたま士がいたからなんとかなった。私一人だけの力じゃどうしよもならなかった。だから士がよければ――」

 

 一緒にいてほしい。そう言葉に出そうとしたが、それは扉から聞こえてくる声にかき消されるのだった。

 

「やっとみつけましたよ二人とも!」

 

 そう大声をあげて一人のヒョロヒョロとした男が写真館に飛び込んでくる。

 

 士とティアナはその男に目を向けるが、如何せん二人にはその人物の記憶がなかった。

 

 だがその軍服を着た男は違った。彼は改竄された世界において、新しい役目を与えられた人物なのだから。

 

「探しましたよ門矢隊長、ランスター執務官。早くしないと約束の時間に間に合いませんよ」

 

「お前、何で俺の名前を知ってるんだ。というかなんだ隊長って?」

 

「何をとぼけてるんですか、あなたは私達遺跡発掘部隊の隊長じゃないですか。そうやっていつもいつも仕事をサボるんですから。今日は絶対に逃がしませんからね」

 

 男はそういって部屋のドアの前で両腕を拡げる。未だに状況を把握しきれてない士ではあるが、助け船を出すようにティアナが声を上げるのだった。

 

「あの件よ士。ほら、私とあなたが散歩中に遺跡を見つけたじゃない。その功績を讃えた表彰式が今日あるのよ」

 

 士はティアナの言葉を頭の中で噛み砕いていく。そしてティアナがなぜ改竄された歴史のことについて話をしたのか、しばしの沈黙の後にその答えが浮かぶのだった。

 

「…………ちっ、そういうことか。面倒なことになったな」

 

 士は心底面倒くさそうに自らの頭を掻く。

 

 つまりはそういうことなのだ。改竄されたこの世界では、士は罪人ではなく、名誉ある遺跡マニア。そしてこの世界に来た時に、男と同じ制服を着ている時点で彼が遺跡発掘部隊ということは変わることのない事実となってしまったのである。

 

「っていうか、ティアナ。お前どうして今日が表彰式だってしってるんだよ」

 

「ご、ごめん。話だけは聞いてたんだけど、この三日間お祭り騒ぎですっかり忘れてて」

 

 先ほどまでのしんみりとした状況とはまた違った、寂しそうな表情をティアナはする。士の方も、ティアナに悪気はないとはわかっているが、現状が面倒なことに一切変わりはなかった。

 

 扉で待ち構えている男。少しイライラしている士。心底困った顔をしているティアナ。こんな三つ巴な状況をどうしたものかとそこにいる彼女は考えていた。

 

 だが彼女の答えは一つだ。大切な相棒のために一肌脱ぐ覚悟は、とうに出来ていた。

 

 スバルは手に持っているお菓子をお皿に乗っけると、ニコニコとしながら窓に近づいて行く。

 

「はぁー、いい天気。今日は絶好のドライブ日和だね。はい、ティア」

 

 スバルは首にかけているマッハキャリバーをティアナに渡す。受け取ったティアナは一瞬キョトンとした顔になってしまうが、そこは長年連れ添った仲。ワンテンポ置いて、スバルの意思を読み取るのだった。

 

「……ありがとう、スバル」

 

「いやいや、ティアだってまだ士さんと別れたくないでしょう」

 

「―――うっ」

 

「おい、さっきから何二人でボソボソと話してるんだ」

 

 士がそう言葉を出しながら、ティアナに近づいて行く。そして士の腕とティアナの腕が少し触れ合うと、彼女はまるで静電気が起きたかのようにバッと距離をとってしまうのだった。

 

 そんなティアナの姿をニヤニヤしながらスバルは眺めると、次にスバルは士の隣に立つ。そしてニッと士に笑いかけるのだった。

 

「それじゃあ士さん、店は私に任せていってらっしゃい」

 

「はっ?」

 

 士が疑問の声を上げようとした瞬間、彼の体は地面から離れていく。スバルは士の体をヒョイと持ち上げると、そのまま一直線に彼を窓に向かって投げ込むのだった。

 

「お、おいおいおい!」

 

 この世界に来て一番の予測不能の出来事に、珍しく士は取り乱してしまう。だが、投げられながらも士は何とか受け身を取ると、そんな彼に続いてティアナも窓から飛び出してくるのだった。

 

「ほら、行くわよ士」

 

「いきなり何言ってるんだ。助けた礼に嫌がらせか?」

 

「いいじゃない、少しの嫌がらせくらい。このまま表彰式なんて出たら、それこそ退屈で死んじゃうわよ」

 

「だからって、もう少しやり方があるだろうが。ったく」

 

 ティアナは士の手を取り彼を起き上がらせると、そのまま裏庭に向かっていく。そんな二人をスバルは微笑ましく、窓越しから眺めるのだった。

 

「た、隊長! ランスター執務官!!」

 

 軍服を着た男は二人の後を追おうと、すぐさま窓に向かう。しかしスバルはその男の手を取ると、先ほどの士のように持ち上げるのだった。

 

「まあまあ、少し落ち着いてお茶でもしませんか」

 

 落とす勢いがありながらも、スバルは優しく男を席に着かせる。だがそれで男が止まるわけもなく、すぐに立ち上がろうとする。だがそうはさせないとスバルは男の両肩を抑え込むと、ニコリと笑顔を向けるのだった。

 

「ここには士さんとティアはいなかった。だから二人が表彰式に出れなくてもあなた一人のせいじゃない。わかりますよね」

 

 スバルはニコニコと笑顔を絶やすことなく、それでいて椅子が潰れそうなほどの圧力で男を抑え込む。

 

 その後の流れは考えるまでもないだろう。常に前線を駆け抜けてきたフロントアタッカーのスバルと、体がヒョロヒョロの遺跡探索部隊の男。

 

 無論男がスバルに逆らえるはずもなく、二人はしばしのコーヒーブレイクに入るのだった。

 

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