「…………」
「…………」
いざ二人で街中を歩き始めた士とティアナであるが、如何せん会話の糸口がなかった。
無理やり叩き落とされた士はもちろんのことではあるが、隣を歩いているティアナはどこか余所余所しい。それは士と二人で歩いていることよりも、別のことに原因があった。
ティアナは人の視線を感じると、その人物に視線を向ける。だが、その男は慌てた様子で視線を外すと、そのまま走り去ってしまのだった。
「(いったいに何を見てるの)」
そうティアナが不審がるのは仕方がないことであろう。先ほどから彼女はそういった視線を一身に集めており、それに反応する度に先ほどのように素知らぬ顔で通り過ぎてしまうのだから。
ティアナは纏わりつくような視線から身を守る様に、ギュッと自信を抱きしめる。
「どうした、寒くなったのか?」
「いや、そうじゃないんだけど。やっぱり私にはこんなかわいい服似合わなかったかな」
「はっ? お前が白系統で服を選んでくれって言ったからわざわざ俺が選んでやったのに、不満があるのか」
「いや別に不満があるわけじゃ、それに目もくれずに一番近くにあった服を手に取るのは選ぶとは言わないわよ」
そうなのだ、別段こんなフリフリした服はティアナが選んだものではない。ただ彼女は今までなのはを助けられなかった負い目から、彼女と同じ白の服を着ることができないでいた。
だがそういった足枷が外れたティアナは、気分を新たにという意味で白の服を着ようと決心をしたのだ。
しかし管理局勤めが長い彼女は、常に執務官用のスーツか、バリアジャケットを着込んでいた。そんなことが何年も続いたティアナは自分のオシャレセンスに自信が持てなかったのだ。
だからこそ普段着がそれなりにオシャレな士に服を選んでもらうとしたのだが、その思想はまんまと外れ、こういった格好になってしまったのだ。
「せめて、長袖にすればよかったかな」
ティアナはそうぽつりと声をあげると、左右の腕でさらに自分を抱きしめる。それは自らの腕を隠すための行為であった。
常に前線を駆け抜けてきたティアナの腕は、その戦闘の厳しさを表すかのように無数の傷が刻まれている。
普段のスーツは長袖の上着があり、バリアジャケットを着ている戦闘時には腕の傷など気になりはしない。
そして自らの不格好さに最後には渇いた笑いすら、ティアナは浮かべていた。
だが士はそんなティアナの姿を見ると、その頭をグリグリと引っかき回していった。
「なっ、何するのよ士!」
「お前がさっきからウジウジしてるからだろ。落ち込むのは勝手だが、隣にいる俺には不快でしかないぞ!」
「えっ……ご、ごめん」
「おおかた通行人の視線が集まってるのが気になってるんだろ」
士がそう声に出すと、ティアナの心臓はドクンと大きく鼓動する。
そして自分の表情がそこまで落ち込んでいたのかと、ティアナは士に嫌な思いをさせたとさらに落ち込んでいってしまった。
「おら、また落ち込む。そんなにウジウジ悩んでるなら、どうして視線が集まるか教えてやるよ。まあ当たり前って言えば当たり前のことだ」
「それってやっぱり私の傷が」
「はっ、自惚れるなよ」
士は落ち込むティアナの視線を無理やり自分の方に持って行く。そして親指でクイッと己を指さすのだった。
「通行人の奴らは俺があまりにもカッコいいから振り向いているだけだ。まあどんな衣装でも着こなす俺だ、その俺が普段着を着ているんだから振り向かない人間はいないさ」
そう士は自信満々に自らを褒めたたえる。全てが自分の傷のせいだとティアナは思っていたが、士の言い方があまりにも堂々としており、一瞬それを信じかけてしまう。
だがティアナはその応答に、すぐに答えを出すのだった。
「ふふ、ありがとう士。そうよね、士はカッコいいからね」
「ああ、ようやくお前もわかってきたようだな」
そう言って満足そうに士は進行方向に向くと、ティアナは本当に小さくため息をついた。
自分が思った以上に落ち込んでいることに対して、士は気を使ってくれたのだ。半分は本気かもしれないが、それでもあの面倒くさがり屋の士が、自分に気を使ってくれたのが、ティアナにとっては本当に嬉しかったのだ。
だからこそ先ほどのため息は、今日最後のため息だとティアナは心に決めた。これ以上、士に嫌な思いをして欲しくない、それが彼女の本心であったから。
そのままティアナは士の元の足早に進んでいく。すると、突然足を止めた士の背中にティアナはぶつかるのだった。
「ん? どうしたの士??」
純粋に疑問の眼差しを向けてくるティアナになぜか士はウっとたじろぐ。だが、自らの頭をガシガシと掻くと、なぜか彼は一呼吸間をおくのだった。
「はぁー、まあなんだ。こんなにカッコいい俺の隣にいてギリギリラインではあるが、不格好に見えないお前の姿もそんなに悪くはないぞ」
「えっ?」
「何でもない!おら、いくぞ!!」
士はそうぶっきら棒に言うと、そのまま先に進んでいってしまう。だが置いて行かれたティアナはポカンと口を開けたまま、未だに頭の中が真っ白になっていた。
「そんなに悪くないって……つまり」
士があんなにも遠まわしに何を言おうとしていたのか、それをようやくティアナは理解すると自然と顔がほころんでいくのだった。
「…………ふふ、本当に士らしい言い方ね」
ティアナは再び距離が離れた士に足軽に向かっていく。だが今度は士に嫌な思いをして欲しくないという思いから彼に向かうのではない。
ただ単純に自分の嬉しさを彼女は表現したかったのだ。
「つーかさ」
「お、おい、あんまりひっつくな鬱陶しい」
「あら、誰もが振り向くナイスガイの士ともあろうお方が、女性一人のエスコート出来なくてどうするのよ」
「それとこれとは話が違うだろうが」
「そうよね、だってこれじゃあ私がエスコートする形だしね」
ティアナは士の腕に抱きつくと、そのままグイグイと彼を引っ張っていく。普段は人を引っかきまわすのが得意な士ではあるが、逆の立場の経験は少なく些か焦りが隠せなかった。
だが士は別段悪い気はしていなかった。
それはバイクに乗っていた時にように、ティアナの本当に嬉しそうな満面の笑みを今この瞬間に眺め続けているから。
この笑顔を見たら誰も怒る気にはなれないであろう。