レイジングミラージュ 【終わりなき蜃気楼】   作:白翼

14 / 14
この手に残った幻

 そこからのティアナはまるで童心に帰るかのようであった。

 

 スバルと昔に行ったアイス屋で、トリプルのアイスを落としそうになりながらも食べ。

 

 ゲームセンターでは、二人でシューティングゲームをプレイしまさかのワンコインクリアをし。

 

 そして露店商で士にねだったアクセサリーは、彼女の生涯の宝物になった。

 

 ティアナは今までの人生を常に過酷の中に置いていた。だからこそ、彼女は人と同じ時間を歩んでいても、その一分、一秒の体感時間が苦しく長かった。

 

 そんな彼女だからこそわかるのだ。楽しい時間というものは本当にあっという間に過ぎてしまうのだと。

 

 そうやって街中で遊び回っていた二人であるが、その時間は有限ではないことを言われるまでもなく理解している。

 

 そして二人にはまだ行かなければならない場所があったのだ。

 

 二人は管理局の表彰式から逃げるのではなく、明確な意思を持って郊外にバイクを進めていく。

 

 マッハキャリバーも駐車場に帰ってきた時の二人の様子を見て、すでに機嫌は治っており、その行く末に異論は唱えなかった。

 

 士とティアナは街はずれの教会に着くと、バイクを止める。士はそのままマッハキャリバーを引き抜こうとしたが、すぐに待機モードに入ったところを見てその行動をやめるのだった。

 

「さって、いったいどこにあるんだ?」

 

 士がキョロキョロと辺りを見渡すと、ティアナは彼のコートをチョイチョイと引っ張る。

 

「大丈夫、場所は私が覚えてるから。ほら、行きましょう」

 

 そう言ってティアナは士を先導するために歩き始める。だが士はそんな彼女をおちょくるかの様に声をかけるのだった。

 

「なんだ、さっき見たいに腕を引っ張ってくれないのか」

 

「ば、ばか。あれはちょっとはしゃぎ過ぎちゃっただけで、その」

 

「まあそれくらいわかってる。さっさと行こうぜ」

 

 ティアナを困らせることに一瞬で飽きた士は、ほらほらと彼女を促す。そんな士を見ると、ティアナはスッと前を見つめ、小さくため息をつくのだった。

 

「なんにもわかってないじゃない、…………ばか」

 

 ティアナはそのまま士を先導すると、間もなくして一つの墓の前に立つ。その名前は見間違うはずもない二つの名前が刻まれていた。

 

「移動したと聞いてたけど、まさかこんな郊外にとはな」

 

 ナサレと王の墓を前にして、士はそう呟く。ティアナの方は、街で買ってきた花束を添えると、スッと目を閉じるのだった。

 

「ナサレ達のいた世界は『機械技術が全く発展していない世界』ということになったからね。そのまま残しておく意義がないなら、安全のために撤去する。それが管理局の決定だったからね」

 

 そう言うと、ティアナは黙祷のために閉じていた目を開く。そしてクルッと士のほうに振り返るのだった。

 

「だから私が言ったの。せめてお墓だけでもどこかに移動できなかって、でも街中だと二人がゆっくりできないと思ってね。だからわざわざ郊外にしたの」

 

「そうだな。自分達の世界の人口の少なさに、腰が抜けるかもしれないしな」

 

 士は特に黙祷することも、花を添えることもせずに、ただジッと二人の墓に目を向ける。いや、面倒くさがり屋な彼がここに来ている時点で、その二つをしろと言うのは望みすぎであろう。

 

 そんないつもと変わらない士の姿を見て、ティアナは一歩彼に近づいて行く。そして覗き込むように士の顔を見るのだった。

 

「ねえ士、本当に別の世界に行ってしまうの」

 

「それは写真館で言っただろ。俺は自分の世界を探しに行く、どうした今更?」

 

「…………あのね」

 

 ティアナはそこで一度口を閉じる。これから言おうとしていることは、写真館で言おうとしたあの言葉。

 

 一度タイミングを逃した言葉ではあるが、その言葉に対する想いはこの数時間で何倍にも膨れ上がっていた。

 

「……ねぇ、士。私はあなたにこの世界に残ってほしい。いや、この世界というよりこれから私と一緒にいてほしい!」

 

「…………それは何かの冗談か?」

 

 ティアナの真剣に態度に対し、士はいつもどおり雲を掴むようなユルい態度をとる。だが士がしっかりと受け止めてくれないからこそ、彼女の気持ちもまた大きくなってしまったのだ。

 

「冗談でこんなこと言えないわ。自分の記憶を探している相手に、その記憶探しをやめて全く知らない世界に残れなんて、普通じゃ絶対に言えない。でも、だけど士は違う!」

 

 自然と動いてしまう口にティアナ自身が驚いている。本当はこんなことを言うために、教会に来たのではない。ただナサレと王の真実を知っている二人だからこそ、ここに来るべきだ、それだけをティアナは考えていた。

 

 でもだからこそ、彼女の言葉は止まらなかった。溢れんばかりの初めての感情を抑え込む術を、まだ知らないのだから。

 

「ようやく気付いた。いや、始めて知ることができたの。今まで感じた事のない胸を引き裂かれる想いに、絶対に離れたくないって感情に」

 

 ティアナはグッと士に身を寄せると、そのまま彼の胸に顔を埋める。そして今にも泣きだしてしまいそうな顔で士を見詰めた。

 

「私は、私は士のことが―――」

 

『好き』

 

 それは文字にしてしまえばたった二文字に過ぎない言葉。だがその言葉は他のどんな言葉よりも重みのある言葉である。

 

 そんなことは小学生だってわかることだろう。だがそれがわかっていながらも、士はティアナの口にカードを押しあて、その言葉を止めるのだった。

 

 士はそのカードをゆっくりと彼女の唇から離していく。そのカードは士を象徴するカード、ディケイドに変身するためのカードであった。

 

「……残念だが俺は通りすがりの仮面ライダーだ。自分を探す旅をやめてしまったら、俺は俺でなくなっちまう」

 

「……そう、よね」

 

 ティアナはボソリと呟くように言うと、士から一歩離れていく。

 

 ティアナは士の答えを聞いて、写真館の庭でスバルが死んだと思った時のように気持ちが沈んでいってしまう。それは何も士に拒絶されたからではない、むしろ自分自身を失くし、常に不安の中にいる士に対して、自分勝手な想いをぶつけてしまったことを悲しんでいるのだ。

 

 今回の事件でティアナが得たものはあまりにも多かった。

 

 なのはは意識が回復し、管理局に怪我人はなく、何よりティアナ自身がずっと縛り付けられていた鎖から解放されたのだ。

 

 これ以上望むのは神様に失礼だと、ティアナは天を仰いだ。だがそれはティアナが勝手に完結した想いでしかいない、なぜなら士の言葉はまだ終わっていないのだから。

 

 確かに今以上の幸せを神に望むのは失礼かもしれない。だが目の前の士は、そんなものすら従わせてしまう悪魔なのだ。

 

 士はディケイドの変身カードの裏に重ねていたカードを、スッとティアナに見せる。それは紛れもなくティアナ本人がプリントされているあのカードであった。

 

「俺は俺を探しに行く。だからもし俺が俺を取り戻して、暇ができたらまた会いに来てやるよ。まあいつになるか約束はできないけどな」

 

 そう恥ずかしそうながらも、しっかりとティアナの顔を見て士は話しかける。するとティアナ自身、何て自分は現金な人間なんだろうと思いながらも、心の底からの笑顔を士に向けるのだった。

 

 それは悲しみの涙が、嬉し涙に変わる瞬間。彼女は泣きながらも笑いだすのだった。

 

「ふふ、でも士って忘れっぽそうだから安心できないわね」

 

「忘れたくても忘れられないさ。何せこれからずっと、俺はティアナのカードを持って旅を続けるんだからな」

 

 士はそう言いながらピラピラとディケイドのカードとティアナのカードを見せつける。そんなふうにしてくっつき合うカードを見て、ティアナの中に小さな悪戯心が生まれるのだった。

 

「でもそのカードを持ってるのは士だけだからね。私は私なりに、忘れないようにさせてもらうわね」

 

 ティアナはそう言って再び士の近づくと、彼の首に手を回す。そして精一杯つま先を伸ばすと、士の顔に自分の顔を近づけていくのだった。

 

 その時教会の鐘が二人を祝福するかのように辺りに響き渡る。

 

 それは管理局の表彰式が始まる時間であり。

 

 ティアナが恋という感情を始めて知った時間であり。

 

 そして二人の別れを告げる時間でもあった。

 

 ティアナはゆっくりと士から離れていくと、満面の笑みを彼に見せた。

 

「それじゃあまたね、士」

 

「ああ、またな。ティアナ」

 

 そうして間もなくして、この世界でするべきことをし、確かな大切なものを手に入れた士は次の世界を目指して旅に出るのだった。

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

「おお、士君。この写真はいい味出してるじゃないか」

 

 写真館にいつものメンバーが集合する中、栄次郎はいつも通り士の写真を現像し持ってきてくれた。

 

「おっ、士いつの間にあの子とこんなに親密になったんだよ。てか、この後ろの人、誰?」

 

 ユウスケが冷やかすように声をあげるが、そんな彼の鳩尾に肘を入れると、士はその写真をすぐに奪った。

 

「馬鹿か。俺が撮ってるのに、普通にやってこんな写真が撮れるはずないだろう」

 

 士はその写真を持って、ソファーに腰を下ろす。そして自ら撮った写真に目を向けると満足気な表情を浮かべるのだった。

 

「相変わらず俺に撮られる資格がないか。だが悪くない」

 

 写真はティアナだけを撮ったはずだが、彼女の隣にはくっきりと士が映っていた。

 

 そしてその後ろには、肩を抱き互いに寄り添いあっているナサレと王の姿がぼんやりと、しかしハッキリと映り込んでいた。

 

 この写真がある限り、士はこの世界のことを絶対に忘れないであろう。

 

 確かにその写真は真実を映し出したものではないかもしれない。

 

 それは幻を重ね合わせただけのただの偽物ものかもしれない。

 

 だけど、確かにこの手にあるのだから。

 

 四人の笑顔は消えることのない真実なのだから。

 

 








あとがき


ちなみにここで言っている教会のお墓は、ヴィータちゃんは男友達が少ないで言っていたあの場所です。

そんなわけで、中編小説 レイジングミラージュ【終わりなき蜃気楼】はいかがだったでしょうか。

初めましての人は、初めまして。ヴィータちゃんは男友達が少ないを知っている方はおはこんばんちわ。

作者の白翼です。


今回は「書いたはいいが、いろんな事情があり仕舞いっぱなしの作品に再び日の目を浴びせよう」ということで、蔵出し作品としてこのレイミラをあげさせてもらいました。

この作品は元々はにじふぁんに載せていたものです。

ですがまあ、ここの作家さんや読者さんの多くが知っている通り、あのサイトでは二次創作が全面的に禁止になりました。

そして白翼もこのレイミラの『右に行くもの 左に行くもの』のデータをどこかにやってしまっており、再びあげることはしませんでした。

ですが、あらすじにも書いたように、この作品は初めて白翼が書いた思い入れの深い二次創作になっています。

一次は部活などでやっていたのですが、二次創作って言うのが逆に手が出し辛くて。ですが当時大好きだったティアナ、そしてディケイドにおおはまりした私は、勢いのままこの作品を書きあげていました。

ディケイドの放送が終わってから、はや数年。今更ディケイドをあげるのは、正直どうかという気持ちもありました。

しかし何度も書いているように、これが白翼の始まりの二次創作。

今この作品をあげても、何も恥じることはない。

そういった想いであげさせてもらいました!!


中編と言うこと、短期間であげたということ、ディケイドであること。

言い訳はいろいろあがりそうですが、今日は初心を胸に眠ろうと思います。

もしこの作品を一人でも多くの人に読んでいただけたら、本当に幸いです。

あと感想や評価などをいただけたら、さらに飛び上がって喜ぶと思います(笑)


あっと、これは自分のことではないですけど、絵を書いてくれている相方のピクシブに当時のレイジングミラージュの絵が数点置いてあります。

もしよかったら、今からでもコメントやブクマしてもらえたら、彼も喜ぶと思いますのでよろしくお願いします!!

http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=6780735



あとちょっとした告知を


これは毎回のことなのですが。イベントに出店予定です。

リリカルマジカル17
2014年3月30日(日)
11:00-15:00
大田区産業プラザPiO大展示ホール

もし興味のある人がいましたら、どうぞよろしくお願いします。


そして告知ばかりであれですが、もう一つ。

ただいまDLサイト様で、リリカルなのはRXHというものを全三巻で売っています。

http://www.dlsite.com/maniax/work/=/product_id/RJ113661.html



レイジングミラージュで意識不明のなのはを救ったティアナ。

ですが、その世界が『ゆりかご事件失敗後』であることには変わりはありません。

なのははどうして意識不明の重体になったのか。

そして『ゆりかご事件』で失ったものを取り戻すために、彼女の歩き出した道は。


全エピソード4 文庫として3冊で発売しています。

こちらの作品もまた白翼の全力を込めて、込めて、込めきった作品です。

このレイミラを気にいっていただけたら、絶対に気に入ってもらえると思いますのでそちらもどうぞよろしくお願いします!!


さてさて、告知ばかりで皆さまも不快に思われたかもしれませんが、可能な限りアピールしようと思った結果でしたw

それでは短い間でしたがレイジングミラージュはこれにて閉幕です。

次の新作か蔵出し企画、またはイベントなどでお会いしましょう!!


ではは~ ノシ



HP イノセントウイングス
http://sky.geocities.jp/hakuyoku123/

ツイッター

白翼
@hakuyoku123

相方さんのピクシブ

http://www.pixiv.net/member.php?id=1028919


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。