レイジングミラージュ 【終わりなき蜃気楼】   作:白翼

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魔法都市ミッドチルダ

「で、ここは一体どこだ?」

 

 首から二眼レフのカメラをぶら下げた青年。門矢士が初めに口にしたのは、そんなありきたりな言葉であった。だが彼がありきたりな言葉を口にするのも仕方がないことだ。

 

 今まで多くのライダーの世界を回り、つい最近ではライダーのいない世界、『シンケンジャー』の世界なども士は回ってきている。だが今目の前に広がるのは、あまりにも異質な世界であり、あきらかに今までの世界とは異なるものなのだから。

 

 多分士と同じ意見なのだろう。隣にいる光夏海、通称『夏みかん』はポカンとだらしなく口を開けていることから、それは明らかだった。

 

「何ですかこの世界は、だってほら、あそこ。人が飛んでますよ」

 

 別段夏海の頭のネジが飛んでいるわけではない。夏海の指さした空には、人間が歩くがごとく、当たり前のように人が空を飛んでいるのだから。

 

「でも士、ほらあそこの道路、普通に車が走ってるぞ。誰でも飛べるってわけじゃないんだな」

 

 夏海の隣にいる小野寺ユウスケは夏海とは違い、少し興奮気味にこの世界の説明をする。こういう事態になってもポジティブなのは、ユウスケのいいところである。

 

 それは士も重々承知している。だが今の士にそれは不快以外の何ものでもなかった。

 

「空飛ぶ人間がいて、普通の道路もあり、それらの見た目は化け物じゃない。どっかの二十二世紀ロボットの世界が、ファンタジー方面に進化した感じの世界だな、これは」

 

「そうだ。ファンタジーといえば士君の姿ですよ。何ですかそれは」

 

 そう言われて士は自分の姿を見る。彼がいま着ている服は普段着ではなく、軍人が着るようなキチッとした制服だったのだ。

 

 士は世界により、様々な役割を今まで与えられてきた。ヴァイオリニストになったり、コックになったり、はたまた黒子なども経験している。

 

「はぁ、今度の世界は俺に何をさせたいんだかな」

 

「よかったじゃないか士。いつもみたいに、突拍子もない服じゃなくて。軍人みたいでかっこいい服じゃないか」

 

「ふっ、そのカッコいい服を完全に着こなしてしまうのも、俺の恐ろしいところだな」

 

 自分の姿に酔いしれている士は、スッと手を顎に添える。

 

「はいはい、それじゃまあこれからどうしようか。情報収集するっていっても、あまりにも突拍子もない世界すぎてどうしたらいいやら」

 

「まあシンケンジャーの世界は敵が巨大化して、巨大ロボに乗って戦っているくらいだ。いろいろな世界に行けば、人が飛ぶ世界に来ることもあるだろう。まあ適当にやらせてもらうさ」

 

 そう言って士は絵の描かれていないカードをポケットにしまう。このカードもまたその時がくればいつも通り明らかになると思いながら。

 

 とりあえず立ち往生は疲れたと、士は写真館の中に戻ろうとする。すると、先ほどから遠目に彼らのことを窺っていたいた二人の女性が、ゆっくりとこちらに近づいてくるのだった。

 

「さっきからこっちを見てたようだが、何か用か?」

 

 士が声をかけると、彼と同じような形の制服を着た女性二人。彼女は一番声がかけやすかったのか、夏海に声をかけた。

 

「えっと、ここって喫茶店じゃなかったですか?」

 

 少し申し訳なさそうに、ボーイッシュな青い髪の女性がそう声を上げる。スカートを掃いているから、もちろんその場の誰しもが理解していたが、顔だけ一見したら男の子のような印象を受ける。それが士達の受けた第一印象だ。

 

「ここは写真館ですけど」

 

「ほら、馬鹿スバル。この店のどこをどう見たら喫茶店に見えるって言うのよ」

 

「そんなに怒らないでよティア~、おかしいな、確かにここは喫茶店だと思ったんだけど」

 

 ティアと呼ばれた黒い制服を着たオレンジのロングヘアーの女性は、スバルという名の女性に叱咤の声をあげる。

 

 別段写真館の位置が本来この世界にあった何かと変わるのは、いつものことである。だが今回は明らかにこの世界の住人の態度が違っていた。

 

 このティアって呼ばれている女。随分と機嫌が悪いみたいだな。

 

 そんなふうに士が勝手に解釈をしていると、写真館から一人の男が出てくる。ここは士と夏海とユウスケがいるのだから、答えは一つである。

 

 この写真館の主である光栄次郎は、二人のムードが険悪になるのを敏感に感じ取ったのだろう。チョイチョイと手招きをした。

 

「ここは写真館だけど、コーヒーくらいなら出せるよ」

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 スバルはアハハと苦笑いしながら、そしてティアナはムスッとしながらテーブルを囲んでいる。机にはすでにコーヒーが用意されており、スバルはそれを手に取ると、スッと口に運んでいった。

 

「うわぁー、おじいさんのコーヒーおいしいよ。ほらティアも早く飲んでみなよ」

 

「…………」

 

 スバルの方は何とかしてこの場を保とうとしているが、ティアナはムスッとしたままコーヒーに口をつけようともしない。士達は栄次郎共々、厨房に移動していた。だが距離が離れていても如何せんここの空気は悪すぎた。

 

 栄次郎がせっせと菓子を作っている中、しかたなしに士達はその会話に耳を傾けることにした。

 

「ほらほら、ティアもそんなにムスッとしてないでさ。本当にここのコーヒー」

 

「それでスバル。私に大事な話があるって言ってたけど、早く要件を話しなさいよ」

 

 先ほどから何をピリピリしているのか、ティアナはずっと攻撃的な口調でいる。スバルもこれ以上、場を和ませようとしても無駄だとわかったのだろう。

 

 ギュッと一度目を閉じると、力強い眼光でティアナを見つめた。

 

「それじゃあハッキリ言うよ。来週辺りにさ、二人で旅行に行かない? もう有給休暇いっぱい溜まっちゃってるでしょう」

 

「……あんた、本気でそんなこと言うためにここに呼んだの」

 

「だってティア、あの時からずっと働き詰めじゃない。だからどっかでパーっと――」

 

 遊びに行こう。多分スバルはそう続けようとしたのだろう。だがその言葉はティアナが机を叩く音でかき消される。

 

 さすがにこのままではまずいと、ユウスケが二人を止めに入ろうとする。だがその行動を士は全力で抑えつけるのだった。

 

「何で止めるんだよ士!」

 

「待て、もしかしたら何か情報が掴めるかもしれない。俺達にとって、ここの世界は本当に未知なんだ。しばらく様子を見た方が得策だ」

 

「だ、だけど二人ともこのままじゃ喧嘩になっちゃうぞ」

 

「問題ないだろう。見たところ二人は親友同士みたいだ。それに問答無用で殴りかかることもないだろう。どっかの仮面ライダー達みたいにな」

 

「そ、それはもう言わないでくれよ」

 

 以前、士の正体が仮面ライダーディケイドだと聞いただけで戦いを挑んでいったユウスケは、グッと動きを止める。夏海の方もまだ動くことはないようで、そのまま士達は二人を見守ることにした。

 

「スバル、あんた今がどういう状況だかわかってるの? 聖王のゆりかご事件で、ブラスターの限界行使でなのはさんは意識不明の重体。

 

 フェイトさんはそのことを紛らわすために仕事に没頭して、はやて部隊長なんてゆりかご事件の責任を取らされて、左遷だなんて……」

 

「それはもちろんわかってるよ。でも、だからってその全てをティアが背負うことないんだよ」

 

「うっさい!」

 

 スバルが伸ばしかけた手をティアナは弾くと、椅子を倒しながらも立ち上がる。そして今だに椅子に座っているスバルの襟首をギュっと握りしめた。

 

「私が背負わなくて誰が背負うって言うのよ。あの時、私がもっと早くゆりかごに向かえていれば、なのはさんもあそこまで傷が深くなることはなかった」

 

「だったら私にだって責任はあるよ。私がもっと早くギン姉と決着をつけられていたら……」

 

「だからこそでしょう。スバルだってどうにかしてなのはさん達を救いたい。だからこそ、特別救助隊の誘いを蹴って、今でも私とタッグを組んでるんでしょう。それに私達はもうなのはさん達を救えるところまで来てる。あのロストロギアさえあれば――」

 

 ロストロギア。その単語を聞いても士達は何のことだと、頭を捻るだけである。だがその意味を唯一理解したスバルの顔はサァーッと青ざめていった。

 

「まさかいま探索中のあれを使うの。でもあれは貴重なものだからそのまま封印するって」

 

「そんなこと知ったことじゃないわよ。それでなのはさんが助かるなら、私は喜んで罪人になってやるわよ」

 

「落ち着いて、落ち着いてティア」

 

「私は落ち着いてるわよ。……それに!」

 

 先ほどまでスバルを睨みつけていた視線が士達に向かう。急に怒りの矛先がこちらに向けられたことにユウスケはオドオドしてしまうが、士は特に何も気にすることなく、ツカツカと彼女らの元に進んで行くのだった。

 

「どうした、俺に何か用があるんだろう?」

 

「そうよ。あなたの制服、一見私達と同じ時空管理局の制服みたいだけど、そのくせにどこの部隊のものでもない。それにこの喫茶店だっておかしいわ。こんなところに店が移転する情報はないと、さっき管理局からデバイスに連絡があったわ」

 

 そう言ってティアナはデバイスが映し出す「error」という文字を見せる。それでスバルも自分の記憶が間違っていたことに納得がいったのだろうか、臨戦態勢でこちらを見た。

 

「さあ、どこの所属か言いなさい」

 

「どこにも所属してないさ。俺は通りすがりに仮面ライダーだからな」

 

「はぁ? 何よ仮面ライダーって。新しいデバイスの名前?」

 

「どうやら、ここも仮面ライダーのいない世界か。まあそうじゃなくても、現状に変わりはないんだろうけどな」

 

 今にも士に殴りかかりそうな距離までティアナは詰め寄る。だがそれを見て、士はユウスケが、ティアナはスバルが背中から抑えつけた。

 

「お、落ち着け士。確かにこの人達の言うことも一理あるぞ」

 

「そうだよティア。何もそんなに喧嘩腰にならなくても」

 

 何とかしてスバルはティアナを抑えつけようとするが、それを振り切りティアナは店の外に出る。そして首をクイッと動かし、外に出ろと士を促した。

 

 士はユウスケの脇腹に肘を打ち込むと、無理やりはがいじめを外す。そしてそのまま外に進んでいくと、その通りがてら、ポンとスバルの肩を叩いた。

 

「俺の方は訳も分からず捕まる気はないし、どうやらその何とか管理局に似た制服を着た俺を、あちらさんは逃がす気はないらしいな」

 

「えっ、それってどういうことですか」

 

「さっきの言葉通りだろう。あいつはその何とか管理局ってのを、敵に回してでも成し遂げたいことがある。それを今チクられるわけにはいかないんだろうよ」

 

「そ、そんな……」

 

 スバルはその場で力なく膝をつきそうになると、それを夏海が支える。その姿を見て、士は店の外に出るのだった。

 

 

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