レイジングミラージュ 【終わりなき蜃気楼】   作:白翼

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対決 ディケイドVSティアナ

 士とティアナは店の裏に広がる更地に立つと、互いを牽制し合う。パッと見ると、この更地は外から見ると周りの木々に隠されるような作りになっており、果たし合いにはもってこいの場所だと、士は内心皮肉めいた。

 

 だがそんなふうに皮肉を考え続けるわけにもいかない。目の前のティアナはすでに、いつ殴りかかってきたもおかしくないほど、殺気立っているのだから。

 

「はぁ、あまり生身の人間を殴るのは気が進まないんだけどな」

 

「それなら心配しなくてもいいわよ。こう見えても執務官の資格は持っててね。行くわよ、レイジングミラージュ、セットアップ」

 

『セットアップレディー』

 

 ティアナそう声をあげると、オレンジの光に包まれ黒い制服から、瞬時に黒いバリヤジャケットに姿を変える。それを見て、士は「ほぉ」と声を上げる。

 

「ライダーはいないが、やはりこの世界にも変身があるのか。それより姿が変わったのはいいが、それで強くなってるのか?」

 

 変身をしたのはいいが、他のライダーのように体に装甲がついたわけではない。変身は派手だが、見た目の変わらなさに、士は少し戸惑っていた。だがティアナは、そんな士に挑戦的な声をかけた。

 

「それはこれから試してみればいいことよ」

 

「本当に聞く耳持たずだな。一つ言っておくが、俺はディケイドだ」

 

「何よディケイドって、あなたの名前なんて聞いてないわよ」

 

「俺がディケイドだってわかっても、変化なし。どうやら本気でただの八つ当たりみたいだな」

 

「これは八つ当たりじゃないわ。あなたが抵抗するから捕獲するだけ。そのさいに多少意識を失ってしまっても仕方がないけどね」

 

「はぁ、そういうのが八つ当たりっていうんだよ。まあ俺も無抵抗にやられてやるほど良心的じゃないんでな。足掻かせてもらうぞ」

 

 そう言うと士は手にベルトを持つ。そしてそれを体に当てると、瞬時にベルトが体に巻きつく。士はそれを確認すると、一枚のカードを取り出した。

 

「変身!」

 

『カメンライド ディケイド』

 

 ティアナのデバイスのように士のベルトが電子音をあげる。そこまでは先ほどの変身と何も変わりはないが、ここからが士が仮面ライダーである所以である。

 

 突如辺りから現れた装甲は士の体に装着されていき、最後に顔を覆う黒の線がつくと、士はパンパンと手を叩いた。

 

 自分の世界とあまりにも違う『変身』に、ティアナは少なからず、驚きを覚えた。

 

「何よそのデバイスは、ベルト型なんて初めて見たし、それに全身装甲なんて……」

 

「こっちとしては、変身してるのに服しか変わってない方が驚きなんだけどな。シンケンジャーだって全身変わっていたぞ」

 

「さっきから仮面ライダーとかシンケンジャーとか訳の分からないことを。本当に管理局で事情を聞いた方がよさそうね」

 

「お前に出来るかな?」

 

 二人はある程度の距離をとると、互いを牽制するように睨みあう。

 

 変身をしたはいいが、互いが互いに相手の変身システムを理解しておらず、それゆえに初手の攻防がどれだけ重要かということを理解していたからだ。

 

 

 

 士による相手の戦力分析。変身したわりには全身は装甲に覆われず、それゆえに防御は低いと思われる。

 

 手には二丁の銃を構えており、それによる攻撃が主と思われる。その他にどういった能力があるかは不明。要観察。

 

 ティアナによる相手の戦力分析。謎のデバイスを使っており、全身に覆われた装甲により強度は堅いと思われる。

 

 手には四角いものが握られており、あれが武器になると推測する。あの武器が銃になるか剣になるか、はたまた全く別のものになるかは不明であり、どのレンジでも対応できるように、注意を置くこと。

 

 そうやって相手の出方を窺いながら、互いにジリジリと距離を詰めていく。そして離脱するには近く、斬り合うには遠い。

 

 距離がミドルレンジに入ったその瞬間、二人は武器を相手に向けた。

 

「レイジングミラージュ!ファイヤ!」

 

『アタックライド ブラスト!』

 

 二人の第一攻防は銃撃戦にて始まるのだった。

 

 

◇◆◇◆

 

 

 写真館のソファーでスバルは涙を流していた。どうしてこうなってしまったのか、どうしたらいいのか。その二つに押し挟まれ、どうしようもなくなってしまったのだ。

 

「私はどうしたら……ティア……なのはさん……」

 

 いくら目を拭っても涙は流れ続けてしまい、結局スバルはその行為をやめてしまう。もうすでに決壊し水が流れているダムを誰が補修しようとするか。

 

 スバルにしてみればそれくらい簡単な問答であった。だがそれを感じているのは当の本人だけである。ユウスケは自分のポケットに入っていたハンカチを取り出すと、そっとスバルの涙を拭い始めた。

 

「あ、あなたは」

 

「俺は小野寺ユウスケって言うんだ。まあ士とは友達みたいな感じ」

 

「士さんって……、そうだ私はこんなところで泣いてる場合じゃない。早くティアを止めないと!」

 

 ようやく今起こっている現状を頭で理解したのか、スバルはすぐに裏庭に向かおうとする。だがその手をユウスケは握りしめると、彼女を行かせないように力いっぱい引き留めた。

 

「大丈夫だよ、きっと士なら」

 

「でも、今のティアは正気じゃない。確かに見た目は女の子ですけど、本当にティアは強いんです」

 

「だったら余計だよ。ここで下手にしゃしゃり出たら、巻き込まれちゃうしね」

 

「……何でそんなに落ち着いていられるんですか。士さんは友達なんですよね?」

 

 未だに落ち着きを取り戻さないスバルは、捲し立てるように声を上げる。彼女の抵抗する力強さにユウスケは冷や汗をかくが、それでもそれを億尾も出すことなく、平静を装った。

 

「友達だからだよ。俺はあいつのことを友達であり、仲間だと思ってる。だからこそ、あいつのことを信用して待ってられるんだよ」

 

「仲間だから……信用できる……」

 

「まあ、あいつの方は俺のことを友達と思ってるか分からないんだけどね。あと、それとは別に君達の気持ちも少しわかるんだよね」

 

 急にユウスケに声のトーンが落ちたことに、スバルは落ち着きを取り戻す。手にかかる力が弱まったことにユウスケは安心しながら、ゆっくりと落ち着いた口調で声を上げるのだった。

 

「俺もね。ちょっと前にすっごく大切な人を失なっちゃったんだよ」

 

「小野寺さんの大切な人……」

 

「でもその人はね。自分が死ぬ直前に、俺が世界のみんなを助けるために戦えば、もっと強くなれるって、自分のことよりも俺と世界のことを心配してくれたんだ。だから俺は誓ったんだ。この力を皆のために使うってね」

 

「みんなのために使う……」

 

「そのなのはさんって人のことはよく分からない。だけど、その人は君たちが傷ついてまで自分を救ってほしいって言う人かな? 本当にその人のことをわかっているんだったら、ちょっとした切っ掛けを与えてあげれば、あの子も分かってくれると思うんだ。その切っ掛けを与えるのは誰もでない、親友の君なんだからね」

 

 ユウスケは自分に言えることを全て言い終えると、ポンポンとスバルの肩を叩く。すると、スバルは先ほどまで全く止まる気配のなかった涙をぬぐい去る。

 

 そして今までユウスケが見たなかで一番力強い表情を見せた。

 

「はい、私もう一回ティアに話してみたいと思います」

 

「うん、それがいいね。まあ今はその子も頭に血が昇ってるから、士と戦うのはいいクールダウンになると思うんだ」

 

「で、でもさっきも言ったようにティアは本当に強いんです」

 

「それなら大丈夫だよ。その子も本気で士を殺そうと思ってるわけじゃないだろうし、それにね」

 

 ユウスケはそこで一呼吸置くと、最高の笑顔をスバルに向けた。

 

「士は性格は悪いし、写真を撮るのも下手だけど……本当に強いよ」

 

 

◆◇◆◇

 

 

 第一戦の銃撃戦は完全な互角に終わる。

 

 ディケイドはブラストのカードにより、銃の数を増やしているが、ティアナの二丁拳銃の連射力は士の考えより速かった。

 

 逆にティアナの方も士の銃撃に目を疑っていた。突然銃が分身し、幻術かと思われたその全てに実体がある。とっさの判断で、士に構えていた銃口の一つを迎撃にあてたのが功を奏していた。

 

 そこからの二人の思考は早かった。銃撃では決着がつけられないと、銃撃をしながら互いに止まることなく一気に距離を詰めていく。

 

 それは互いにとって望んだ状況であり、予想外の行動であった。

 

 それが意味するところ、それは銃型の武器を使いながら、近距離に対して何かしらの武装があるということに他ならないのだから。

 

『ダガーモード!』

 

『アタックライド スラッシュ!』

 

 互いの武装が声を上げる。士の武器は銃身が剣に変わり、ティアナのデバイスからはオレンジの刃が形成された。

 

「ちっ、やるな」

 

 遠距離よりも近距離を得意とする士はここでダメージを与える予定であった。だが何本にも分身する刃を、ティアナは二本のダガーを使い綺麗にいなしていく。

 

 これが初手なら確かにティアナは痛手を負っていたかもしれない。だが先ほどの銃撃戦により相手の武装が分身することはある程度予測を立てており、それを念頭に置いたまま対処したのだ。

 

 結果は見ての通り、落ち着いて対処しているティアナに対して士は悪態をついた。

 

「レイジングミラージュ、ファイヤ!」

 

 ティアナは片方のデバイスを銃に変形させると、そのまま士の体を狙って射撃する。士は何とかその射撃を避けようと体を捻らせるが、それでも数発魔弾をもらってしまった。

 

「(くっ、思ったよりダメージがあるな)」

 

 小ぶりな球ながら、怪人の拳ほどの威力がある。それが一気に数発放たれるのだから、これ以上の当たってやることは士には出来なかった。

 

 ティアナを飛び越えるように跳躍すると、そのまま士は距離をとる。だがティアナはそのまま追撃することもなく、その場で膝をついた。

 

「レイジングミラージュ、フェイクシルエット!」

 

 ティアナの周りに魔法陣が形成されると、その叫びと共にティアナが数人に分身する。その数が八人ほどになると、ティアナ「達」はかく乱するように左右に散らばっていく。

 

「いけえぇぇぇぇぇ!」

 

 四方八方から放たれる銃撃の嵐。士は避けようがないと、その場で防御の姿勢をとる。

 

「(くっ、これだけの銃撃じゃ……ん?)」

 

 だが次の瞬間に、士は今受けているダメージに違和感を覚えた。確かに今自分の当たっている攻撃はそれなりの威力があるが、先ほどと何ら変わりがない。逃げ場のないくらいの銃撃を受けているのに、それはおかしな話だった。

 

「(つまりあの分身は実体がないってことか、だったら)」

 

 士はダメージのある攻撃が来る方向と逆方向に転がりこむと、そのまま体勢を立て直す。思ったとおり、今この瞬間も攻撃を受けているが、ダメージはない。つまり士の考えは正しいことが証明されたのだ。

 

「正直八人に分身されたのは困ったけどな。そういうの、こっちにもあるぜ」

 

 士は一枚のカードを構えると、それを瞬時にベルトの中に差し込む。

 

『アタックライド イリュージョン』

 

 ベルトが電子音をあげると士の姿が三人に分身する。そしてその一人一人がティアナに向かって走っていくのだった。

 

「(パワータイプだと思ってたけど、幻術も出来るなんて……でも!)」

 

 確かに相手が分身したことにティアナは目を見張った。だがそれも一瞬のことだ、こちらの分身の数は八。それに対して相手の分身の数は三。

 

 どうみてもこちらの有利には変わらないからだ。だがその余裕こそが、ティアナにとって完全なる仇になってしまったのだ。

 

「えっ、なんで」

 

 現状を見てティアナは声をあげてしまう。それもそのはずだ、自分と同じ幻術の類だと思っていた士の分身が全て実態を持っており、分身しているティアナに攻撃しているのだから。

 

「幻術じゃない!」

 

「誰もそんなこと言ってないぜ。そしてお前が本物だ」

 

 すでに全ての幻術を倒した士「達」はその剣でティアナに斬りかかる。ティアナは何とか二人分の剣を止めるが、最後の一人の剣はどうすることも出来なかった。

 

『プロテクション』

 

 ティアナの意思に関係なくデバイスから防御魔法が展開される。だが所詮は急ごしらえの防御魔法。士の剣を抑えられたのもほんの一瞬であり、バリアを貫通すると、バリアジャケット越しにティアナの足を少し傷つけた。

 

 先ほどとは立場が逆になり、ティアナが士から一気に距離をとる。すると先ほどのティアナのように士は追撃することはなかった。そのまま士は分身を消すと、パンパンと手を叩いていた。

 

「いったい何のつもりよ。私のことを見くびってるの」

 

「そんなことはないぞ。っというか、そろそろ気は晴れないのか」

 

「なっ!」

 

 真剣勝負の最中ににつかわない、あまりにも気の抜けた声。そんな士の言葉がティアナは気にいらず、鋭い眼光で彼を睨みつけた。

 

「いったい何を言ってるのよ!」

 

「だから八つ当たりして、少しは気が晴れたかって言ってるんだよ。そのなのはって人を救えなかったってのが、あんたの重しになっているようだが、いったい何があった?」

 

「違う、私はあなたを捕まえるために戦っているのよ。あなたは明らかにおかしい、私は八つ当たりなんてしてないわ!」

 

「ほぉ、じゃあ俺のことはそう言うことにしておこう。だったら、あのスバルって子に対してはどうなんだ」

 

 士の口からスバルという単語が出た瞬間に、ティアナの表情が固まる。その姿を見て士は大きくため息をついた。

 

「あの子はお前の同僚で親友なんだろ。そんな相手に自分のイライラをぶつけるのは、八つ当たりと言わないのか?」

 

「ち、違う。私は八つ当たりなんか……、ただ私は、私は……」

 

「ほう、あれが八つ当たりでないなら、本当にただの嫌みっ子か? それともあいつとは友達でも何でもないって言うのか?」

 

「違う、違う、私は、私はあぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

 ティアナ金切り声をあげながら、レイジングミラージュ二丁を士に向けて構える。それはティアナの技の中でも最も威力重視であるファントムブレイザーの構えであった。

 

 士には魔力はなく、もちろん相手が何をしようとしているかわからないが、それでも一つのことは確かに理解していた。

 

「赤ん坊だって駄々をこねたら手をつけられない。それが大人なら余計にな」

 

 士は一枚カードを手に取ると、それをベルトに差し込もうとする。

 

 互いが互いに次なる手段に入ろうとした。その時だった、二人の勝負に全力で水を差すものが現れたのは。

 

『ウオォォォォォォォォ!』

 

 機械の電子音のような、それでいて人間のように感情のこもった声で、目の前の存在は叫び声をあげた。

 

 全身が黒く染め上げられているその存在。手には大型のキャノンを二丁構えており、その先には鋭利な刃が付けられている。その存在は、士とティアナに片方ずつ目を向けると、まるで何か見定めたかのように、黒く染まった眼光が赤く光を上げるのだった。

 

 次の瞬間、機械のような人間であり、人間のような機械は再び声をあげる。

 

 そして背中の黒い機械の翼を広げると、爆発的な加速で二人との距離を詰めるのだった

 

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