今士達がいるこの世界。ここはミッドチルダという魔法が主流の世界である。
この世界の平和を守っているのは時空管理局という団体であり、この世界だけでなく、様々な世界が崩壊しないように、手助けもしている。
この世界はいってしまえば士と同じである。目の前に見える世界だけが答えでなく、多くの世界があることが証明されている世界。
だがこの世界に他のライダーの世界などが存在しないことから、『数多くの世界が存在することが確認されている、一つの世界』という定義になるだろう。
そして次にあげることは、いまティアナ達が探索しているロストロギアの存在。ロストロギアとはその存在一つだけで、世界を崩壊させてしまうほどの力を持っているものらしく、その一つを回収するのが今のティアナの仕事であるらしい。
そして今回のターゲットになったロストロギアは死んでいなければ、どんな傷でも病でも完全に完治できるというものらしい。その限界数はまだ判明していない。
そして最後に挙げておくことが、あの黒い機械人間の正体である。あの黒い機械人間はナサレという名前であり、五百年前に崩壊した一世界の住人である。
ナサレの住んでいた世界は、この多くの世界の存在が認知されている中でも珍しい部類の、小規模な世界であった。
そこには神を讃える城と城下町が存在するだけ。それは世界と呼ぶにはあまりにも小さく国と呼べるほどの大きさであった。
その世界には人類が500人ほどしかいなく、戦争が起こることなく人々は平和に暮らしていた。だが滅びてしまったのだ。それはその国の風習を考えると、あまりにも必然的なものだった。
その世界では機械技術ばかりが先行されてしまい、人体に関しての研究が何一つ進んでいなかったのだ。技術が進歩するたびに自然は侵され、人々は体調を壊していく。
だが進化した機械技術は病に侵された人体部分を丸ごと機械に変えることで存命していった。それを繰り返し、やがて国は人の心を持った機械だけの世界に変わっていった。
普通ならそんな世界になってしまった瞬間に、国民は自分の存在を疑うだろう。自分達は本当に人間なのだろうかと。だがそんな彼らを支えていたのが王の存在だ。
機械化が進む世界の中で、王は生涯生身の体で生き続けることにより、国民達が元は人間の体を持っていたという文字通り生き証人となり、支え続けていたのだ。
その王の片腕となって支え続けていた存在が、ナサレという男の存在。今この世界で暴れ回っている張本人だ。
全ての情報を頭の中で重複すると、士はいったん思考を停止する。そして目の前に見える、大きな穴に目を向けるのだった。
「ここがそのロストロギアがある場所か」
「ええ、そしてあの黒い機械人間、ナサレがいる場所でもあるわ」
バイクからその穴を見降ろしているティアナと士は、一度バイクから降りると辺りを見回した。二人の目に映る風景は酷いものであり、管理局の人間が設置いした仮設住宅や、その他の機械等が無残に破壊し尽くされていた。
管理局の人間はナサレの出入りの際に撤退を余儀なくされ、すでにここにはいない。だがそれは今の士とティアナにとってありがたい状況である。
「よかったじゃないか。お仲間さんを蹴散らして遺跡に入ることなくて」
「別に執務官の権限があるから、突入に関しては問題ないわよ。まあロストロギアを回収した事後を見られないのはありがたいことだけどね」
「それはそうだな。それじゃあ頼むぞマッハキャリバー」
『OK 士』
管理局で拝借してきた新型のバイクに取り付けられたスバルのデバイス、マッハキャリバーが士の声に反応する。
このバイクはティアナが機動六課で働いていた時に、ヴァイスが使用していたJF704式ヘリと同じシステムが採用されている。
デバイスを挿入することにより、移動手段をただの移動手段とせずに、連携がとれるよう作られたシステムだ。
今は使用者であるスバルがいないため、本当は魔力供給が出来ずバイクを移動させることができないのだが、出発前にマッハキャリバーにはスバルの魔力が限界ギリギリまでつぎ込まれており、その稼働を可能にしていた。
この行為は万が一、スバルの目覚め手に負えない時の手段の一つである。スバル本人の魔力を元から減らしておけば、暴れ出した時に対処がしやすいということ。
そして例えスバルの魔力を奪うことになろうとも、スバルが暴走している時に何も出来なかった悔しさから、マッハキャリバーが自ら訴え出たことであった。
「本当にこの世界は魔法って言えば何でも出来るんだな。スバルを抑えつけるために呼んだ白衣を着た女の手が、いきなりスバルの胸から生えた時は、何事かと思ったがな」
「あれはリンカーコアから無理やり魔力を取り出したのよ。まあその説明はいいわね、とりあえずシャマルさんとシグナムさん、それにヴィータさんがいればスバルが暴れ出してもどうにかなると思うし」
「それに何だかんだで、仮面ライダークウガのユウスケもいる。とりあえずは何とかなるだろうが、それでも時間がないことに変わりはない。さっさと行くぞ」
「ええ、頼むわよマッハキャリバー」
『OK ティアナ』
二人は再びバイクにまたがると、そのまま巨大な穴に向かって疾走する。当初はこの遺跡まで乗り物で移動をし、この穴の前で降りる手はずになっていた。
だがそこで起きた嬉しい誤算がマッハキャリバーの存在だ。普通の乗り物では穴の奥は障害物が多く、とても走れたものではない。だがマッハキャリバーには、機動六課時代からスバルの固有魔法である『ウイングロード』が記録されている。
そして例えウイングロードがなくとも、今までスバルと共に数々の事件を走り回ってきたマッハキャリバーにとって、障害物だけで防衛機能や罠が存在してない道など、普通の道路を走っているのとさほど変わりはなかった。
だが嬉しい誤算があったことは事実だが、あまりにも簡単に最深部に進行している今の状況は、嬉しくもあり怖いものでもあった。
嬉しいという思いは語るまでもない、何の障害もなくロストロギアに一直線に向かえること。
そして怖いという思いは、この変わり果てた建物の中に他ならない。なぜそんなことを思うのか、防衛システムなどの機械的なシステムがない現状を見て、恐ろしく思ってしまうからだ。
本当にこんな変わり果てた遺跡に、ロストロギアなどがあるのだろうかと。
だが士もティアナも互いに不安に思っていることを口にすることもなく、ただ真っ直ぐ最深部に向かっていく。するとそんな空気が長く続いたからか、後部座席に座っているティアナが小さく声をあげた。
「ねぇ、何で士はこんなことに付き合ってくれるの」
「あぁ、何だそれは?」
「だっておかしいじゃない。いきなり私が喧嘩を吹っ掛けて、それで自暴自棄になって私は大切な相棒を傷つけてしまった。でもあなたが私と一緒に危険に向かう必要はない、そうでしょう」
とにかく時間がなかったティアナは管理局からバイクを拝借し、そのままこの遺跡に向かおうとしていた。
だがまるでそこにいるのが当たり前かのように、士はハンドルを手に取ると、何も言わずに一緒についてきたのだ。
ティアナはそれが不思議でしょうがないのだ。なぜ士は自分を許し、協力してくれるのかが。
だがティアナの問いに対して、士の答えはシンプルなものだった。
「いきなりイチャモンつけられるのはもう慣れっこでな。どの世界に行っても、俺は世界を破壊する悪魔だって言われてるんだ」
「あなたが世界を破壊する悪魔?」
「まあ俺自身昔の記憶を失ってるから、イエスともノーとも言えないんだけどな。だがどの世界のライダーも、根はそんなに捻くれた奴らじゃなかった。まあそれなら今回俺にイチャモンつけてきたお前もそんな悪い奴じゃないと思っただけだ」
「えっ……、それだけ……。いや、でもそれだけだとわざわざ士が動いてくれた理由が」
「それは気分が乗ったら教えてやるよ。……それに、今回の事件のためにこのカードがあるような気してな。妙に納得したんだ」
そういって士が見せたのは一枚のカードだ。ここに来るまでに、士はカードの力を借りて様々な姿になることは聞いた。だがそれがわかったところで、いきなりカードを見せつけれてもティアナにはチンプンカンプンだった。
うまく話をはぐらされてしまった。士はすかさず目の前の扉を見るようにティアナを促す。
それを見てティアナはすぐに意識を切り替えた。それは資料に載っていた、この遺跡の最深部の扉に間違いがないからだ。
それを確認した瞬間、士の腰についているライドブッカーが突然光をあげる。ティアナはその発光を不思議に思いながら、それに応えるように士は二枚のカードを取り出した。
「誰だこれは?」
士の手に持っているカードには見たことのない人間、『高町なのは』と書かれたカードと、ピンクの文字で『スターライトブレイカー』と書かれたカードが握られていた。
新たな世界に入り暗闇に包まれたカードが、元に戻ることはよくあることだが、今回は話が違う。士はこの人物に覚えがなく、それゆえに意味の分からないものであった。
だがそんな士の代わりといわんばかりに、隣にいたティアナが声を上げるのだった。
「このカードに映っているのは、なのはさん。いったいどうして……」
「なのはさんって、お前が助けようとしてる奴の名前だったよな」
「ええ、そうよ。士が何でなのはさんのカードを持ってるか知らないけど」
ティアナは愛する師の姿を見て、力強く拳を握り込む。
「……これで踏ん切りはついたわ」
「ほぅ、どうしてだ?」
「きっと今、士の手になのはさんのカードが現れたってことはね。なのはさんがどこかで私達を見守っているということだと思うの。まあ本当はそんなことないってわかっているけど、それでも今の私にはね」
「そんなもんかね。だがな――」
士が声を上げようとした瞬間に奥の部屋から電子音の咆哮が木霊する。この声は忘れるはずもない、あの黒い機械人間ナサレの声である。
士は仕方なく開いた口を閉じると、再び扉に目を向ける。ティアナも自分の相棒であるレイジングミラージュを力強く握り込むと、覚悟を決めた。
目の前の扉は、ここまでの道のり同様簡単に通ることができた。それはこの遺跡が劣化しているということ、そして罠など必要ないほどの強敵がいることを、同時に表していた。
遺跡の最深部はこれまでと打って変わり、崩壊の欠片もない綺麗な部屋であった。多分王のために用意されたのであろう、その部屋はかなり広くスペースがとられており、それゆえに隠れる場所はどこにも存在していなかった。
そしてその奥には漆黒の機械翼を広げたナサレが待ち構えていた。
『やはり来たか。我が王の部屋に』
「やられっぱなしってのは性に合わなくてな。きっちり返させてもらうぜ」
「あなたはスバルを傷つけた。弁護の余地もない、さっさとロストロギアを渡してもらうわよ」
士は一枚のカードを取り出し、ティアナはレイジングミラージュの銃身をナサレに向ける。だがナサレは依然として臨戦態勢に入ろうとせず、人間味あふれるため息をつくのだった。
『お前の仲間を私が傷つけたのなら、お前らはどうだ』
「どういうことよ」
『お前は我が主の城に土足で入り、私が何百年と懸けて完成させた宝を奪おうとしている。その方がよっぽど人道に外れているのではないか』
「私達の方は穏便に済ます気でいたわ。先に調査隊を襲ったのはあなたの方よ!」
『人の家に無断に入り込んだ泥棒に、情けをかけろというのか。ならやはりお前は人間ではないな。こんな体中機械になってしまった私よりな』
「―――ッ」
ナサレの言葉にティアナは舌打ちをする。確かに時空管理局というものは、その次元の人間に断りなく、その世界の均衡を保とうとしている。
そうした介入によりその世界の崩壊を防げるのなら、いくらでも苦汁を飲む覚悟だってティアナはしていた。
だがこの遺跡に生存者がいないと判断し、調査隊を派遣したのは誰でもないティアナなのだ。この遺跡に眠るロストロギアを手に入れるために、急ぎ足になったのは他人に言われるまでもなかった。
ティアナの表情の変化にナサレは何かを感じたのだろうか、二人に背中を見せると、この広い部屋の奥のある場所を指さした。
『それにこの城には私以外にも王がいる。王がいる限り、城を撃たせんとするのは兵の役目だ』
「なっ!」
ナサレが指さした先、始めは暗闇のせいでほとんど見ることが出来なかったが、突如点灯した明かりによりその姿がハッキリとする。
そこには齢二十歳にも届かない女性がいた。奥のベッド型の冷凍保存装置に眠っている女性は五百年という時が経っているこの空間でありながら、装置が止まることも、老いることもなく確かにそこにいたのだ。
『私は任されたのだ。王が次に目覚める時までこの国を守ると。そして王が目覚めた暁には我が宝を使う。城も国民も全て消えてしまったが、それでも王がいればやり直すことはできる』
「おい、それはおかしいんじゃないか。だって、王は確か」
「ええ、資料によれば病によって死んでいるはず……、それがなぜ……」
『ならお前らの調べが足りなかっただけだ。この城に私がいることに気づかなかったようにな。さあ!』
ナサレは自らの腕と化しているハンドキャノンを士とティアナに向ける。そして今までで一番機械的な声をあげた。
『引けば見逃そう。だが引かねば壊すまでだ』
その威圧感は、その男の背負うもの、そして信念の重さを表すかのように堂々とし圧倒的なものだった。
そしてティアナは迷っていた。それは今までにないほどの強さを持った敵と対峙するということ、そして自分のしていることは本当に正しいのだろうかという疑念があるからだ。
ティアナはゆりかご事件で助けることが出来なかった、なのはを救いたいという一心で今まで走り続けてきた。周りの心配の声に耳を傾けず、自分の夢であった執務官になることも、ただの特権行使ができるとしか思えぬほどに。
だがナサレは違った。王に託された国が潰れてしまったことに悔いを感じ、そのための再建も頭に入っている。果たしてそんな男を倒して、堂々と自分が正しいと言えるかどうか。それがティアナには分からなかったのだ。
だが士はそんなティアナの前に立つと、まるで彼女を守るかのように背に隠すのだった。
「悪いがあんたの正義があるように、こっちだって通したい我があってな。おい、ティアナ忘れるな。確かにあんたはこいつのように、国や王を背負ってるわけじゃない。でも守りたいものが、助けたいものがあるんだろ。互いに正義があることは仕方がないことだ。今は割り切れ」
その言葉にティアナはハッと目を見開く。今でも病院で意識不明の重体でいる、なのはのこと。そして今この瞬間も苦しみ続けているスバルのこと。迷っている時間すら勿体ない、今のティアナにはたとえ数が少なくとも背負うものがあるのだから。
「……ありがとう士。私は」
「とりあえずわかればいいんだよ。さてやるぞ」
士は手に持っていたカードをベルトに差し込むと、自らの姿を変えていく。
『カメンライド ファイズ』
「さて、あんたの機動力は前の戦いで確認済みだ。初手ならやばかったかもしれないけどな」
『フォームライド ファイズ アクセル』
「今度は簡単にはいかないぜ。付き合ってもらうぞ、十秒間だけな」
士はファイズのアクセルフォームになると、腕につけらたアクセルスターターのスイッチを押す。そして赤い数字の点滅と共に『スタートアップ』という電子音があがる。
そのままゆっくりと腰を落としていくと、その姿を見てナサレは戦慄の眼差しを二人に向けた。
『負けるわけにはいかない。私はこの国の全てを背負っている。壊れてもらうぞ!』
そうナサレが声をあげた瞬間に勝負は始まる。
もし今この空間を客観的に見ているものがいたら、自分の目を疑ってしまっただろう。先ほどまで部屋の中にいた士とナサレの姿が跡形もなく消えてしまったのだから。