士はアクセルフォームの加速の中、ナサレと何度も剣を交えていた。
この遺跡に入る前にティアナにクロックアップを使わず、なぜ十秒という制限のあるアクセルフォームを使うかと聞かれていたが、それには二つの意味があった。
一つ目の理由は、クロックアップを使うことのできる仮面ライダーカブトの装甲である。他のライダーを寄せ付けない、圧倒的スピードを持つカブト。だがそれと同時に、キャストオフという自らの装甲を外す行為が必要であるのだ。
もし相手が巨大なものや、威力だけのものなら、カブトほど優れたフォームはないだろう。だが相手は超高速で移動する敵であり、何より威力のある魔弾を弾幕が如く打ち込む敵である。流れ弾でも大ダメージを負うカブトでなく、多少でも耐えることができるファイズにしたのは結局のところ二人の草案であった。
この作戦に二度目はない。だからこそ一か八かには走らなかったのである。
士は十四度目になる斬撃を相手に放つが、超高速の剣であるにも関わらず、ナサレは持ち前の速度と予想外の反応速度だけで、紙一重ながら受けとめ続けるのだった。
「ちっ、嫌なことは当たりやがるな」
士がそう愚痴にこぼしたのは、ティアナの予想したことである。ナサレは機械と人間の融合であるが故に、生命維持には何かのエネルギー補給が必要であると思われていた。
そして全てが風化している遺跡で、エネルギーを補給できるとすれば最深部しかなく、下手をすれば最深部事態がナサレのエネルギー炉である可能性があったのだ。
いくらナサレが優れた戦闘力を持っていたとしても、アクセルフォームに対抗し、さらに反撃してくる出力を出し続けて体がもつはずがない。
それはエネルギーを常に供給し、倒れる自信がないということ。もしくは――。
「(この王を守るためにエネルギーを全て使い捨てる覚悟、そしてそのためなら倒れても構わないという想いがあるということだな)」
だがその真相がどちらであろうと関係ないことだった。今この瞬間において、答えが一つならその過程は二人にとってどうでもいいことなのだからだ。
「なあ、あんた。どうしてそこまで王のために生きようとするんだ。少しは自分のことを考えてもいいと思うがな」
アクセルのタイムリミットが残り五秒になった瞬間、士は興味本意に口を開く。そんなことを投げかけようと、完全に無視されると士は心で思っていた。
だが思いに反しナサレは声を上げるのだった。
『私の命は王のためにある。兵ならそれは当り前だろう』
「悪いが俺にはあんたのいう当たり前が分からないんだ。あの女に惚れてるのか?」
士がそう言葉にした瞬間、あのスバルを暴走させた左腕が士の肩をかすめる。士は自分の体に異変はないとか思考をよぎらせるが、特に異常はない。ベルト本体を狙われないことには暴走はないと頭の中でまとめる。
だがそんな現状を細かくまとめている士とは違い、ナサレは吐き捨てるような声を上げ士を睨みつけた。
『ああ、そうだな。確かに私は王に惚れこんでいた。国民のためといい、自らに機械の体を移植せず、ただ一人生身で生き続けた王を私は一人、ずっと隣で見続けていたのだからな』
「ほぉ、随分と素直なもんだな」
『私はこの思いに恥じる部分を持っていない。確かに、一人傷つく王の隣にいた私は、始めから王に恋をする立ち位置にいたのかもしれない』
アクセルフォームの残り時間が2秒になった瞬間、これで二十五度目になるつばぜり合いが起きる。だが今度は二人とも距離をとりなおすことなく、その場で留まり続けた。
『だが私はこの想いが間違っているとは思っていない。たとえ全身が機械の体になろうとも、私の心は王との約束を守り続ける!』
まるでナサレの勢いの蹴落とされるかのように、士の体に変化が起きる。『リフォメーション』きっかり十秒、アクセルフォームの限界時間であった。
『どうやらお前の超加速もここで限度らしいな。そして弱点はわかった!』
先ほど左手が士をかすめて異常を起こさないことに不信を覚えたのだろう。激情的になりながらも、ナサレはしっかりと士を観察していたのだ。
ナサレの左腕がまるで弓から矢が放たれたかのように、圧倒的なスピードで迫っていく。
だが士は逃げることもなく、反撃することもなく一枚のカードをベルトに差し込むのだった。
『アタックライド オートバジン』
そのカードを入れた瞬間に二人の乗ってきたバイクは人型のロボに形を変えていく。
オートバジンとはファイズの世界のサポートメカであり、主武装としてマシンガンを装備している。だがここからが、士がカブトでなく、ファイズを選んだとっておきを意味する行動であった。
『セットアップ。ACSスタンバイ』
バイクに装着されたマッハキャリバーが声を上げる。オートバジンの腕にはスバルの装備していたリボルバーナックルが装着され、その足からは青い翼が展開されるのだった。
この戦いの初手を成功させることができたことにより、ティアナは次の段階に思考を傾けていた。初手で一番怖かったことは、最深部に何かのトラップが仕掛けてあり、それにより何もできずに全滅させられること。
そして何より、マッハキャリバーを装着したオートバジンが動いてくれるかどうかである。士は魔法という無茶が通る世界ならなんとかなるだろうと、根拠のない作戦を言ったが、実際にものを見たことのないティアナには、不安要素に他ならなかった。
だがこの世界にとって常識はずれの無茶こそが、士がファイズを選択した二つ目の理由である。何もマッハキャリバーにスバルの魔力を注ぎ込んだのは、移動のためだけではない。伏兵を完全な状態で完璧な不意打ちに導くためなのだ。
アクセルフォームでナサレと拮抗すること。それは、たった十秒でもナサレの目を士だけに集中させるというスタート地点に過ぎなかったのだ。
『ぐっ、この離さんか!』
『それは無理な願いです。あなたに背負うものがあるように、私にも助けるべき相棒がいますからね』
ナサレを後ろから羽交い締めにしたマッハキャリバーは、まるで相手をおちょくるかのように、淡々とした声でナサレに応える。
一度目の戦闘でナサレのフィールドは強力であることは重々承知している。その答えとしてティアナが考え出した案が、物理的接近による物理的拘束であった。
そして、その瞬間にティアナは、この十秒間かけて詠唱と魔力構築していた呪文を発動させるのだった。
「いけえぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
ティアナの叫びと共にマッハキャリバーとナサレの周りに魔力の鎖、『バインド』がいくつも構成される。
「確かにあなたのフィールドは強力だわ。だけど強固であり無効ではない、フィールドを突破できないならフィールドごと括りつけるだけよ!」
バインドの鎖はその言葉通り、ナサレを囲むように張られたフィールドごとその動きを封鎖する。
「あんたのスピードに付き合ってやる義理はないからな。三対一だが悪く思うなよ」
「いくわよ士!」
「ああ、任しとけ」
士はファイズの姿からディケイドの姿に戻ると、ファイナルアタックライド用のカードを取り出す。そしてティアナはレイジングミラージュ二丁をナサレに向けると、ファントムブレイザーの体勢に入った。
「これでえぇぇぇぇぇ!」
ティアナの遠距離狙撃砲ファントムブレイザー。チャージに時間が掛かるが、今の彼女にとってそれは最大威力の魔力行使である。
その二丁の銃口に自分の全ての魔力を注ぎ込む。チャンスは一度、これを外すことは自分の、そして仲間の死を意味していた。そう、それほどプレッシャーのある一撃であるからこそ、ティアナは驚いたのかもしれない。
自分の腕が言うことを聞かず、レイジングミラージュを一丁地面に落としてしまったことに。
「えっ、なっ……」
ティアナは落ちた銃を拾おうとするが、そうして身をかがめた瞬間に今度は銃だけではなく自らの体もバタンと地面に倒れてしまうのだった。
それはティアナにとって完全に予想外の出来事であった。自分の最大魔力値、そしてそれぞれの魔法への魔力の振り分けを間違ったわけではない。ただその計算がティアナ自身が全開だった時の計算であっただけなのだ。
ティアナはゆりかご事件でなのはを助けられなかった時から、横も見ずにただ力だけをつけ、二十歳になる頃には既に執務官試験に合格するほど勉学を積んでいた。
だがその実力は機動六課の頃のように、よい師に学んだわけでなく全てが独学。そして執務官としての実績を上げ続け、今回のロストロギアを見つけ出すまで、スバルに本気で休暇を取った方がいいと言われるほど、過密スケジュールを組み続けていたのだ。
ティアナの体はとうの昔から悲鳴を上げており、ここ連日、この遺跡の調査のためにほとんど睡眠をとっていない。ティアナは自分の体調管理が出来ないほど疲れ切ってしまい、その魔力は通常の半分にも満ちてなかったのだ。
だがそんな現状をティアナが理解できるはずもなく、手に残ったレイジングミラージュを必死になってナサレに向ける。だがティアナの体には、もう一欠けらの魔力も残ってない。その銃口から魔弾が出ることはなかった。
「そん……な……」
ティアナは自分の不甲斐なさに床を叩くこともできずに、唇を強く噛みしめる。
「どうして私はいつも大事なところで……、何で私だけが……、どうしたらいいの……なのはさん」
『どうやら私の使命を神が選んだようだな。フン!』
ナサレは自らの左腕でオートバジンと化したマッハキャリバーを貫く。するとその傷の部分からジワジワと黒化が進んでいく。
「早く離脱しろ!」
『オ、オーライ』
このままではスバルの二の舞だと、マッハキャリバーはすぐにバイクから射出される。すでにファイズの変身を解いたためか、オートバジンは暴走することなく、そのままもの言わぬバイクに戻っていく。最悪の事態は脱することはできた。
だが現状がどうにもならないことに変わりはなかった。
『さあこれで天命尽きたな。このバインドは少しばかり骨が折れそうだが、それがお前らの限界だ』
ナサレの勝ち誇った声が部屋に木霊する。だがティアナにはすでにその言葉も耳に届いておらず、地にひれ伏している自分の姿をただ無様に想い続けていた。
「どうして私がここにいるの。もしゆりかご事件でなのはさんが無事なら、こんな事件すぐに解決できたはず。スバルみたいにしっかり体調管理に余裕を持てたら、こんなところで魔力切れだって起こさなかったはず。誰でもいい、お願い、私を助けて……」
その想いは機動六課に入り最後まで頭を駆け巡っていた劣等感。一度はなのはによって正された想いではあったが、ゆりかご事件以来ずっとティアナはその劣等感を持ち続けていたのだ。
自分に才能があれば、自分の魔力量がもっとあれば、もっと多くの人を、なのはを助けられたかもしれないという劣等感。凡人である自分がなぜ生き残ってしまったという罪悪感。だけど執務官になり特権が行使できるようになれば、凡人である自分でも恩人を救えるとティアナは想い続けていた。
「でも結局は思い上がりだったのよ。私は何も出来ない……助けて」
そうしている間にも、ナサレを拘束しているバインドは徐々に破壊されていく。見下すナサレ、ひれ伏すティアナ。その勝敗はすでに決していた。
だがそれはあくまで二人の世界での話だ。士は余裕に満ちた足取りで二人の間に入ると、ナサレに視線を向けた。
『どうだ。これが私と王の絆の力だ』
「はっ、絆の力ね。そんな死体と何の絆があるんだかな」
士が奥の冷凍カプセルで眠る王を死体と呼んだ瞬間に、ナサレの目つきが鋭くなる。だがそんな目つきで睨まれようとも、士が態度を変えることはなかった。
『貴様、我が王を侮辱するというのか』
「侮辱してるのはお前だろ。何が王の復活だ、何が国の再建だ。それはお前自身が作り出した、ただのまやかしに過ぎない」
『何を根拠に!』
「根拠ならあるさ。お前は王の復活を誰よりも望んでるんだよな。ならなぜその宝とやらを使って王を蘇らせない」
「それは我が王との約束。王が次に目覚めるまで私は主訓を全うするまでだ」
「だったら言い方を変えよう。お前が任された国や民はもう全て崩壊して滅んでいる。なのにお前は何を守っているというんだ。もう守るべきものもないのに、王との約束もないと思うがな」
あくまで冷静な士の言葉にナサレは言葉を失う。それは士の言ったことに反論できないからか、それともその答えを本当に理解してないからか。それは本人にもわからなかった。
『ち、違う私は……』
「あんたなりの解釈をさせてもらうぞ。あんたは自分の家に泥棒が入って来たら、情けをかけないと言ったな。だが、こんな廃墟に自分と愛する者がいたら、普通助けを求めるだろう。たとえそれが泥棒であっても、そんなの気にする余裕はないと思うがな」
『がっ、な、私、私は……』
「それにあんたの使命を神が選んでも関係ないぜ。なんせ、俺は世界を破壊する悪魔らしいからな。それにな」
士はそこで一度言葉を切ると、泣き崩れているティアナに目を向ける。士はそんなティアナに特に気を使うこともなく、クイッと指を向けた。
「確かにこいつは愚かかもしれない。師を助けられなかったことを全て自分の罪と思い、相棒の言葉に耳を傾けようともしない。だからこんなところで、地べたを這いつくばってるんだ。だけどな、こいつはたとえ地べたに這いつくばろうが、体が壊れようが、いま生きているもののために懸命に足掻いてる。その方法は少し間違っていたかもしれない。だがそんな真っ直ぐなやつは嫌いじゃない。お前みたいに自分の心や約束を捻じ曲げてまで、無理やり保持しようとしてるやつと比べたら余計にそう思うぜ」
最後のトドメとばかりに士が声をあげると、ナサレの体がガチガチと機械音を上げ始める。ナサレの目は先ほど士を見ていたような怒りも何も感じられず、ただ赤く、本当の機械であるかのように赤く発光し始めた。
『私は、違う……チガアァァァァァァァウ!』
発狂。その言葉が今のナサレを表すのに一番適した言葉だろう。すでに彼は自我を失っているようで、今までの、王のための後先考ない魔力行使から、明らかに崩壊するための後先考えない魔力行使にシフトしていた。
だがそんな状況を見ても士は慌てることなくティアナの前に立った。
「誰か助けてか、いい言葉じゃないか」
「……何を言ってるの」
「だけどそれじゃあ言葉が足りないな。『誰か助けて』じゃなくて、ここは『誰かを助けてやる』だろ。お前はそのためにここに来た。なのはって奴やスバルはお前を助けてくれない、お前が助けてやるんだ。周り道はしただろうが、そのためにお前はここまで来たんだろう」
その言葉にティアナはドクンと心臓の高鳴りを覚える。そしてようやく気付いたのだ。自分が目指してきたことを、そしてどうしてここに立っているのかということを。
「そうよ、当たり前じゃない。確かに士の言うように私は馬鹿で周りを見ないで、全部背負い込んできた。でもそれはなのはさんを、皆を救いたいって想いがあったから。真っ直ぐに走ってきたと思いながら随分と遠回りしてきたけど、でもその全てが、全部が全部間違いじゃなかったって思ってる。この数年が全て間違っているなら、なのはさんの教えが全て無駄になっちゃう。それにそんな私について来てくれたスバルも間違ってたってことになる」
「それがわかれば十分だ。ほら、立ち上がれ」
ティアナは士の手を取ると、弱々しいながらもゆっくりと立ち上がり、肩を借り何とか状態を維持する。その瞬間、士のライドブッカーがまばゆい光をあげ、一枚のカードが士の手に飛び込んできた。
その絵柄は先ほどの『高町なのは』と書かれたカードから、『ティアナ・ランスター』と書かれた彼女の姿がプリントされたカードに変わっていた。
「これは私……」
「当たり前だ。お前はなのはって奴に守られてるわけじゃない。お前がなのはって奴を守ってやるんだからな」
「私がなのはさんを守る。……だったら!」
ティアナはレイジングミラージュを持つ、自分の右腕に全ての力を注ぎ込むと、ゆっくりと銃口をナサレに向ける。
ナサレにかけたバインドが解け切るまであとわずか、だが彼女は慌てることなく、自分のするべきことを見定めていた。
「魔力が底を尽きてても、未熟な私でも、今なら」
そうティアナが意気込んだ時、再びライドブッカーが光り出し、もう一枚のカードが士の手に飛び込む。先ほどのカードのようにそのカードの絵柄はティアナの魔法陣の形になり、『スターライトブレイカー』という文字はピンクからオレンジに変わっていた。
「なるほどな。だったら」
士はティアナが落としたもう一丁のレイジングミラージュを拾い上げると、ティアナが構えているレイジングミラージュの隣に添えるように構える。そして手に持っていたカードをベルトに差し込んだ。
『ファイナルアタックライド ティティティ、ティアナ!』
電子音があがると同時に、ティアナは自らの技術でこの空間に広がる魔力のデブリを一点に収拾し、士はカードの力で全く同じ行為をした。
『グオォォォォォォォォ』
ナサレは、徐々に大きさを増すその魔力を見て咆哮をあげる。そこで士は一つ感謝の意を表すのだった。
「あんたが正気でなくて助かったぜ。正気だったら、そんな叫び声をあげてる余裕がないってわかるもんな」
そう士が言い捨てたのと同時に、二人の前には巨大な魔力の塊が生成される。それは士がこの世界にきて見た魔弾と比べるのが馬鹿らしいほど巨大なものだった。
「行くわよ士。全力!」
「全開!」
「「スターライトブレイカアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」」
二人の叫び声に応え放たれるオレンジの閃光。それを見て、ナサレに唯一残った戦いに関する危険回避の本能が、自らのフィールドを強固に形成する。
だが二人のスターライトブレカーはまるでそのフィールドがその場にないかのごとく、簡単に砕いていった。
『スターライトブレイカー+』は、なのはが小学生時代に偶然編み出したものである。それは結界破壊の付与効果付きの魔法であり、今の二人のスターライトブレイカーはそれに似ていた。
だが二人のそれに結界を破壊するという桁違いの能力は備わっていない。だが偶然の産物であるこの『スターライトブレイカーD』は『結界破壊』でなく『フィールド無効』が付与されており、その能力はナサレの守りを根底から打ち砕いた。
「いっけえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
二人が全てを懸けて放ったスターライトブレイカーは、一寸の狂いもなくナサレに直撃する。そしてオレンジのまばゆい光は部屋の全てを包み込んだ。
その光はこの戦いの決着がついたことを表す光でもあった。