マブラヴオルタネイティヴ二次創作小説 熱砂の刃 作:賀川 シン
2001年5月18日 スエズ戦線にて―――
その日、アンバールハイヴから突出した約3万以上にも及ぶBETA集団を迎撃する為にスエズ基地及びアフリカ大陸から大規模な戦術機甲部隊の投入を即座に決定した。
その中には各軍の派遣部隊も参加しており、日本帝国のライノ中隊、フランス軍ガルム中隊も含まれていた。
出撃準備を終えたライノ中隊のUNブルーに塗られた不知火が次々に地下格納庫よりエレベーターによって地上へと運ばれていく。
アフリカ大陸のBETA最前線であり、最終防衛線でもあるスエズ基地は広大な滑走路を持ち、幾つかの主要施設は地上にもあるが、戦術機格納庫はその殆どを地下に移設されており、次々と戦術機が地上からせり上がってくる光景はスエズ基地の特徴でもある。
出撃準備が整った部隊が順序よく出撃を繰り返していた。
跳躍ユニットの轟音の中でライノ中隊の戦術機を見送る一人の女性の姿があった。彼女は出撃するライノ中隊の不知火に対して敬礼を行い、戦地へ向かう戦友を見送ると自分の戦術機がある格納庫へ戻っていく。
洒落っ気もなく伸ばされた黒髪が熱風で揺れるのを抑えながら、長く垂れた前髪から覗く瞳は何処か寂しそうな色を帯びていた。一応、出撃に備えている為に強化装備も着ていたが出番はなく、日本帝国軍・中東派遣部隊・ライノ中隊所属の鈴風・綾音少尉はまだ機械音の残る格納庫内を歩き、自分の戦術機の前で立ち止まると溜息を吐いてしまう。
その光景を目撃した整備員の一人が申し訳なさそうに声を掛けてくる。
「すいません。あと少しで出撃に間に合ったんですが……」
ポリポリと頬を掻く仕草をして格納庫に残った一機の不知火を見上げる。1か月前に行った欧州連合・ガルム中隊との実戦形式の演習やその後に発生したBETAとの戦闘などにより修理が間に合わず、今回の出撃に間に合わなかったのだ。
それに戦術機の部品不足も深刻化してきた事もあって不知火の完全修理も難しくなっていた。それに内密に横流しされてきた部品も日本帝国内で不知火が普及してきた事もあって部品不足に拍車を掛けていた。
しかしライノ中隊にとっては自分たちの祖国がそれで助かるのであれば、それもやむなしと言った思いもある。その為にライノ1や整備班長、中隊のお目付け役の帝国陸軍の高官が中東連合及びアフリカ連合に共有できる戦術機部品などの取り引きを行い、部品不足であったライノ中隊の不知火を運用してきた。
その中でも米国製の戦術機部品を多く組み込んだ第一号の不知火に選ばれたのが綾音の不知火であった。
「あ、いえ、戦闘で壊したのは私なんですし、整備員さん達が一生懸命に仕事をしているのは十分に分かっていますから、気にしないでください」
そう言って綾音は作り笑いを浮かべる。あまり人付き合いが良くないのでライノ6こと浅倉・千里にもっと愛想よくしなさいと言われて最近では笑顔で応対するようになった。
1か月ほど前に行われた演習試合でのガルム中隊所属のミランダ・アルセイフ少尉と共に行った罰ゲームのお蔭でそれからは整備員達やそれを目撃したスエズ基地の人々から向けられる視線が生易しくなった気がしていた。
部品の横流し品で補填した綾音の不知火は米国製の部品などを組み込んだ事で最終調整などに戸惑い、今回の出撃に間に合わなかった理由でもある。先ほど話していた整備員のインカムに情報が入り、再び綾音に視線を向けると。
「あ、はい。了解です―――鈴風少尉、先ほど電気系統の調整が終わったそうなので、機体との同期チェックの方をお願いできますか?」
手にしていたファイルから数枚の紙束を綾音に渡す。そこには今回の修理で使用された部品類の詳しいデータが記載されていた。それから数十分後、自分の不知火の最終チェックを終えた綾音の元にとある命令が下されるのであった。