マブラヴオルタネイティヴ二次創作小説 熱砂の刃 作:賀川 シン
本来なら自己判断ではなく、司令本部にすぐさま作戦の中止を打診し、地中進行をしてきた新たなBETA群の進行方向に熟練の衛士で構成された戦術機部隊を派遣すべきであり、新人の衛士を含めた綾音たちは出てきたBETAの数などを観測するのがベストだったのだろうが、ここでいくつかの問題が発生したのだった。
一つ、BETAの出現ポイントに砂嵐が発生した事、乾燥・砂漠地帯では日常の如く起きる砂嵐なのだが、この地域には対レーザー属種に対して使う対レーザー弾頭(通称・AL弾)に含まれる重金属が砂嵐によって空中上に舞い上がり、その一帯の通信が不具合が発生した事。
二つ、綾音が指揮していた部隊の衛士が新米だった為に初めて戦場に出た事によって気分がハイになってことで自己判断で行動してしまった事。そして―――
現場に到着したと同時に砂嵐に巻き込まれた綾音たちは視界不良の中でBETAとの遭遇戦に陥ってしまったのだった。この地域は大部分が荒野と砂漠が広がる場所であり、人類側にも悪条件が多く、BETAにもその影響があるのか、この地域のBETAにおける地中進行は主に戦車級・要撃級が主であり、どうも地中を坑道を広く作れないらしく、出てくる種が限定されているらしい。
視界不良の中で通信も上手くできず、スエズ防衛線との距離が近い為、進行するBETAを見逃す事が出来ない。なので現場の判断で綾音は新米衛士3人を率いてBETA群の迎撃を行う事になった。何とか距離を保ちながら突撃砲での迎撃なら新米衛士でも問題は少ないだろうと綾音は考えて、3人に指示を飛ばす。
戦術機のセンサーを介して、網膜投影に映し出されるBETAの姿に次々と36㎜を撃ちこんでいく。だが、次第に激しさを増す砂嵐の中で射撃精度が低下し、キルスピードが落ちてくる。
すると次第に綾音たちとBETAとの距離が次第に詰まってくるのに新米衛士たちの中では次第に焦りと恐怖が込み上げてきた。
そして、三つ目の問題。上手く砲撃が当たらなくなった事に苛立ち、それまで適正な距離で射撃していた新米衛士たちが突如として前進を開始したのだった。
「くそっ、砂嵐の中で上手く当たらないッ! なら、距離を詰める!」
「死ね、死ね! くそ野郎どもめッ!!」
「二人とも勝手に……ま、待ってくれよッ!」
リーダー格だった衛士が前進を開始した事により、他の2人もそれに続いてしまい、突如として前進を始めた3人に綾音は驚きを隠せずに思わず声を上げる。
「なッ!? 勝手に前進しないでッ! 下がりなさい!!」
その無謀な行動に瞬間的に怒りが思考を支配するも、すぐに自分の感情を抑え込むと犠牲が出る前に自分が矢面に立ち、BETAの矛先を自分に向けさせるべく綾音は距離を詰めようとして短距離跳躍を試みた際、急にエラー音が鳴り響く。
突如として鳴り響く警告音に綾音は何事!? と思いながらすぐさま情報を確認する。
「こんな時に……異物防止フィルターにダメージって―――」
刹那に思考をフル回転し、原因を突き止めようとした瞬間、強い突風と共に機体全体に砂粒が叩きつけられる音がなった瞬間、綾音はハッとする。この砂嵐の中に含まれている物質、その正体が思いつくと同時に綾音が叫ぶ。
「全機ッ、跳躍ユニットの使用は禁ずるッ!! 今すぐに歩行による後退を!!―――」
無意味に詰めてしまった3機は戦車級の物量から距離を空けようして跳躍ユニットを使用する瞬間に綾音のその叫びに何とか反応した2人はハッとして跳躍を止めるも、1機だけが思わず跳躍ユニットを使用してしまう。
ロケット推進からジェット推進に切り替わった瞬間、砂嵐の中に混じっている多量の『重金属』が跳躍ユニットの空気流入口、噴射口に集まった瞬間、ジェット推進の高温によって重金属や細かい砂がガラス化して、エンジンストールを引き起こしたのだった。
機体の安全装置が働き、爆発する事はなかったが跳躍ユニットからは黒煙が吹き上がり、墜落するイーグルに狙いを絞り戦車級が飛び掛かっていく。他の2機は自分の身を守る事で手一杯であり、綾音は飛び掛かっていく戦車級にフルオートで射撃を行う。次々に戦車級を仕留めていくが、如何せん前進してしまった事で出現口に近付いてしまった為に次々とBETAが這い上がってくる。
視界不良の中、明確な数は把握できず、混乱する新米衛士たちにすぐさま綾音は指示を飛ばす。
「各機、落ち着いて態勢を立て直して! 近すぎる戦車級には短刀での処理も!」
必死に抵抗していたが倒れたイーグルに次々と戦車級が殺到して、機体に取り付く。数秒で機体ステータスが真っ赤に染まり、機体の自由が奪われていく中でバキバキと機体の装甲や内部構造が噛み砕かれていく音が管制ユニット内にいる衛士の心をへし折っていく。
その音は自分が機体ごと喰われる事を想像してしまうには充分すぎるぐらいに現実感を突き詰めてしまっていた。冷静な判断ができず思わず恐怖で叫びながら、緊急脱出ボタンを押してしまう。
それは臨時の部隊長である綾音に即座に通知されると同時に綾音は叫ぶ。
「まだ早いッ! 今、脱出は駄目ッ!!」
「―――えっ!?」
すでにボタンを押し、二重チェックの了承を行ってしまった後で新米衛士は綾音の悲痛な叫びに瞳を丸くする。その網膜投影に映し出された綾音の表情が彼が見た最後の人の姿であった。
次の瞬間には機体から勢いよく管制ユニットが打ち出される。空気の流れと砂粒が顔に当たるのを感じて、脱出した衛士はBETAに機体ごと喰われる事なく脱出できた安堵感からホッと表情が緩む―――と、同時に自分の姿に影が覆う。
脱出した衛士はその刹那、悟るのであった。自分が最悪な選択肢を選んでしまった事を……自分の身体を捉えようとする異様な赤黒い腕や手が伸びてきた瞬間、たまらず悲鳴を上げた。
『その瞬間』を目撃してしまう綾音はすぐさま突撃砲の銃口を落ちてくる管制ユニットに向ける。揺らぐ瞳の光が120㎜弾を選択した映像を映し出す。そして綾音はトリガーを引いた。
刹那、120㎜弾が直撃して管制ユニットが爆発する映像の中で腕や脚が引き千切れていく人の姿が複数の戦車級と共に映し出された。一人の犠牲を出してしまった事に綾音の心に亀裂が奔るも、次には他2人をどうするかを優先して次の行動を選択する。
他の2機は何とか態勢を立て直しているものの、機体には損傷があり、主脚による歩行が出来そうであるが何時まで持つかは判らない。
「各機、機体状況を報告!」
「こちら2番機、左腕の動作不良、センサー類に異状ありッ!」
「よ、4番機、こちらは跳躍ユニットが使用不能」
「……了解した。2人は私の後ろに下がって、近づいてくる敵を確実に仕留めて。私が前に出て、BETAを引き付けるから……いい? 私への援護射撃なんて考えないで、2人は自分の身の安全だけを考えて」
そう告げると左腕に突撃砲を持ち構えて、右肩部の兵装マウントから使い慣れた74式近接長刀を手にする。
100m先も砂嵐で見えない状況化でもBETAは自分達の居る位置へ向かい、突撃をしてくる。
「くそッ、さっきから纏わり付きやがって!!」
2番機のイーグルが愚痴りながらも一匹ずつ確実に仕留めていく。4番機は先ほどから落ち着きがないようで周囲に気を張っているのだがその所為で動きが固い。
「鈴風少尉ッ! 周囲をBETAに囲まれているようです! そこらかしこに―――!!」
声色に恐怖を感じさせる4番機に綾音は叱咤を込めた指示を飛ばす。
「お互いに背中合わせでお互いの死角を減らして応戦ッ! ここからは持久戦になるから踏ん張って!!」
そう言いながら長刀を振るう。戦車級を一刀両断すると左手で使っていた突撃砲を左肩部に懸架して、変わりに短刀を装備する。不知火の周囲には切り裂かれた死骸が散乱して歩行での回避を難しくしている。
更に視界不良でBETA出現口が見えないので規模が掴めず、終わりの見えない事が綾音たちの気力を奪っていくのであった。