マブラヴオルタネイティヴ二次創作小説 熱砂の刃   作:賀川 シン

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長らくお待たせしました。
これまでは下地があって投稿もなるべく早くできたのですが、この四章からは
一からの作成だったので時間が掛かってしまいました。

この章からは後書きに部隊や背景などの舞台設定を入れてみようと思うのでよ
かった最後までお楽しみにしてくれれば、幸いです。

では、今日から第四章の投稿を開始します。


心の隙間を凪ぐ、その風は ①

 中東に築かれたアンバールハイヴからのBETAの進行を十数年の間、守り抜いてきたスエズ戦線。

 中央アジア、中東ならび地中海方面より欧州からの難民が戦火を逃れるために決死の逃避行を繰り返して、未だにBETAの存在しないアフリカ大陸へとたどり着いた。

 そして2001年現在、アフリカ大陸は今までにないほどに活気づいている。

 避難してきたアジア・欧州各国への政府租借地の提供、避難民の居住先を提供して、その見返りとして人的・技術的の提供によってアフリカ大陸に最新の技術やインフラの整備が行われる結果となった。

 

 

 戦争経済によってアフリカ大西洋沿岸部にそって大きく発展を遂げ、その影響は中央部や南部にも都市が発展するほどの勢いをもたらした。

 ただ一部地域を除いては、その例ではなかったのだ。

 そこはアフリカ北東部、アフリカ大陸にとっての生命線、その地域だけは未だに混沌と期していた。

 多くの難民が集まって出来た町では未だに貧困と嘆きで溢れかえっている。

 彼らの多くがスエズ運河を越えられず、アフリカ大陸に渡れなかった者たちであり、これからもアフリカへは渡れずに、そこにとどまる事になるだろう人々であった。

 

 

 アフリカ連合政府による人的選別によって抱えきれなくなった人間たちの巣窟、それがスエズ郊外に広がるスラム街の現状。

 国連の援助物資や近くにある欧州政府による支援によって彼らは今も生き延びる事ができていた。

 

 

 2001年、5月24日、スエズ基地、第6地下格納庫。

 油や火薬の臭いが香る格納庫、そこには幾つのもハンガーが点在し、現在は日本帝国中東派遣部隊、第604戦術機中隊の戦術機が格納されていた。

 UNブルーに彩られている94式戦術歩行戦闘機、不知火が本日の整備点検を終えた所であった。

 整備を終えた作業員たちが仕事を終えて各々の時間を過ごすべく、格納庫から出ていく。その中で整備員たちの指揮を取っていた整備班長が深めに被っていた帽子を外す。

 

 

 初老を迎えるその表情は何処か不満そうで先ほど整備を終えた不知火の姿に溜息を吐いていた。その様子を察して整備班長に歳の近い整備員が言葉を掛ける。

 

「部品不足が徐々に深刻化してきましたね……特に装甲系と電磁伸炭素の在庫が少なくなってきましたし、このままだと共食い整備になりそうで、整備員としては機体の仕上がりを良い状態で衛士に渡せないのは悔しいですね」

 

 そうして二人が見上げるライノ中隊が扱う不知火はすでに所々で海外製の戦術機パーツを使用しており、派遣された先であるスエズ戦線ではアフリカ連合を全面的に支援している米国のお蔭で米国製の戦術機パーツが手に入りやすかったのは運がよかったのかもしれない。

 

「……まぁ、俺たちに出来る事をするだけだ。それにこれからはもう一機種の整備も始まるのだからな、俺らが気を引き締めないと若い奴らまで引っ張られたら元もこうもない」

 

 整備班長が向ける視線の先にはハンガーに並ぶ不知火の奥に他の戦術機が6機、ならんでいた。

 まだUNブルーに塗装されておらず、新しくライノ中隊に搬入されたのはF-18E/F、通称スーパーホーネットと呼ばれる米国製の2・5世代戦術機であった。

 

「昨日の内に中のOSはすでに日本語に変換済みですが、衛士の機種転換訓練は近日中に始まるらしいですね。確か……最初にライノ7、鈴風少尉からって話です」

 

「そうだろうな。今、自分の機体が動かせないのは鈴風の嬢ちゃんだけだろうし、ただ問題はコイツに日本式の近接格闘戦が出来るかどうかだな」

 

 そう言って再度、整備班長がスーパーホーネットに視線を向けた。米国製の戦術機らしい堅牢なフォルム、空力機能を備えた不知火などとは違う毛色を持つ。

 

「スペックを参考にすれば、米国海兵隊が使用している機体で、うちの中隊の戦術機運用が似ているからって事でうちの中隊長が選んだから、間違えはないと信じるしかないな」

 

 帽子を被り直し、整備班長は今日の仕事を終えて、格納庫を後にした。

 

 

 翌日、スエズ基地内、総合病院にて。

 幾人の医者や看護士とすれ違いつつ、片手に書類を持って女性衛士が個室の病室へと向かっていく。目的の病室にたどり着くとドアを軽くノックすると中から、どうぞ。と大人しげな声が聞こえたのでドアを開けて入室する。

 このご時世で病室の個室を使えるのは身分の高い者や戦闘で戦果を示した者など、特別な事情があって使用できるぐらいに贅沢な事であった。

 

 

 そんな贅沢な個室にぼんやりとしている一人の女性に声を掛けた。

 

「もう具合は良いみたいだね。どう? こんなフカフカのベッドで横になるのは、懐かしいんじゃない?」

 

 にこやかな笑みを浮かべて言う女性衛士、ライノ中隊6番機を預かる浅倉・千里少尉は備え付けられているパイプ椅子に座る。

 

「……最初の1日ぐらいは気分よく横になっていたけど、正直、もう起きて身体を動かしたい気持ち、もうベッドから抜け出したい」

 

 そう退屈そうに視線を向けるのは現在、負傷中で、謹慎期間中でもあるライノ中隊7番機を預かる鈴風・綾音少尉であった。

 その不満そうな表情を浮かべる綾音に苦笑を浮かべる千里は口を開く。

 

「謹慎中だからね~でも、運がよかったんじゃない? 私たちが普段使っている宿舎よりの個室よりも広いし、綺麗だし、今ぐらいはゆっくりしても?」

 

 幼馴染でもあり部隊内でも相棒でもある千里の言葉を遮るように綾音が口を開く。

 

「でも1週間近く、ここに缶詰め状態なんだよ? 身体が鈍って仕方ないし、部隊の皆はきても茶化したりで何だか見世物にされている感じ」

 

 むくれた表情を見せる綾音を見て、クスッと笑う千里は持ってきていたファイルを綾音に差し出す。お見舞いの品としては似遣わない物を手にして、綾音はファイルの表紙を捲ると、そこには戦術機の三面図と共に各スペック表が記されていた。

 描かれている戦術機は米国製の第2世代機、ただアフリカに来て見た事もない機体であったので綾音は頭にクエッションマークが浮かぶも、機体の特徴などを頭に入れていく。

 

「こんな物を持ってくるって事は次に私が乗る戦術機って、これ?」

 

「うん、そうらしいよ。不知火は予備パーツ、特に外装パーツが足りなくなる可能性があるから迂闊には使えないし、中隊長がスエズ基地の本部に打診したらしいよ。それで来たのがこのスーパーホーネットっていう戦術機、もうハンガーに搬送済みで6機も来たんだよ」

 

 その言葉を耳にしつつ、綾音はスーパーホーネットの採用年数を見て、疑問を感じた。

 

「でも、この戦術機ってここ数年で配備されている……俗にいう新型機じゃない? それも6機も配備って、私達みたいな外国の派遣部隊に補充されるなんて変じゃない?」

 

 発言した疑問は当然であり、アフリカ戦線では徐々に第二世代機が配備されつつあるも、戦術機部隊の大半は第一世代のF-4ファントムそれに属するシリーズが配備されている。

 第二世代機であるスーパーホーネットなどの機体は何処の戦場でも求められている機体だ。

 当然、乗りこなす為に慣熟訓練や機種転換訓練なども必要であるが、乗りこなせれば反応速度や機体自体の完成度は第二世代機のが上である。

 

 

 その分、一機あたりの機体コストも高く、馬鹿にならない為に最前線にまで行き渡らないのが現状であった。

 綾音たちも不知火に乗る前は第一世代機のF-4J撃震、ファントムを日本帝国仕様に改修されたものを使っていた為に、初めて不知火に乗った時に感じた操作性の違いなどに戸惑いはあったものの、慣れれば自分の身体のように動く不知火には感動すら覚えたものであった。

 未だに戦力の多くが第一世代機で補っているスエズ戦線でライノ中隊に第二世代機が支給される疑問に千里が答える。

 

「前回の任務で綾音ちゃんが一緒に戦った新人衛士、ライール・ルマアサル少尉、ベルーシ・ルカッセル少尉、この両衛士の親がアフリカ連合軍の政府軍事部門の関係者って事は綾音ちゃんも聞いていたよね?」

 

「うん、オペレーターからは絶対に護れ、って話は聞いていたし、軍関係者って事はそれなりに上の役職の子だったの? 詳しい話は訊いては無かったから」

 

「えっと、どうも二人とも……特にルマアサル少尉は父親がどうも、アフリカ連合軍の軍事輸入部門、特に戦術機関連を主に担当しているらしくて、今回、私達にスーパーホーネットが配備されたのも、それが理由らしいよ。

機種はうちの中隊長が選んだらしいけど……そういう事でその人が色々と融通を利かせてくれたんだって」

 

 

 ポケットに持っていた飲み物を取り出して、渇いた喉を潤して千里は一息つく。不意に見る綾音は少し顔色はよろしくない。どうもあの戦闘で一人の犠牲者を出してしまった事に気を病んでいるのだろう。

 そんな戦友の表情を見て、千里は手にしていた飲み物を飲み干すと。

 

「気にし過ぎはよくないよ。あと人の好意は素直に受け取った方がいいし、それに今は不知火だって予備パーツが足りなくなって、部隊で使用する新しい機体を導入しようとしていた所だったから経理の人や中隊長は『ただで機体が手に入る』って嬉しがっていたよ」

 

 

 そう言いながら中隊長のライノ1の口調を真似して言うが似せようともしない千里を見て、ようやく綾音がクスッと笑みを浮かべると。

 

「そう、だったら、いいんだけどね」

 

 

 手にしていたファイルを一旦閉じると、綾音は千里との会話に耳を傾けるのであった。

 

 

 それから一週間後―――スエズ基地、第6地下格納庫。

 整備員休憩室となっている大部屋に何名の整備員たちが寝転んでいる。その上から毛布を掛けていく千里と整備班長の姿を横目に綾音は久しぶりに立つ格納庫の空気に懐かしさを感じつつ、目の前に立つ戦術機に視線を向ける。

 国連軍を示す水色に塗り替えられたスーパーホーネット、綾音が乗る為に用意された機体が待機していた。

 綾音の周りには整備班長ほかに数名の整備員たちが集まって、今日の為に仕上げた機体を眺めている。本来なら休憩室で寝転んでいた者たちもこの日に間に合わす為に完成まで頑張った結果だった。

 

「今回、仕上げされてもらったコイツはまだ慣熟訓練を終えてない機体だ。だから無茶だけはしないでくれよ。嬢ちゃんだって復帰直後で病院戻りは嫌だろ」

 

「はい、出来るだけ無傷な状態で戻ってきます」

 

 

 真新しい管制ユニットのシートに座り、コントロールグリップを握る。癖が全くないないグリップは硬く違和感を覚えつつも、機体のシステムを起動させる。

 網膜投影に機体情報が次々と映し出され、OSを英語表記から日本語表記に変わっている為に機体コンディションチェックを早々に終わらせ、異常のない事を確認する。

 機体の駆動音と共にハンガーロックを解除すると、整備員達が退避していく、綾音はゆっくりと機体を進ませていった。




 熱砂の刃、舞台設定。

 ライノ中隊、正式には日本帝国陸軍・第604戦術機中隊である。
 京都防衛線の後に散り散りになった残存部隊が集まって出来たのが―――
 
 「第600特務混成戦術機大隊」であり、彼らはBETAの東進を食い止めるべく、東海道撤退線に投入され、大隊は各中隊ごとに分けられ、601、602、603、の各中隊で即席であったチームワークを良くすることで戦い抜いていく事になる。

 しかし東海道撤退線は避難する国民の輸送が思ったよりも進まずに、進行してくるBETA群を食い止めるべく、第600大隊を始め、各戦術機部隊が投入されたが、それらもこれまで部隊を失った衛士たちを集めて出来た戦術機部隊であり、本隊である帝国軍は関東などに一度撤退し、部隊の再編制を行っていた。


 国民の避難、軍の再編成のための時間稼ぎ、支援や補給すらろくに行われない戦況に投入され続けた第600特務混成戦術機大隊は国民の避難と軍の再編成の時間稼ぎを多大なる犠牲と引き換えに成功させる。
 だが、部隊損耗率は90%を越え、最後まで生き残ったのは7人であり、その後は他の部隊から衛士の補充を行い、第604戦術機中隊が発足するのであった。

 その後は明星作戦、本土第一防衛線などに投入され、損耗しつつ、生き残って来た。そして、とある陸軍上層部からの任務でアフリカ戦線に派遣されるのであった。


 ライノとは動物のサイを示す言葉であり、第604戦術機中隊は各戦場において過酷な任務、特に光線吶喊を主に行われさせられてきた為、BETA群へ突撃する光景はまるでサイの突進のような光景に見えた為、その噂を聞いた第604戦術機中隊の在日米軍の衛士に部隊コードを「ライノ」にしようという事になった。
 それが第604戦術機中隊が「ライノ中隊」と呼ばれる由来である。

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