マブラヴオルタネイティヴ二次創作小説 熱砂の刃 作:賀川 シン
ようやくパソコンを購入できたので第四章の投稿を再開いたします。
焼け付く日差しと共にスーパーホーネットの姿を見ているライノ中隊のメンバーたちは指揮車両やテントの下に置かれたパイプ椅子に座って見守っている。
「あの機体、元のフォルムとは違うけど、あれってどうなんです? 俺ら向けに改修したんでしょ」
そう告げるのはいつもライノ7に悪態をつく姿が部隊内でも目に付く、ライノ9であった。だが、その指摘は衛士のものらしく、すぐに機体の特徴を捉えていた。
今、綾音が操縦しているスーパーホーネットは単純に機体のOSなどを微調整しただけではなく、日本戦術機などが応用している装甲面における空力制御を行う為に頭部にはセンサー内蔵型のブレードアンテナ、腕部には不知火に装備されている展開型のナイフシースを備えて、各部の電磁伸炭素も近接格闘戦仕様に調整されていた。
ライノ9の言葉に答えたのはインカムを付けてライノ7と機体の調子をモニタリングしているライノ3であった。彼は眼鏡を掛け直すとコンソールを操作して言う。
「そうですね。本来の機体とは多少なりとも仕様が変わっている事ですし、整備員やライノ1が話した結果、うちで扱うスーパーホーネットは日本帝国軍仕様ということで、コードネームを『瑞雲』と呼称する事になりました」
「「瑞雲?」」
初めて聞く名称にライノ9やそのバディでもあるライノ8も首を傾げる。その様子にライノ3の横で機体データを見ていた整備副長が二人に向けて説明した。
「大東亜共栄圏の時に帝国が開発した水上機が名前の由来だよ。水上に浮かぶようにフロートが付いている飛行機で、スーパーホーネットも両脚の兵装ブロックがフロートのように突き出しているし、同じ海軍での使用という共通点があったから、そうしたらしい。
いつまでも横文字で戦術機の名前を呼んでいると舌を噛みそうになるからな」
「そっちの方が俺らにとっても馴染みやすいか」
納得したのかライノ9が再びモニターに視線を向けると甲高い音が鳴り響き、周囲に突風が吹き荒れる。
「こちらライノ7。これより瑞雲の動作トライアル及び戦闘機動を行います」
「了解だ。データ関係は逐一記録しているから、何か問題があるなら直ぐに報告してくれ。次のテストまでには調整する」
整備副長の言葉に綾音は了解。と告げた後、主脚でのランを行い、跳躍ユニットを点火するとショートジャンプを行った。不知火の主機とは違う跳躍ユニットの力強さに戸惑いを覚えつつもテストコースを進んでいく。
機体のテータは頭に叩き込んでいたが、実際に動かしてみるとやはり素直にいかない。米国製の跳躍ユニットは出力が高く、機体の方向を変える際は跳躍ユニットで強引に変える。
帝国製の跳躍ユニットは全体的に出力が低い為にそれを補うために機体全体での空力性能を込みで補っている。
なので、身体に染みついている日本仕立ての機動が上手く合わない。それはモニター越しに見るライノ中隊メンバーも整備員たちの目からも明らかであった。
「おいおい、バッタみたいに飛び跳ねて、上手くコントロール出来てないじゃねーか」
思わず素直な感想を述べるライノ9は皮肉を込めて言う。
「あれがうちの突撃前衛だとは他の隊のやつらには言えねーな。まったく」
流石にと思ったのか隣にいたライノ8が訝しめな目つきで咎める。
「お前は……鈴風少尉だって病み上がりで慣れていない機体を動かしているんだ。その辺は考えてやれ」
その言葉にライノ9は鼻で笑い、その態度にライノ8はため息をついた。その間にもトライアルは続いており、一通りのコースを辿ったが前に不知火で出したタイムとは8秒以上も差が出ており、なんとも言えない結果となった。
網膜投影に映し出されているタイムを見て、綾音は思わず操縦桿を握る手に力が入る。
情けない。とその一文字だけが脳裏を過ぎる。瑞雲という戦術機の性能が悪い訳ではない、跳躍ユニットだけでもみたら不知火よりも出力が高く、機体自体も整備員たちが綾音が乗っていた不知火に近い操縦性にしてあるのは乗っていて判る。
だからこそ自分の腕が鈍っている事に情けなかった。
「少尉、こちらはライノ1だ。どうだ? 少し休憩でも入れるか? 慣れない機体の操縦だ———」
そのライノ1の気遣いを遮るように綾音が答える。
「いいえ、もう一度……お願いします。次はもっと速いタイムを出してみせます!」
網膜投影に映し出されるライノ1を綾音は喰らい付くような瞳で見つめる。それを見たライノ1は綾音に注意を込めた言葉でいう。
「……おう、分かった。でもな鈴風、今日は初日だぞ? 病み上がりのお前が壊れても駄目だし、機体が壊れても駄目だ。つまり俺が言いたい事は分かるよな?」
何度も、何十もの戦場を生き抜いてきたライノ1が見せる眼光、綾音は当然といったように頷くと応答した。
「当たり前です。私は衛士ですから……BETAを殲滅するまでは、こんな所で負けてはいられません」
その言葉に苦笑を浮かべたライノ1は「あの時から随分変わったものだな」と一言ぼやくと。
「じゃあ少しでも早くその機体を自分のものにしてみろ! 時間も機体も全てを無駄にするな。これは命令だ!!」
「———了解ッ!」
そう告げた瞬間にライノ7が操る瑞雲が颯爽と大地を駆けていく。その一日目の結果はほんの一秒ほど記録を繰り上げた結果が残されたのだった。
今回は少ない分量での投稿ですが、今回のお話は完成しているので出来るだけ早いペースで投稿したいと思います。