マブラヴオルタネイティヴ二次創作小説 熱砂の刃   作:賀川 シン

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随分と間が空いてしまい、すいませんでした。
内情を言うと、夏頃に転職して、慣れるまで全く手を付けられない状況になってしまっていました。

ようやく生活リズムに慣れてきたので、とりあえず途中まで出来ていた部分を投稿しようと思います。

なんやかんやでマブラヴのアニメ放送前に投稿できました。
もし、少しでもマブラヴの事が好きな人の目に留まる事があった嬉しいです。


心の隙間を凪ぐ、その風は ⑤

 同じ基地施設にあるとはいえ、自分たちがいるエリアとは明らかに空気が違う事に綾音は思わず周りの様子を窺ってしまう。

 だが、それは逆もしかりであり……通り過ぎる欧州人は見慣れない東洋人の姿を物珍しいと思ってしまい、振り返るのは当然の反応といってもいいだろう。

 前を歩くミランダは背中越しに感じる綾音の反応に少々呆れつつ、目的の場所までたどり着くとドアを開ける。

 

「取り合えず、あなたに紹介する人がいるから入ってくれる?」

 

 そう言われるがまま綾音はドアの先へ進むと、そこは幾つものの椅子や巨大なモニターが配置されているミーティングルームであった。光源の所為もありその広い空間がより一層広く見えてしまう。

 そして綾音の視線がモニターの前に立つ人物の姿を見つけた。

 向こうはこちらの姿を見て軽く手を振る。爽やかな笑みを浮かべるその人物は綾音も知る人物はミランダの兄であり、彼女らの所属するガルム中隊の中隊長であるアレクセイ・アルセイフ大尉であった。

 

「ようこそ欧州連合軍へ、鈴風・綾音少尉。歓迎すると同時に色々と事情はミランダから耳にしているよ。本来だったらお茶会形式で出迎えたかった所でしたが、どうも優雅にしている時間はないという事ですし……さっそく本題に入りましょうか」

 

 長身で痩せ型、見るからに爽やかそうな人柄で喋り掛けてくるアレクセイが自然な対応だった為、人見知りの綾音も難なくその言葉に頷いて指定された席に腰を落とす。

 席に座ると部屋の照明が落とされ、大型モニターに映像が映し出される。それは綾音が昨日行った瑞雲の映像であった。

 アルセイフ兄妹がその映像を見終えるまで綾音が自分の稚拙な操縦技術を見られているという羞恥心で思わず俯いてしまう。

 

 

 そして一通の映像を見終わり、室内に照明が灯るとミランダが綾音を見つめて口を開く。

 

「貴女、もう少し出来るとは思っていたのに……」

 

「……惜しい所までは来ているとは思います。ですが、感覚を掴み取れるまで時間が掛かりそうな感じですね」

 

 二人とも眉を潜ませる表情で辛口なのは、下手にフォローされるよりもましだと綾音は思わずホッとしてしまう。

 そして二人に続いて綾音が言葉を続ける。

 

「それは私も同じ事を感じています。あと、もう少しで何かを掴めると思うのですが、その何かが———」

 

 綾音が答えを求めようとした時、それを言わせないかの様にミランダが人差し指で綾音の頬を突く。

 

「え?」

 

 思わず言葉を止めてしまう綾音を見つめるミランダは一瞬だけ微笑むとその手を放し、アレクセイに向けて発言する。

 

「でも動き自体は悪くはないし射撃も安定しています。私から一つ言わせてもらうと……もう少し元の機体特性を理解して上手く利用すれば短い時間でも十分に習得できるとは思われます」

 

「その考えは概ね同意だな……いやぁ、ミラちゃんは良く見ていてお兄ちゃんは関心関心」

 

 一瞬、聞き間違えかな? と思った綾音は思わずアレクセイを見るとそこには先ほどまであった爽やかそうな表情がそこには一切なく、思ってはいけないのだが「気持ち悪い」という印象が浮かんでしまう。

 対称にミランダは先ほどの笑みが一切ない鋭い目つきでアレクセイに言う。

 

「……兄様、ミラちゃんはお止めください。今の私は欧州連合軍の衛士、ミランダ・アルセイフ少尉です。もしそれ以上何を言うのであれば……わかります、よね?」

 

 ドスを聞かせた声で睨むミランダにアレクセイは微笑を浮かべて「あは、ごめんね~」と言っているが額に滴る汗を綾音は見て見ぬ振りをする。事をこれ以上ややこしくしても話が進まないと感じ取ったからだ。

 

「こほん、とりあえずミランダも言っていたけど、基本の動作は問題ない感じだね。前にミランダと演習した時の映像と動きが被る所がある。

でもそれが今の鈴風少尉の動きを阻害しているとも見えたね」

 

 微笑の表情を崩さずにアレクセイが指摘し、ミランダも頷いていた。

 その指摘に綾音は率直に自分が思っている感想を二人に伝える。

 

「確かに不知火を操縦している時と同じような感覚で動かしているのは確かです。ですが……うちの整備班が調整してくれたおかげで今の瑞雲も不知火と同じような感覚で動かせているとは思っています。整備は100%に近い仕事をしてくれていますが……」

 

 自分の腕の事を言われるのはまだいいが、自分の為に戦術機に改良を施してくれたライノ中隊の整備員たちの事に文句を言われるのは、我慢できずに言葉にしてしまうと、その言葉を聞いてアレクセイはすぐに訂正した。

 

「あ、すまないね。そういう意味で言ったわけじゃないよ。その点に言えば逆、むしろこんな短期間で米国のスーパーホーネットを改良して実機のトライアルまで漕ぎ付けるなんて、流石に驚いたよ。

日本帝国は今も自国にハイヴ甲21号を抱えているという事もあり、整備班の練度が高いのは想像していたが、初めてのトライアルを終えた後の次の日にはトラブルを解決しているのは遠目で見ても関心したほどだよ」

 

「え、ええ。そのありがとうございます」

 

「兄様、少々興奮気味で話しているから綾音が引き気味になっています。興味があるのは十分に伝わったと思うのでその辺でちゃんとした説明をしてください」

 

 ミランダがジト目でアレクセイを抑えると、から笑いで誤魔化した後でゴホンと咳を一つ。綾音とミランダの視線が集中するのを感じてアレクセイは言う。

 

「まぁ、色々とあって昨日、ここに居るミランダから鈴風少尉が新しい戦術機の事で困っていると相談を受けてね。

 まったく、これでも私は欧州連合軍、アフリカ派遣部隊の一翼を預かる身として忙しいのだけど……愛しい妹の頼みであれば、今日行われる作戦会議をサボタージュしても問題はないさ!

 なので、今日は鈴風少尉が気になっている事をどんどん訊いてみて次のトライアルで生かせるように有意義な時間になれれば、私やミラ、ミランダも嬉しいと思うよ」

 

 その話を聞いた綾音の視線がミランダに向けられる。その視線に気づいてミランダの照れたようにそっぽを向くと。

 

「お……兄様、それは言わない約束だったでしょ! しかも作戦会議のサボタージュは私も聞いてないんですけど……またディアソル中尉に押し付けたんでしょうね」

 

「平気だよ。ディアソル中尉には今度ご飯でもご馳走するつもりだから、それに中尉もいつかは部隊を引き連れるようになるんだから、今のうちに作戦会議の場に慣れておくのも重要さ———冗談もこの辺で、そろそろ本題にはいろうか?」

 

 声色が変わり、アレクセイがミーティングルームのモニターを起動させると画面には綾音が許可を得て持ってきた不知火と瑞雲の機体スペックが表示されていた。

 それを見てミランダが口を開く。

 

「肩の重心比率、脚部兵装ブロックの違いは大きいけど、動いている映像を見比べるとよくもまぁ、不知火と同じような動きできるわね。跳躍ユニットの不備とかはあるの?」

 

「跳躍ユニットなら全然、むしろ燃費は今の方がいいぐらいに調子はいいと思う」

 

 そう答える綾音の言葉にアレクセイが顎に手を当てて考える。数秒後、何かを思いついたようで視線をミランダに向けると何かを察したようで近づいていくと耳を向ける。

 コソコソとアレクセイがミランダに何かを告げている。綾音は自分にこれから何が降りかかろうとしているのか、内心身構えてしまう。

 そして話が済んだのか、ミランダが綾音の前に来て一言。

 

「一つ、貴女にやってほしい事があるのだけど、いい?」

 

 一瞬、どうしようか? と迷いが生むものの、限りある時間を作ってた二人の気持ちを無下に断る事は出来ない綾音は頷く。

 

「私にできる事があるのなら、大丈夫。こちらこそお願いします」

 

 深々と頭を下げる綾音の姿にミランダはアレクセイに視線を向けると「本当に大丈夫なんですよね?」と思わず丁寧口調で問うと。

 

「そうだね。ちゃんと上に許可は取った訳じゃないけど、どうにかするよ。僕がガルム中隊の中隊長として責任は取るし、何より愛する妹の久しぶりに出来た友達の悩みを解決できるなら、お兄ちゃん、頑張っちゃうぞ~」

 

 ニコッとするアレクセイ、こうなった兄を止める事は出来ないし、こうなった兄がどうしようもなく馬鹿で好きなミランダは内心ため息をつく。

 ミランダが褒めるとすぐに調子に乗るのを知っているので、感情は抑えて表情に呆れ顔を浮かべると言った。

 

「そこは笑顔でいう場面ではないんだけどなぁ……まぁ、いいですけど。鈴風少尉、場所を変えるからついて来てもらえる?」

 

 頭を上げる綾音にそっと手を差し伸べるミランダの表情はどこか恥ずかしげでもあり、嬉しそうな表情を浮かべていたのが綾音の心の中で印象に残るのであった。

 そうして、三人はミーティングルームを出ると欧州連合軍の施設の奥へと進んでいくのであった。


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