マブラヴオルタネイティヴ二次創作小説 熱砂の刃   作:賀川 シン

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今年最後の投稿になります。

あと、年末に行われるコミックマーケットÇ99に受かっていたのでマブラヴサークルとして参加します。
本は熱砂の刃の同人誌となります。
内容は投稿しているのとさほど変わりませんが、本としてみたい方など、時間に余裕があれば

12月31日 東2ホール Tー27bにお越しください。




心の隙間を凪ぐ、その風は ⑥

 薄暗い部屋の中、とある準備を終えた綾音たちが大きな扉のついた部屋の中へ進んでいく。そこには幾つもの照明の元に戦術機シミュレータが並んでいた。

 フランス陸軍の強化装備に身を包むアルセイフ兄妹、そして同じ強化装備を着た綾音の姿がそこにあった。

 

「私まで着てしまって大丈夫なんですか? 一応、貴重品ですよね?」

 

 心配そうに綾音が尋ねる。衛士の育成や鍛練など、その殆どに多額の資金が投じられており、強化装備も高額な装備の一つであった。その問いにアレクセイが微笑を浮かべて応える。

 

「あはは、気にしないでおくれ。それも僕のコレクションの一つだからね!」

 

「!?!?……そ、それってどういう意味なんですか?」

 

 その問題発言に絶句しそうになる綾音の表情を見て、堪らずミランダがツッコミを入れる。その顔は呆れたを通り越して、すでにアレクセイには視線すら向けていない。

 

「本当にこういう所はアルセイフ家の汚点ですわね。お兄様……鈴風少尉、流石にコレクションというのは兄の悪い冗談なので本気と捉えないでください。

 この手の冗談にいちいち付き合っていては時間が無駄なので……兄様、私にこれ以上言わせないでくださいね」

 

 最後の一言に色んな意味を込めてギロッと睨むミランダを見て、アレクセイは笑みを崩さずに頷く。

 

「はっはっ、了解だよ。マイシスター」

 

 そこで閑話休題、ここに綾音を連れてきた理由をアルセイフ兄妹が説明する。その話を聞いた綾音は更に目を丸くなる結果になった。

 

「貴女があの瑞雲を上手くコントロール出来ないって事は最近の戦術機に装備されつつあるスラスターなどの噴射機構の所為ね。それに今まで同じ機体に乗り続けてだいぶ癖がついた貴女の不知火と比べたら、そのバランスが一つ崩れただけで予想以上に感覚に狂いが出たって事ね」

 

 ミランダの言う通り、一部の戦術機に広まりつつあるトレンドの一つに肩部装甲部にスラスターを配置する方向性、そして自分が乗る事になったスーパーホーネットについては病室にいる時から資料に目にしていたが正直、そこまで大差ないと高を括っていたのだが、実際には機体操作が覚束なくなり、跳躍ユニットの機動操作にも乱れを生じてしまった。

 その所為で綾音は余計にスラスターの存在に頼らずにこれまでの不知火と同じように瑞雲を乗りこなそうとしてしまっていたのだった。

 

 だが、それがここまで自分の足を引っ張ることになるとは綾音自身も思っていなかった。

 これまで何度も死地を搔い潜ってきた自分の腕と感覚を過信した事、そしてその事を認めようとしなかった自分のプライドが無意識に邪魔していた。

 

 

「うん、貴女の気持ちはよーく分かるわ。私も昔から乗ってたF5G(トーネード)から今のラファールに乗り換える際にもっと悲惨だったもの。

 急に第一世代機から第三世代機に乗り換えろって上から命じられた時は言葉が出なかったし、アフリカ戦線に行けと命じられて、機体のデータ取ってこいとか……はぁ、軍隊だから仕方のない事だけどね」

 

 愚痴るミランダを横にアレクセイが真面目な表情で言う。

 

「僕らの所で扱っているラファールは肩部にスラスターが装備されているし、欧州機には珍しく長刀を常備している機体だ。それに乗る僕らが直でアドバイスすれば、何かしらの光明が見えるかもしれない。

 それに僕が見るところ、鈴風少尉の操縦技術は相当レベルが高いよ。それは色目なしの評価、僕らの部隊の皆もそれは認めている。特にミランダはね」

 

 敢えて付け加えて言わななくてもいい事をいうアレクセイにミランダが噛みつこうとするも、話が脱線すると思い、グッと自分の気持ちを堪えた。

 その様子を窺いつつ、アレクセイは話を続ける。

 

「ここに来て、鈴風少尉の戦闘データをライノ中隊の佐山大尉から見せてもらったけど、突撃前衛で向かう君の動きには迷いはない。突撃級の動きを回避しつつも、すれ違いに長刀を脚に一撃入れながら進むなんて普通の衛士には到底むりな芸当だ。

 そして部隊内での損失率が少ないのは君がBETAの目を引いて、他の部隊員が戦いやすくしている事がよくわかったよ。鈴風少尉、君は一瞬の隙も許されないポジションに居ながらも他人を気遣えるほどの腕があるということさ」

 

「お、兄様が久しぶりに真面目な事を言っている気がするわ」

 

 口からボヤキの声が漏れるミランダは吐息を吐き出すとシミュレータを指さして綾音に言う。

 

「と、いうことで鈴風少尉。ここまで言われて、用意されて何もしない訳にはいかないわよね? てか強化装備着てる状況で聞くまでもないか」

 

 その言葉に綾音は視界を上げる。その瞳はもう迷いの色は浮かんでいない。

 その言葉に綾音は気持ちを込める。その声にもう迷いの音は混ざっていない。

 その言葉に綾音は自分の意志を込める。その思いに自分の迷いをうち絶つように。

 

「今日は私が満足できるまで終われないので、二人とも覚悟してくださいね」

 

 瞳に宿った綾音の意志にアレクセイとミランダもその言葉を受け止めて頷いた。

 

 

 シミュレータであったが初めて他国の第三世代機を操る事になった綾音だったが、最初の数分は機体の挙動などを確かめるように動かしていた。

 手本を見せると言って、アレクセイとミランダが一対一での決闘を見ることになり、前にミランダとの演習の際に見た動きとは違い、動作の間にある隙が短く、その動きに流れが出来ていることに綾音は気づく。

 

「この前の鈴風少尉との演習でミランダの闘争心に火が付いたようでね。何度も訓練に付き合わされたんだよ。今……では機体制御にキレを増して、前よりも鋭い動きを出せるようになったんだよ。これは部隊長としても兄としても鼻が高くなっちゃうよな!」

 

 そう告げながらミランダの近接戦をいなすアレクセイが操るのは同じ欧州連合軍が開発した第三世代機のタイフーンという戦術機であった。

 どうもガルム中隊のリーダー格のメンバーにはフランス軍のラファールではなく、タイフーンが敢えて宛がわれているらしい。

 欧州連合も一枚岩ではない事に気付くも今は余計な言葉を挟まず、演習での戦闘機動を行う二人の動きに注視した。

 

 ミランダの実戦方式の演習でも肩部スラスターによって攻撃を回避していた場面もあったが、跳躍ユニットや主脚での足さばき以外での強制回避運動を入れられる強みを二人の動きを改めて知る。

 出力自体は跳躍ユニットに及ばないが、左右への急な慣性を入れて、更に跳躍ユニットと足さばきなどを回避運動を入り混ぜる事で動きの流れを止めずにいける。

 自分がこれまで体験してこなかった他国の戦術機の動き、見ているだけでも身体が震えてくる。心の底からうずうずしてくるのを、綾音は心の中で抑え込んで自分ならこう動きたいというイメージを作っていった。

 

「——————ふぅ、兄様、そろそろ我慢出来ないみたいらしいですわ」

 

「あぁ、そうみたいだね。どうやら僕らは眠れるサムライを呼び起こしてしまったのかもしれないね」

 

 アルセイフ兄妹の視線の先、そこには綾音が乗るラファールが歩いてくる。すでに手腕から突撃砲はずれ落ちて肩部ブレードマウントよりラファール専用の長刀であるフォルケイドソードを装備する。

 

「まずは私からお相手してあげるわ。同じラファールで負けたらフランス軍としての名折れですからね!」

 

「ええ、じゃあ…………遠慮なく、やらせてもらうからっ!!」

 

 お互いの跳躍ユニットが轟音と共に速度を上げる。ラファール同士の近接戦闘が始まった。

 

 

 最初の3戦ほどはミランダが勝利していたが、4戦後からは徐々にラファールの動きに慣れてきた綾音に押されつつあった。

 その間、近接戦闘だけではなく、突撃砲も交えた戦闘も行っていたがそれでも綾音の方が1枚上手であった。

 アルセイフ兄妹のアドバイスや綾音自身の感覚が研ぎ澄まされており、肩部スラスターの扱い方すら習得し始めていた。どうも瑞雲よりもラファールの方が綾音の身体には馴染むらしい。

 何度目かの戦闘訓練、突撃砲の弾幕を華麗に裂けてくる綾音機にミランダも手を抜かる事なく、迎撃を行う。戦場は荒野マップであり、以前に演習を行った場所に似ていた為に、また負けるのはミランダにとっても屈辱感が拭えずに操縦桿を握るミランダの手にも力が入る。

 

「練習の為とはいえ、私だって意地があるっ!負けて、たまるかっ!!」

 

 綾音が長刀を降りかかる素振りが見え、すかさず後退するミランダだったが、その動きを捉えていた綾音はそのままの体制で機体を加速させると長刀の間合いにミランダ機を捕捉する。

 ミランダも間合いから抜け出せないと判断するとすかさず左腕で防御を行う。

 ラファールやタイフーンなどの欧州連合軍の第三世代戦術機には各所にスーパーカーボン製のブレードベーンが装備されており、刺突攻撃やBETAに取りつかれた際に機体を動かすだけで迎撃出来る攻守一体の装備兵装を備えている。

 

 防御した左腕ごとブレードベーンが砕け散る。だが、ミランダも臆せずに左肩部スラスターと跳躍ユニットで体制を右へ大きく崩すと、右手にした突撃砲を撃ちこむ。それは胸部ブロックを確実に捉えており、この戦闘はミランダが勝利する結果となった。

 

 

 その様子を見ていたアレクセイと同じように外部から見ていた者たちから通信が入る。

 

「うん? 誰だ?——————」

 

 機体ステータス上部にウィンドウが開くと、そこには見知ったガルム中隊のメンバーの姿が映し出されていた。どうやら作戦会議が終わって、報告のためにアレクセイを探していたらしい。

 

「中隊長、探しましたよ……急に今日の会議は任せたとか。適当な理由付けて上層部を誤魔化したですけど、もうこれっきりにしてくださいね。俺、あんまりポーカーフェイス上手くないんで」

 

「てか、隊長。何だか面白い事してるじゃないかよ! こんな熱い決闘見てたら俺も一戦したくなるわ」

 

 次々と画面に割り込んでくるガルム中隊のメンバーにアレクセイは苦笑を浮かべて、ここに至る経緯を説明する。まさか他国の衛士を国の機密の塊である戦術機のシミュレータに乗せているという事に流石のガルム中隊のメンバーも最初は目を丸くしていたが、彼らも様々な事情を抱えてアフリカ戦線に派遣されている経緯があった。

 

 その話している背後で綾音とミランダが今の戦闘での反省点を話し合っていたのが終わるとアレクセイに声を掛ける。ウィンドウにミランダが入り込むと、アレクセイは二人に「一度、休憩を入れよう」と提案すると、すでに一時間近く時間が経っており、連戦もしていたために綾音もミランダは頷いて了承する。

 最後にシミュレータを降りた綾音を待っていたのはアレクセイ、ミランダを含むガルム中隊のメンバー達であった。知らない面子ばかりに綾音は委縮しそうになるが、先ほどから熱い試合をしていた為に気分的には高揚していたことも助けになり、綾音が一礼して自分から自己紹介を行う。

 

「今日は急な来訪で皆さまにご迷惑をお掛けしました。私は日本帝国軍・中東派遣部隊、第604戦術機中隊、ライノ中隊に所属している鈴風・綾音と申します。あの……よろしくお願いします」

 

 最後の方は気が抜けて素が出てしまった。お辞儀と共に流れる黒髪から除く人形みたいに大きな瞳はやや下を見るように俯く。

 ガルム中隊のメンバー達はアレクセイに声を掛ける前にシミュレータルームのモニターに映し出さる演習映像を見ていたので、まさか長刀をぶん回して、見慣れない機動をするラファールの衛士がこんなに姿だとは思ってなかったのであった。

 

 平均身長が高いガルム中隊の面々、その中で小柄で身長が160cmほどの綾音は並ぶと頭二つ分ほど背が高いので威圧感が凄い。ガサツな男性陣にミランダは溜息を吐きながら綾音と合間に入るという。

 

「あのね、貴方たち。もう少し距離感みたいな物を考えてお行儀よくできないの。少しは欧州連合軍の衛士として……普通に考えて女性に対して失礼じゃない?」

 

 自分よりも更に背の小さいミランダであるが、その物言いは堂々としている。もう何年も付き合っている仲間同士なのだろうか、ガルム中隊のメンバーも素直に頷いている。

 

「おっと、こりゃあすまん。いつも通り、そこのアルセイフ少尉やうちの女連中と一緒にしちまったぜ」

 

「悪かったわね。遠回しに可愛げが無くて! たく、男ってすぐこれだから……鈴風少尉。でいいんだよね? うちらも貴女みたいな日本人と話すのは初めてだから、上手く発音できているか分からないけど、『これからもよろしくね』鈴風少尉」

 

 柔和な笑みを浮かべて手を差し伸べるガルム中隊のメンバーに綾音も手を握り返し悪手を交わす。

 一通りの挨拶を交わすと、今度はガルム中隊のメンバーを含めた小隊単位、そして敵にBETAを登場させて中隊単位の戦闘機動、そして各メンバーとの一対一の決闘など、昼食を挟みながら数時間にも及ぶ濃厚な訓練時間を過ごしたのであった。

 

 

 PⅯ18時過ぎ、シミュレータルームに備え付けられているベンチで肩を並べて眠る綾音とミランダが疲れて眠りこけている中、一人PCに本日の訓練データを纏めているアレクセイがコーヒーを流し込みながら、データ作業を終了させる。

 そこには綾音やミランダだけではなく、各ガルム中隊メンバーの戦闘データもある程度の数値化して解析してあった。とある人物からこちらの施設と人員を貸してくれという相談をアレクセイはデータを取らせて欲しいという取引で承諾したのだが、今後の部隊方針や各メンバーのやる気などに貢献した。

 

 なおかつ、アレクセイも久しぶりに剣を交えて本気で相対したことで自分の感覚がより研ぎ澄まされていった気もした。

 西ドイツ戦線が崩壊して、BETAによってフランスが蹂躙されるまでの間、ミランダと共に新人衛士として何とか生き抜いてきた。

 今の自分たちがここに居るのはあの戦場で生き抜いてきた証でもある。

 そんな過去の記憶に思いを更けながら、温くなったコーヒーを飲み干すと、シミュレータルームの扉が開くと数人の姿が視界に映る。

 

「すいませんね。迎えに来るのが遅れまして、ご苦労様でした。それにガルム中隊の皆さんにもお世話になったようで」

 

 そう頭を下げていう男は今回の演習の件を依頼してきた男、ライノ中隊の中隊長の佐山であった。

 

「いえ、こちらとしてもいい経験をさせて貰いましたよ。お礼を言うのは僕もですよ。佐山大尉。とそちらの女性はいつも鈴風少尉と一緒にいる方ですね?」

 

 挨拶しつつ敬礼を行うアレクセイにもう一人の人物も敬礼で返すと自分の身分を口にする。

 

「私はライノ中隊の浅倉・千里少尉であります。今日は……綾音ちゃんがお世話になったようで、それにいい方向に進んだみたいで安心しました」

 

 ニコッと笑う千里は綾音とはまた違う性格の女性だというのがその仕草で分かるし、こちらの状況を綾音の寝顔で判断できる観察眼を持っている事もアレクセイは判断した。

 

「浅倉少尉、鈴風少尉とアルセイフ少尉を起こしてくれないか? いつまでも強化装備を着ていては電力が切れたら体調を崩してしまうからな」

 

「それは僕からもお願いしたい。流石にわが妹を着替えさせるのは色んな意味でマズイので助かる。今、こちらからも案内で一人応援を呼ぶから、ちょっと待ってくれるかな」

 

 内線電話でガルム中隊から女性衛士が一人駆けつけると眠る二人を担いでシミュレータルームを出ていく。

 最低限の照明が照らす中、お互いの中隊長だけが残るとまず最初にアレクセイが口を開く。

 

「昨日はビックリしましたよ。まさかミランダと佐山大尉、二人から同じような事をお願いされるなんて」

 

 微笑を浮かべるアレクセイに苦笑を浮かべて佐山が言う。

 

「偶然とは言え、そちらの妹さんが同じような事を思いつくとは考えてませんでした。それで結果はどうでしたか?」

 

 そこが一番に気になっているとは、と思いながらもアレクセイは無駄に詮索せずに先ほど纏めたデータの画面を佐山に見せる。もちろん綾音だけのデータであるが。

 そのデータは隅々まで目を通していく佐山は一息入れて、どこか胸を撫でおろしたような表情をする。

 

「あなたみたいな歴戦の衛士でも心配になる事があるんですね。しかし、もし失敗していたら彼女はもっとスランプに陥ってしまう結果も存在したのですよ? 腕は悪くありませんが……」

 

 助言のつもりで言おうとしたも先に佐山が遮るように言葉を挟む。

 

「単純ですよ。鈴風少尉には決定的に足りないモノがあったんです。しかし、このデータやあの安らかに眠る表情を見たら解決したのかと分かりましたので。

 鈴風少尉には腕は確かにいい。うちの中隊でも一流なんですが、心に深いトラウマが刻まれて、その時から精神年齢が止まっているんです。その所為もあり、あいつは自分に自信が持てない所があるんです。

 単純に言えば小心者なんですよ。ここに来て何とか冷静さを取り繕っていましたが、この前、新人衛士を率いて小隊出撃した結果で心の糸が切れてしまったのでしょう。

 あいつは人一倍、仲間の死には敏感なものでね」

 

 そう告げる佐山の表情は感情を押し殺した無表情、今のご時世、人の死は隣り合わせに存在する。しかも衛士であれば何度も人の死を経験してきたのだ。

 死者への思いに引っ張られて心が壊れていく衛士をもう何人も見てきたアレクセイもその事は承知している。

 

「取り合えずこれを……今日の演習データのコピーです。鈴風少尉はラファールをこの数時間で使いこなし、機体挙動も習得しました。多分ですが瑞雲という戦術機もこれできっと、使いこなせると思っています。僕らの中隊も今回の件でいい刺激を受けたので、ありがとうございました」

 

「こちらこそ、無理な相談を引き受けてくれて本当に助かった。と言いたい所なんだが、あと一つちょっとした話があるんだが——————」

 

 

 後日、スエズ基地。

 瑞雲の最終トライアルを無事に終えて、先ほどライノ中隊の格納庫でささやかながらの打ち上げ会をおこなっあたと、静まり返る格納庫に整備班長と佐山大尉、そして側近であるライノ2の姿があった。

 

「あんたがどんなマジックをしたかは知らんが、鈴風のお嬢ちゃんの動きがこの前とは全く違って驚いたぞ。あの分だとすぐに瑞雲を使いこなせるだろうが……限界は近いぞ。瑞雲もいい機体だが、もとより長刀などを振り回す機体じゃないし、間に合わせの改造機だ。今の鈴風の嬢ちゃんじゃすぐに手に余る状態になるぞ」

 

「その事について話があって、残ってもらったんだ。ライノ2、あの資料を」

 

「はい、大尉。これです」

 

 ライノ2が抱えていたファイルには紙束が挟まれており、それを見た整備班長はくたびれた帽子被り直すと。

 

「そのファイル、それじゃあ本当に計画を行うつもりなんだな。まぁ、うちらとしては仕事が増えるがやりがいのある仕事なら任せてくれ。こんな機会、整備人生で訪れないかもしれないからな」

 

 格納庫の隅にある戦術機運搬用の大型トレーラーに視線を向ける整備班長、そこには半壊したライノ7の不知火が乗っており、頭部と胸部、腰の一部のみが積まれている。

修理パーツの関係性でスーパーホーネットを日本機仕様の瑞雲を仕上げたというのに、まだスクラップ同然の残骸が大切に保管されていた。

 佐山がファイルの中身をチラッと窺いながら言う。

 

「先方には話をまた付けてきた。それに設計図もようやく完成したんだ。祖国から遥か彼方に派遣された俺たちが少しぐらい好き勝手に動くのぐらいは大目に見て欲しい所だな。こっちはパーツが少ない中でやりくりしているんだから」

 

「ははは、違いねぇ。それにしても腕がなるってもんよ。うちの若いのに設計士目指していたヤツがいてよかったぜ」

 

 佐山が見ていたファイルを再度受け取るライノ2、その分厚い中身の紙束の一ページ目にはこう記載されていた。

 

 ——————不知火一型丙、改修計画——————と。

 

 

 

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