マブラヴオルタネイティヴ二次創作小説 熱砂の刃   作:賀川 シン

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ここから第2章の始まりです。


大地を切り裂く鎌鼬 ①

 1960年代から始まったBETAとの戦争により地球人は多大なる被害を被ってしまった。その中で欧州は1993年には奮戦虚しく、英国を除いた全て領土をBETAに蹂躙されてしまったのだ。

 欧州・中央アジアから数えきれいほどの難民が生まれ、BETAに追われながら戦火が届いていない国々への逃避行が始まった。その当時、世界的に見ても工業力や技術力でも劣っていたアフリカ各国は高水準で高い工業・技術力を持つ欧州からの避難民を受け入れる事をすぐに表明し、アフリカ北部に広がる沿岸部などに欧州各国への租借地として貸し出す事になったのだ。

 その受け入れの代わりにアフリカ側は欧州の持つ人材や技術レベルの提示を行わせる事で自分たちの基礎技術力の向上を目的とし、国家の生存の為にも欧州側はその提示を受け入れた。

 その後、アフリカは急速な近代化発展を為したのだが、その反面でアフリカの半欧州化現象が発生し、このおかげでアフリカ大陸での文化や生活が一気に欧州色に染まり、欧州の文化侵略が意図せずに進んでいったのであった。

 

 

 

 

 2001年、4月10日。

 アフリカ北部、欧州連合軍演習場。

2つの

 

 今回の対戦術機演習について―――

 

 使用する装備、ペイント弾入り突撃砲1門。防刃カバー付き長刀を一つ。

 勝敗は指定された各部位への攻撃ヒット判定によって加算されるポイント合計で勝敗を決定する。

 なお、センサー類が集中する頭部、コクピットのある胸部への直接打撃は禁止として、跳躍ユニットへの攻撃も禁止とする。

 演習時間は15分とし、今回、使用される推進剤などの消耗品や機体の修繕費は主催の中東連合及びアフリカ連合から支払わせる事となっている。これらの条件を含む件で今回の『実機』を使ってにおける本格的な近接戦闘演習を行う事にする。

 

 

 

 

 荒地特有の乾いた空気を撃ち砕くかの如く、戦術機の跳躍ユニットの轟音と鈍い剣戟の音が重なり合い、不協和音が鳴り響く。2つの異なる長刀がぶつかり合う瞬間に機体が大きく揺さぶられ、管制ユニット内にいる衛士は振動と加速によるGに耐えながら集中力を絶やす事はなかった。

 現在行われているのは戦術機同士の近接格闘戦。しかも、シミュレーターではなく実機を使用した模擬戦闘であった。

 激しくぶつかり合う2機の戦術機の様子をモニターで観戦している中東連合及びアフリカ連合の軍高官たちは殆ど経験した事のない戦術機同士の本格的な格闘戦に息を呑む。

 その左右には演習中の戦術機が所属している各中隊の関係者たちがさまざまな表情を浮かべながら、どう決着するのかを見守っていた。

 

 

 一方は欧州連合軍、フランス陸軍アフリカ派遣部隊。第35戦術機中隊、ガルム中隊所属の第三世代戦術機『ラファール』。

 その相手をするのは日本帝国軍・中東派遣部隊。第604戦術機中隊、ライノ中隊所属の第三世代戦術機『不知火』であった。二機の周囲には赤と青のペイントがまき散らされている。

 戦闘開始直後、ペイント弾入りの突撃砲による牽制射撃を行っていたものの、そのペイント弾はほんの500発ほどしか入っておらず、もとより今回の演習が近接戦闘中心だったという事もあり、早々と突撃砲による射撃戦を止めて近接戦へとシフトしていった。

 長刀同士で打ち合う二機はお互いに引かず、前へと踏み出す。目の前にいる相手を打ち負かす気持ちでその手に持った長刀を振るい、打ち合った。

 

 

 不知火が跳躍ユニットの推進力によってわざと砂煙が巻き上げて、剣筋を誤魔化そうとするするもこれまで経験してきた技能と勘によってラファールに乗る衛士『ミランダ・アルセイフ』少尉は鋭く迫る長刀の軌跡に集中させ、その一撃を払いのける。

 

「……ちっ! 予習したデータよりも速い。でもね―――」

 

 まだ幼さの残る顔立ちに毛先に跳ね癖のあるブロンドヘアーと青い瞳は純フランス人としては少々珍しく、それは彼女の母親が北欧出身であるからだろう。チームメイトとは仲良くやっているし、部隊内でも年齢が若い為に可愛がられている彼女であるが、その瞳は得物を狙う狩猟者のように相手を捉えていた。不知火の姿を間合いに入れると今度はラファール側からアタックを仕掛ける。

 

「私にだって突撃前衛……ガルム4としての意地があるんだからぁッ!!」

 

 戦術機同士の近接格闘戦は何度も訓練で行ってきたものの、今回の演習はこれまでに感じた事ない脅威感をミランダは与えられていた。

 突撃前衛(ストーム・ヴァンガード)と呼ばれるポジションは戦術機部隊でもっとも敵と接触するタイミングが早く、部隊内で操縦技術や近接戦闘に長けた衛士が任される重要な立ち位置ともいえる。

 その為、ミランダはその肩に自分達の中隊の名誉や威厳が掛かっており、今までBETAとの戦闘で生き残って来た自信もあってか敵機である不知火をどうやって打ち負かそうかと考えていた。二週間前に決まった今回の演習の為にシミュレーションを繰り返し、不知火のスペックデータを頭に叩き込んできたというのに―――

 目の前にいる不知火の動きは全くの別物と思えるぐらいに機敏であり、振り抜かれる長刀の一撃は回避するだけでも神経をすり減らすほどに正確な攻撃であり、絶えず集中しなくてはならなかった。

 

 

 モニター越しだけで見ていれば不知火が長刀を振り回す姿に見えるのだが、その一撃一撃が確実にラファールの機影を捉えており、ここまでの剣戟を繰り出す不知火の衛士をミランダの兄、ガルム中隊の中隊長であるガルム1との演習以外で体験したこと無い。気を抜けば集中力が切れそうになるミランダの額に汗が流れ、苦悶な表情を浮かべると不意に不知火が臨戦態勢のまま、突然と距離を取る。

 

「な! でも……少しだけ助かった。かも」

 

 その間に呼吸を整え、緊張感を解すとミランダは網膜投影で映し出される機体コンディションと演習の残り時間を確認する。

 

「あと五分。もうそろそろポイント的にも先取した方が楽ね」

 

 ここまで有効打はなく、ポイントはお互いに0ポイントであった。

 一方、その頃―――距離を取った不知火、その管制ユニット内には長い黒髪に黒い瞳、純日本人である容姿をしている女性は、日本帝国軍ライノ中隊、ライノ7の鈴風・綾音少尉が急に入った通信画面に視線を向けると細い溜息を吐いた。

 画面内では通信者である中隊長のライノ1が映り、その背後には今回の演習を企画した中東・アフリカ連合の軍高官の姿が見られた。

 

「こちらライノ1……ライノ7へ。状況を察するにそこそこ相手の様子見も済んだ所だと思うんだが、その解釈で間違えはないか?」

 

 その説明に綾音は静かに頷くと応える。

 

「はい、それで問題はありません。残り時間的にもこの辺で決着するのがいいですよね?」

 

「そうで構わない。これまで見せた戦闘機動で依頼主も戦術機の格闘戦がどういったものかが解っただろうな。あとは勝つだけだな」

 

「了解。ではこれから少しばかり機体に負荷のかかる動きになると思うので整備士さん達には後で隊長から謝ってもらってもいいでしょうか?」

 

 そう言って片目を閉じて人差し指で口元を抑えて黙っておいてくださいというアクションをすると苦笑を浮かべるライノ1は苦笑を浮かべ、画面外にいる数名の整備員たちから「あまり無茶はするなよー」と声が聞こえてきた。

 その台詞に綾音は自分の事よりも機体の事を心配しているんだろうな。と思った綾音は口元に少しだけ笑みを浮かべて再度、「了解」と告げて通信を終える。そして意識をラファールに集中させると長刀の剣先を向けて構えた。どうもあちら側も同様に声を掛けられたらしく、同タイミングで長刀を構えてくる。

 

「本気を出すとか、そういう訳じゃないけど、『今回』の勝負は負ける訳にはいかないんだよね」

 

 ラファールが加速を掛けて振りかざされる攻撃を剣先で軌道を逸らすとその動きのままにラファールの左肩にスッと長刀の太刀筋を当てると手ごたえを感じた綾音はすぐに機体を反転し、自分の間合いに敵を捕らえると思わず口から言葉が漏れる。

 

「負けたら、メイド姿でご奉仕とか、絶対に嫌だし、うちもフランスも何処の国でも男の人って考える事は同じなんだから……」

 

 何度も打ち合って相手の太刀筋や癖などは大体、把握した綾音であるがいつの間にか決められていた演習の罰ゲームの内容に不満を漏らした瞬間、その僅かの隙を狙って相手も反撃を行う。

 ガンッ! と衝撃と共に機体左腕部にダメージが奔る。防刃カバーがつけられていると言ってもその物理的衝撃は強く、左腕装甲が変形して肘から先が上手く動かなくなってしまった。

 その瞬間、視線が鋭くなる綾音は相手に対する評価を変えるのであった。正直言って、先ほどまで相対していたラファールの動きはそこまで対人戦、もとい戦術機による近接戦闘が不慣れだと感じ、その為に太刀筋が読みやすかったのだが、どうやら過小評価だったようだった。 

 

「最初見た時は少し齧ったような腕だったけど、この数分で近接戦の腕を上げてる……覚えが速いのか、才能なのか、分からないけど―――私の不知火を傷つけたお礼は返してもらうから」

 

 思いっきりのよくなった相手の動きを回避しながら、綾音はあくまで心を冷静にして、相手に出来た隙を逃がさずに鋭い一刀を放つのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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