東方理想郷 ~ Unknowable Games.   作:まこと13

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第40話 : 旅立ち

 

 

 

 

東方理想郷 ~ Unknowable Games.

 

第40話 : 旅立ち

 

 

 

 

 それはどこか、違和感を感じさせる光景だった。

 人気のない夜に神社に向かって大声で叫ぶ巫女服姿の早苗と、それを冷静に見上げている質素な服装の少女。

 やがて少女は、早苗に怪訝な目を向けて問いかける。

 

「貴方は……賽銭泥棒、ではないですよね?」

「い、いえっ、違います!! 私は幻想郷から来てて…」

「……幻想郷?」

 

 言い訳を考えながらも、早苗は自分を見上げるように観察してくる少女の異質さに気付いた。

 妖精と同じくらい小柄な子供。ここが外の世界であるのならば、恐らくは人間の小学生の低学年程度か。

 それがこんな夜に人気のない神社にいるはずがない、たとえいたとしても恐らくは迷子、ここまで冷静で流暢に話をできる訳がない。

 そして何より、自分と同じ緑髪。

 外の世界ではほとんどが黒髪や茶髪、稀に金髪の外人も見たことはある。

 だが、緑色の髪など外の世界では自分以外には見たことがないと、少なくとも非常に稀有な存在であると知っていた。

 そこから早苗が辿り着いた答えは――

 

「あの、もしかして貴方も幻想郷の人ですか?」

 

 緑髪は幽香もいたし、雛もいた。それに、たとえ子供のような見た目であっても幻想郷であれば特に不自然ではない。

 つまりはその少女が、早苗と同じく幻想郷から現世に流れ着いてしまった何者かである可能性があるのだ。

 

「幻想郷、ですか……」

 

 だが、少女は何やら考え込んでいた。

 何かをごまかそうとしているようには見えないが、明確な返答はない。

 

「……あれ? もしかして、違いましたか?」

「いえ、そういう訳ではなく、その……」

 

 少女の答えは曖昧で、歯切れが悪かった。

 やがて少女は、少し困ったような顔をして早苗に告げる。

 

「それが、実は現状に至る経緯を何も思い出せないのです。ついさっき、気付いたらここにいて……」

「え? それって…」

 

 偶然居合わせた記憶喪失の子供――ではないと、早苗は直感した。

 何もわからないまま気付いたら諏訪大社の前にいた者が、今この瞬間に自分の他にもう一人いるという事実。

 それが偶然であるはずがない、そこには何か必ず因果関係があるはずだと早苗は考えていた。

 

「そ、そしたら、何か少しでも思い出せることはありませんか?」

「……そうですね。幻想郷のことは、噂に聞いたことがあります。忘れ去られた者たちの楽園、貴方はそこの住人なのですね」

「ええ。そこまで知ってるのなら、貴方も幻想郷から来たのではないですか?」

「いえ、私には現世の記憶しかないのです。……でも私が動けていることを考えると本当に、いや或いは…」

 

 少女は一人言をぶつくさと呟いていた。

 早苗もまた深く考え込む。

 その少女が本当に現世の住人なのか、幻想郷の住人であるにもかかわらず記憶を失ってしまったのか、それとも早苗を騙そうと偽っているのか。

 可能性はいくつか浮かぶが、それでも――

 

「……なるほど。私も貴方も、一刻も早く情報収集が必要みたいですね」

 

 少なくとも、あてもなく考え込んでいても仕方がないことだけはわかった。

 幻想郷は今、危機的状況に陥っている。その状況下で自分たちが突然ここにいる理由。

 博麗大結界が壊れてその狭間から放り出されてしまったとすれば割と簡単に幻想郷に戻る手段はあるか、もしくは他に何か重大な問題が発生しているのか。

 まずは現状を確認していこうと、早苗は目の前の少女に続けざまに問いかける。

 

「まず、貴方の名前を聞いてもいいでしょうか」

「……私の名前、ですか」

「はい。あっ、そういえば私も自己紹介がまだでしたね。私は守矢神社で巫女をしている、東風谷早苗と申します」

「洩矢神社? ……ああ、あっちにある神社ですか」

 

 少女はあさっての方向を見てそう答えた。

 

「あー、少し違うんですけど……まぁその辺のことはおいおい説明しますね」

 

 その方向には、洩矢神社という現世の小さな神社が存在する。

 同じ読み方であるが故に、少女はそちらの神社のことが真っ先に浮かんだのだろう。

 だが、「もりや神社」と聞いて現世の神社を即時に連想するあたり、少女がある程度の現世の知識を持っているだろうことはわかった。

 

「それで、貴方の名前は?」

「……」

 

 少女は答えない。

 拒否しているのではない、何かを思い出そうと考え込んでいるようだった。

 早苗は少女が何か答えるまでじっと待ちながらも、その挙動を深く観察する。

 今この瞬間、早苗はただ少女の名前を聞こうとしているだけではなかった。

 早苗はまだ、少女のことを信じ切っている訳はない。

 自分がここにいる理由にこの少女が関わっている可能性も、そして敵である可能性もまだ十分に考えられるのだから。

 

「……正式な名ではなくとも構いませんか?」

「え?」

「私は本来は人間ではありません。現世で人々を見守る、名もなき地蔵菩薩の一つでしたから」

「お地蔵様、ですか」

 

 早苗は幻想郷で地蔵の化身に会ったことはない。

 しかしそれが本当のことだとすれば、動く不可思議はまさしく幻想郷の住人である証だった。

 

「ええ。ですから私にあるのは、遠き昔に旅人がつけてくれた仮の名だけです」

「それでも構いませんよ。幻想郷にもそういう人はたくさんいますから」

 

 だが、同時に早苗には疑問が芽生えていた。

 早苗の聞いた話では、幻想の生物は現世では確かな形を保ち続けることができない。

 その能力によって現世と行き来できる紫ですら、現世に留まり続ければ生命力が脅かされてしまうのだ。

 にもかかわらず、地蔵という現世において本来は無機物であるはずの少女が、人の形をとりながら平然と今この瞬間に話している事実。

 少女の話が本当だと仮定すれば、現世においても自分の窺い知れない何かが起きているという可能性は非常に高い。

 だからこそ、早苗は一刻も早く前に進む必要があることを再認識した。

 

「わかりました。では私のことは、巡り廻る季節を等しく見守り続ける地蔵菩薩――」

 

 そして、少女はすっと背筋を伸ばしてその名を告げる。

 

「四季と。そうお呼びください」

「……四季さん、ですか」

 

 早苗は表向きは取り繕いながらも、少しだけ警戒を強めた。

 その名は、早苗の頭の片隅に引っかかっていたから。

 どこかで聞いたことがある名。それも割と最近、つまりは幻想郷にいる時に聞いた、僅かながらもそんな記憶があった。

 自分はこの相手を知っているかもしれない。

 そしてそれが現世の住人を名乗っているという事実は、早苗を疑心暗鬼にさせるには十分であった。

 この少女を疑うべきなのか、信じるべきなのか。

 

「わかりました。改めてよろしくお願いします、四季さん」

「はい。お願い致します、早苗」

 

 だが、ここでそんなことを考え込んでいても先に進まないし、判断のしようがない。

 早苗は四季を警戒しながらも、まずは現状を一度受け入れることにした。

 

「では、行きましょうか」

「……行くとは、どこへですか?」

「そんなの、決まってるでしょう」

 

 今後の方針を考えるためにも、今いる現実世界での情報収集は不可欠である。

 だから、早苗はかつてこの世界にいた頃の記憶を遡っていく。

 自分がいるべきではない世界、それでも深く馴染みのあるこの世界の地形、人々、文化、様々なものを思い起こしていく。

 長居するつもりはない、ただの通過点に過ぎないこの世界を――早苗はそれでも少しだけ懐かしみつつ顔を上げる。

 

「私たちがここにいる原因をさっさと突き止めて、幻想郷に帰るんです!」

 

 こうして、早苗と四季の現実世界の冒険が始まった。

 

 

 

 

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