ゼロサーガ(ゼロの使い魔×ゼノサーガ)   作:宇宙間管理職

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第02話

「──言語による対象の覚醒は困難。実力行使に移行します」

 

[第02話:決闘]

 

「コスモス!私にわかるように説明しなさい!」

早朝の部屋に怒声が響く。

コスモスと呼ばれた女性は今朝の状況を説明する。

「07時00分、昨晩の指示に従い『起きなさい。起床時刻です』等の言葉を用いてルイズお嬢様の起床を試みる。07時05分、反応がないため昨日の経験より頭部への圧迫が有効と判断、実行。以上です」

「よ、よーく、わかったわ。ありがとう。でも明日はもっと穏便な方法をとってもらえると嬉しいかしら」

とルイズと呼ばれた少女はこめかみをピクピクさせながらKOS-MOSに応える。

「善処します」

「ルイズお嬢様、この歳から眉間に皺を寄せるのは将来、美容を損なう危険性があります。お気をつけください」

誰が!っと叫ぼうとしてルイズは踏みとどまった。

(落ち着くのよルイズ。相手は人間に見えるけどガーゴイル。こんなことで一々目くじらを立ててたらきりがないわ。そうよ!いろいろ気になる点はあるけど一応コスモスは私の使い魔、そして私はコスモスの主、貴族たるもの優雅たれ。お父様も常日頃私に仰っていたわ。)

一瞬思考が虚数の海にダイブしていたがどうやら戻ってきたようだ。

「とりあえず顔を拭きたいわ。水を汲んできてもらえるかしら?」

「こちらに用意してあります」と水で濡らしたタオルを差し出すKOS-MOS。

「そ、そう。ありがとう。次は着替えよ。着替えはそこのタンスに──」

「こちらに用意してあります。僭越ながらお着替えを手伝わせてもらいます」とあれよあれよとKOS-MOSに着替えさせられるルイズ。

「あ、ありがとう」昨日から使い魔に対して主従関係を徹底的に理解させようと意気込んでいたルイズは完全に出鼻を挫かれていた。

それにしてもこのメイド、できる。

 

「それじゃあこれから食堂に向かうわ。着いてきなさい」とルイズは部屋を出て鍵を閉める。

すると隣から『ロック』という声が聞こえてきた。

「あ~ら、ヴァリエールじゃな~い。ご機嫌い・か・が?」と隣の部屋の主がルイズに声をかける。

「あなたの所為で最悪だわ、ツェルプストー」

ツェルプストーと呼ばれた赤毛の少女キュルケはルイズの雰囲気がいつもと違うのを感じ取った。

「どうしたのヴァリエール。何か変なものでも食べたの?」と挑発してみても

「そんなんじゃないわ」と軽く流される始末。

これでは面白くないとルイズ弄りを日課とするキュルケは話題を変える。

「あんたの後ろにいるのが昨日召喚した使い魔?」

ビクッとルイズの肩が震える。

ルイズが言葉を発する前にすかさずKOS-MOSが口を開く。

「はじめまして。私は、ルイズお嬢様より召喚された平民のKOS-MOSです。現在ルイズお嬢様のご厚意に預かり使い魔兼メイドとさせております」

「そう、コスモスって言うの。良い名前ね。私は、キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー。キュルケでいいわ。よろしく」

「よろしくお願いします。キュルケ様」

KOS-MOSの言葉にキュルケは小さく「これが平民……?」と呟いた。勿論KOS-MOSには筒抜けだったが。

 

 

「ちょっとコスモス!何勝手にツェルプストーの女と仲良くなってるのよ!」といつもの調子に戻ったルイズがKOS-MOSに詰め寄る。その姿を見て満足したキュルケはKOS-MOSに助け舟を出す。

「いいじゃない別に~。それより見て私が昨日召喚した使い魔」

「これって、火トカゲ?」

「そう、サラマンダーよ。この尻尾の立派な火をご覧なさい!火山近くの種に違いないわ!」

「名前はフレイム。よろしくね?」

 くっ、と一人歯ぎしりするルイズ。

思わずルイズが「私の使い魔だって、」と声を出した所でKOS-MOSに止められた。

「お嬢様、お食事の時間が迫っております」

「そ、そうね」と言って歩き出すルイズ。

KOS-MOSはきっちり30度のお辞儀をキュルケにしてからルイズに着いていく。

 

キュルケは食堂へ向かう2人を見ながら隣に語りかける。

「ねぇ、タバサ。どう思う、アレ」

いつの間にかキュルケの隣にはタバサと呼ばれた青い本の少女が本を読みながら佇んでいた。

タバサは本から顔を上げKOS-MOSを一瞥、「興味深い」とだけ言って歩き出す。

「ちょっとタバサ!?待ってよ~」とキュルケもタバサの後を追った。

 

「あ!コスモスさ~ん!」と大きな洗濯籠を持ったトリスタンでは珍しい黒髪のメイドがKOS-MOSに声をかける。ルイズの存在に気付いた彼女は慌てて籠を床に置いて一礼する。

「ヴァリエール様、おはようございます。昨日は突然のことに驚いてすみません。メイド服はこちらのコスモスさんのためのものだったのですね」

思い出した。そういえば昨日私はこのメイドからメイド服を借りたのだ。正直なんと言って借りたのか憶えていない。変なこと言ってないといいが……。

「そうね。昨日はありがとう。そういえばあなたの名は?」

「貴族様が私なんかに感謝なんて……。あ!失礼しました!私はシエスタと申します」

「そう、シエスタって言うの。憶えておくわ」

「それにしてもコスモス。いつの間に彼女と仲良くなったの?」

「説明します。早朝、昨夜の衣類を洗濯しようとした際、洗濯場への道案内及び洗濯の補助を受けました」

「補助だなんてそんな~。コスモスさん、説明したらどんどん洗い物を片付けちゃうんです!コスモスさんのお陰でいつもより早く終わって大助かりだったんです」

それでは洗濯物は部屋に入れときますね、と言ってシエスタはこちらに一礼してから去っていく。

「あなた、何から何まで完璧ね」

KOS-MOSは何も言わなかった。

 

アルヴィーの食堂に着いたルイズはKOS-MOSに椅子を引かせながら彼女に説明する。

「この学院はね、ただ魔法を教えるだけじゃないの。食事を含め全てが立派な貴族になるための教育の一貫なのよ!」

「でもあなたにとっては前時代的に見えるんでしょうけどね」昨日の話もありルイズの語気は弱まっていく。

「否定はしません」

しかし、と繋げてルイズに述べる。

「現状この王制がこのトリステインにとって最も相応しい社会システムであることもまた事実です」

首を傾げるルイズにKOS-MOSは続ける。

「社会システムはその時代に最も適応したものが選ばれます。それがトリステインでは王制なのでしょう」

「ルイズお嬢様は貴族としての誇りに自信を持ってください」

「もしかしてコスモス。私を慰めてくれてるの?」

KOS-MOSは何も応えず立ち去ろうとする。

「ちょっとコスモス!どこへ行くの!?」

「もうすぐお食事が始まります。私は厨房の手伝いに向かいます」

「今日の授業は使い魔の御披露目があるから一緒に授業に出るのよ!」

「了解しました」KOS-MOSは一礼してから厨房へ向かった。

 

その日最初の授業は、進級した生徒達の使い魔お披露目的な意味もあった。

故に、担当である土のトライアングルメイジ、シュヴルーズの授業、最初の言葉もそれを意識したものとなっていた。

「皆さん、春の使い魔召喚の儀は無事滞りなく終えたようですね」

 様々な使い魔が居る中で、やはり一人、人間の使い魔、いやメイドがメイジの側に立っているのが目に着いた。しかも直立不動、先程から微動だにしない。

「ミス・ヴァリエールは……その、随分特殊な使い魔を召喚なさったようで」

教師の言葉に肥満体型の男子生徒がルイズを囃したてる。

「ルイズ!サモン・サーヴァントが出来なかったからって、そこいらで歩いてた平民を連れてくるなよ!」

「ち、違うわ!ちゃんと呼んだら、彼女が出てきただけよ!」

「嘘付くなよ!聞いたこと無いぜ、サモン・サーヴァントで平民を呼んだメイジなんて!」

「そうさ!おおかた、公爵様の領地のメイドを連れてきたんだろう!?」

続けて悪し様に笑う生徒達。

KOS-MOSは現状を静かに観察する。

『召喚者ルイズへの昨日からの他生徒の反応、及び言動、さらにメイジと呼ばれる貴族が支配する社会システムから考察するに、召喚者ルイズは魔法に対してなんらかの遺伝的欠陥がある模様。引き続き情報を収集』

「皆さんお静かに。学友のことをそのように言う物ではありませんよ」

と教師が生徒を止める。

「しかしルイズは……!」

 初めに声を出した肥満体型の男子生徒が再び何か言いかけたところで、その口が赤土で塞がれる。

「貴族としての礼儀に欠けます。バツとして、そのままで授業を受けなさい」

そうして始まった授業を、KOS-MOSはまばたきせずに聴いていた。

この世界の魔法を決定する地火風水の4系統の説明から始まり教師が鉄を真鍮に『錬金』するといったとりわけ基本的な授業であった。

 

しかし、KOS-MOSの赤い瞳には彼らの授業、いや魔法はまったく異質のものに映った。

KOS-MOSのデータバンクには今まで遭遇した異世界、異次元の魔法、魔術、法術などの非科学的な現象がデータとして記録されている。当初はそのデータと照合しながらハルゲニアの魔法に対しての体系を分析していた。だが教師を名乗る女性の行った『錬金』に対してKOS-MOSの観測器が反応したのだ。

『虚数空間への干渉を感知』

『“鉄”から“真鍮”への元素変換を感知』

『直前までの魔法考察を破棄』

『情報の収集を推奨』

『情報不足』

『情報不足』

『情報不足』

端から見れば先程と同じ様に立っているのだがKOS-MOSは機械であるにも関わらず『動揺』していた。

 

「ではこの練金を、ミス・ヴァリエール。やってご覧なさい」

「は、はいっ!」

突然指名され、慌てて立ち上がるルイズ。

「先生、止めておいた方がいいと思いますけれど……」

キュルケがおずおずとそれの撤回を求める。

「何故ですか?」

「危険です」

キュルケの言葉に、肯定する大勢の生徒達。

「危険?どうしてですか?」

「ルイズを教えるのは初めてですよね?」

キュルケが止めるように求めるが、シュヴルーズは何の事か判らないという様子で、ルイズに向ってやってごらんなさいと促す。

「やります!」

と教壇へ向かうルイズに、キュルケはなかば悲鳴のような懇願を投げかけた。

「ルイズ。やめて!」

ざわざわと教室が騒がしくなる。一人、青い髪の女生徒がそそくさと教室を退出するのを知覚した。

『さらなる“魔法”へのデータ収集を継続。また、召喚者ルイズのデータ収集も並列して継続』

周りの生徒に授業の冒頭のとき感じられたルイズへの嘲弄は微塵も感じられず、有るのはまるで、地震が発生する直前の森の動物たちの恐怖感の様だった。

「ミス・ヴァリエール、練金したい物質を心に描くのです」

はい!と力強く頷き、杖を振り上げるルイズ。

『召喚者ルイズの虚数空間へのアクセスを感知』

 他の生徒達が机の下に避難するなか、KOS-MOSは観察を続ける。

すると教壇から凄まじい爆風が吹き荒れ、机が吹き飛び生徒達は爆風に晒された。

 

辺り一面、見るも無惨な有様だった。

「だから言ったのよ!あいつにやらせるなって!」

キュルケも机の影からはい出ながら叫ぶ。彼女の使い魔であるフレイムを初め、他の使い魔達も大パニックである。

瓦礫の中、煤だらけでぼろぼろの制服に身を包んだルイズが立ち上がる。

「ちょっと、失敗みたいね」

 

「ちょっとじゃないだろ!ゼロのルイズ!」

「いつだって成功率、ほとんどゼロじゃないかよ!」

立て続けにルイズへ浴びせられる罵倒。

その中でKOS-MOSのみが今起こった現象について冷静に考察する。

『召喚者ルイズが虚数空間へ干渉』

『それと同時に虚数空間の消滅を確認』

『実数空間に発生した爆発は虚数空間消滅の余波と予測』

『周囲の言動から虚数空間消滅は“失敗”』

『教師の行った元素変換が正しい“魔法”』

『蓄積された情報から判断するにこの世界の“魔法”とは実数空間から虚数空間に干渉しその効果を実数空間に導くものと推測』

『データ不足のためこれ以上の考察は不可能』

『引き続きデータを収集』

 

やがてルイズの魔法で気絶していた教師シュヴルーズも目を覚まし、結局そのまま授業はお流れとなった。ルイズは魔法無しでの片づけを命じられていた。

使ったところで失敗ばかりの魔法では片づけるどころか余計に被害を甚大にするだけなので言われるまでもないことなのだが。

KOS-MOSもルイズと共に片付けを始める。

破壊された机や椅子を手早く運び出し、粉塵レベルとなった元机や椅子を箒で履き集める。相変わらずKOS-MOSは無駄のない動きだ。

そして悪態一つ、文句一つも言わずに黙々と彼女が作業を続けるほど、ルイズは気が滅入っていた。

何も言わないだけで、自分に呆れ返っているのではないか?無能な主人だと悟られ、見限られようとしているのではないか?或いは、魔法が使えない自分は、ガーゴイルである彼女からも哀れみでもって見られているのか?

それは余りに惨めだ。

「……何か言ったらどうなのよ」

ついに静寂に耐えきれなくなったルイズが、破片を拾い集めるKOS-MOSに言葉を投げる。

「何か、とは何でしょうか」

そう言いながらルイズに振り向く。

「どうせコスモスだって、私のことを魔法も使えない無能なメイジだって思ってるんでしょ?」

「仰っている意味が理解できません」

「ガーゴイルのクセに私をバカにするの!?見たでしょさっきの!私はね!どんな魔法も爆発爆発爆発、ぜーんぶ爆発しちゃうのよ!これが失敗じゃなくてなんなのよ!」ルイズは今までの鬱憤をKOS-MOSに吐き出す。

「確かにルイズお嬢様の“魔法”は“失敗”です」

ほら見たことかとルイズは睨む。

「しかしそれは彼らの定義に当てはめた結果です」

「どういう意味よ」

「ルイズお嬢様の“魔法”は確実に虚数空間へアクセスしています」

虚数?アクセス?と聞き慣れない単語にルイズは首を傾げる。

「しかしルイズお嬢様の“魔法”は他者の使う“魔法”とは異なり実数空間への逆干渉を発生させるものではなく虚数空間そのものを破壊しているのです。実数空間における爆発はその余波です」

連発される意味不明の言葉をルイズはなんとか解釈しようとする。

「つまりなに?要するに私の魔法はみんなと違うってこと?魔法が使えないんじゃなくて?」

KOS-MOSは首肯する。

「はい。ルイズお嬢様の“魔法”は固着してないグノーシスに対して有効な攻撃手段と言えるでしょう」

今まで考えてもみなかった別の角度からの考察にルイズは目を開く。もしかしたら自分の失敗魔法を理解できるかもしれないと掃除をほっぽりだしてKOS-MOSに質問する。グノーシスとは何か、虚数空間とはどんなものなのか。KOS-MOSは丁寧にルイズに説明する。

掃除はKOS-MOSが説明しながら終わらせた。

 

結局、とルイズはわかったことを纏める。まだKOS-MOSの説明を完全に理解はできていないが状況はわかった。

「グノーシスってのもいないし話を聴く限り普通の系統魔法も使えないってことじゃない!」

確かにルイズは自身の失敗魔法について理解した。しかし理解しただけであって進展はなく魔法を使えないという烙印を押されただけだった。それでもルイズの心は軽かった。

「情報の収集を提案します。推測の域を出ませんがルイズお嬢様は“虚無”の可能性が考えられます」

「現在、“虚無”に対する情報が圧倒的に不足しています」

「自身の“魔法”を知るためにまずは“虚無”を調べるのはどうでしょう」

ルイズは頷く。

「そうね。正直伝説の系統があるなんて信じられないけど普通の魔法が使えない以上、虚無だろうが虚数だろうが調べないことには始まらないわね」

「それにしてもお腹が空いたわ。丁度良い時間だし食堂へ向かいましょう。コスモスはまた厨房へ行くの?」

「はい」とKOS-MOS

「あなた厨房でなにしてるの?」

「皿洗いです」

「えっ?」

「皿洗いは私の得意分野です」

ガーゴイルのクセにヤケに自信満々だった。

 

食堂で昼食を食べていたルイズはトレーにデザートのケーキを載せて配膳してるKOS-MOSを見つけた。

自分の所に来たついでに問う。

「あなた、皿洗いしてたんじゃないの?」

「はい、皿洗いを実行していたところ料理長マルトーより『おまえには花がある』と配膳を指示されました」

確かに、とルイズは納得する。ハッキリ言ってコスモスは美人だ。正直その辺の三流貴族の娘では到底太刀打ちできない。

「そう、わかったわ。精々私の恥にならないようしっかり努めなさい」

了解しました、とKOS-MOSは配膳を続ける。

 

配膳を続けていたKOS-MOSの前に数人の男子学生がたむろしていた。

発端は、一人の男子生徒が落とした香水入りの瓶だった。

KOS-MOSはそれを拾い上げると、男子生徒ギーシュ・ド・グラモンの眼前に突き出す。

「落としました」

差し出されたギーシュは、一瞬ぎょっとしながらも瓶を手でおしやる。

「これは僕のじゃない」

「いえ、確かにあなたの右ポケットより落ちたのを確認しました」

KOS-MOSの言葉に反応した他の男子生徒がおお!と声を上げる。

「その香水は、もしやモンモランシーの香水じゃないのか!?」

「言われてみれば!」

「成る程、ギーシュは今モンモランシーと付き合っているのか!」

口々に他の男子生徒が囃し立てる中、KOS-MOSはケーキの配膳を続ける。 

ギーシュのもとに一人の少女が現れた。

「ギーシュさま……」

何やら思い詰めた表情をしている。

「やはり、ミス・モンモランシーと……」

「彼等は誤解しているんだ。ケティ。いいかい、僕の心の中に住んでいるのは、君だけ……」

「その話、詳しく聞かせて欲しいわね」

別の方向からまた一人、少女が現れる。こちらは明らかに怒っていた。

「も、モンモランシー……」

配膳しつつ状況を分析していたKOS-MOSは以前かの地で遭遇した“修羅場”についてのデータを引き出していた。

「つ、つまりだね……僕はケティもモンモランシー、君も……」

盛大に破裂音が響き、ギーシュはその両頬を赤くして倒れていた。

「ひどいですっ!ギーシュ様!」

「最っ低!」

思い詰めていた表情の少女は泣きながらその場を去り。怒っていた少女もテーブルの上のワインの瓶をひったくるように取ると、ギーシュにぶちまけて去っていった。

 

「……さて、と。どうしてくれるんだい?」

 埃を払いながら立ち上がるギーシュはまだ近くにいたKOS-MOSに声をかける。

「何をでしょうか」

KOS-MOSはギーシュに顔を向けることなく配膳を続ける。

「僕は君が香水を落としたと声をかけた時に知らないフリをしたじゃないか。話しを合わせるぐらいの機転があってもよいだろう?」

「そうですか。申し訳ございません」

KOS-MOSは手を止めない。

「そうだとも!っと、ああ思い出した。君は確かゼロのルイズが呼び出した平民の使い魔だったね?まったく……呼び出したメイジがメイジなら、その使い魔も使い魔か……」

 ふぅと呆れたようなため息を露骨についてみせる。

「せめて謝罪の言葉ぐらいは欲しいものだね?僕と彼女たちに」

「そうですか。申し訳ございません」やはり顔は上げない。

「君はさっきから僕をバカにしてるのかい?誠意が感じられないね?土下座くらいしてみ――!」

「ちょっとギーシュ!人の使い魔に、勝手な因縁付けないでちょうだい!」

ずい、とルイズが割って入り、ギーシュを睨み上げる。騒いでるのを聞きつけ、慌てて近づいて来たのだが、己の使い魔はこの二股男に反論するどころか謝る始末。見ていられなかった。

「コスモス!あなたもよ!今のはどう考えたって二股かけてたこいつが一方的に悪いんだから、軽々しく謝らないで!私まで軽んじられるわ!」

「失礼しました。現状、無益な争いは不要と判断。対象が謝罪を要求していたためそれに従いました」

「それってつまり面倒だからとりあえず謝っといたってこと?」

「そう解釈されて構いません」

そう言われて頭にきたのはギーシュだ。

そもそも自分が原因だというのを棚に上げルイズとKOS-MOSにつっかかる。

そのときKOS-MOSの電脳に保管されていたあるデータが開かれた。それはかの地で自分をライバル視していた緑色のアンドロイドにインストールされたもの。

ウイルスチェックもクリア、用途不明で削除せずに残していたものだ。電脳に声が響く。

 

『不明なユニットが接続されました。システムに深刻な障害が発生しちゃります。直ちに使用を停止してくださ──────

『対チャラ男用挑発プログラムを作動』

 

「『おいキザ野郎』」

食堂に声が響く。言い合いをしていたルイズとギーシュも、周りで見ていた生徒達も声のする方向に目を向ける。そこには今まで静観していたメイドが立っていただけだった。

「ちょっとコスモス今なんて──」とルイズが口にする前にギーシュがもの凄い剣幕で食ってかかる。

「き、君ぃ。さっきから大分無礼だとは思っていたけどその『キザ野郎』ってのは僕のことかい?」

「『そうだキザ野郎。お前以外に誰がいる』」

「『貴族だかなんだか知らないが女を泣かせておいてこちらに責任転嫁』」

「『貴族である前にもう少し男を磨いたらどうだ?』」

「『そんなに女が恋しかったら領地に戻ってママのおっぱいでもしゃぶってろ』」

そこまでKOS-MOSはまくし立てると口を閉ざした。

食堂に静寂が訪れる。

表情を変えずにここまで言い放つKOS-MOSになんて反応していいのかルイズを含めてわからなかった。

 

しかし肩を震わせるギーシュは違った。自分だけではなく家門まで侮辱されたのだ。ここで黙っては男が廃る。

「決闘だ……」震える声でギーシュが言う。

「諸君!!僕は決闘を申し込む!!」

「ギーシュ、馬鹿なこと言わないでちょうだい。貴族同士の決闘は禁止よ」

「判っているとも。だから僕が決闘を申し込むのは君の使い魔だ!彼女の所為で女性二人の名誉も、僕の名誉も傷つけられたのだからな!」

「しつこいわね。全部アンタが自分で蒔いた種じゃない」

「ぐ、くっ……フッ!そうやって逃げるつもりかい?」

「何ですって……?」

すっとルイズの目が細くなる。

「いや、済まない。そうだったなぁ。ゼロのルイズが呼び出した平民の使い魔だ。それがメイジで軍人の家系に生まれた僕に勝てるはずもなかった!これでは決闘にならない!」

歌うように、高らかにギーシュは言う。

ギリ、とルイズは奥歯を噛み締める。

「『来いよチェリーボーイ』」

「『遊んでやる』」

その言葉に周囲が沸き立つ。変化のない日常の中でこんなに刺激的なことはないと大騒ぎだ。

「逃げるなよ。ヴェストリの広場で待つ」そう言ってギーシュは食堂を出て行った。

 

『悪性プログラムの完全消去を確認』

『通常モードに復帰します』

「ねぇちょっと!大丈夫なの!?」とルイズが話かける。

「はい、プログラムはすべて消去しました」

「プログラム?じゃなくて決闘のことよ!」

KOS-MOSは会話ログから情報を分析する。

「とくに脅威は感じられません」

「そ、そう。あなたがそう言うならそうなのでしょうね」とルイズは納得する。

すると厨房の方からシエスタが涙を流しながらKOS-MOSに抱きつく。

「コスモスさ~ん。貴族と決闘なんて無茶ですよ~。まだ間に合いますから謝りましょうよ~」

しかしKOS-MOSは「問題ありません」と一蹴する。

「ヴァリエール様もなんとか言って下さいよ~」

「彼女が大丈夫って言うのだから大丈夫よ」

ぺたんと床に座ったシエスタの「そんな~」という声を背に浴びつつ二人は広場に向かう。

 

「諸君!決闘だ!」幾分か落ち着いたギーシュの声が広場に響く。

そして目の前のKOS-MOSに向かって言い放つ。

「よくぞ逃げずに現れた。そこだけは誉めてやろう」KOS-MOSは微動だにしない。それをメイジへの恐怖からだと判断したギーシュは続ける。

「ふっ、どうやら達者なのは口だけだったようだな」

「でも僕は手加減しない。二人の女性の名誉と我がグラモン家の誇りを守るために僕は貴族として!例え相手が平民だとしてももてる全ての力で屈伏させてみせる!」そこまで言うとギャラリーは沸き立った。流れは完全にこちらに向いている。ギーシュは勝利を確信した。

そこでKOS-MOSは口を開く。

「質問します。この闘いの勝利条件は?」

これから負けるのにどうしてそんなことを、と鼻で笑いながらギーシュが答える。

「そうだね。どちらかが参ったと言うまで。でも僕はメイジだ。ハンデとしてこの杖を奪ってま君の勝ちということにしよう」

「了解しました。闘いの開始はそちらに任せます」

「では始めよう。僕は『青銅』のギーシュ!!行け!僕の『ワルキューレ』!」そう言い放つと地面から青銅で出来た戦乙女が一体出現した。

 

KOS-MOSは状況を分析する。

『敵性体1を確認』

『敵性Aと呼称』

『勝利条件の確認』

『1、対象の降伏の意の表明』

『2、対象の持つ杖の奪取』

『任務内容の確認』

『周囲に対し存在の秘匿』

『転送兵器による迎撃は認められない』

『本体性能による対応が推奨』

『敵性A接近、スペックを分析』

『青銅製、空洞』

『脅威度判定E-』

『敵性Aのこちらへの攻撃は通用しない』

『訂正』

『現在身に着けている衣服へのダメージは有効』

『推奨パターン、敵性Aの攻撃を回避しつつ対象へ接近、杖を奪取』

『行動開始』

 

未だ動かないKOS-MOSを見てギーシュはワルキューレに指示を出す。よし、直撃コース!と剣を振り下ろしたところにKOS-MOSはいなかった。正確には半身をズラして回避した直後にこちらに走り始めていたのだ。

それを視認した瞬間ギーシュも感づく。こちらの杖を狙っていると。幸いこちらまでにはまだ距離がある。落ち着いて杖の花弁を放ちながら新たなワルキューレを出現させる。

『敵性B、C、Dの出現を確認』

『回避』

KOS-MOSは剣や槍の攻撃に自ら飛び込み回避していく。ギーシュにはそれが恐ろしかった。普通どんな人間も目の前から迫る物に対しては躊躇いが生じる。

だが目の前の平民はそれを最小限の動きで回避する。それもこちらに近づきながらだ。さらに生み出した2体も突破された。

そして気づいたときには目の前に立っていた。こちらの杖に手を伸ばしている。「かかった」とギーシュは杖を後ろに回してKOS-MOSの背後にワルキューレを出現させる。斧を振り上げた状態で。その斧がKOS-MOSに振り下ろされる。その場にいた誰もがこのあと起こる惨劇に対しあるものは目を瞑ったりした。

しかしその惨劇は起こらなかった。

一番驚いたのは目の前にいたギーシュ。

なんとワルキューレの斧はKOS-MOSの右手に刃を掴まれ止められていた。後ろを振り向かずに。

呆けている間に左手で杖を奪われワルキューレは土に還った。

『対象の無力化、敵性の消失を確認』

「私の勝利です」そう言ってKOS-MOSはギーシュに背を向け歩き出す。

ギーシュは何もいえずへたり込んでしまった。

それを見てKOS-MOSのもとへ駆け寄ったルイズが声をかける。

「これで懲りたわね、ギーシュ。ちゃんと2人にも謝っておくのよ」

そう言われてギーシュは力なく頷いた。

 

「コスモス、あなたすごいのね」

「今回は難易度の高いミッションでした」

「どうして?」

「制約条件が厳しく本来のスペックを出せませんでした」

それってどういう、とルイズが言おうとしたところで観客の中からコスモスさ~んという声が聞こえる。

声の主シエスタがKOS-MOSに近づく。

「コスモスさんスゴいです!まさか貴族様に勝ってしまうなんて!」

「今頃厨房は大騒ぎですよ!」

「シエスタ、まだ皿洗いが終わっていません。急ぎ向かいます。」といつもの調子で厨房へ向かう。

後に耳にした話だがコスモスは厨房で「我らが女神」と呼ばれるようになったらしい。

(コスモスは私に召喚されたことに意味があるって言った。私の失敗魔法も理由がわかった。私もコスモスに相応しいメイジにならなくちゃ)

ルイズは小さく拳を握った。

「ルイズお嬢様」KOS-MOSがルイズに声をかける。

「ルックスが5%低下。洗浄を」

 

 

「勝ってしまいましたな」と校長室にて遠見の鏡を用いて決闘の一部始終を監視していたオスマンがコルベールに話しかける。

一時は決闘に対して『眠りの鐘』の使用を申請してきた教師に「ガキの喧嘩に何をムキになるのか」と一喝したのだ。

「オナホール君、君は今の決闘どう思う?」

コルベールです、と訂正しながら自身の考察を述べる。

「彼女、コスモスは一切本気を出していません。兵器と言いながら武器も使ってないところを見るとおそらくガーゴイルとバレることを懸念したからでしょう。あの身のこなしも人間に合わせたものかと」

「いい機会だからとコスモス君の力がどれほどのものかみようかと思ったがダメじゃったな」

2人は深く溜め息をついた。

 

広場で決闘を見ていたキュルケが珍しく本から目を離していたタバサに語りかける。

「さっきのスゴかったわね~。なんかこうびゅっびゅ~って」興奮している彼女に対してキュルケは一言、「興味深い」と言うだけだった。

しかし彼女の目は広場から離れていなかった。

 

「今日も疲れたわね~」

服を脱ぎ散らかしながらルイズはベッドに飛び込む。

「でも今日はいろいろわかったし、明日から何をすべきかわかったわ~」

昨日とは違いルイズの顔は晴れ晴れしていた。

服を回収しているKOS-MOSに声をかける。

「あなたのお陰よコスモス。ありがとうね」

「何がでしょうか」

恐らく彼女は本当にわかっていないのだろう。

それでもいいとルイズは思った。

「なんでもないわ。おやすみ、コスモス」

「おやすみなさいませ」

 

そして夜は更けていく。

 

 

 

ゼロサーガIF~もし人型掃討兵器のKOS-MOSが本来のスペックを発揮したら~

 

『敵性Aを確認』

『戦闘シークエンスに移行』

その瞬間広場は淡い光に包まれた。

そこから現れたのは白を基調とした戦装束。

その姿はワルキューレにも劣らない、否、ワルキューレ以上の気品と美しさを持っていた。

ギーシュは混乱する。

「き、君はもしかしてメイジか!?」

ギーシュに限らずみた者は恐らく皆『錬金』を想像しただろう。

「いいえ、違います」KOS-MOSがそれを否定する。

「そんな見かけ倒しに!ワルキューレ!」

そう言うとギーシュはワルキューレに指示を出す。

しかし気付いていただろうか、KOS-MOSの右手に拳銃が握られていたことに。

「ブラスター、発射」

その言葉と同時にワルキューレが吹き飛んだ。

ブラスターとはKOS-MOSに標準装備されている小銃だが今はそんなことはどうでもいい。

ギーシュには状況を理解できなかった。それでもなんとか現状を打破するべく新たにワルキューレを5体呼び出す。

「ど、どんなに良い銃を持っていたってこの数は捌ききれまい」その手に持つ杖には汗が滴る。

「F・GSHOT、展開」

ギーシュのワルキューレに呆気を取られていた観客がその声にKOS-MOSを見る。

KOS-MOSには三本の大きな筒を束ねた謎の物体が握られていた。しかも片手で。察しの良い者は気づいただろう。もしやあれも銃なのかと。

「制圧射撃」声と同時に爆音が轟く。思わず目を閉じ耳を塞いだ人々はギーシュの作り出した5体のゴーレムを探す。恐らくゴーレムがいたであろうその場所には見るも無惨な土塊しかなかった。

バコンッとKOS-MOSはガトリングガンを放り出してギーシュに近づく。

「なんなんだよ!お前はなんなんだよ!」そう言って後ずさりしながらギーシュは最後の力を振り絞って杖を振る。そこには先ほどとは異なり随分と不細工なゴーレムがいた。ワルキューレ!とギーシュは叫ぶ。

「R・BLADE」と言う彼女の右手には青白し光を放つ剣が伸びていた。

出来損ないのゴーレムを一刀両断した彼女はギーシュに剣を向ける。

「ま、参った」そう言ってギーシュは杖を思わず地面に落としてしまった。

「私の勝利です」ギーシュに背を向け歩き出すKOS-MOS。先ほどの剣は既に右手にはなかった。

ギーシュは恐怖から解放された安堵からか地面にへたり込んでしまった。

 

そののちランクを上げ今やトライアングルとなったギーシュはその美しく力強いゴーレムを作り出すメイジ、『白銀』のギーシュとして名を馳せたらしい。

そのゴーレムはいつぞやの戦乙女に似ていたとか似ていなかったとか。

 

おわり

 

 

 




第02話も読んでもらえるなんてありがとうございます。

そしてゼロ魔ファンの方ごめんなさい。今回系統魔法に対し身勝手な自己解釈を加えてしまいました。核融合なしに元素変換が起こるのがどうしても許せなかったのです。KOS-MOSのメイド姿がヤケに様になってるのといい全部ヴェクターインダストリーって企業の仕業なんです。

さらにギーシュフルボッコを期待してた方々、ご期待に沿えずすみません。IFにも書きましたがスペック上KOS-MOSは歩くだけでアルビオンを海に落としかねません。それも全てエルデカイザーとか言うロボットの所為なんです。

今回、初めて戦闘シーンというものを書いてみたのですがどうでしょうか。まだまだズブの素人故荒削りな面が目立ちます。後学のためにアドバイスをお待ちしております。

最後に
本編に加えこんな後書きまで長々と読んでもらいありがとうございます。
初めてSSを書き、沢山の感想をいただきました。
今後の期待や誤字脱字の指摘、感想の中から本文へのインスパイアを受けたりと頭が下がるばかりです。
一応、このゼロサーガの大まかなプロットは完成しているので展開予想などはこ自由にしてください。

今後ともゼロサーガをよろしくお願いします。

P.S.破壊の杖どうしよう……。
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