カミサマに捨てられた世界で神様に愛されたものたち 作:snowchild
榊の依頼で真っ先にラボへ子供を連れて行くことになったのだが・・・。
警戒心を解かない子供と、いやに大人しく聞き分けのよい子供を連れて
第一部隊が極東支部に帰還したのは既に夕刻だった。
帰ってくる際に激しく暴れた女の子の意外に強い力に振り回され、
雨宮ツバキ、そして雨宮リンドウは疲労困憊といった様子でエントランスのソファに
腰掛けていた。
帰還してからはもう一人の男の子と共にソーマに任せている。
「ったく、あの子なんつー怪力してんだか・・・」
リンドウの着ている仕官服は砂埃などで汚れている。
ツバキの仕官服も同様の有様をしていて、滅多に見ない雨宮姉弟の姿に
エントランスを往来する誰もが目を見開いていた。
「そういや、姉上殿。あの子たち何処に連れて行ったんです?」
「姉と呼ぶな。あの子供たちは榊博士のラボだ」
「・・・ソーマだけで行かせてよかったんですか?
アイツが医者も科学者も毛嫌いしてるのは姉上だってご存知でしょうに」
姉と呼ぶことは改めず、声をおとしてリンドウは気にかかっていた疑問を口にした。
「榊博士のご指名だ。・・・ああリンドウ、一七三〇にラボへ来るよう指令があったぞ」
「あと五分じゃないですか!姉上なんで言ってくれないんです!?」
質問に簡単に答えてやり、同時に爆弾を投下すればリンドウの悲鳴のような
非難をツバキは一切無視して瞳を閉じた。
「ほほう、実に面白い」
先程から同じような言葉を繰り返すラボの持ち主に、
ソーマは機嫌を順調に低下させていた。
ソーマの目の前には、件の保護した二人の子供。そしてそのキツネ顔に
楽しげな笑みを浮かべるペイラー・榊の姿。
明らかに胡散臭い雰囲気を纏う榊に対し、子供二人は警戒心からか固まっている。
「・・・おい」
ソーマから発せられた低音に、男の子の肩が揺れる。
「ああ、これはすまない。つい夢中になってしまった」
我に返った榊が居住まいを正す。
「私はペイラー・榊。この極東支部で科学者をしているんだ」
「・・・僕、シキっていいます」
「っなんで教えるんだよ!?」
自ら名乗った男の子・シキに女の子は非難じみた叫びをあげた。
改めて見ると、二人は本当に良く似ていた。
黒に近い、艶やかな深い緑の髪。
顔の造作は整っており、つり目がちの大きな瞳は何処か愛嬌のある顔立ちだ。
女の子の瞳は、血のような真紅。
シキの瞳は、明るい黄金。
「大丈夫だよ。この人たち、『あの人』とちがう」
「でも『アイツ』と同じフェンリルだ!」
悲鳴を上げる女の子の手をシキが優しく握る。
そして、シキはソーマを見た。
「・・・ほら、大丈夫だよ。ね?」
シキの、その不可解な行動にソーマは眉根を寄せた。
連れてくる間、ソーマは彼に対して気の利いたことをした覚えは一切無い。
それでも、その短時間で彼はソーマから何かを感じとり、安全だと認識したらしい。
それをどういった経路で女の子に伝えたのか、疑問は残るが。
「・・・シュリ」
穏やかな笑みのシキに怯んでいた女の子が、ようやくその重い口を開いた。
どちらの名前も、響きはこの極東地域特有のもの。
「お、丁度いい感じ?」
「やあ、時間通りだねリンドウくん」
入ってきたのはリンドウである。
新たな闖入者にシュリと名乗った女の子が威嚇するが、シキの笑みに
構えを解く。
「・・・連れてくるときは思いっきり暴れてくれたけど」
お前、どんな手使ったんだ?
態度が急変した女の子を見やり、リンドウは驚愕の表情でソーマを見つめた。
しかしソーマの方は気に食わなかったのだろう、
子供に似つかわしくない舌打ちをした。
そして、役目は終わりだと言わんばかりにラボを出て行ってしまった。
「ったく、つれないな」
「・・・あのお兄さん、名前はなんていうの?」
「あの子はソーマだよ」
シキの問いかけに応えたのは榊である。
立ち去っていった扉を見つめたまま、まるでその後姿が見えているように笑う。
「あの人、やさしい人ですね」
「・・・へぇ」
その言葉が意外だったのか、リンドウが感心した様子でシキを見る。
シュリも否定しないので、恐らくシキと同意見なのだろう。
彼を守り、彼と同調するシュリをリンドウは興味深げに眺める。
「・・・さて、リンドウ君。悪いんだけれど、二人を支部長室まで案内してやってくれないか?」
「え、支部長に会わせるんですか?」
「止むを得ないけれど、こればかりはね」
苦笑を禁じえない様子の榊に、リンドウは貧乏くじを引いたな、と
内心嘆いた。
リンドウは、この極東支部の支部長に対して不信感を抱いていた。
ヨハネス・フォン・シックザール。
目の前の男はリンドウの連れてきた二人の子供を一瞥する。
「この二人が『保護』した子供かい?」
「はい。榊博士よりメディカルチェックの手続きを依頼されております」
淀みなく答え、榊から預かってきた書類を差し出す。
それにヨハネスが目を通してある間、リンドウは足元の子供を傍目で観察していた。
鋭い目つきでヨハネスを見上げるシュリに、
きょとんとした顔をしているシキ。
意外だったのは、シュリが抵抗しなかったことだ。
支部に入るまではあれだけ暴れていたのに、とその豹変ぶりに改めて驚きを抱く。
「・・・了承した。下がりたまえ」
「はっ。失礼します」
とりあえず、長居はできるだけご勘弁願いたい。
さっさと踵を返し、扉を閉めかけた。
「・・・お前、『アイツ』の血縁だな」
「シュリ、でもこの人は違うよ」
いやにはっきりとした二人の声に、リンドウは思わず耳を済ます。
「・・・どういう意味かな?」
「・・・いいえ、なんでもありません。でも、支部長さん」
リンドウの位置からでは、シュリとシキがどんな表情をしているか見えない。
けれど、ヨハネスの表情ははっきり見える。
リンドウが初めて見る、ヨハネスの僅かに困惑したような歪んだ顔。
「ちゃんと伝えてあげないと、守りたいもの、守れなくなりますよ・・・」
別名『過去編』終了。
次からは極東最強のあの人たちが出てきます。