カミサマに捨てられた世界で神様に愛されたものたち 作:snowchild
別エリアへ任務に出ていたのは、第一部隊の彼と
双子の姉。
「母の腕を覚えているか?」
「・・・くだらんな」
あまりに唐突な暗緑髪の少女の問いかけに対し、
銀白色の髪をフードの中に隠した少年は一言で切り捨てた。
『鉄塔の森』。
かつては工場地帯であった、今は植物と崩れかけた建物が広がるエリアだ。
放棄された建物は腐食しており、エリア内の至る所に溜まった水は
汚泥で濁り腐臭を放っている。
二人の姿はパイプラインらしき配管が残るエリアの奥地にあった。
「つれないな」
少女――――シュリは一切表情を変えずに淡々と言葉を発し、
「言ってろ。付き合う義理はねえ」
少年――――ソーマもまた言葉でもって切り捨てた。
暗緑色の髪に白い肌、血のように深く暗い紅色の瞳を持つシュリ。
銀白色の髪に浅黒い肌、意外にも薄く明るい蒼い瞳を持つソーマ。
正反対の色彩を持つ二人は、しかし内面で多く似通っている事を互いに自覚している。
「任務を手伝っただろう?」
「お前が勝手についてきたんだろう」
軽口を叩く(本人たちはそのつもりでも、端から見れば一触即発の雰囲気が漂っている)
二人の目の前には、討伐されて地に伏せる中型アラガミ・コンゴウ。
ソーマの手には黒い鋸のような刀身を持つバスターブレード、イーブルワン。
シュリの手には獣の翼によく似た刀身をしたショートブレードが握られている。
しかし、ソーマの右手で存在感を放つ赤い腕輪を
彼女はどちらの腕にもつけていなかった。
「偵察班の同行は不満か?」
「偵察班は神機なんぞ振りまわさねえだろ」
指摘してやれば、つまらないな、と小さく愚痴をこぼしてコンゴウをつつき始めた。
・・・ソーマの訂正通り、シュリは正式な神機使いではない。
(その為この討伐任務も実質ソーマが個人で受注している形である)
しかし五年前にソーマたちが保護したときから既に、誰のものかもわからない
神機を所有しており、腕輪なしで神機を操ってみせた。
これに舌を巻いたのは極東支部でアラガミ装甲壁の開発責任者であり
今現在はシュリとシキの後見人であるペイラー・榊だ。
何故、人為的に制御されたオラクル細胞を無しに神機を扱えるのか。
榊の疑問はごもっともで、けれど保護して手元に置くには
どうしても支部長に話を通さなければならなくなる。
「・・・お前、アイツに何を言って取り入りやがった?」
ソーマは幼い頃の記憶から、自身の父親であり極東支部支部長の
ヨハネス・フォン・シックザールに対して良い感情など持っていない。
良い様に利用されてきたからこそ、あの男がこの二人を放っておく筈など無いと
ソーマは確信している。
しかし、実際のところシキは神機整備士見習いとして
神機保管庫を出入りし。
腕輪なしで神機を操るシュリは、名目上は偵察班所属として
暇を見つけては何処からか神機を持ち出して任務についてくる。
榊が口八丁でごまかしたとしても、その隠蔽がこれだけ長く続くとは考えにくい。
常に疑問に思っていたことをアラガミをつついて遊んでいるシュリの背中に投げた。
「私の問いに答えれば、教えないこともない」
途端、盛大に舌打ちしたソーマにシュリは薄い笑みを浮かべた。
「ギブアンドテイクだ。どうする?」
「チッ。可愛げのない奴だな、少しは弟を見習ったらどうだ?」
「ふん。私にそれを求めるのは大きな間違いだ」
全くだ、という言葉は内心に留め、ソーマはシュリの最初の問いの答えを口に乗せる。
「俺は母の腕に抱かれたことは一度も無い筈だ」
自身が母の命を喰い破って産まれてきたことは知識の一つとして知っている。
覚えているか否か、それ以前の問題だ。
「そうか」
「・・・今度はお前が俺の質問に答えろ」
しつこく聞いてきた割にあっさりとした返事にやや拍子抜けし、
回答を促す。
シュリはアラガミの死体がオラクルとして霧散するのを見届けてからソーマを振り返った。
「至極簡単、『取引』したまで」
ソーマの求めた答えになってはいないが、質問に回答したのは事実であるので
詮索することを諦める。
何より、これ以上つついても何も話はしないだろう、と
文句を言いながらも長い付き合いの中で得た勘が告げている。
「・・・戻るぞ。それまでにその神機、どっかに片付けるんだな」
保護した時にそれを目の当たりにしているソーマ、リンドウ、そしてツバキ、
報告せざるを得なかった榊とヨハネスの前以外では
シュリは神機を振るえない。
忠告に肩をすくめることで応えると、彼は装甲車を停めている地点に向かって
歩き出した。
『くう・・・うう・・・うぅ・・・』
ダスキーモッズのコートを着たソーマの背を見ながら、
シュリの脳裏に浮かぶのはシキを介して『視た』ソーマの記憶に残っていない
彼の『記憶』。
聞こえてきた啜り泣きと、何か金属製のものを殴ったような
甲高い音の幻聴に、シュリは眉根をよせた。
「『母の腕を覚えているか』、か」
次いで思い浮かぶのは、極東支部で待つ弟の姿。
「同じ思いをしなければ良いな」
シキも、そう想うだろう――――?
「なにぼさっとしていやがる!さっさとしろ!」
聞こえてきた怒声に、シュリは肩をすくめて歩き出す。
直後彼女を襲った『悪寒』に、思わず空を見上げた。
広がるのは、なんの変哲もない青空。
アラガミとは違う、生理的に受け付けることを拒否したい存在のニオイが、
空からやってくる。
「・・・ちっ」
来たか、と毒づき、シュリは装甲車に向かって歩き出した。
時間軸的には丁度前回の話で
ユウやコウタがシキたちと正体の分からない『戦神』の話をしている時。
なんだかんだと双子と話して親しいソーマと、
それをきちんと理解していてからかう双子(特に姉のシュリ)の関係が作者のツボ。