カミサマに捨てられた世界で神様に愛されたものたち 作:snowchild
そしてリンドウのいない、第一部隊のある日の任務。
任務完了後、思いも寄らない敵の侵入に絶体絶命となったユウとコウタの前に現れたのは。
「風が、ざわめいてる」
肌を舐めるような温いそれを、シキはそう喩えた。
「誰か来るの?」
「・・・ああ」
極東支部の屋上。
外部居住区全体まで見渡せるそこにシキとシュリは立っていた。
頭上では数多の星が瞬き、半分以上欠けた月が淡くアナグラ全体を照らしている。
時刻は既に深夜。
嘗ての極東の言葉を借りるならば『草木も眠る丑三つ時』という時間帯である。
「来月、ロシア支部から新型神機使いが一人転属してくる」
「ああ、だからリッカさんあんなにテンション高かったのか」
相手が誰であろうと常に敬語を使うシキも、自身と血を分けた双子の姉であるシュリには
砕けた口調で話す。
シュリが本質的な場所でソーマと似ているのならば、
シキに一番似ているのは、たぶんユウだとシュリは思っている。
誰にでも好感を抱かせる温和で柔らかい物腰。
シュリとよく似ている造作の顔に常に浮かべているのは、彼女と異なり穏やかな笑みだ。
「で。あとは誰が帰ってくるの?」
普段と変わらぬ口調で紡がれた問いに、シュリは肩をすくめた。
「答えない、という選択肢は?」
「あるよ。だけど、姉さんは僕に隠し事が通用すると思う?」
「・・・いや、思わないな」
此処でシュリが何も教えなくても、どうせ分かってしまうことだ。
「フィンランド支部に出張していた博士が、極東支部に帰還する」
「ふーん、そうなんだ」
抑揚の無い声で告げれば、返ってきたのは大して興味のなさそうな声音。
言わせた割にはあっさりとしたその反応に、シュリは少々拍子抜けした。
「・・・誰が帰ってくるか、わかってるよな」
「・・・姉さん、僕のこと馬鹿にしてるの?」
思わず確認すれば、心外だ、といわんばかりに拗ねた声が返ってくる。
「・・・割り切れたわけじゃないんだ」
暫くの間、二人は黙って月明かりに照らされた外部居住区を眺めていたが、
ポツリとシキが言葉を紡いだ。
「勿論、これからも絶対に許せない。
兄さんをあんな状態にしたのは『あの人』だし。
タイミングよくアラガミに襲われて死なないかなー、って正直思ってるよ」
「お前が言うと洒落にならない」
過激な発言を嗜めれば、シキは苦笑をこぼした。
「冗談だよ」
そういって戻っていくシキを見送り、シュリは再び眼下の外部居住区を見下ろした。
巨大な装甲壁で守られたその光景は
嘗て双子が『家族』と呼ぶべき存在と暮らしていた場所とよく似ていた。
「・・・半分は、本気だったな」
幾ら双子といえ、シキとシュリは違う。
拾われた頃、殺気だっていたのはシュリだったが
実際に獰猛なのはシキの方であることなど、この支部のものは誰も知らないだろう。
「・・・人が、神となるか」
榊がよく口にする言葉を紡ぐ。
シュリはふ、と空を見上げた。
「博士、見捨てられた世界でも・・・」
後半の言葉は、あまりに小さく。
風に溶けて消えていった。
その日、第一部隊は『贖罪の街』でヤクシャの群れの討伐任務だった。
隊長のリンドウは別エリアでの任務の為、作戦メンバーは
新兵(といってももうすぐ入隊から一ヶ月)のユウ、コウタ。
上等兵のソーマ、そして衛生兵であり第一部隊副隊長のサクヤの四人。
ヤクシャは動きは鈍重であるものの聴覚に優れたアラガミである為、固まっての戦闘になれば
あっという間に囲まれる危険性がある。
効率の良い作戦行動ととる為、二人一組をサクヤは指示した。
そのため新型可変式神機のユウが旧型アサルト神機を持つコウタと。
旧型近接武器のバスターを持つソーマが旧型スナイパー神機を持つサクヤのペアに分かれる。
「それじゃあ、お互い気をつけてね」
サクヤの指示でユウとコウタは崩れた教会側へと足を進める。
「よーし、ユウ!頑張ろうぜ!」
「うん。細かい敵は任せたよ」
軽く右の拳をぶつけ合い、二人は遠目で目視した敵へと目掛けて猛然と走り出した。
教会の入り口付近で食事中の討伐対象と、群れの一部だろう周辺をふよふよ浮いている
サイゴード。
先に接近する二人に気付いたのはサイゴードだ。
「当たれ!」
コウタの神機から立て続けにオラクルの弾丸が発射される。
アサルト神機は銃器型の中では貫通力も破壊力も低い神機ではあるのだが、機動性に最も優れアラガミを足止めするには最も適した神機である。
コウタの銃撃で的確に打ち落とされるサイゴードを尻目に、ユウは戦闘音に気付いて顔をあげたヤクシャの肩に斬りかかった。
弱点を狙った不意打ちに、立ち上がりかけた姿勢が崩れる。
その隙を逃すことなく、今度は頭部目掛けてロングブレードの刃を振り下ろした。
「ユウ、今だよ!」
「言われなくても!」
後方から聞こえる声を合図に、ユウはダウンしたヤクシャに容赦なく連続で斬撃を繰り出す。
それほど間を置かず、奇声を発してヤクシャは完全に動きを止めた。
コウタの方もサイゴードを片付け終えたらしい。
「さてと」
ユウは一息ついて、倒したばかりのヤクシャに神機の先を向けて
神機を捕食形態へと変化、コアを抜き取っていく。
「なんか珍しい素材あった?」
「うーん、特にないなあ・・・」
ユウが倒したアラガミからコアを回収する間、コウタは周囲を警戒して見回す。
『あら?そっちももう終わったみたいね』
「サクヤさんたちも無事に終了ですか?」
『ええ。ソーマのお陰でね』
無線で入ってきたサクヤの声にコウタが明るい声をあげる。
ソーマの声は聞こえてこないが、サクヤのからかうような言葉に舌打ちしていそうだ。
「コウター、回収完了。サクヤさん、帰還ポイントまで移動しますか?」
『そうね。私たち、追いかけて結構奥まで来ちゃったから合流に少しだけ時間かかるわ』
「じゃあ俺たち、先に行って待ってま」
『第一部隊、新たなアラガミが作戦エリアに接近中です!』
任務完了、と安心しかけたところに、ヒバリの慌てた声が無線に乱入した。
突然のことに気が緩みかけていたユウとコウタの肌が粟立つ。
『これは・・・、クアドリガです!30秒後、エリアに侵入します!』
『侵入地点は!?』
『送ります!』
配備されている簡易端末のマップに送られてきたのは、
ユウとコウタが今居る地点を表示していた。
「げ、ここ!?」
「サクヤさん、僕たち一端此処から離れます!」
恐らくベテランであるソーマとサクヤならば二人だけでも戦闘は可能だろう。
しかし、まだ新兵であるユウとコウタの二人では正直荷が重い相手だ。
できるならば、侵入されてすぐの正面対峙は回避したい。
『すぐに向かうわ!』
『チッ』
無線には返さず、ユウはコウタの襟を引っ掴んで走り出した。
「とりあえず、物陰に隠れて様子を見よう!」
「わ、わかった!」
突然のユウの行動に目を白黒させていたコウタだったが、直ぐに我に返り冷静さを取り戻す。
走りながら侵入予測までのタイムを頭の裏で数える。
そして後方から聞こえてきたのは、何かの咆哮。
「侵入はえーよっ!」
「黙って!」
悲鳴じみた声をあげるコウタをユウは珍しく強い口調で叱責する。
とりあえず、見つかったらしい。
「コウタ!サクヤさんとソーマが来るまで持ちこたえるよ!」
「お、おう!」
このまま背中を見せていれば、ミサイルの格好の的である。
応戦しようと二人が足を止め、振り返ったときだった。
『作戦コード『アレス』、交戦を開始する』
嫌に底冷えする冷静な声が、無線に乱入した。
大幅に修正しました(変えすぎ)。
途中で戦闘シーンをどうしても入れておきたくなり・・・。
気まぐれですみません。
来訪者編、まだまだ続きます。