可奈美のお兄ちゃんは妹のために最強の剣士に目指す! 作:黒崎一黒
それでは、どうぞ
「てっきり、貴女たちの目標は衛藤 都だと思うけどね。」
「それでも、待つ甲斐がありますわ。」
多くの仲間の助けによって、やっと祭殿の入り口までにたどり着いた可奈美と姬和ですが。そこで親衛隊の二人に待ち伏せられた。
「可奈美!」
「うん!」
親衛隊の二人を見て、姬和と可奈美は戦闘態勢を取る。あの二人の実力は伊豆の時に確認したのだから、決して油断ならない相手だ。
「伊豆の続きをしようか」
「斬るか、斬られるかですわ。」
そう言って、二人の目は赤くなる。あの目は皐月夜見と戦うときみたいな色。
「あの目は……!」
「何という禍々しい……そこまで荒魂化をして、折神紫を守るのか!」
「力のない正義はなんの意味がない。力なきでは守れないものでもある。」
「時に力は人に幸せをする力があるですわ。」
親衛隊の二人、獅童真希と此花寿々花は写しを貼って、それぞれの流派の構えを取る。
「………姬和ちゃん。全力で戦おう」
「ああ……彼女たちを倒してこの前へ進む!」
そして、可奈美たちもそれぞれの流派の構えで親衛隊の二人と対峙する。
それから数秒後、彼女らの戦闘が始まった。
◇
舞衣と沙耶香方面ーー
「復讐ですか」
荒魂の群れに囲まれていた舞衣は沙耶香を庇って冷静に高津学長の話に聞く。
「ええ、そうよ。あの忌々しい男は良くも私の沙耶香を誘拐して、私の前に沙耶香を盗んだのよ!それから、良くも私を侮辱する……断じて許しませんわ!」
「そうですか」
けど、その理由を聞いた舞衣はただ冷たい返答を返す。
きっとこの人は都くんを怒らせて、そこまでされたのでしょうか。あの人は嫌いな人に容赦はしないのですが、それもちゃんとした正しい理由があると舞衣はそう信じている。
きっと沙耶香ちゃんを守るために……。
「だから、沙耶香は何にも悪くないと信じていますわ。悪いのはあの男です。彼さえいなければ、貴女はきっと紫様の力を受け入れようとするわ」
「…………」
「沙耶香ちゃん、大丈夫。私は貴女を守ります。」
「舞衣……」
怯えている沙耶香を見て、舞衣は優しく微笑む。
そして彼女の内心は凄く怒っている。沙耶香がそこまでに怯えているということは、散々酷いことでもされたのでしょう。だから、都くんは危険を犯しても、彼女を鎌府から連れて出した。
「邪魔しないでくれる?柳瀬の小娘。貴女は沙耶香の次です。貴女はまだ衛藤 都を傷つけられる重要の使命が残っているのですよ。」
険しい顔をする高津学長は舞衣に睨む。けど、それは今の舞衣には効かない。だって、彼女は舞衣の好きな人を傷つけようと企んでいるから。
故に、舞衣も彼女を睨み返す。が、高津学長に無視された。
彼女はどうやら沙耶香の勧誘に集中しているみたい。
「どうしたの沙耶香? そんな顔をして。何も恐いことなどないでしょう? あなたは私が見込んだ刀使だもの。あなたなら――」
高津学長は一旦言葉を区切り、夜見の背後に立つ。夜見の背中側から彼女の髪の毛を掴み、力任せに持ち上げて言った。
「こんな失敗作にはならない。だから安心して、私に全てを委ねるといいわ」
高津学長は沙耶香に見せつけるように夜見を掴んだ手を正面に掲げる。夜見は苦痛どころか嫌悪の感情すら顔に出さずに無表情のままだ。それとも、そんな感覚や感情を感じていないのか。
とにかく、舞衣はもうこの人のことを大嫌いになった。女の子にあんな扱いするのは舞衣は許さない。
「私に従っていれば、あなたは紫様に仕える最強の刀使――いえ、最高の御刀になれるわ。それがあなたにとっての使命であり、幸せなのよ、沙耶香。」
夜見を掴んでいる手とは別の手で、沙耶香を招き入れるよう下から手を伸ばす高津学長。それに応える沙耶香の表情は変わらず複雑そうなままだ。
しかし、その複雑そうな表情でも沙耶香は自身の学長に自分の意思を告げる。
そう、自分はもうあのただ黙っている人形ではない。
「もうやめて」
「あ?」
馬鹿にするような、呆けたような態度で高津学長は反応する。
「もうひどいことしないで。じゃないと、私は……」
「斬るのかぁ!? 私を、お前が?」
今度こそ、明確に悪意と挑発の込められた答え方をする高津学長。
「ひひ、はははは、あははははっ!!」
汚らしい、下卑た笑いが高津学長の口から放たれる。数秒続いたその笑い声と笑顔は瞬間的に罵声と剣幕へと変貌する。
「出過ぎた口を聞くな!! 道具の分際であるお前に、私を斬ることなど許されないだろうが!!」
沙耶香も、舞衣も、高津学長に怯えはしない。だが、彼女の異常性の理解と彼女に対する敵意は固まった。
「御刀も、刀使も、荒魂も、刀剣類管理局も、全ては紫様に力を捧げるためにあるのよ。沙耶香、お前はその男に毒されたようですね。」
高津学長は夜見を掴む手を緩め、彼女を地面に放り出す。うつ伏せに倒れた夜見だが、普段と遜色のない無表情で地面から顔を上げる。
「もういいわ。だったら、武力でお前たちに痛みをつけたあと。最後はあの男にお前たちの虐めな様子を見せてあげよう。夜見、早く仕事をしろ!」
高津学長はうつ伏せの体勢の夜見の右腕を履いているヒールで思い切り踏みつける。ヒールの踵部分の突起が右腕の肉に食い込むが、夜見は表情の変化どころかうめき声一つ上げない。
「…………沙耶香ちゃん。私はもう我慢の限界よ。久々にこんなに怒っているなんで……」
「………私も。都に酷いこと……彼女に酷いことをする高津学長は許さない。」
二人はもう目の前の学長に今までもない怒氣が上がった。あんなに人を道具扱いしかない、大切な人を傷つけようとするその態度に沙耶香たちは見過ごせない。
「……………」
高津学長は顔をしかめながら夜見を踏んでいる足を退け、立ち上がった夜見は何事もなかったかのように御刀を握り、眼前の舞衣と沙耶香を見据える。
「沙耶香以外は殺せ。柳瀬の小娘の遺体をあの男に見せつけろ!」
「…………了解しました。」
冷たく言い放たれた高津学長の命令に少し遅く答える夜見。彼女は左前腕に御刀で傷をつけ、その傷口から荒魂を放出する。
それは彼女の能力。自傷することで荒魂を生産することだけはなく、操ることもできる。その能力のおかけで、夜見は親衛隊として選ばれた。
「沙耶香、お前は紫様の道具なのよ? あの方のために生き、あの方のために死ぬ。これ以上の幸せはないわ。なのに、あの男のせいでお前の脳に余計なことを入れたようだね。」
「……違う。私は都に救われた。」
高津学長の言葉に強く反論する沙耶香。彼女は都と出会ったことが良かったと思う。都も自分と出会ったことに涙が出そうくらいに喜んでいる。
そんな彼を見て、沙耶香は人間としての価値が見つかった。
「救われた?いいえ、違う。あの男は紫様に反抗するもの!あんな生きる価値がないやつに、くだらない思想をお前に教え込んだのよ!彼を殺した後はゆっくりお前を正しい道を戻せまーー」
「高津学長、貴女はもう何も喋らないでください」
高津学長の言葉を遮断する舞衣。彼女の口から出している言葉はとても冷たい怒りが含まれている。
「……なんだと?」
「都くんを侮辱すること、彼を傷つけるつもりのこと、皐月さんにあんな酷いことをすることと沙耶香ちゃんにあんな痛みを与えたことを含めて、私は沙耶香ちゃんの代わりに貴女を斬ります!」
「私を……!?君が……?」
高津学長はさっきのと同じ反応ですが、舞衣は冷静で話を続く。
「ええ、殺しはしませんが……都くんの言葉を借りると、貴女を徹底的に踏み潰します。」
「舞衣……」
「沙耶香ちゃん。たまに、都くんの真似をしましょう。」
「うん……!」
沙耶香は強く頷く。そして、舞衣と一緒にお互いの背中を守ろう陣形をした。
これは舞草の里に学んだ陣形である。
「ふざけたことを……!夜見、やれ!」
「はい。」
大量の荒魂が舞衣たちを襲いかかる。
「背中は任せだ。」
「うん……!」
そして、舞衣たちの戦いが始まった。
◇
刀と刀がぶつけ合い音が響き。姬和と獅童は一対一で戦う。
本来は可奈美と合力であの二人を倒すつもりだが……全力を出せた親衛隊は強すぎで、いつの間に分断された。
そして、姬和は獅童との戦いで抑えられた。荒魂の力を頼ったとはいえ、剣技も凄まじいくらいに強い。
「ここ…!」
「………フッ」
「しまっ………!?」
やっと隙を見つけ出し、姬和はそちらに突っ込んだが……すぐ防御態勢を取り戻し、ぎりぎり獅童の攻撃を防げる。
わざと隙を……!?
「うっ……!」
さっきの攻撃を防げて、飛ばされた姬和は地面に倒れ。そしてギリギリの範囲に刀で自分の肩を守った。危うく肩が斬られるところだった。
「このまま押し込むぞ。」
完全に姬和を押し込む獅童。彼女は今でも御前試合二連覇の実力が残っている。
あんな強い実力が持つというのに……。
「ぐっ………これだけの……これだけの強さがありながら、なぜノロを受け入れる……!」
獅童の強さを良く知られていた姬和は彼女がこんなに強い力を持ちながら、ノロの力を頼ることに怒っている。
これだけの強さがあれば、あんな力を頼らなくても、十分なのに……!
「ふっ……僕は自分が強いだなんて思ったことは一度としてないよ。」
けど、そう言った獅童は少し悲しそうな表情を示した。
「…………っ!」
「目指す背中は彼方に遠くーー見上げる頂きは遥かに高い。並び立てる力だけを得る………目的のためならば、どんな手だって使う。君だってそうだろう!?」
姬和に自分が望んた答えを求める獅童真希。彼女はずっとあの二人ーーいや、最近は三人だと増えた。彼女はずっとあの三人の背中を見つめた。
史上最年少の最強剣士、世界最強の偉大なる大方ーーそして、あの少女に近づくほどの強さを持っている男。
最後の一人と戦わなくても、あの男は生身であの薄桃髪の天才少女と長時間で戦った。自分ではそれができない……だから、僕は弱いんだ。
故に悪魔の力を借りても、強くなりたい。これは獅童真希がノロを受け入れる理由だ。ただ並べる強さが欲しかった。
「さぁ、これで……おしまいだ!」
もう姬和の答えを待たずに、獅童は姬和にとどめを刺す。
けど、姬和は決心を満ちた瞳で獅童にさっきの質問を返す。
「……お前の言うとおりかもしれない。目的のためなら……お前にここで勝つためなら、どんな手だって使ってやる!こんな風に!」
「ーーーっ!?」
そして、彼女は胸あたりのS装備の強制パージを撃ち出す。それを急ぎに回避する獅童は一時に姬和から離れる。
そこに姬和の勝機がある。
「ぐっがぁ!」
獅童のお腹を蹴って、彼女の平衡を崩す。そしてーー斬る!
「ぐっ………!」
写しが姬和に剥がされて、獅童は地面に倒れた。
「結……芽……おま……すぐ……っ」
倒された獅童は最後の力で絞った言葉はある少女の名前。そして気絶した。
「………結芽……親衛隊の……」
獅童最後の言葉に気になる姬和だが、彼女はそういう考えを後にし、可奈美のところへ行く。
そこで、可奈美が此花寿々花を切り落とす前の光景。
「…………やっぱり兄妹ですわ。あの人もあんなに強いなのかしら?」
「遥かに強いよ。お兄ちゃんは誰よりも強い、誰よりも優しい。」
「そうですか……いいお兄さんをお持ちですね。」
視線を上げて、地面に座り込んだ寿々花は最後に笑顔で可奈美に向き合う。
「……うん、一番誇れるお兄ちゃんなんですよ。」
そして、同じ笑う可奈美は御刀で切り落とし、寿々花は写しが剥がれると共に意識が失った。
「なんか、こっちは結構平和そうな雰囲気だな。」
「姬和ちゃん………!そっちは終わった?」
近づく姬和を気づき、可奈美はいい顔で彼女を向く。
「ああ……さっき終わったばかり。それより、なんかいい気分だな。お前は」
「うん!だって此花さんはお兄ちゃんのことを結構気に入っているみたいなんだよ!これで、お兄ちゃんの良さがもう一人に知られたのよ!」
「………お前……相変わらず、彼のことを好きなんだな。」
「うん!大好き!」
笑顔でそう答えた可奈美。
彼女がこんなに元気の姿を見て、姬和も心が暖かくなる。
「………そうか。それより、そろそろ行きましょう。活動時間もそろそろ限界だし。」
「うん、そうだね。お兄ちゃんのことは舞衣ちゃんたちに任せる。」
「………みんなの為にも、貴女を討つぞ。タギツヒメ。」
そう決心して、姬和は可奈美と一緒に大荒魂にいた祭殿の方へ向かった。
◇
再び、舞衣と沙耶香の方面ーー
舞衣と沙耶香は迫り来る小型の荒魂の群れを御刀で次々と切り払う。けど数は全く減らない、どう斬っても終わりがない。
その原因は夜見が減った端から補充しているからだ。淡々と作業をこなすように自らの左腕に御刀の刃を突き立てる夜見に、舞衣は目を細めて言う。
「そんなに血を流したら、流石に死にますよ。」
「あなた達が果てる方が先です。」
舞衣の忠告も聞く耳持たずで夜見はいくつも左腕に傷をつける。なんで彼女は“あの女”にそんな忠誠があるんだ?散々虐められるのに……。
舞衣は戦いながら、ずっと夜見の動機を探ろうとしてた。けど、見つからなくて。
「おい、早く終わらせろ」
「仰せのままに」
高津学長は苛立ちの表情をしながら夜見に命令する。次の攻撃を察知した舞衣は沙耶香に告げる。
「沙耶香ちゃん。少しだけ荒魂を抑えてて」
「……舞衣?」
「私が……あの人を斬る」
目線先は夜見。沙耶香はそれを察知し、「……うん」と頷く。
そして、沙耶香は二秒ほど目を閉ざし、再び開く。その瞳は普段の薄紫色とは違う、虹の色に変わっていた。
「……!」
沙耶香が夜見の荒魂の群れに迅移を用いて加速し、突進。御刀で荒魂を斬り払う。
本来ならそのまま接近戦が続く、そのはずなのだが。
「あれは……」
沙耶香は迅移の後の斬撃から、再び迅移で加速。後方から迫る荒魂を迎撃する。それからまた迅移で加速、といった具合に絶え間なく迅移を続けている。
「まさか、あれが≪無念無想≫……」
可奈美たちと戦った時に使ったチート能力。本来迅移は一瞬だけを加速する技だが、沙耶香は持続的に迅移を行うことで超高速戦闘を可能としている。それが彼女の能力≪無念無想≫だ。
「割れる……!」
夜見を庇うかのように舞っていた荒魂の群れが沙耶香の御刀によって散らされ、ほんの一瞬だが人間が一人通ることのできる穴が開いた。
その一瞬を見逃さない舞衣は即座にその穴に飛び込み、その先に立つ夜見に向けて上段に御刀を振りかぶる。
「はっ!」
「………」
だが、夜見はそれに気づかないわけがない。正面から迫り来る舞衣の御刀を同じく上段からの斬撃で迎え撃つ。一応彼女は刀使、剣の戦いでの知識が持っている。
しかし、夜見は上段からそのまま切り下ろすところに、舞衣の御刀を持つ両手が彼女から見て左側にずれる。
そして、舞衣は右薙ぎに御刀を振っていた。
「……お見事です。」
舞衣の剣を受けた夜見は称賛の言葉を簡潔に述べ、写シが剥がれて倒れ伏した。その一瞬、彼女の顔が柔らかくなった。
でも、その表情は誰にも見せられなかった。
その直後、舞衣の髪を結んでいたリボンが解けて彼女の長い黒髪が重力に従って下ろされる。舞衣はあの一瞬の交錯の内に夜見の斬撃を回避しつつ一太刀浴びせたのだ。
「舞衣、お見事です。」
夜見の真似をしたのか、沙耶香も速やかに荒魂を斬り払い。舞衣のところへやってきて、彼女に称賛の言葉を。
「ありがとう、沙耶香ちゃん。それと、真似しなくてもいいよ。」
「………?わかった。」
舞衣の言葉にわからない顔をしている沙耶香は頭を左の方へ傾く。その動きはとても可愛くて、舞衣も思わず微笑んだ……と、その時ーー。
「くそっ! 出来損ないの親衛隊どもに任せたのが間違いだったか……! 今度はこうは――」
「…………」
そこに親衛隊の悪い口をブツブツ言って、ここから立ち去るつもりの高津学長。
そして、立ち去る高津学長の鼻先に何者かの御刀の鋒が向けられる。その者は沙耶香だ。
彼女は高津学長の行く手を阻むように立ち、両手に握り締めた御刀を向けている。
「さ、沙耶香っ……!?」
「………」
沙耶香は何も言わず、ただ静かに高津学長に御刀を突きつけている。当の高津学長も自信に降りかかるであろう危害に怯え、冷や汗を垂らしている。
「…………」
舞衣はこの場を沙耶香に任せ、御刀を収まる。本来は自分がやるつもりだが、沙耶香ちゃんがやりたいなら彼女に任せる。都くんがこの場にいるなら、きっとそうさせるはず。
「熱い……」
「?」
突然の沙耶香の要領を得ない言葉に高津学長は思わず困惑する。
沙耶香は辛そうに、瞼を伏せて言葉を連ねる。
「可奈美の剣を受けた手が熱い。舞衣に抱き締められた肩が熱い。都に優しく頭を撫でられた顔も熱い。でも、あなたに御刀を向けると……胸が苦しい。」
沙耶香の心の内、それを少しずつさらけ出す言葉だった。
これは彼女の本心なんだろう。沙耶香は元々優しい女の子。きっと彼女も多少自分を育てる恩がある学長に少しの感情がある。
しかし、高津学長は最後の一文に活路でも見出だしたのか、尊大な態度を取り戻して沙耶香に諭すように言う。
「ふ、ふふ……そう、ただの人形のお前にそんな感情があったのね。いえ、芽生えたのかしら? まぁ、どちらでもいいけれど。」
「………」
高津学長の言葉に沙耶香の御刀を握る手が微かに震える。
「いい、沙耶香? お前が今抱いているのは罪悪感よ。お前は本当は私を斬りたくないのだから。さあ、沙耶香、私に泣いて許しを乞いなさい。そうすれば、私がお前を最強の刀使に――」
この人は本当に……っ!
高津学長の尊大な態度と言語に舞衣は完全に彼女を失望した。これは、例え沙耶香にやらせたとしても舞衣はそんな女を斬りたい。
「違う。」
そこで、静かな、強い声を発声する沙耶香は真っ直ぐに高津学長の目を見て続ける。
「私は、あなたの望む刀使にはなれない――なりたくない。」
「なっ、何を言って……」
沙耶香からの拒絶に、高津学長は先程までの尊大な態度を再び崩されてしまう。
「都が背中を押してくれた、舞衣が私を抱き止めてくれた。空っぽで、人形だった私に心を育ませてくれた――私はこの熱をなくしたくない。」
沙耶香は高津学長に向けていた御刀を下ろす。高津学長は未だに目を白黒させて沙耶香の一挙手一投足に怯えている。
「私はあなたを斬らない。あなたは……かわいそうな人だから」
かわいそう、たった一言ではあるが、舞衣から見て高津学長にはその一言が深く突き刺さっているように思えた。
自分が使役し、支配していた相手に憐れまれている。尊敬や畏怖の対象ではなく、憐憫で見逃されたのだ。自尊心の高い高津学長にとっては屈辱でしかない。
これだけで十分だよね……。
「沙耶香ちゃん……」
舞衣は沙耶香の傍らに立ち、そっと彼女の左手の指を自分の指と絡ませる。
沙耶香もそれに応えるように指に力を入れる。
「……行こう」
「……うん」
沙耶香は舞衣の手を引き、高津学長に背を向けて走っていった。数秒もしない内に二人の姿は広間から消えていく。
「ま、待って……沙耶香」
高津学長は縋るように去り行く沙耶香に手を伸ばす。そこで誰かに、その手を横から叩き落とした。
「可哀想だね……高津学長は」
「おまえは……」
もはや恨めしく睨む気力もないのか、高津学長は呆然とこの場に出現としていた鎌府の制服を着ている竹島 雅を見つめる。
きっと、この人も自分の名前を覚えてないでしょう。雅もそう心得ている。
「糸見さんはもう貴女の所有物でも、道具でも、人形でもありません。彼女は一人の人間です。」
「…………」
この人はもう死んだ人間と当然なのね。糸見さんにそう言われて、もう前の強い気がないでしょう……可哀想に。
哀れな視線で弱くなった高津学長に向う。けど、彼女に同情しちゃいけない。だって、さっき糸見さんに散々言っている話は全部彼女に盗耳してた。
絶対に許さないんだ……この人。けど、糸見さんの意思も尊重したい。
だから、こっちからは彼女に警告をするしかない。
「もう、これ以上に糸見さんと衛藤 都さんと柳瀬さんと関わらないでください。でないと、私はあらゆる情報を使って、貴女を社会的に抹殺します。すべてのノロ実験情報はこっちに手を入れた……本当にクズだよ。高津学長は」
クズを見る目で彼女に横目をして、雅は気絶する夜見を背負う。
「皐月さん、もう帰ろう。帰って、貴女を治療して、暖かい食事とお風呂を用意しますから」
雅は微笑んで夜見をここから連れ出す。彼女はもう高津学長の顔を見たくない。
次回からはやっと都の登場シーンがありますよ。そしていよいよ結芽の過去も次回がバラしちゃいます。