可奈美のお兄ちゃんは妹のために最強の剣士に目指す!   作:黒崎一黒

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#補充説明:これからはスマホゲーム≪刀使の巫女ー刻みし一閃の灯火≫から出てきたサポートのメンバの皆のご登場を増やすつもりです。


第四話:進学先は……。

─2月─

 

 春に差し掛かる、寒いような暖かいような中途半端なこの時期。今はちょうど学校では、進学テストの時期に入っていた。可奈美はそのため、毎日の予定が殆ど勉強の時間にされ、剣術も禁じられて勉学に明け暮れる忙しい日々を送っていた。

 

 それがどれほど辛い日々なのかは、彼女にしか分からない。幸いのところ、自分の親友である柳瀬舞衣と兄の衛藤都が彼女のそばで支えている為、やっとこの辛い日々を耐えた。

 

 そして、いよいよテストの日がやって来た。可奈美はいつもより朝早く起きて、都が作った朝ごはんを美味しくいただく。

 

 「今日の朝食はどう?満足できた?」

 

 「うん!お兄ちゃんの料理は学校で食べた料理よりうまい!」

 

 「それはどうも。」

 

 可奈美が自分の料理に対し、大きな贊賞をもらった事に都は今までの努力は無駄じゃないと嬉しく思う。

 

 実のところ、都は可奈美が美味しく食べられるよう、より勉強に集中して料理のことを色々と研究した。そして、なんとなく可奈美が美味しくいただいた程度にたどり着いた。

 

 ちなみに、都に料理を教えたのは柴田という人だ。彼は柳瀬家の執事であり、舞衣直属の執事でもある。ある日に、彼が勝手に都を弟子入りさせて色々教え込んだのだ。

 

 彼が何故そうしたかの理由は、まだ彼は誰にも教えてはいない。けれど、彼は本気で“仕事の仕方”を都に教え込んでいたように見えたので、そこには生半可な意思はなかっただろう。

 

 「お兄ちゃんは食べないの?」

 

 「後で食べる。それより今日は絶対に失敗すんなよ!俺と舞衣ちゃんがあ·れ·だ·けお前の勉強を手伝っていたんだからな。」

 

 「うん!必ずお兄ちゃんと舞衣ちゃんの努力を無駄にしないよ!」

 

 (良い返事だ。俺の妹であるお前なら必ず出来るはずだ。)

 

 元気でやる気満々の可奈美を見て、都は思わず微笑んでいた。

 

 自分の妹は最高に可愛くて、元気いっぱい溢れるその姿は本当に魅力的だといつも彼女を自慢する彼だった。

 

 「よし、今日のテストがうまく行ったら、夜は稽古のフルコースを約束しよう!」

 

 「本当!?やった!お兄ちゃんと思いっきり稽古できる!」

 

 万歳と言っている可奈美は、とても喜んでいるように見える。そんな彼女を見て、(シスコン)は再び自分の妹に癒やされた。

 

 そして朝食の時間が終わり、都が可奈美を学校の方へ送るその道中、同じく可奈美と一緒の学校の方へ向かう予定の舞衣と出会い、そこで成り行きで珍しく三人が一緒に登校をしていた。

 

 しかし、都はまだ知らなかった。この先に、彼にとって過酷な現実が待ち受けていることを。

 

 

 ◇ 

 

 

 「可奈美は大丈夫かな………」

 

 岐阜県にある街中で歩きながら、都はたった今テストを受けている最中の妹を、凄く心配している。

 

 いつもなら、可奈美のそばで必死に応援をする筈であるこのバカ兄は、とある理由でここでゆっくり観光をしている。

 

 その理由は、可奈美の学校が彼の進入を拒否してるからだ。毎回の遠足に勝手についてきて、可奈美にたくさん手を貸して、ついでに教師たちに代わって生徒たちを導くその様……こんな問題人物を、流石に学校側の者達は放っておく訳にはいかないのだ。

 

 それで拒否された都はもちろん気に食わない気分で、今もなお心の中がムカついたけど、可奈美と舞衣のためだと強く思い、何とか我慢をしていた。もし自分があの場で大暴れしたら、きっと彼女たちに迷惑をかけるだろう。

 

 特に柳瀬グループの令嬢である柳瀬舞衣には絶対に迷惑をかけてはいけない。

 

 で、何故岐阜県に居るかって?理由は簡単。五箇伝の一つである美濃関学院が此処にあるからだ。兄たる者はもちろん「妹が行きたい学校を兄が先に偵察するに決まっているだろう」という非常識を掲げる救いようのない妹思い過ぎるバカ兄なのだ。だからこそ、都は今此処に居るのだ。

 

 ちなみに、今日は平日。普通にこの時間では大人しい生徒であれば学校の教室にいるはずなのだが、残念ながらそうでない都はこうしてのんびりと岐阜を観光している。

 

 でも、これは決して彼がサボっているわけじゃない。これはきちんと学校に申し込んで受理された見学なのだ。そして学校方面は彼が見学したい学校は、五箇伝の一つであると聞いたら、学校方面は至急手続きをした。

 

 もし彼があそこへ進学するのなら、きっと本校にもいい宣伝になるだろう。という利益的な理由で彼の行動を学校側は許可したのだ。

 

 「いや、絶対に大丈夫だ!うちの妹だし!……多分。」

 

 そして、妹の件で若干そわそわの気持ちでこの街を観光している都であった。

 

 それから数十分後、都はやっと目的地の美濃関学院に到着した。

 

 駅から相当な距離だったが、途中で色んな商店があったので、退屈しない結構楽しい道のりでした。

 

 「ここが美濃関学院か……」

 

 都は、目の前にあるいくつもの大きな現代風建物にかなり驚かされていた。彼はここで、改めて五箇伝の力の強大さを再認識した。

 

 (いくらなんでもデカすぎるだろう…。こんな見るからに凄い学校を毎日通えるなんて……本当に夢みたいな話だな。こんな凄い学校に今後可奈美と舞衣が通える可能性があるんだと思うと、なんだか…凄く寂しい気持ちが心の中から湧いてきた。)

 

 所詮、自分は選ばれた人間ではない……彼女たちと永遠に並べられる事はないんだ。自分の身分と彼女たちの身分の差を悟って、都はこの先のことを嘆いていた。

 

 「あの…貴方は、衛藤 都さんですよね?」

 

 「は、はい!?」

 

 そんな時、都の背後からなんとなく優しそうな声がかけてきた。

 

 背後に振り向くと、一人の女性がそこに立っていた。

 

 亜麻色の髪色、まるで翡翠のように優しい瞳。彼女は都の反応を見て、礼儀正しく小さく微笑んでいた。

 

 その笑みには、まさに大人の女性にしか示せない魅力が満ちている。

 

 「そんなに緊張しなくてもいいのよ、衛藤さん。」

 

 「は、はい。あの…失礼ながら、どちら様でしょうか?」

 

 ここが五箇伝の一つである美濃関学院という事のせいなのか、都は思わず目の前の女性に対して敬語を使う。柳瀬舞衣の前では普段の自分のままでいられるのに、この女性の前ではなんとなく敬語を使ってしまう。

 

 「私は羽島(はしま)江麻(えま)と申します。この学院の学長を務めております。」

 

 「が、学長!?…え、えっと……お、お会いできて光栄です!」

 

 (学長…つまりあの“ババァ”と同じ職務の人だ。しかし、この人はあのババァと違って、優しくて温厚そうな人だ。)

 

 「ふふ、無理に敬語を使わなくてもいいのよ。私はそんな大層な人間じゃないから、貴方の好きなように接してくれても構いません。」

 

 「……ど、努力します。」

 

 「それじゃ、早速ですが確認させて頂きますね。単刀直入に言います、貴方は衛藤 都さんですよね?例の学校から見学の申し込み表が先程こちらに届きました。」

 

 「はい。美濃関学院がどんなところなのか凄く気になったのですが……その理由でダメなんでしょうか?」

 

 「いいえ、本校に興味を持つことはとてもいいことだと思います。それに……ううん、なんでもないわ。」

 

 羽島学長は都のことをじっと見つめていた。さっき彼の顔を見た瞬間、昔の知り合いの影が彼と重なったように見えた。

 

 紫色の髪、顔のパーツ、瞳の色。そのすべてがあの人とよく似ていた。まるで昔のあの人がここにいるみたいだと羽島学長は思った。

 

 「それじゃ、身分を確認した上で私がご案内します。よろしいですか?」

 

 「は、はい!よろしくお願いします。」

 

 短い会話が終わり、都は羽島学長に連れられて美濃関の校内へと入っていた。

 

 そこで都はさらに驚愕させられた。

 

 まず美濃関学院は、ネットの地図で見たよりかなり広い学院だということを視認できた。おそらく学園内を一周するまでに約一時間かかるのだろうと言う事が分かっている。

 

 そして、ここにいる学生は女性だけでなく男性もいる。

 

 それの何が驚く事なのかと言うと、都が事前に美濃関は五箇伝の中での唯一男女学校だと言う事は聞いていたのだが、まさかこの噂が本当だとは思っていなかった。刀使は女性限定でなれるものだから、都は刀使の学校は女学校だけという認識で固定されていた。

 

 そして、ここにいる学生は刀使でもない人もたくさんいる。その為、その人たちに用意されているのが“刀匠課程”の“作刀課程”や“刀装課程”(とうそうかてい)。それらの課程が、美濃関にたくさんの刀使以外の人材が集められるきっかけになったのだ。

 

 研師、鞘師、柄巻師、装剣金工、白銀師、組紐職人などの鍛治界において有名な今の職人達は、すべて美濃関の出身なのである。なので、刀にこだわる刀使達もよく美濃関の拵師に自分の御刀の刀身以外の部分をオーダメイドするらしい。

 

 とにかく、彼/彼女らはこの世界の未来に期待された人間なのである。

 

 それを知った時、彼の刀使に対する認識がリセットされ、心が落ち着き、そして少し心が踊されていた。

 

 まさか刀使じゃない人間でも刀使の世界にそんな貢献ができるなんて……。

 

 (もし自分がここに進学して立派な刀匠になれたのなら、少しでも可奈美や舞衣の役に立てるのだろうか…。)

 

 少しそんな未来を期待してしまった。彼はずっと可奈美と舞衣を中心に動いているのだ。

 

 彼女たちのそばにいられることは、彼にとってそれは最大の幸福だ。

 

 「ここが鍛治科の建物です。さっき紹介した例の課程も、この建物に設置しております。赤羽刀(あかばねとう)の再生もここで行っています。」

 

 「赤羽刀?」

 

 「あら、ごめんなさい…知らなかったのね。では、歩きながら説明しますね。まず赤羽刀とは、一度荒魂を倒すと落とす“錆びた御刀”のことです。」

 

 「御刀も錆びるんですか?鍛治師がどこにも居るこの時代に?」

 

 「はい、本来御刀は錆びるはずかない神刀なのですが……例外も存在しているんです。それが、先程言った赤羽刀です。」

 

 (例外があるのか……てっきり御刀は折れない、錆びれないものだと思っていた。)

 

 「現状では御刀を新たに製造することが出来る技術が現代にない故、こうして赤羽刀を再生する形で御刀を製造していく他ないのです。」

 

 「なるほど。」

 

 赤羽刀の再生の話を聞いた時、彼は一瞬で可奈美が持っている御刀の千鳥(ちどり)のことを思い出す。

 

 (あれは、とても綺麗な刀だった。あの刀も昔、赤羽刀だったのだろうか……。)

 

 「どうやら刀に少しでも興味を持てるようになったのですね。」

 

 心が踊り、嬉しそうにしている都を見て、羽島学長は笑う。

 

 「え?そう見えます?」

 

 「はい、よかったらここの教師を紹介しましょうか?彼女と話したら、多分自分の心境が良くなると思うわよ。」

 

 「いえ、それは結構です。」

 

 だが本人にはまだその自覚がないらしい。何せ、彼は母親がなくなったその日から、既に刀に関する熱意が失われたのだから。

 

 ただ、刀に関する熱意はまだ完全に消えている訳ではない。

 

 「おう?そこにいるのは学長じゃないか?」

 

 そして、先の教室から一人の女性が現れた。

 

 その女性は、綺麗な金髪を持ち、容姿の全体を見る限りはスタイル抜群の外国美人みたいな女性だ。

 

 アレは舞衣と同じレベルかな?…とても失礼な行為だとは都も分かっているのだが、都の視線は思わずアレへと無意識に移った。

 

 「田中先生、こんにちは。どうしたの?授業の時間に教室から出て来るなんて…。」

 

 「自習中だよ。あいつらはまだまだだから、しばらく自己勉強をさせておこうと思ってさ……それより、そこの紫髪の男の子は?見たことない顔ですけど。」

 

 都の方を見た田中と呼ばれていた教師が両手を腰にあてながら学長に訊く。

 

 「あ、彼は例の学校から見学しに来た中等部三年の衛藤 都さんです。」

 

 「…どうも。」

 

 「へぇ〜。見た感じ結構鍛えてる男ですね。どう?あんた、うちのクラスに来ない?高等部でもあたしの授業を受けられるからさ。」

 

 田中教師は都の腕の方を一瞬だけ観察し、一目で都が鍛えている人間だと分かった。そして流れるように彼を誘っていく。

 

 「いえ、まだこっちに進学するかどうかは決まっていないので……」

 

 「まぁまぁ、そう言わずに。じゃあ、もし来ること決まったらうちのところヘ来なさい。特別に一対一で教えてあげる。」

 

 「いや…その…マジで遠慮します。」

 

 都は、率直にこの人は姉貴タイプの性格だと思った。そして、それと同時にこの人の会話に対応し辛いとも思っていた…。

 

 中学の頃から、都はずっとそういうタイプの人間に苦手意識を持っていたのだ。主に姉貴タイプの人間は大部分が悪い人ではないから、そんな悪い気せずに接してくれる相手にかなり苦手だ。もし悪い人だったらいつもの対応で良いから楽になれるのに…。そう、都はずっとそう考えていた。

 

 「ふふ、田中先生がそこまで熱心に勧誘するなんて、よほど期待されますわね。」

 

 優しい顔で、都の方を見てくる羽島学長。率直に言って彼女の笑顔は実に甘くて暖かった。

 

 「そんなに褒められても……」

 

 「そうだ、学長。例の赤羽刀はもうこちらに届いてある。今は分析して再生するところの段階だ。後で服部(はっとり)のやつと聯合作業をするから、今夜も教室を借りるよ。」

 

 「ええ、わかりました。赤羽刀の作業はお願いします。」

 

 「おう!それじゃ、あたしはこれから服部のところに行くから学長も無理せずに。」

 

 「ええ、わかりました。」

 

 そう言い、田中先生はそのまま立ち去って行った。

 

 「どう?さっきの田中(たなか)妙子(みょうこ)先生。いい人でしょう?彼女はこの学校の刀匠専科先端の一人で、いつも赤羽刀や御刀に関することに走り回っているわ。私よりも忙しい方なんです。」

 

 「……俺はそんなことはないと思います。羽島学長も、きっと自分なりにかなり頑張っていると思います。それは多分…本当に誰よりも……でないと、この学院はここまで壮大にはなれていなかった筈です。」

 

 「衛藤さん……」

 

 「俺が言うのはおかしいですが…それでも言わせてください。いつもお疲れ様です、羽島学長。」

 

 「……………ありがとうございます。まさか衛藤さんに褒められる事になるとは……やっぱり似ていますね。」

 

 都の言葉に歓喜し過ぎたからだろうか、羽島学長の瞳から涙が零れ始めた。

 

 「え…!?す…すみません!俺、何か悪いこと言っちゃいましたか!?」

 

 「いいえ、これは嬉しい涙です。あなたのおかけでまた一歩先ヘと歩ける気がします。」

 

 涙を拭いて、羽島学長は真正面で都と向き合う。

 

 「衛藤 都さん。私、今回の出会いを忘れません。もし気が向いたら、ぜひ美濃関学院へ進学してください。あなたのことを待っていますから。」

 

 「…………」

 

 優しい笑顔で手を差し出し、正式的に都のことを美濃関学院へと勧誘した彼女。

 

 その時の都は何も答えていなかった。いや、答えることが出来なかったと言った方が正しいだろう。

 

 その後、学園の見学がようやく終わり。都は見学中にずっと勧誘されたことについて考え込んでいた。

 

 その日の夜も、可奈美と稽古する時も、ずっとそのことについて考え続けていた。

 

 一般人の自分が、五箇伝の美濃関へ……刀使の世界へと踏み込んでいいのか、ずっと悩んでいた。

 

 

 ◇

 

 

 本当に、彼女とそっくりだと思った。

 

 初めて彼と出会った時、てっきりあの人が戻ってきたのかと勘違いしてしまった。

 

 同じ顔で、同じ瞳で同じ髪色。口調と個性は少し違ったが、他のところはとてもそっくりな作りをしていた。

 

 そして、今日で彼に言われた言葉……それは昔、あの人にも同じこと言われた気がする。

 

 「きっと、お前も自分なりにかなり頑張っていたと思う。それは多分…誰よりも……でなきゃ、私達だけでここまでたどり着けなかったよ。だから本当にお疲れ、江麻。」

 

 その言葉を再び思い出すと、色んな気持ちが心の底から沸き上がってきた。

 

 「いけない、また涙が……」

 

 学務室にて。羽島江麻は涙を拭きながら、ある資料を確認するところだった。

 

 その資料は、衛藤家兄妹に関することが載っていた。その資料に載った写真を見て、またある実感が湧いてきた。

 

 この二人は本当にあの人……藤原(ふじわら) 美奈都(みなと)とそっくりだ。都は外見で、可奈美は剣術大好きという点。

 

 母、藤原美奈都の特徴は確かにあの兄妹が受け継いでいた。そして、妹の方は強く此方の学園への進学を希望している。

 

 「衛藤 可奈美……名前もそれぞれ受け継いだのね。兄の方は(みやこ)。妹は“なみ”ですか……」

 

 そして、彼女の視線が改めて御刀一覧に移る。

 

 「千鳥……やっぱりあの子を選んだのね。」

 

 可奈美の愛用する御刀の千鳥は、昔に美奈都が愛用していた御刀だ。これも、おそらく宿命と言えるのだろう。

 

 「兄の方はやっぱり何も持たないのか……それもそうね、男の子だし。でも彼も彼女の良いところをちゃんと持っているわ。しっかりと美奈都の意志を彼は受け継ぐのでしょう。」

 

 窓の外の夜空を見ながら、羽島学長は再び都のことを思い出す。

 

 「彼なら、美奈都さんみたいに頼れる人間になれるのでしょうね。刀使たちを支え、妹を支え、最終的にみんなの柱になる……そんな未来も…悪くないわね。」

 

 星空を見て、羽島学長はそんな未来を想像して優しく微笑んでいた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 「可奈美、もう寝た?」

 

 夜の11時に、突然可奈美の部屋の扉が叩かれた。

 

 「まだだけど…どうしたの?お兄ちゃん。」

 

 「少し話があって……部屋、入ってもいいか?」

 

 「いい…あ!……ちょっと待って!」

 

 「待て」と可奈美に言われたので、おとなしく待とうと思って扉の前で待っていた都。だが、可奈美に言われた後の数秒後…部屋の中から壮大な声が聞こえてきた。主に「痛い!」等の声ばかりが部屋から聞こえてくる。拗らせたシスコンの都は、当然可奈美の安否を心配する。

 

 「お…おい、大丈夫なのか?」

 

 不安そうな声で可奈美に尋ねる都。

 

 「大丈夫だよ!だから絶対に入らないで!」

 

 「お…おう、分かった。」

 

 それから数分が経ち、ようやく可奈美の扉が内側から開き、可奈美が部屋から顔を出してくる。

 

 「も、もういいよ…ハァハァハァ…」

 

 そこには、何故か凄く疲れた様子の可奈美が目の前に居た。一体部屋の中で何の運動してたのか、凄く気になる。

 

 だが、そんなことよりも可奈美が着ているパジャマの方が都の注意をそっちへと逸した。そのパジャマは、ピンク色のふわふわ系の可愛いパジャマだった。可奈美は昔から剣術以外では可愛い物が大好きで、特にふわふわの物には目がなかったという事を都は思い出す。

 

 そして、いつもよりも可愛く、自分と血の繋がった妹だとは信じられないほどのドキドキさせる、妹の頬を赤くしながら上目遣い。これはもう、都にとっての即死級萌え攻撃と言っても過言ではない。

 

 部屋に入ると、都はベットよりも先に部屋の中にあった椅子の方に座った。流石に今の状態で妹のベッドに座ったらまずいだろう。

 

 ベッドに座ってしまったが最後は一晩中、可奈美の良い匂いやパジャマを着た可愛さのせいで眠れなくなってしまう。(既に手遅れ)

 

 「それで、お兄ちゃんは何を話しに来たの?」

 

 ベットに座った可奈美が、都の方へ向き合い話し始める。

 

 「可奈美…さっきお風呂から上がったところか?」

 

 「え…!?///」

 

 しかし、都は本題に入るより先に、今この一瞬で可奈美を観察して気になった方から話し始めた。かなり目を凝らせば分かる事なのだが、可奈美の髪は微妙に濡れていた。だが、彼の目は可奈美に関しての事なら鷹の目にでもなれるので、一瞬見ただけだとしても、簡単に詳細な変化を目視できてしまうのだ。

 

 まぁ、彼は別にそこまで可奈美に関して詳細な変化を感じ取れる訳ではないのだが…。ただ可奈美の髪が少し濡れているように見えたから、単純にそう推測してみただけなのだ。それでも可奈美のことを関していると他の人間より何倍も彼女の変化を気付くのだ。

 

 「当たりか?」

 

 「そ、そうだよ…////。さっきお風呂から上がったばかりなんだ……それでタオルを体に巻いたまま部屋で、ついそこで剣術のことを考えちゃって…剣術の事で頭が一杯に……つい着替える事を忘れてて…それで……////」

 

 羞恥心に悶えているのだろう。顔が真紅に染まり、可奈美は見るからに落ち着かない様子で、「トイレに行きたいのか」と思わせる程にモジモジしていた。

 

 その恥ずかしがり方と赤くなった顔が合わさり、都は何かイケナイものを見ていたような気分になった。「(クッソ可愛いんだが…)」と思いながら。

 

 (何その仕草…!可愛い過ぎんだろ!!おいおい、ヤベェぞ!マジで可愛い…!あぁ、この世界にこんなにかわいい生き物が本当に存在したのか!マジで可愛いすぎんだろ!?抱き締めてもいいですか?頭を撫でてもいいですか?)

 

 「なるほど。さっき部屋の中で焦っていたのはそういう事だったのか…」

 

 「う、うん///…それで?お兄ちゃんは私と何か話したいなの?」

 

 話題を逸らしたいなのか、可奈美の顔が赤のまま本題を戻らせた。

 

 「あ、ああ……実は俺は可奈美と一緒に美濃関ヘ行きたいと思ってな。」

 

 「お兄ちゃんも美濃関へ行きたいの!?」

 

 「う、うん。色々考えたんだ……。でも凄く迷っているよ。」

 

 視線が床に落ち、都が落ち込んでいるように見える。こんな都、可奈美は初めて見た。

 

 いつも自分優先で、元気で、凄く頼れる人がこんなに落ち込んでいるなんて……可奈美には想像しなかった。

 

 恐らくこれは都のもう一面だろう。普段は可奈美の前で展示されないはず。

 

 「俺は可奈美のそばにいたい、舞衣ちゃんのそばにいたい、お前らの役に立ちたい、もっとお世話したい…。けど、俺たちは別の世界なんだ!刀使と普通の人間は慣れない……いや、一緒じゃいけないだ。俺はお前らに何もあげられない、助けられないんだ。」

 

 まるで心が刀に斬られる気分だ。まさかお兄ちゃんがそこまで考えていたんだ……。自分が情けないと思ってしまう可奈美であった。

 

 ずっと一緒にいたのに、どうしてお兄ちゃんがこんな苦しそうなのに、自分が自分のことしか思っていないの?

 

 お兄ちゃんが傷づいた、凄く悩んでいた。自分さえも考えていなかったことでも先に考えた。

 

 でも、これはきっと普通の人間しかわからない悩みだと思う。

 

 刀使は普通の人間より強い、手助けなんてほぼ必要ない。だからずっと自分を助けに、優しくしてくれた一般人のお兄ちゃんがこんなにも苦しそうだ。

 

 「いつかお前たちは遠くへ行くだろう。もっと先に明るい未来へ……これは俺の望みでもある。……だが同時に俺がそこにいないことを怖がっている。永遠にスタートに立つ俺は刀使であるお前たちに追いつけない……そばにいられないんだ。」

 

 (違う。それは違う。)

 

 都が言っているのが確か事実だが、何か違うと勘付いた可奈美。

 

 可奈美が望んだのはこれから先の未来に舞衣ちゃんと一番大好きなお兄ちゃんがそこにいる。

 

 考えが甘いだが。それがどうした?望んじゃいけないのか?それは違う。

 

 自分の心に当たって、可奈美は剣をそこに狙う。

 

 そこには救いたい人がいた。

 

 「お兄ちゃん、こっちにおいて」

 

 彼女は外れるはずかない、彼女が見たんだ。

 

 その心の軌跡に乗せて、あそこへ一閃で斬り開く。

 

 「可奈美!?何を……!////」

 

 彼の手を引っ張って、都を自分の懐に迎える。

 

 彼が驚異なのを知っている。彼女も結構恥ずかしいから。

 

 でも、彼を救いたい気持ちがもっと大きかった。

 

 (迷うな、そこに斬るのみ!)

 

 「私はお兄ちゃんのそばにいたい。私、お兄ちゃんからたくさんもらった、たくさん優しいもらってた。……私はそんなお兄ちゃんが好き。だから離れるなんてさせない。」

 

 「可奈美……」

 

 「もしお兄ちゃんが後ろに止まったら、必ず引っ張ってやる!全力で引っ張ってやる!私はお兄ちゃんと離れるのが嫌。もっとお兄ちゃんといたい…駄目?」

 

 強く都を抱き締めた可奈美は言葉のまま都と離れるつもりはない。

 

 だって好きだもん、家族だもん。母が失ってからずっとそばで自分を笑顔してほしいと頑張っているお兄ちゃんだもん。

 

 ずっとそんな彼を好きだ。

 

 「……もちろん、いいよ。まったく……こんな兄を粘るかわいい妹の望みなら叶えてやる、どこまでもついていくよ。」

 

 そして、ようやく可奈美の剣が届いた。

 

 「本当?」

 

 「本当。俺はもう迷わない……俺は全力でお前のそばへ行く。どんなことがあっても、俺はお前のそばへ行って助けてやるよ。」

 

 可奈美の抱き締める力が弱まり、都は自ら彼女の懐から離れ、お互いの息が感じられる距離で。

 

 不思議とこの距離ではちっとも恥ずかしくない。でも可奈美本人がきっと彼より恥ずかしいだろう。いや、お互いの顔が真紅だからきっとお互い様だろう。

 

 「なら、約束して……」

 

 「ああ……。」

 

 そして都が千鳥を取って、前のテレビで見た戦国ドラマの武士みたいな真似をして可奈美の前に誓った。

 

 「俺はお前の鞘、お前がどこへ行っても必ずそこへ向かう。どんな困難があっても、あなたとともに立ち向かう。俺たちは絶対離れない/私たちは絶対離れない。」

 

 最後のセリフを彼と可奈美はともに言った。

 

 「なんだが、かっこいいよね。私とお兄ちゃんは一つの剣で!」

 

 「おい、やめろ!あれは二回言ったらよほど恥ずかしいセリフだろうか!」

 

 「えぇ〜。でも凄くかっこいいよ!私達は兄妹ですし、同じの流派、同じ師匠でもある!」

 

 「確かにそうだが……」

 

 「お兄ちゃん、私達は一つの剣だよ。どんな困難があっても二人で迎えましょう。」

 

 可奈美が都の手を強く握り、嬉しいそうに言う。

 

 (どうやら“一つの剣”を気に入ったみたいだ。それは嬉しいことなのですが…やはり気恥ずかしい。でも嫌いではない。可奈美と一緒なら、剣になってもいい。二人で一つの剣……確かに俺たちにはとても似合うことだ。)

 

 (俺は可奈美を守る剣になる。そのためならなんだってやる。俺はこれから先にもっと強くなる。可奈美を守るために俺の剣はもっと強くならなきゃ。)

 

 そう誓って、彼は刀使の世界に入り込むことを決めた。

 




色々設定を調べ回ってた……疲れた。特に赤羽刀は一番苦労するところ。もし解析が間違ったらコメントでよろしくお願いします。
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