可奈美のお兄ちゃんは妹のために最強の剣士に目指す!   作:黒崎一黒

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今回は原作第十八話の最終話になります。後日談として今回の話を書いていたけど、市ヶ谷防衛戦の後、主人公陣営もタイトル通りに大きく変わってしまったものがありました。


第59話:戦いの後、変われていく関係

 ー市ヶ谷での戦いから4日後ー

 

 

 

 市ヶ谷防衛省に起きる人為的における被害は市ヶ谷全域発生した荒魂事件でまとまった。

 

 世間には大荒魂の存在を知られてはいけないため、防衛省事務次官の織田正雄はすべての責任を天災如くの荒魂事件に押した。

 

 一方、防衛省が大荒魂(タキリヒメ)を世間に隠した事実を闇に掘り込む。一方は唯一荒魂を対応する機関刀剣類管理局の面子を保つこと。

 

 大荒魂タギツヒメが優勢を手に入れた今、管理局はより重要の存在になった。何せ、荒魂による被害を阻止するのは刀使しかいない。

 

 荒魂が一日存在すればするほど、刀使たちの存在は不可欠になる。特に鎌倉特別危険廃棄物漏出問題で発生した大量荒魂発生事件は刀使たちの奮戦のおかけで関東一帯の被害が何とか抑えた功績があった。

 

 織田正雄も馬鹿の男ではない。彼も今の日本が必要なのは政治権利の争いではない、日本の脅威(荒魂)から守ってくれる刀使だ。

 

 確かに折神紫の絶対統治時代から、管理局のことを目障りと思うことがあったが……タギツヒメという大脅威が現れた以上、もう内部争いごっこをやっている場合ではない。

 

 そして今は、管理局と共に市ヶ谷襲撃事件の後片付けしながら、タギツヒメへの対策を練る。

 

 その中、防衛省襲撃事件の中心における英雄たちは別の動きがあった。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 刀剣類管理局下におけるある病院ーー

 

 

 

 可奈美は仕事の余りに、管理局御用達の病院内のある病室に足を運んでいた。その部屋のベッドには安らかな顔で眠りについている青年の姿がいる。

 

 彼ーー衛藤 都はあの夜、タギツヒメが防衛省から逃げたあと、突然糸が切れたように気を失ってしまった。

 

 そして、ずっと昏睡の状態で眠っている。

 

 お医者さんから聞いた話によると、彼は極度の疲労、肉体の損傷と驚くほど肉体の自然再生を行うせいで肉体の恒常性を維持することが難しくなったのだと聞いている。

 

 彼が病院に運ばれたときに、既にタギツヒメに斬られた刀傷が治った。その話を聞いた可奈美一行は不思議だと思っている。

 

 彼は明らかに斬られたのに、身体の外傷はもうなかった。彼の身体が何か起きているのか可奈美たちは一時に理解できなかったが、この話はしばらく六人の秘密にしておいた。

 

 これも彼のためでもある。彼にしばらく平穏の時間を与えたい、というのは六人の共同意思だ。

 

 「あの……彼はすぐに目覚めるんですよね……?」

 

 可奈美は不安げな声色を隠しきれないまま、部屋に居合わせている女性看護師に尋ねる。

 

 「ええ。先生の話ですと、このまま安静にしていればすぐに意識を取り戻すそうです。不安になられるかもしれませんが、今は……」

 

 「あ、大丈夫です。命に別状がないなら、それで……」

 

 お互いに愛想笑いを浮かべつつのやりとり。看護師も可奈美と都の関係性を何となく理解しているのか、励まそうとしているのがわかる。

 

 「よろしければ、側にいらしてあげてください」

 

 看護師が会釈しながら病室を後にすると、可奈美は都の眠るベッドの脇に椅子を置き、それに腰掛ける。

 

 「お兄ちゃん……」

 

 紫髪、細身で整った顔立ち。世の男性なら大抵はこういう容姿の同姓に嫉妬や羨望やらの感情を抱くのだろう。だが、彼が背負うものを知れば羨ましいなどという考えには至らないと断言できる。

 

 彼は頑張りすぎだ。大切なものを守るために色々と無茶しすぎた。彼は自分よりも自分の大切な人たちのために行動しなければならないと考えてはいたが、それでも心は確実に磨り減っていた。

 

 彼の痛みは、彼の苦しみは彼自身が心の奥底に追いやっていただけなのだ。

 

 「もしも、私がもっと強くなったら、お兄ちゃんは無理にタギツヒメと戦わないのだろ……」

 

 あの夜、可奈美は危うく彼を失うことに何回でも泣いた。普段は泣かない彼女ですが、お兄ちゃんの前だけは素直になる。…ううん、彼が失われるかもしれないから素になるんだ。

 

 彼を愛している。家族の愛もあるが……一人の女としての愛も含まれている。

 

 しかし、可奈美は彼とは実の家族だ。恋しちゃいけない対象だ。彼と恋人同士どころか、プライベートで交流を持つことすらほぼ不可能となってしまう。結婚など夢物語だ。

 

 しかし、欲しかった。お兄ちゃんが自分だけ見て欲しかった、自分を選んで欲しかった。

 

 「やっぱり最低な妹だね、私……」

 

 可奈美は右手で胸元を抑え、悲痛な面持ちで俯く。彼女は自分がいかにも自己本位の汚い女だと知った。自分の幸せのために愛する人が苦しむ選択肢を選んでしまうことに、激しい自己嫌悪を覚えた。

 

 彼の不幸につけこんで、彼の可能性を奪ってしまったのではないか。

 

 間違えたのは、精神と実力も弱い自分の方ではないのでしょうか……。

 

 「起きてよ……お兄ちゃん。」

 

 そう思っていた可奈美は辛そうな表情で都の手を握り、彼の目覚めを祈っていた。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 同一時刻、鎌府女学院女子寮のあるお部屋。

 

 

 

 

 

 

 「そうか……今日一日、可奈美がずっと都先輩の隣にいたんのですか……」

 

 美炎を含めた調査隊のメンバーと姬和たちは数日前の市ヶ谷での戦いについて情報交換を行っている。そして美炎は姬和から可奈美が都のそばに彼を見守っていたことを聞いた。

 

 「うん、今日は可奈美ちゃんの番。最初の見舞いの番を彼女にやらせようと思ったんのですが……タキリヒメの件も可奈美ちゃんにかなりの衝撃を与えたので、しばらく彼女に気持ちを調整する時間を与えました。」

 

 「これもあいつのためだ。都は彼女の一番大事な家族だもんな。まぁ、俺たちもそうだが……」

 

 「ミヤミヤは既にワタシたち大事な仲間と友達だからネ。」

 

 「そうなんですか……」

 

 薫とエレンの話から聞いて、智恵は元気がない声で返答する。調査隊の方も二人の仲間が敵に回したし、ミルヤと美炎と調査隊に臨時的に配属した国頭さんもかなりショックを受けたみたい。

 

 自分もあの二人の件で精神的にやられたけど、みんなのお姉さんとして調査隊をちゃんと支えないと……。

 

 「まさか、衛藤さんもあの戦いで……」

 

 「死んだような言い方をやめろ。彼がただ頑張りすぎで、疲れて倒れた。少し休めば元通りになる!そうだろう?」

 

 「まぁ、お医者さんもそう言ってたし。可奈美からも、都が身体に大きな負担をかかる技を使ったらしい。」

 

 「それで、ずっと眠ったままなのか……」

 

 「あれほどのチート技を使ったし、それくらいの副作用も普通だろ。」

 

 ゲームの話で都の異能を形容する薫。

 

 「それより、そっちも大変だったよね?……仲間の二人が近衛隊に」

 

 「………………それに関しては、私のせいです。」

 

 舞衣が不意に話題を変えようと、ミルヤは自己責め始めた。彼女はあの夜、冥加刀使になってしまった由依と葉菜を見て、ずっと自分の判断に後悔している。

 

 もし、あの時は分断行動しなければ彼女たちは冥加に……。

 

 「ミルヤさん、あんまり思い詰めちゃだめ。悪いのが綾小路の刀使を利用したタギツヒメです。近衛隊が使ったノロもタギツヒメから取り出したものです。」

 

 「………ですが…」

 

 「私も同感だ。タギツヒメを憎んでいる理由もあるが、あいつが次々と私の大切なものを傷つけようとしている。私は絶対にタギツヒメを許さない!」

 

 国頭が言ってることを賛成する姬和。彼女はタギツヒメと切れない縁がある。

 

 かつて調査隊は青砥(あおと)陽司(ようじ)から聞いた話よると、姬和の母は間接的にタギツヒメに殺された。だから彼女は御前試合の時、ご当主を殺そうとした。

 

 姬和たちと別の場所で彼女たちのことを知ってしまった調査隊も姬和の気持ちをすごく理解している。

 

 特に智恵と清香は群馬で都からも直接聞いた。彼と可奈美も姬和と同じ、お母さんが間接的にタギツヒメに殺されたことでかなり辛い過去を経歴した。

 

 本人は今が気にしていないが、でもそれは当場にいる薫と沙耶香がいるおかけなのかもしれない。この二人はずっと都のことを大事にしていたからなのだ。

 

 本当に見るだけで微笑ましい関係だ。

 

 「私もタギツヒメを許せない。理由は姬和ちゃんと同じです。」

 

 「俺もだ。ねねも彼女にボコボコされたからな。ねねと(あいつ)の仇を討つって決めた。このまま好き放題されて、足蹴にされて黙っていられるか!」

 

 そして姬和に賛同する舞衣と薫。市ヶ谷の戦のあと、彼女たちはもうタギツヒメのことをどうしても許さない。

 

 主因はやはり都さんのことだよね……。とそう思ってしまう智恵。

 

 彼が薫たちにどれだけ影響を与えたのは彼女自身もわかる。

 

 彼と接触して、彼の本質を分かれば、彼のことを自然に放っておけないのです。

 

 「でも私たちだけでは……今のタギツヒメとまともに戦えない。」

 

 「サヤカの言う通り。ワタシたちはミヤミヤのようにタギツヒメとまともに戦えないのデース。」

 

 「そういえば、さっき貴女たちの話によると、都さんはタギツヒメから一手を取れたという話をしたよね?あれは?」

 

 エレンの話に少し引っかかるミルヤ。

 

 戦力的にトップクラスの衛藤可奈美以上の刀使は存在しないはず……いや、燕 結芽はそのうちか。なのに、彼という男はタギツヒメを撃退した。

 

 管理局内、一番腕利き刀使の衛藤可奈美と十条姬和さえも成し遂げないことを成し遂げた。相当に不思議な話だ。

 

 「都くんは昔……ううん、今でも剣技が可奈美ちゃん以上の剣士です。都くんは多分対等の力を得て、タギツヒメとまともに戦えたと思う。」

 

 都の実力を昔から見てきた舞衣は都の実力さがよく知っていて、ミルヤにそう伝う。

 

 彼は可奈美より強い剣士。可奈美さえも対等勝負で勝てない人だ。

 

 「なるほど……理屈がわかった。」

 

 「ほのちゃんがわかるの?」

 

 「うん、都先輩は学校にいた頃は生身で三人の刀使を倒した。だから、私も都先輩の強さを納得するよ。」

 

 「へぇ〜〜興味ないけど、あいつはそんなに凄いんだ。ずっと後ろでミルヤみたいにうるさくて指揮しているから、てっきりそっち向けかと……」

 

 「七之里さん。あとでゆっくり話しましょうか?裏で」

 

 「げっ!それは勘弁してくれ!」

 

 ミルヤや智恵の説教に嫌そうな態度を示した呼吹。姬和たちは彼女たちの関係をよく知らないが………呼吹はいつもあの二人に叱られそうだ。

 

 「とにかく、今は都さんの目覚めを待つということですよね?」

 

 「………………」

 

 無言になる姬和たち。彼女たちの反応からどうやらそうしたいらしい。

 

 「………わかりました。私たち調査隊もしばらく近衛隊のことを調べます。何か起きたら、私たちは貴女たちの代わりにやります。」

 

 「………それは……」

 

 「今、貴女たちにとって一番大事なのは都さんの復帰。一応彼は貴女たちの隊長ですし、私たち側の切り札です。彼の安全を確保するのも大事な任務です。」

 

 「………だから、十条さんたちは彼の目覚めを集中してください」

 

 姬和たちを説得するように、智恵はこう提案した。今、彼女たちの状態では彼なしではかなり不穏だ

 

 だから、今だに彼女たちを都さんの隣にいさせるのが一番だと判断した智恵。

 

 彼が目覚める前に、自分たちは由依ちゃんと葉菜ちゃんのことを何とかしないと……ついでに朱音様たちにこれからどうするのかを聞かないと。

 

 「感謝する、瀬戸内。」

 

 「智恵でいい。私たちは同じ管理局所属の仲間でしょう?」

 

 「……わかった。智恵。」

 

 そうして、姬和たちは都が昏睡している間に調査隊と一歩ずつ信頼関係を築き上げた。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 「はぁ……」

 

 薄暗い病室の天井が視界に飛び込んでくる。上体を起こそうとしたものの、全身が鉛のように重い、頭もくらくらする。これは超集中を使い過ぎて、及び長時間の戦闘を加えた症状である。

 

 今までは“運良く”その症状から逃れましたが……今回は見逃されなかった。多分毎回は死にそうな状態だから、不思議と全快する時、ついてに疲労も解かれた。

 

 本当に不思議な現象だ。……今回は起きなかったみたいだけど。……まぁ、毎回死にそうになるのもおかしいのですが。

 

 ……うん?そういえば、ここは病室だよね?タギツヒメと戦ってから何時間経ってた?

 

 あの技を使った後、俺は気絶してしまったから、この間のことは全く知らなかった。

 

 気合いを入れて上体を起こし、寝ぼけ眼を左手で擦り、意識を覚醒させる。

 

 「ええと……携帯は」

 

 そして左手側のテーブルに置かれた携帯端末を手に取り、日付と時刻を確認する。タギツヒメとの戦いからは4日後……いや、時刻は既に深夜だから5日後か……。

 

 「こんなに寝ていたなんて……初めてですね。」

 

 寝ていた、というより厳密には気を失っていたのだが。これは初めて超集中という技を開発する時期より酷かった……あの時は丸一日眠っていたからな。

 

 そのせいで、可奈美に心配をかけた。…本当にあの頃の彼女に申し訳ない。けど、あの技を開発するおかけで色々助かった。

 

 結芽の時も、決戦の時も、タギツヒメと戦うときもあのリスクが高すぎた技のおかけで自分は何とかここまでに歩いてきた。

 

 正直、あの技は自分の必殺技なんだ。弱者でありながら、圧倒的な力を持つ強者に対して唯一逆らう、弱者のために存在する技。それが超集中。

 

 まぁ、リスクが高すぎますけど。でもあれのおかけで、できることもたくさん増えますからいいことだよね?

 

 「ん……?」

 

 鼻腔をくすぐる魅惑的な香り、そして右足あたりに伝わる温もり。それらの元を視線で探ると、そこには美濃関学院の制服に身を包んだ少女――都の最愛の妹、可奈美が静かに寝息を立てながらベッドの端に突っ伏して寝ていた。

 

 見舞いに来て、長い間待っていたせいで寝落ちしてしまったのだろうか。

 

 「可奈美……」

 

 彼女を見て、口が思わず彼女の名前を呟いた。

 

 まさか自分が気絶している間に彼女は自分のお見舞いでこんな疲れていたとは……兄としては心苦しいですが、彼女の優しさに胸あたりが温まっていく。

 

 可奈美は昔から優しい子だ。自分が一番辛い時も自分に気遣ってくれた記憶がある。

 

 自分の手を引っ張ってくれて、無理矢理彼女と一緒に彼女が大好きな番組を見させ、俺に学校で起きた楽しいことを全部教えた。彼女の笑顔を少し覗うと、まるで太陽のように眩しかった。

 

 しかし、あの時の俺は彼女に一切心を向けなかった。母を失った痛みは、あの時の俺にとって一生治せない傷だ。

 

 だから、あの頃の可奈美は俺にとって眩しすぎる存在なんだ。

 

 あの誘拐事件が起こす前に、俺はずっと眩しい彼女のことを避けていた。

 

 ここで少し残酷な話を言いますと、あくまで可奈美は母が俺に託した妹に過ぎないのだ。俺は彼女のことを今みたいに大事ではなかった……。

 

 彼女を失われるかもしれない恐怖に落ちなければ、彼女がどれほど大事なのはわからなかった。

 

 そんな恐怖を味わった日以来、俺は可奈美の大事さを知り、彼女を今みたいに大事していた。

 

 ただ一人の妹なんだ。兄としてちゃんと大事しないと……。

 

 「………このまま可奈美が風邪に引いちゃうのかも」

 

 回想から戻り、都は可奈美を見てそう呟く。

 

 このまま疲れた可奈美を眠らせておこうかと思ったが、もう冬の季節だから、布もなしに眠らせておくのは健康的には良くないかもしれないと判断して、彼女を揺すり起こすことにした。

 

 早速、可奈美の左肩に右手を乗せると……。

 

 ――小さい。こんなにも……

 

 可奈美は同年代の女子と比べてもそこまで小柄ではないが、都には触れた彼女の肩も体も小さく感じた。

 

 今更だけど、彼女はずっとこんな身体でここまで戦っていたのね……。

 

 心苦しいというか、嬉しいというか。………彼女が危険ことに丸投げるのは心苦しいなのですが、彼女がここまで強くなることも嬉しい。

 

 そして何より彼女は自分のために戦っていたのも知っていた。そこはちょっと……胸がぞわぞわしてしまう感覚。なんてだろう?

 

 とりあえず、彼女を起こしますか。胸の変な感覚はしばらく置いておく。

 

 「可奈美、起きて。風邪を引いてしまいますよ〜」

 

 少し強めに肩を揺する。

 

 「ん……ん〜〜」

 

 「ほら、起きて。寝ぼけないで」

 

 もう一度揺らすと、可奈美はふらりと寝起き、自分を目覚めさせた相手を確認する。

 

 「おにい……ちゃん……?」

 

 「おはよう、今日の寝顔もとてもかわいーー」

 

 「ーーっ!!」

 

 都が冗談を言わんばかりに視界が一瞬で真っ白に染まった。

 

 そうしたら、肌触りの良い滑らかな感触が彼の顔面に襲い掛かってくる。次に感じていたのは柔らかい何かが彼の顔を押し付ける。

 

 ーーこれは!?

 

 先程までとは比べ物にならないほど豊潤な香り。顔を押し付ける優しい温かさと柔らかさ。ここまでくれば結論はただ一つだけ。都は現在、可奈美自身の手によって、彼女の胸元に顔を押し付けられているのだ。

 

 「可奈美……!?」

 

 身体の倦怠感、不意打ちの動揺、そして何より妹の匂いと胸の感触にここまではっきりと接触していることの羞恥心。シスコンの彼は珍しく狼狽していた。

 

 ただ匂いを嗅ぐだけで、一夜は眠れないというのに……ここまで彼女と密着していると、自分は多分……抑えられないと思う。

 

 対象は妹とはいえ、彼女は十分魅力がある女の子だ。彼女に欲情しないと言うならば、それが嘘だ。

 

 舞衣の胸に目が吸い込まれたと同じ、都は時々可奈美の太ももに視線のやり場が困っている。

 

 簡潔に言うと、美濃関の制服がヤバイすぎる。とはいえ、学院内で都にそう感じさせた対象は大体いつもの三人しか。好感がないやつはどうエロくでも都は決してときめきしないのだ。

 

 そして、自分の妹が素敵すぎるのも大きな問題だ。何せ、可奈美は彼の誇れる対象なんだから、自然に彼女への好感を抱かえる。

 

 特に最近は可奈美のことを意識しすぎる。

 

 「お兄ちゃんが目を覚めて良かった〜。私はお兄ちゃんが何処かに行っちゃいそうだから、ずっとそれを怖くて……」

 

 「可奈美……」

 

 可奈美はより一層強く、都を抱き締める。息苦しさが増すが、そんなものは可奈美の柔らかさと温もりによって掻き消される。

 

 いや、……これはもしや、可奈美の不安の言葉はそういうのを掻き消されるかもしれない。

 

 彼女はとても不安でした。自分がこのまま意識が戻せなかったという可能性を恐れていた。

 

 そんな不安そうな妹にちゃんと向かわないで兄としてはどうする!

 

 「……お兄ちゃんはもうどこにもいかないのよね?」

 

 「あ、ああ……何度でも言うけど、俺はどこにも行かないのよ。そのために、こうしてあの戦場から生きて戻ってきたから」

 

 彼女を安心させるため、都は顔が胸に押し付けられた状態で彼女の髪をワシャワシャと撫でる。とても可笑しい姿勢になるのを予想がつくけど……。

 

 「うん……」

 

 彼女を安心させるなら、いくら恥ずかしくてもおかしくても構わない。

 

 そして、可奈美は小さく頷いたら、都の頭を離さないまま抱き続けていた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 「……」

 

 「……」

 

 数分ほど可奈美に抱き締められ、今になって解放された。

 

 我に返って自分の行動に羞恥心がこみ上げてきたのか、お互いに顔を真っ赤にした状態でそわそわと目を泳がせていた。

 

 「その……色んな意味でありがとうございます。」

 

 「私も……」

 

 両方ともがお互い意味不明の話を出した。一人は妹に抱かれて妹成分を補充するシスコン。もう一人は大好きな彼をたっぷり感じて恥ずかしがっていた。

 

 それから数秒の沈黙、両方は恥ずかしい熱くなる顔で互いの視線を避ける。

 

 やがて数秒後、都は先に話題を開いた。

 

 「………えっと、その……この後はどうなっているのかな?俺が気絶している間は」

 

 「………え?そっち?」

 

 「……ん?」

 

 可奈美の意外の反応に少し呆れる都。

 

 そっちとは……?そういう返答はまるで期待外れの質問だね。なら、本心は何か聞きたいのか?

 

 「なん、なんでもないです!聞かないで!」

 

 「お、おう……」

 

 そうしたら、都がそれを聞き出す前に可奈美は先に聞く道を封鎖した。

 

 何?兄でも知らせたくないことなのか?

 

 彼女の恥ずかしい反応から、ちっとも彼女の思いを見当たらない都。

 

 彼は恋に関する点は相変わらず鈍感。今だに舞衣の気持ちを気付かず、この恋を片思いだと思っている。

 

 「すう……ふう……」

 

 少し深呼吸をして、気持ちを落ち着かせたら、可奈美は都の質問にきちんと答えた。

 

 簡単に言うと、タギツヒメが撤退したあの日以来タギツヒメ側は姿を隠し、何の動きもなかったようだ。俺もその日以来昏睡したままだそうだ。

 

 そして可奈美たちはずっと意識が戻れない俺の世話をしている……いや、世話というか、見守るのほうが正しい。

 

 だって、看護師の仕事は怪我人である俺の世話にすることだ。流石に可奈美たちはやらせられない。

 

 それでも可奈美たちはこんな俺の面倒を見てくれた。本当に優しすぎるんだ、皆は。

 

 「タギツヒメたちはしばらく動きがないということは……多分イチキシマヒメの居場所を探しているのだろうなあ…」

 

 可奈美から教えた状況からすぐこの先のことを推測する都。

 

 「やっぱりお兄ちゃんもそう思ってたのか……」

 

 「うん、タギツヒメはタキリヒメを吸収した後、残った狙いは最後の女神イチキシマヒメになるのでしょう。彼女を吸収すれば、隠世にある本体を手に入れる。そうなったら、この世は何もかも終わる」

 

 「…………」

 

 「可奈美?」

 

 何かを考え込む顔をしている可奈美。彼女が急に沈黙するところに都は尋ねる。

 

 「私たちは勝てるのかな?タギツヒメは前より強くなっている。タギツヒメを相手に私はちっとも勝てる気がしない」

 

 そうしたら、可奈美はまた不安そうな顔に戻った。まぁ……それもそうだ。彼女たちはタギツヒメにやられたし、不安になるのも仕方ないことだ。

 

 「大丈夫。相手はいかにも強くても万能ではないのだ。彼女を一度倒したから、二度目も倒せる。だから、可奈美のことを信じているよ。」

 

 「私……?お兄ちゃんは?あの時、お兄ちゃんはタギツヒメと互角に戦っているんですよ!私たちと違って……」

 

 「もちろん、俺も頑張るさあ。けど、俺一人だけじゃだめだ。俺の剣を見たでしょう?皆が俺の力になっていたからこそ、タギツヒメとそこまで戦っていたのだ。」

 

 「でも……あれはお兄ちゃんの剣で……私にはそれが届かない。それに、防衛省の戦いでタキリヒメのことも、歩ちゃんのことも、お兄ちゃんのこと……何もしてあげられなかった。……私、こんなに何もできなかったという感覚が初めて……」

 

 さらに落ち込む可奈美。普段の彼女なら俺が強くなるのを知ったら、きっとわくわくして稽古を申し込むはず。

 

 なのに、彼女は自分の弱さで悩んで落ち込んでいる。こんなの、可奈美らしくない。

 

 「……何もできなかった、って可奈美は言うけどな。俺はそれ、違うと思う。」

 

 「…えっ?」

 

 「あの時はタギツヒメと戦う最中だけど、俺は見たのだ。可奈美は、あの時、あれ以上の被害を出さないように立ち向かった。姬和たちはS装備を着て近衛隊と対峙したのに、可奈美は空のまま近衛隊と打ち合って迎撃にあたったんだろう?それでなお、押し返した。……それだけでも、可奈美が凄い刀使だってことが俺には分かる。」

 

 「でも、お兄ちゃんのこともタキリヒメのことも……どっちも助けてあげられなかったのですよ!私」

 

 「それでも、お前はやるべきことをやり遂げた。近衛隊たちを抑えたおかけで俺も邪魔されずにタギツヒメと戦えた。まぁ……一度斬り殺されたけど、それでもお前はちゃんと自分の役割を果たした。」

 

 「…………」

 

 「やっぱりまだ納得いかないのね……」

 

 「うん…」

 

 顔を下げたまま、また落ち込んでいる可奈美。正直彼女はもう最善を尽くした。近衛隊の強さも予想以上に強かったし、自分も可奈美が無力なんて思わない。

 

 自分の妹は自分より遥かに強い剣士だと思う。毎回の立ち合いは予想外の攻め方で攻めてきて、危うく負けられるところだった。

 

 そして御前試合以来、可奈美の強さは段々と強くなっている。その剣の完成も近い……いずれ彼女もお母さんみたいな強さになると俺は思う。

 

 ならーー

 

 「よし。俺が出院したら、俺と稽古にしようか?可奈美。久々二人でやってないから、今の俺と今のお前がどっちが強いのがお互い試してみようか」

 

 「え……?お兄ちゃんと?」

 

 「そんなに自信がないなら、俺との戦いでお前が持つ真の実力を分からせてやる!今度は真剣勝負だ、こっちも刀使の力を完全に手に入れたし。」

 

 「いいの?それより、今はタギツヒメの方がーー」

 

 「いいや、そちらの調査は朱音様たちも時間がかかるだろう。その前に、俺はお前の自信を立て直す」

 

 「なんて……」

 

 「だって、俺はお前のお兄ちゃんだから。お前が不調の時、元気を付けるのは“兄の役目”だ!」

 

 「……ッ!」

 

 都は格好よく自分の胸に叩く。

 

 そうすると、可奈美は目を大きく開いて都を見つめる。これで彼女も安心で自分の提案を受けて、気分も良くなるのだろうと思っていたら、彼女はちょっと嬉しそうな……いや、悲しそうな顔をしている。

 

 「……やっぱり、ずるいですね。そうやって、いつも私を優しく甘やかして……そんなのずるいです。お兄ちゃん。」

 

 「可奈美?」

 

 「ううん、お兄ちゃんに悩みを意図的に放り出す私が悪いかも。お兄ちゃんの関心をもらえるかなと思って、そうやって自分の弱みを晒し出した。本当に……私って、性格悪い女ですね。」

 

 「急に、何を言って……おい!」

 

 立ち上がり、可奈美はとても辛そうな顔で隣に置いた鞄を持ち上げた。

 

 「ごめんなさい。私はもうこれ以上、お兄ちゃんと一緒にいけないの。でないと、私はもっと自分のことが大嫌いになる。……帰るね、お兄ちゃん。」

 

 「おい、可奈美……!待って!」

 

 俺の叫びを聞かず、可奈美はすぐ後ろに向いて走ってこの部屋から逃げ出した。

 

 残された俺は彼女を追う力がなく、彼女が俺から逃げ出すことを見るしかなかった。

 

 どうして可奈美は急にこうなってしまったのは分からない。わかるのは彼女も辛がっているんだ。

 

 「可奈美……お前はどうした。なんて……そんな悲しい顔を」

 

 彼女の顔が俺の視線から離れる際に見せたのは涙が目から溢れ出している表情だ

 

 その悲しい表情は、俺が一生忘れられないかもしれない。

 

 そして、俺が思っていなかったのは、この日から俺たち兄妹の関係はもう元に戻れないほど壊れてしまった。

 

 それを壊したのは俺の不自覚の一言だと……今の俺はまだそれを気づいていなかった。




最後はこういう不穏の展開になりました。可奈美は自ら都を中心になる四角関係から離脱した。この後、この四人関係はどうなるのか……これからの展開に楽しんでください。

それでは、次回の更新で会いましょう。

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