可奈美のお兄ちゃんは妹のために最強の剣士に目指す!   作:黒崎一黒

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みんなさんお久しぶりです。黒崎黒一です。前回の更新からおよそ半年近くの時間を経ってしまいました。亀速度すらも比べ物にならない更新速度に作者自身も痛みに感じます。リアルで仕事による悩み以外に病気のせいでこの小説を執筆する時間があまりなかったのです。幸い、身体はまた丈夫な方でご心配なく最新話を読んでいただきたい。


第62話:特訓開始。

 ーー私の記憶にある妻はいつも楽天的な思考で日々を楽しく過ごしていた。

 

 よく考えれば彼女はずっとそうでした。結婚する前も後もずっと曇ることのない太陽みたいに笑い続けた。きっと自分は彼女のそういうところに惹き付けられたと思う。

 

 彼女が笑っているところが好きだ、彼女が目の前で好きな食べ物を食べて幸せそうになる顔が好きだ、彼女が馬鹿みたいに振る舞うところも好きだ。

 

 恋っていうのは本当に不思議なことだよね。相手の動きはどんな馬鹿になっても、それを好きだと心が素直にドキドキと教えてくれる。

 

 ーー私は彼女のことが好きだ。

 

 だから、彼女に関するすべてを愛している。娘のことや息子のことはもちろん自分の大切な宝物にしている。

 

 私と彼女の子供だもん。愛するのは当たり前のことだ。

 

 彼女と子供二人と一緒に幸せそうに暮らしていれば、私はそれが十分だ。最愛の妻と子供たちと楽しく過ごす日々は人生で最も幸福な時期だと私はそう思っていた。

 

 「なにニヤニヤしているの?気持ち悪いな。」

 

 ある日の午後、私は彼女の膝枕を堪能しながらそんなことを考えたらつい、にやけてしまった。

 

 そんな私を見て、妻が容赦なく毒口で返した。

 

 「いや~あはは、美奈都の膝が最高と思ってつい、にやけてしまった。」

 

 「もう……そんなに好きなの?」

 

 「何もかも好きだよ。美奈都。」

 

 「………ったく、いつもこういう甘い口で私を狂わせるんだから」

 

 いつも私の愛が満ちた言葉に照れてしまう妻は、この世で一番可愛い女だと私は自負している。

 

 彼女以上の女がいない。彼女と夫婦になって、私はとても幸せ者だ。

 

 「あはは……そういえば、篝は最近どう?息子を連れて彼女の家に行ったのだろう。元気にしてた?」

 

 「え……?それは、もちろん元気にしてたよ。私達と同じ結婚したし、可愛い娘もいる。」

 

 「あの篝ならありえるかな。美人だし、可愛いし、真面目だ……いてぇ!何するのよ!美奈都。」

 

 「別に……ただ篝のことを結構買うわね。うちの旦那は!」

 

 話の途中、美奈都は突然私の耳を強く引っ張り始めた。彼女の顔をちょっと覗くと、怒っているように見える。

 

 「いてぇ!……悪かった!愛しているのはお前しかいないんだ!!」

 

 「なら許す。お前は私の夫だから……私だけを見ればいいのよ。」

 

 私の耳を引っ張るのを止めた美奈都はちょっとほっぺを膨らんだ。

 

 正直滅茶苦茶かわいい……。嫉妬している彼女はもちろん怖いけど、その独占的な一面も堪らないくらい愛おしい。

 

 「いてて……しかし、あの頑固の塊である篝さえも人の妻になったとは……対象も相当やるみたいだな。」

 

 「ふふ、篝から聞いた話によると特に子供の頃から世話になったお兄さんだそうです。」

 

 「え?親族!?」

 

 「いや、血の繋がりがないよ。ただ兄のように慕っていた方だと聞いた。」

 

 「へぇ~、あの篝が紫以外の慕っている対象がいるなんて」

 

 また鎌府にいた頃、美奈都と特に仲がよかった柊篝は常に生真面目な性格で恋愛など無縁のほどの美人だ。

 

 そのだいぶは折神紫の護衛を勤まるのが原因だ。篝の家は折神家に代々仕える家系だったらしい。

 

 ゆえに女の子らしく振る舞う姿はあまり見たことがなく、彼女の全てはまるで折神紫のために生きて仕える使用人のように見えた。

 

 そんな彼女も普通の女の子と同じ、誰かと恋に落ち、結婚までもした。かつての友人として彼女の幸福に祝う。

 

 「驚いたでしょう?私も驚いたよ。あの篝が恋愛するなんて……あんな幸せそうに暖かい家を作るなんて……本当によかったよ。」

 

 「美奈都……」

 

 「ねぇ……刀也。先に私と約束してくれないかな?」

 

 「うん?約束?別にいいけど。私の能力範囲内なら叶えてあげる。何にせ、愛おしいお前()の要求だ。」

 

 唐突に、妻は私の頭を優しく撫でながら私にいつものおねだりする。

 

 そんな妻の要求に自分はいつも躊躇うなく頷いた。何せ結婚する時から彼女を幸せにするため、彼女の願いを何ても叶うって決めたから。

 

 「何かあってもこの家を、可奈美と都を守ってね。」

 

 「……おいおい、お、おかしいな言い方だな。まるでお前はもうすぐこの家からいなくなるって聞こえるみたいだけど?笑えない冗談はよせてくれ。美奈都。」

 

 しかし、彼女が今回頼んだことに私は不安しか抱かれなかった。いつも楽観だった妻は今笑っているかのもわからなくなってきた。

 

 「刀也、あなたは昔からいつも私の不安を追い払ってくれた。剣術しか持たない私にたくさんの幸せをくれた。だからこのおねだりはあなたにしか託せないの。」

 

 「美奈都……」

 

 「あなたに申し訳ないことをしたと思っているわ。でも、一度私に希望をもたらしたあなたならきっと私の期待を応えてくれると心の底から信じている。あなたの返事を信じて待ってるわ、私の愛おしい刀也。」

 

 自分勝手に話を進んだ美奈都はどこから安心を得た表情をした。その表情から自分への信頼を満ちている。

 

 当時、その表情や言葉の真意を全部知ることが得なかった自分ですが……。その数ヶ月後、彼女の体調が崩れたと共に彼女が言っていたことを知ることができた。

 

 それはあまりにも悲しい頼みであった。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 現在 鎌府女学院、道場ーー

 

 

 

 

 

 「可奈美、糸見沙耶香と舞衣ちゃんは私が担当する!他の三人は一樹に任せよ!」

 

 運動ジャージを身に纏う衛藤家の主人衛藤刀也は、同じ運動ジャージを着る可奈美たちに大きな声で発声する。

 

 今、彼女たちの実力を更に上がるため、剣術の指導を行う。無論写しの使用は禁止されている。

 

 「お父さんと戦うんだ……」

 

 「うん……まさか、早速実戦だなんて……」

 

 「…………」

 

 緊張しているなのか、可奈美たち三人はなかなか落ち着けない。何にせ、相手は可奈美のお父さんなのだ。刀使の力が禁用されたとはいえ、守るべき人間に剣を振るのはやはり刀使としては慣れないことだ。

 

 その一方、薫たちも同じだ。彼女たちは一般人と戦う経験がないから、どうやって戦うのか迷ってしまう。

 

 「オレたちはベッタん女のお父さんか……大丈夫なのか?」

 

 「おい!人のお父さんの前で私のことをベッタん女って言うな!」

 

 「でも、学長たちに止められないということは相当の実力が持っているですよネ?ヒヨヨンのパパは」

 

 竹の剣を振って、重量を確かめるエレン。その中に相当の鉄が入れたおかけで、持つ感覚は剣を持つと同じ感覚だ。

 

 これも彼女たちにこれが実戦だと感じさせるための小細工だ。

 

 「それはわからない……お父さんはかつて特別祭祀機動隊に所属していたことを知っているが、それ以外のことは知らない。」

 

 「なんだ?お父さんと仲が悪いのか?」

 

 「そうでも……いや、そうかもしれない。私はお母さんが亡くなった後、一度もお父さんと話すことがない。昨日は久々なんだ。」

 

 「ヒヨヨン……」

 

 姬和の過去をよく知っていた薫たち。彼女(姫和)はきっと自分のお父さんが自分の復讐に巻き込まれたくないから、わざと実の親と距離を取ったと思う。

 

 何にせ、姫和は都と同じ人思いの自己犠牲型のバカなのだ。だから薫はずっと彼女のそばでくだらない茶番を演じ続けた。

 

 …まぁ、一部は彼女自身の悪趣味だけど。それでも姬和を守るため、彼女も自分なりに姬和の精神を支えるつもりだ。

 

 「心配するな、エレン。家のことは流石にお前たちを巻き込むつもりがない。私のことは私一人で解決するから、お前たちは鍛錬のことだけに集中すればいいのだ。」

 

 「まぁ……面倒だけど、オレは最初からそのつもりだ。ぺったん女のお父さんの実力方面は心配だが、それでもオレはこれ以上強くなりたい。あいつだけ、タギツヒメのことを任せられないからな。」

 

 「そうですね。ミヤミヤは無理屋さんだから、誰か彼のことを見てもらわないと駄目だからネ。」

 

 「うん……そうだね。私もいつも彼を頼ったばかりじゃいられない。もっと強くならなきゃ……」

 

 姬和の目には強い意志が宿っている。

 

 彼を守りたい。もうこれ以上彼に守られたばかりじゃ嫌だ。

 

 「…………」

 

 そして、姬和たちの対話を偶々耳に入った一樹。彼は自分の娘の成長に喜んでいると同時に、罪悪感が心の奥から湧き出した。

 

 娘の力になれなく、彼女は自力で成長した。この事実に彼は自分が不器用な親だと自覚し始めた。

 

 数分後、稽古が正式に開かれた。

 

 

 

 

 

 一番手取り早く行動を出していくのは可奈美の方だ。彼女は速やかく自分のお父さんに攻撃する。

 

 「へぇ!せい!やぁ!」

 

 「悪くない攻撃だ、流石我が娘。だが、動きが単純すぎる!そんなんじゃタギツヒメに届かないよ!」

 

 「うぐぅっ!!」

 

 しかし、可奈美は攻めに徹するあまり、動きが読まれ反撃を食らい吹き飛ばされた。

 

 「可奈美ちゃんが……」

 

 「吹き飛ばされた……」

 

 それを目にした舞衣と沙耶香は共に驚いた。可奈美は舞衣たちが知る人の中で一番強い剣士なのだ、そんな彼女が相手の攻撃で吹き飛ばされた光景は初めて見た。

 

 それところが、攻めに入った可奈美を軽く吹き飛ばすのが更にあり得ないことだ。

 

 「痛い……さっきの動きが読めない?」

 

 地面に転んだ本人もどうやらこのような状況が読めなかったらしい。

 

 「さて、糸見沙耶香と舞衣ちゃんも一気にかかってもいいよ?例え一対三でも若者たちに負けはしないぞ!」

 

 「沙耶香ちゃん。」

 

 「うん!」

 

 刀也からの挑発に乗る二人は呼吸を合わせて、刀也の方へ攻めていく。しかし、まるで攻撃が見抜かれたようで二人は可奈美のように反撃され、吹き飛ばされた。

 

 「強い……!」

 

 「…………」

 

 「みんなの剣筋がいい。だが、技術はまだまだ……だぞ!」

 

 「………!」

 

 可奈美の奇襲を防げた刀也。彼はただ竹の剣を持つ片手で横から襲ってきた可奈美の全力込めた斬撃を受け止めた。

 

 「足音が大き過ぎだ!奇襲っていうのは無声無息で相手に攻撃することだ!」

 

 可奈美の剣を弾けて、可奈美のお腹に軽く直撃する。

 

 「うぐっ!」

 

 それを受けた可奈美は危うく後ろへと倒れ込むところだった。

 

 「お前たちは刀使の力を頼りすぎだ!ただ封じられただけでこの様……美奈都に見せる顔がないぞ!可奈美!」

 

 可奈美の心の中にあった、普段優しいお父さんのイメージがほとんど消えかけていた。今目の前にいるのは、例え相手は娘であっても剣の立ち合いにおいて容赦がない鬼である。

 

  だけど、ここを退くわけにはいかないと可奈美は自らの意志を固まらせていながら、崩れそうな体勢を取り戻す。

 

 (もう弱いままの自分じゃ嫌。もうあの人に守られたばかりじゃ嫌だ!)

 

 「もう一回!お父さん!」

 

 立ち直り、可奈美は再び自分のお父さんに構えを取る。

 

 「いい目だ。それでこそ私と美奈都の子供!さぁ、来い!」

 

 「せやあぁぁぁぁぁぁーーー!!」

 

 可奈美がまた刀也の方へ攻撃する。二人は同じ流派で互いの技を読み解かす。

 

 それでも、技の技量から見ればお父さんのほうが高いようで、可奈美はかなり苦戦している。

 

 「舞衣、私も行く!」

 

 「沙耶香ちゃん……?」

 

 二人の戦いを見て、沙耶香は竹の剣をしっかり握って立ち上がる。

 

 「私は、可奈美に手遅れたくない……それに、この状態をなるべく早く慣れたい。」

 

 「沙耶香ちゃん………うん、私もだよ。」

 

 沙耶香の次に舞衣も立ち上がって、再び刀也の方へ攻めていく。

 

 三人は一斉に刀也を攻撃しているが……それでも舞衣たちは優勢ではなかった。

 

 彼一人で可奈美たち三人の攻撃を対応できた。三人はどれほど攻撃しても、刀也から一本を取れなかった。

 

 これは二十年前の折神紫と互角戦った実力者。可奈美と都の実の父親。

 

 「剣の腕は長い歳月が経っても全く劣っていないみたいだね。」

 

 「ふふ、ちょっと懐かしいかもしれへん。」

 

 そして、壁際で刀使たちの実戦訓練をじっくりと見守っている美濃関学院学長羽島江麻と平城学館学長五条いろは。

 

 彼女たち二人は特訓の進展がうまく進んでいくかどうか確認しに来たのであった。何にせ、刀使たちのご両親が刀使たちの剣術指導を行うのが五箇伝の歴史上では前代未聞のことだ。

 

 「にしても、衛藤さんたちは明らかに圧倒されてますね……うちの学院で最も優れた刀使二人組なのですが」

 

 「刀使としては優れ者やけど、その力が禁用された今、かなり圧倒されている。」

 

 戦況を分析し、二人の学長は可奈美たちがどうしてこんなにボコボコされる原因を探る。

 

 「やっぱり刀也さんの言うとおり、衛藤さんたちは刀使の力を頼りすぎたのかな?」

 

 「多分ね。刀也はんたちが彼女たちに教えられるのは剣術……御刀が授けた力と関係ない技術なんや。」

 

 「つまりこれは……」

 

 「刀使としたの実力は十分なんやけど、剣の実力はまだまだ足りんかった。都はんもそうやけど……彼女たちと違い、欠けたのは技術ではなく、力なんす。」

 

 「それを見抜いて、彼らは……」

 

 「ええ、一般人しか気付かない問題。江麻ちゃんところの都はんも特にそれを気付いて、刀使に挑むやもしれん。」

 

 答えを見つかり、いろは学長は今回姬和たちの方を見る。姬和以外、エレンと薫は十条一樹の攻撃速度をついていくにはかなり手遅れている。

 

 いや……ただ二人より少し早かった姬和は少し追いつけているだけで、彼女も自分の父に抑えられている。

 

 十条一樹、特別祭祀機動隊歴代最も優秀の隊員。荒魂討伐現場で刀使たちの動きをよく見る男、加えて柊篝から剣技を教われていた唯一の男性。

 

 噂によると、彼は既に篝先輩から鹿島新当流免許皆伝をもらったらしい。

 

 どっちの父親でも剣の腕は現役の刀使たちにちっとも劣っていない。もしや、都と同レベルなのかもしれない。

 

 「姬和ちゃんたちの相手には相応しいかもしれへんな。」

 

 「そうですね……」

 

 この場で可奈美たちが努力する姿を見守っている二人の学長。

 

 彼女たちはこの鍛錬においては更に強くなるとそう信じていながら、それぞれ視線を可奈美と姬和の方に向く。

 

 親族から直接剣術を教われることにより彼女たちはこれから先に強くなるのだろう。しかし、二人の家には少し問題があると学長である彼女たちは知っている。

 

 この機において、その問題が解決できればいいのだけど……。

 

 「そういえば、本来ここにもいたはずの都はんはどこに行ったん?どこにも見当たらないやけど……」

 

 「彼なら親衛隊と共に出かけましたよ。詳細はあまり知らされてないんだけど……」

 

 「そうか……真希ちゃんと一緒か」

 

 「いろは学長、どうしたんですか?」

 

 いろは学長がぼっとしている姿を見て、羽島学長は関心する。

 

 「なんにもありまへん。ただ都はんに少し貸しがあります。彼はうちの真希ちゃんを無事に連れて帰ったんや。それだけではなく、うちがいない間にも早苗ちゃんと平城の子たちも彼のおかけでいつもより元気に溢れたん。学長としては感謝せなあかん。」

 

 「そうなんですね。それじゃ、全てが終わったら彼を平城に預かりましょうか。」

 

 「え?江麻ちゃん、それええの……?」

 

 「はい。元々彼を美濃関だけに留まらせるつもりがありません。それに学生を自由に選ばせるのが美濃関特有の学風です。」

 

 いろは学長の困惑に羽島学長は爽やかな笑顔で頷いた。

 

 彼がもたらした影響は美濃関だけでなく、平城にも彼の影響で少しずつ良くなっていく。彼と共に歩けば、これから先の五箇伝はうまく行くのだろうと彼女は心のうちにそう期待している。

 

 「……そう。江麻ちゃんはずっと変わらないやね。む~かしからずっと他人に優先で自分がどうでもええところはまったく変わらなかった。……あの時も手にいれるはずの幸せをあっさりと手放した。」

 

 「だって、あの時の私は特に負けたんだもん。それにその方があの二人に一番の幸せを与えられるとあの頃はそう思っていたのです。」

 

 「江麻ちゃん……」

 

 そう言って、彼女の視線は可奈美たちの方へ向けた。可奈美があんな元気がいい子に育てたのも、きっと両親の愛が含まれたからだ。

 

 そして娘たちがピンチになったとき、わざわざ助けに来た彼もきっと今でもあの人のことを深く愛するのが決まっている。

 

 「美奈都さんは幸せな人生を過ごせたのでしょうね……」

 

 なら当初の選択は間違ってないと羽島江麻は自分にそう言い聞かした。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 -刀剣類管理局 折神本家敷地内にある建物-

 

 

 

 折神本家敷地内における北西方面にある建物。ここは遥か昔、折神家が代々渡って積み重ねてきた古い遺物や古い文献を保存するために使われていた場所だ。けど二年ほど前、折神朱音が折神家に反旗を挙げた舞草を創立したことにより現当主折神紫は折神家の秘密を守るため、即刻に書蔵庫が保存しているすべての文献を別の場所に移送させた。その際、この書蔵庫はずっと廃棄されたままだった。

 

 折神紫が表の舞台から消えたあと、この場所は昔みたいに文献や書類を保存する用途ではなく、管理局の改革と共に別の用途として再利用された。

 

 そして、この場所は管理局が新たに設立した刀剣類管理局特別捜査情報科という部門の拠点として選ばれた。

 

 刀剣類管理局特別捜査情報科は管理局の改革と共に設立された管理局に直属する新たな部門であった。主の目的は荒魂に関するあらゆるの情報捜査及び管理局に背ける違法ノロ実験の情報捜査。それを創立させたのは他ではない折神朱音本人である。

 

 折神本家突入作戦が成功した日以来、旧折神派残党及び高津雪那が率いるノロ研究チームを一掃するため、舞草折神朱音派はあらゆる対策を出し尽くしていた。しかし、旧折神派の情報があまりにも少ないことにより、全部捕まることができなかった。そんな時、ある情報提供者が提供した情報を手元により旧折神派掃討作戦は前より順調に進んでいた。

 

 その後、情報の重大さを理解した朱音は管理局内部で情報科という新たな部門を作り、その部門の運営を旧折神派掃討作戦に大きく貢献した謎の情報提供者に託した。

 

 そして謎の情報提供者である彼女も朱音の期待を背向けなく、この五ヶ月間で情報科を大きく育ちました。今だにメンバーが少ないが、新米を含めた優秀な人材がこの部門に揃っている。

 

 「ようこそ我が職場へいらっしゃいました。親衛隊のみんなさん。」

 

 「ふむ、ここは管理局内部で噂とされている新たに設立していた情報科なのか?立派なところだな。」

 

 「……なるほど。折神家がかつて使い捨てたこの場所を最利用したんのですね?よく同意してくれましたね。」

 

 「はい、朱音様のおかけでこのような立派な拠点を手に入れることになりました。今だに人員が少ないけど、これから大きくするつもりです。」

 

 「立派な志だ。朱音様に見出したお前ならこの部門をうまく率いるだろう。」

 

 「真希さん、あまり褒めすぎないでいただきたいのだわ。重大の役割を背負う人間は常に己を厳しくしなければなりません。あまり褒めすぎると傲慢という悪い感情が産み出してしまいます。」

 

 「寿々花……もしかして機嫌が悪い?」

 

 「気のせいです。私はただ真希さんが褒め口を容易く出していく悪いところを訂正していただけです。ええ、何せまた親衛隊にいた頃から真希さんはいつも手下の刀使たちにそんな甘い口をしたあげく、何人の刀使は真希さんにメロメロされて自分の役割を忘れていたことがあります。」

 

 「そ、そうか…?なんかすまないことをしてしまった。」

 

 刀剣類管理局特別捜査情報科、略して情報科に足を入った獅童真希と此花寿々花及び衛藤 都三人は部署の隅にある簡易テラスにて客人招待用のお茶を嗜みながら情報科課長の竹島雅と少し世間話をしている。

 

 とはいえ、彼女らがこの場に来たのはただのんびりと茶を飲むだけではなく大事な要件があってここに来たのだ。

 

 「あはは……そういえば、さっきからお茶を口にしたことがないですね。もしかして口に合わないのですか?英雄様。」

 

 「いや、そんなことはないよ。ただ大事な要件があるのに、ここでのんびりとお茶を飲んでいいのか?可奈美たちは今頃も頑張っているし、倒すべきタギツヒメも日々強くなっていくことに……心がどうしても落ち着かないんだ。それに……お父さんの件も。」

 

 「……あはは、確かにこの情勢の下ではなかなか落ち着かないですもんね。私もこのような情勢の下で冷静を抱いていられない……。それでも上に立つ者は部下たちにそんなか弱い一面を見せられちゃいけない。私はこの位置についていたからわかったんだ……上に立つものの苦労というものを」

 

 そう言い、雅は苦笑いながら茶を飲む。よく見ると彼女の目元に少々隈ができている……。たぶんここ最近は本当に疲れているのだろうね。

 

 「それで?竹島さん。私たち親衛隊にいったいどのようなご要件ですか?私たちは管理局の指示でタギツヒメの次なる行動を防げるために準備万全の状態を維持して出撃命令を待機しております。その価値を堪えられる要件なんでしょうか?」

 

 「……はい。少なくとも私たち刀使にとって無視できないほどの要件です。」

 

 そしていよいよ物の本題が入る。

 

 「もしかしてタギツヒメがいよいよ動き出していくということなのか?」

 

 「………はい。私たちが得た情報が確実なら、近いうちにイチキシマヒメを保護する絶対安全の庇護所は消えることになる。そうなった時、タギツヒメはタキリヒメを取り戻す時みたいに直接奪いに来るでしょう。」

 

 「つまり私たち親衛隊にイチキシマヒメの護衛という重大な任務を任せますの?」

 

 「いいえ、この度折神紫様が考案していた作戦はイチキシマヒメを保護しながら安全地点に撤退させる作戦ではなく、タギツヒメを誘い出すための殲滅作戦です。」

 

 「殲滅……作戦。」

 

 「紫様が自ら考案した作戦……。それはどういうことですの?」

 

 両手を胸前に抱いて、真剣な表情で質問をする寿々花。とはいえ、彼女は別に紫のことを疑うわけではなく、ただこんなリスクが高い作戦は本当にあの折神紫が考案する作戦なのか?って疑っている。

 

 その思惑を抱いている寿々花に雅は冷静に説明する。

 

 「今の情勢では、タギツヒメは近衛隊や政府に保護されており、タギツヒメを接近し討伐するのは不可能だ。その一方、高津雪那が裏で妙な動きで米国に手を回している情報が手に入れました……。そんな情報を受け取った私たち情報科はすぐその情報を情報科が所有する独自通信回線を通じて折神紫様に知らせたのですが、そこで彼女はその作戦を私たちに伝えたのです。それは-ただ一度きりのチャンスしかないタギツヒメを打倒する作戦です。」

 

 「つまり紫様はイチキシマヒメが奪われるリスクを賭けても、イチキシマヒメを吸収しに現れるタギツヒメを打倒するということなのか?」

 

 「たぶんご当主様はそのようなつもりです。タギツヒメを管理局が干渉できない拠点から誘い出す絶好のエサはイチキシマヒメの他ならない。紫様も乾坤一擲の決意でこの作戦を作ったのでしょう……」

 

 「紫様が……」

 

 「どうやら僕たちに残されている選択もそう多くはないか……」

 

 そう呟いて、寿々花と真希も今情勢の厳しさに痛みに感じる。世界を救うためには世界を危険に晒すリスクを背負わなければならない。それはノロを体内に注入する親衛隊の二人がよく理解していることだ。

 

 「雅、それで俺たち親衛隊は何をすればいい?わざわざこの事を私たちに知らせようとすると、何かしてきて欲しいことを私たち親衛隊にやらせたいなんじゃないか?」

 

 「…………」

 

 自分が狙っているとこが都に論破されたようで、雅は口と目を閉じる。やがて数秒後、彼女は真面目な顔で寿々花と真希の方へ向く。

 

 「…実は、私、この重要な作戦を伝えること以外にあなたたち親衛隊に私的な用件があります。前回防衛省襲撃された時、此花さんと獅童さんに伝えられなかった皐月夜見の過去についてこの機において親衛隊のみんなさんにお伝えしたいと思います。」

 

 「……!」

 

 「やっと話す気になったか…!竹島。」

 

 「はい。あの夜、皐月さんとの戦いが終わった後、私は真っ先に負傷している獅童さんと此花さんを病院へと送らせた。本来お二人が出院した後、皐月さんのことを話すつもりだったのですが……その後、朱音様からの命により真っ先に近衛隊の行方を追跡することで、お二人にゆっくりと話す機会がなかったのです。」

 

 「それは構いませんわ。当時の大局を考えればタギツヒメを率いる近衛隊の行方を追うのが最優先事項なのはずです。ですから私たち親衛隊はあなたが私たちに何も告げないことに何とも言いません。」

 

 「……はい。お気遣いくれてありがとうございます。此花さん。」

 

 改めて寿々花に礼を言う雅。

 

 「それじゃ、改めて場所を変えて夜見さんのことを話しますね。」

 

 「待った。寿々花と雅が仲直りになったのはとてもいいことなのですが……俺も皐月さんの過去を聞いてよかったのか?俺、彼女と一度も会ってないし、名前と能力しか知らない。彼女が秘めた秘密を聞いてよかったか?」

 

 「あ、はい。それは構いません。何せこれから話す内容は私の過去の一部でも関わります。本来この事を永遠に胸の奥にずっと隠しておきたいのですが……皐月さんを助けるためならば、私も勇気を絞り出し自分のことをあなたたちに話します。それに私も自分のことを話すきっかけに新生親衛隊のみんなさんともっと良い信頼関係を築きたいです。」

 

 「……なるほど。だったらじっくりと聞きましょうか?都。」

 

 「そうですわ。乙女がこんなに誠意を出しきったのであなたも相応の覚悟を出してください、都くん。」

 

 「わ、わかったよ。ただ皐月さんの話を聞くのを遠慮したいと思うのだけど、なぜか叱られる気分になった気がするよ…ったく。」

 

 「ふふ、英雄様は本当に良い仲間が恵まれたのですね。……本当に羨ましいかきりです。」

 

 ぶつぶつと小さい声でそう呟いて、雅は改めて都たちに自分と夜見の過去を全て話した。




今回、話の内容の後半に登場しているのは管理局内部で噂されている刀剣類管理局特別捜査情報科だ。今までこの部門は名だけに登場させましたが、今回を機に情報科の由来や設立目的を紹介します。

それといろは学長の関西弁の使用について、作者さんは関西弁にあまり得意ではないなので下手な所があったら申し訳ございません。もし訂正したい所があったら何なりとお申し付けください。

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