あらゆる種族の特徴に一致しない奇妙な存在だ。
まるでどこからともなくこの世界に現れたようで来歴が一切存在しない。
だがこの男が現在に至るまでに起こした事は決して無視できない。
・レユニオン・ムーブメントの前身組織の創設による鉱石病治療技術の躍進
・ウルサスにおける大規模な衝突によって天災を呼び起こし、「天災」という後の通り名をつけられた
・カジミエーシュの騎士大隊を鉱石病のパンデミックで壊滅においやり、世界に衝撃を与えた通り名に恥じない「カジミエーシュの悲劇」を起こした
・ラテラーノ公証人役場法定執行人の粛清を躱し、最終的に例外としてラテラーノの国民特権を与えられた
・アビサルで大規模なエーギル人の虐殺を行い、アビサルハンターたちに「救世主」と呼ばれている
他にも様々な大事件を起こし、あらゆる国や組織と因縁を持っている天文学的な賞金がかけられている危険人物。
数えきれない程の罪を積み重ねた人物であるが同時に数えきれない程の功績を積み上げた感染者たちの英雄、希望でもある。
懐かしい顔と出会ったのはいいがそれでも俺の日常は変わらない。
早朝に起きて畑を耕し、家畜を育て、害獣を狩る。空いた時間は子供たちに算数や文字の読み書きを教え、偶々俺の居場所をつきとめてやってきたバウンティハンターを土に還す。平和かは微妙だが満たされている日々を過ごしている。
「フゥーここはこんなモンか。午後からは新しい野菜の種を植えるから準備しとけよ。あと水分補給は怠るなよ。熱中症でぶっ倒れても知らんぞ!」
元気よく返事が返ってくる。季節は夏になりここ最近暑い日が続いているがこれなら大丈夫そうだな。
エンカクと出会った日から少ししてBig Bobたちがやって来た。ボロボロになっていて驚いたがロドスの人間、スカジとやりあったらしい。アビサルハンターとやりあって生きいるのはさすがだが二度とアビサル人とやりあうなと口酸っぱく注意した。アビサル人とは深く関わってはいけない。かつて深淵に手を出し生き残った俺自身への教訓でもある。
傷を治した後は非感染者の者たちと衝突する事なく今では仲良くやってくれていて安心した。
結構前に新聞で知ったことだがタルラはチェルノボーグを壊滅させたらしい。俺が過去にやらかした事に比べれば可愛いものだが世界にとっては俺の再来だとかで騒がれている。
(あの頃は素直で可愛げがあったんだがな。時間は残酷なものだな)
俺が最後に喋った時はほぼ無表情だったがそれでもまだ可愛げがあった。
(何がタルラをあそこまで変えたんだろうな?)
日差しがクッソ暑い氷雪系のアーツ使いに氷でも作ってもらいたい日が続いている。
(そういえばフロストノヴァは元気か?重症者だからアーツを使うのは控えてとおけ言ったがちゃんと守ってるのかちょっと不安だな)
タルラについていったかつての部下が今どうしてるか心配だがたぶん元気にやっているだろうと思っておくことにする。
(あれだけ強く言っといたし無茶はしない、しないよな?)
訂正、やっぱりかなり不安になってきた。
(今度レユニオンを訪ねて……さすがに引退した者が行くのは無粋か?でもこの前のチェルノボーグの件で不安になってきたな)
「封筒がきてますよリーダー!それもかなり分厚いですよー」
ここ最近俺に対する手紙なんかが多いようだが今年も厄年か?思考を中断し送り主を見てみる。
「ヘルマンから?そういえばもうそんな時期か」
ヘルマンはかつて鉱石病への治療法のノウハウを伝授した一人で音楽の好みが合ったのか俺がシエスタを離れるまでよく酒を飲み交わした仲だ。
数年前に部下の一人が鉱石病になったから治療を頼まれ出向いたがまさかその部下がシュヴァルツだとは思いもしなかった。死んだと思っていたがまさか生きているとは思いもしなかった。治療と言っても俺が20年近くかけてできることは鉱石病の進行を積極的に源石に触れなければ寿命までは鉱石病で死ぬことはない程度にしか遅らせる事しかできない。しかもそれができるのは軽症者限定で重症者には手の施しようがない。
この時期にヘルマンからくる手紙ということはオブシディアンフェスティバルへの招待状だろう。毎年律義に送って来てくれるが俺は悪い意味で有名過ぎ、ヘルマンに迷惑をかけたくないので俺は感謝の手紙を預けてクルビアに残っている。
今年も同じように俺は残り、共に残ろうとするAdamたちの尻を蹴飛ばしてシエスタの祭りへ参加させた。
仲間たちがいない間も早朝に起きて畑を耕し、家畜を育て、害獣を狩るのを繰り返し、ちょっと高い酒を買って一人でこっそり飲んでいたのは秘密だ。
「お手紙のお届けでーす」
懐かしい関西訛りの喋り方をするペンギン急便の職員、クロワッサンから手紙を渡される。差出人は、エンペラーか。
「今年は人気者だな。まさかエンペラーの奴からも招待状がくるなんて」
「ウチのボスは旦那さんにぜひ参加してほしいって言ってましたけど、どないしますか?」
勿論返事はノーだ。
「すまんな、シエスタにいる友人に俺がいるせいでいらぬ混乱を招いて迷惑をかけたくないんでな」
「あー……旦那さんヤバイ意味で超有名やから仕方ないか。まあウチのボスはその混乱も大歓迎する気がするんねんけどな」
「あり得るからこそ行きたくねぇんだよ」
「まあそういうことだから俺はシエスタには行かないわ。わざわざ龍門からこんな遠いとこまで来てくれたのにすまんな」
「いえいえ、今月ホンマにピンチやったんでこの仕事でボスからはガッポリお金もらって、逆に旦那さんに感謝してるんです」
「強かだな。いいねぇ気に入った、俺特製の飴ちゃんをあげよう」
「ホンマでっか。おおきにな旦那さん!」
子供たちに人気の飴をあげる。
「ゥンまああ〜いっ。甘いのに美味い。凄い不思議な飴や!これ売りましょ!ガッポガッポ儲かりまっせ!?」
「おおぉ?」
飴を食べてほわほわしてた顔から目が銭マークに変わっている。強かというかがめついというべきか。チャンスをものにしたいというその意気込みは評価できるがエネルギッシュ過ぎておじさんついていけないよ。
「てい」
「アイタッ!」
とりあえずチョップでおとなしくさせる。
「まあ落ち着け。レシピはやるから好きに使え」
「ホンマでっか!?じゃあじゃあ分け前は旦那さんが6でウチは4で……」
「好きにしてくれ。あとエンペラーへの手紙書いといたから渡しといてくれ」
「ウチは仕事をキッチリやる出来た女やから安心しといてな」
キリッとした顔をしてるが口がすごい勢いでモゴモゴしててクスッと笑える。
「わかったわかった。っと昼時だし出発する前にここで飯でも食べてくか?」
「おおきに!」
昼飯に作ったサラダうどんは好評だったと言っておこう。