「本当に……本当に辿りつけたんだ。……よかった…よかった」
時は深夜、門の前に誰かがいると起こされたがどうやらウルサスからここに噂を信じて来たという人間がいるようだ。裏がないかケテルにも確認させてから門の上から男の話を聞くことにした。
話を聞くに子供が感染者になったようでウルサスの軍を抜けてここまで来たようだ。この世界じゃ当たり前のことだが感染者はあらゆる権利を剥奪される立場だ。そしてウルサスじゃその傾向が特に強い。だからこそ僅かな希望を、生きる権利を得ようとここを目指す感染者は後を絶たない。が、ここに来る前に災厄に遭うか食料が尽きる、野盗に襲われて死ぬ人間の方が遥かに多い。
「ここ最近災厄がたくさん発生してましたけどよく辿りつけましたね」
「あ、ああ旅の途中で親切なトランスポーターに出会ってな。道中だったらしくてついでに送ってもらったんだ」
「トランスポーターか。そいつは運が良かったな」
ここ最近小規模だが災厄が頻繁に発生していたがなるほど。幸運にも親切なトランスポーターに拾ってもらったらしい。だとしたらこの親子は本当に運が良い。
「長旅で疲れたろ。ここのルールとか詳しい話は後日しよう。マーク、確か3番通りに部屋が空いてる集合住宅があったよな?そこに案内してやってくれ。それとケテル、ありがとな」
「いえいえ、どうせ寝なくても平気でしたから丁度良い暇つぶしになりましたよ。
でも最近ここを訪れる人たち増えてきましたね。そろそろ拡張するかなんかした方がいいんじゃないですか?」
チェルノボーグの一件以来ここ数か月で村と呼べるほどの人口しかなかった場所は今じゃ町と言っても遜色ないほどに人口が増えていた。急ピッチで拡張はしたがそれでも増える人口の方が遥かに多い。Bob達も手伝ってはくれてるがそれでも増えるペースに追いつけない。
「安置所から手伝ってくれる人でも呼んできますか?」
確かにそれを使えば便利だな。
「そうだな。頼んだ」
「わっかりましたー。200くらいいればいいですかね」
「ああ、それでいい」
安置所に消えたケテルを見送る。しかし色々と問題が浮彫になってしまった。寝泊りのできる場所に食糧。それに最近ウルサスの動きが怪しい。おそらくまた戦争を起こそうとしている。そうなったらここも安全じゃなくなるかもしれない。だとしたらここ以外の安地をまた探す必要が出てきた。
(しかし安地…安地かぁヘルマンに協力してもらうしかないか。あんま迷惑かけたくないんだけど仕方ないか)
そういえば怪しいといえばロドスか。製薬会社と謳っているが絶対嘘だろな。製薬会社にしてはあまりにも暴力的すぎる。ケテルを作ったライン生命と大して変わらないアンブレラ的なヤバイ会社だろ。それにケルシーとクロージャがいる時点でウルサスかバベルの息がかかった組織であることは確定だろう。
「先生先生!聞いてください!」
何やらケテルが焦った様子で安置所から戻ってきた。普段からオーバーリアクションするから大したものではないだろうな。
「どうしたんだ。この前お前のプリンを食った奴でもわかったのか?」
ちなみに食べたのは久々に来たニアンだ。
「いえ、それはまだわかってないんですけど。ほら、この前フロストノヴァどうしてるんだろうなーって言ってたじゃないですか?それ思い出して安置所で探したんですけど死体がないんですよ。スノーデビル小隊の人に聞いたんですけどチェルノボーグにいるボジョカスティさんのとこに向かわせたらしいんですよね」
「ということは生きてるってことか。それで今チェルノボーグにいるのか?」
「ちょっと待ってくださいね。……あーそういうことですか」
情報を回収し何か察したような顔になっていた。
「なんだその?もしかして結構めんどくさい場所にいるのか?」
「それがですね。今確認したんですけどチェルノボーグにいないんですよ。
それでどこにいるのか探したんですけど、もしかしなくてもめんどうな場所にいるんですよ。ロドスに置いた人形の情報だと龍門の事件以来新しいオペレーターが何人か入ったみたいでその中に集中治療しているオペレーターがいるらしいんですよね。これ絶対フロストノヴァですよ」
「マジかよ」
よりにもよって怪しい候補に挙がったばかりのロドスか。
「マジですよ。今のところはちゃんと治療されてますけど何時殺されてもおかしくないかもですよ」
「よしケテル。お前この作業が終わったらロドスに行ってフロストノヴァの様子でも見てこい。それでヤバそうで本人の同意があったらここに連れてこい」
「え?」
ケテルの驚愕する声が辺りに響き渡った。
「や、今は真夜中だから大声出すなバカ。寝てるやつらを起きちまうだろ」
「あ、ごめんなさい。ってそうじゃなくて!何で私がロドスに行く必要があるんですか?!バイビークを行かせればいいじゃないですか。それに彼女引っ込み思案ですし社会復帰に丁度いいじゃないですか」
小声で抗議してくるがこれはもう決めたことだ。それにいつまでもケテルをここにいさせるというのはよくない。あとバイビークをサラッとディスって身代わりにしようとするな。
「お前もいつか巣立ちする時がくるんだ。まあ今回のはその……あれだ。予行練習みたいなもんだ。それに最悪の場合フロストノヴァを守りながら連れて行く必要があるんだ。
あとバイビークだがシエスタに連れていく予定だからダメだ」
それにロドスでいざ何かあった時ケテルの方が対応力が抜群に高い。
「そ、そんなぁ。私もシエスタに行きたいのに」
「お前はこの前Bobたちと行っただろ。それにお前たちと違ってバイビークはシエスタに服のデザインの勉強に行かせるんだよ」
「あー彼女洋服のデザインするの好きですからいいんじゃないですかね。でもいいなぁ~私もまたシスエタに行きたいな~」
そういえばこの前ヘルマンからきた手紙の中でケテルに任せてもいいシエスタでの仕事が一つあったな。
「だったら丁度いい仕事がシエスタにあるぞ」
「えっホントですか!?」
「お前たちがシエスタから帰ってきた後にシエスタで火山の噴火があってな。その噴火後の跡片付けと土木作業が「やっぱりロドスに行ってきますね!いやーフロストノヴァに会うのは楽しみだなーHAHAHA!!……はぁ」
耳と尻尾が引っ込んでるがフェリーンの姿を維持できないほどに落ち込んでしまったようだ。飴でも提示するか。
「まあ気を落とすなって。ロドスから帰ってきたら極東に連れてってやるからさ」
「ホントですか!?約束、ですよ?」
「わかってるって。ちゃんとロドスで…そうだな。3ヶ月。いや、半年勉強してこいよ」
「うぅ、半年ってマジですか。半年間もライン生命の人間がいるロドスにいなきゃいけないんですね。…フロストノヴァの耳と尻尾でも弄って我慢しますか」
「……重病人を刺激するなよ。あと今回は名目上勉強しにロドスに行くんだぞ。しっかり学んでこい」
「はーい」
気の抜けた返事が返ってきた。これ以上なんか言っても無駄だな。
「じゃあ俺眠いからそろそろ寝に行くわ。おやすみ。お前もしっかり眠るんだぞ」
「わかってますって。それじゃ、おやすみなさい先生」
家へと帰っていくケテルを見送る。あの頃とは見違えるほど成長したし、倫理観や人間社会の常識を養うこともできたはず。できたよな?……そろそろに巣立ちさせる時がきたと思う。予行練習だとは言ったがケテルにはそのまま就職してほしいものだ。ここは感染者の楽園と言われているが実際は外の世界との交流を絶っている鎖国のようなものだ。願わくばここにいる全ての感染者にここ以外の居場所を見つけてほしい。
だがどの国も感染者に対してあまりにも厳しい処置がされている。だからこそ感染者たちはここを新たな、最後の居場所としてやって来る。けど今いるこのクルビアだってライン生命が本拠地を置いてあるからこそ感染者に対してかなり緩いだけだ。だったら…
「だったら、いっその事全人類を感染者にした方が幸せなのかもしれないな」
時計の電池代わりにしているアトミック・オリジニウムが月光で不気味に輝く。
プロファイル
【性別】女
【戦闘経験】なし
【出身地】クルビア
【誕生日】2月29日
【種族】フェリーン
【身長】163cm
【体重】54kg
【鉱石病感染状況】
メディカルチェックの結果、感染者に認定
【戦場機動】欠落
【生理的耐性】卓越
【戦術立案】標準
【戦闘技術】欠落
【アーツ適正】■■■
人としての限界を完全に超えた異常なまでの強度と耐性を持っている。これも鉱石病が齎すものなのか?
――――ドーベルマン
循環器系源石顆粒検査の結果においても、同じく鉱石病の兆候が認められる。
以上の結果から、鉱石病感染者と判定。
【源石融合率】27%
心臓に影が確認された。至急再検査する必要がある。
――――医療オペレーターJ.A.
再検査したところそれらしいものは確認できなかった。もしかしたらこれも鉱石病によって齎されたものかもしれぬな。
だが何かあっては遅い。引き続き彼女の検査は怠ることのないようにな。
――――医療オペレーターワルファリン
【血液中源石密度】0.87u/L
どういった治療が行われていたか不明だがこの時点で鉱石病による心身への異常がでていない。非常に丁寧な治療が施されていると考えられる。